漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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13話

――――ミレニアムサイエンススクール・エンジニア部 部室

 

先日の肉体美の化身(栗浜アケミ)との戦闘でボロボロになったバンダナとインナーの新調のため、ウタハの元を訪れていた。

予備があるとはいえ、直せるときに直しておくに越したことはない。

 

「これはまた、随分と派手にやったね。君がここまで装備を損耗させるのは珍しい。……何と戦ったんだい?」

 

筋肉の女神(マッスルゴッデス)と戦ったんだよ」

 

「……本当に何と戦ったんだい?しかし筋肉(マッスル)か。ちょうどいいね。試してもらいたいものがあるんだ」

 

「じゃあその辺ふらついてるから、終わったら連絡頼むわ」

 

ケンジは逃げ出した。

 

「まぁ待ちたまえ」

 

しかし回り込まれてしまった。

 

「勘弁しろよ。やだよ、またトンチキな発明品の実験体になるのは」

 

ウタハはマイスターを名乗るだけあって、腕は確かだ。

……確かなんだが、暴走したときの被害が、毎回シャレにならない。

 

「安心したまえ。安全性を重視している」

 

「前のたこ焼き作りマシーンの時も、そんなこと言って結局暴走したじゃねーか」

 

たこ焼きが食べたくなって、それを作るためにマシーンを開発したらしい。

素直に買いに行くか、自分で作れとは、もはや言うまい。

 

大きなタコ型の外見で、口から炎を吐くのは……まぁ、愛嬌があっていい。

足の先端にピックや包丁を格納してたり、足をプロペラのように回転させて空を飛ぶのも、面白いとは思う。

 

なぜ自己防衛機能など付けた。

 

しかも銃を認識したら戦闘開始するというガバ仕様で。

空飛ぶスライサー付き火炎放射器になってたじゃねーか。

 

「ははっ、まぁ君の炎の一撃で“メカたこ焼き”になってしまったがね。流石は炎帝、焼き上げ工程は完璧だ」

 

「やかましいわ…で、何作ったんだよ今度は」

 

半ば諦めたようにそう問う。

 

「新型のトレーニングマシーンだ」

 

ウタハはあっさりと言ってのけた。

 

「基本はルームランニングや筋力トレーニング用の装置だがね。

使用者の動きをリアルタイムで解析して、負荷やメニューを最適化する。さらに!戦闘訓練用のモードにも切り替えられる!」

 

戦闘モードと聞いて今回も暴走するんだろうなと覚悟する。

 

「なお今回はヴェリタスとの合作でね。AI周りは、あちらに任せている」

 

「ヴェリタスと?」

 

今回はどうやって壊――いや、止めるか考えていたが、その思考がウタハの言葉で止まる。

 

ヴェリタス――ヒマリが立ち上げた、ミレニアム非公認の部活動。

部長のヒマリを筆頭に、優秀なハッカーが集まっている。

…まぁ問題児もいるんだが。

 

以前、俺の自宅に盗聴器付きのぬいぐるみを送りつけてきた問題児がいた。

 

送り主の名はなく、妙に出来のいいぬいぐるみが一つ。

嫌な予感がして調べてみれば、中から出てきたのは盗聴器。

 

当時は、捕まえた賞金首か、その関係者が復讐のために仕掛けてきたのかと、色々と当たったものだが――結果、犯人はヴェリタスの音瀬コタマだった。

 

現状、キヴォトスで唯一の男子生徒である俺に興味を持ったらしく、俺の音声データを収集したかったらしい。

 

後日、保護者(ヒマリとチヒロ)同伴で謝罪に来た。

 

どうやら話が想定以上に大きくなったことに焦り、様子がおかしいことに気づいたチヒロに問い詰められ、あっさり自白したらしい。

 

で、その時、冗談半分で言ったのだ。

 

「そこまで盗聴するなら、賞金首の情報でも集めて流してくれよ」

 

と。

 

すると、なぜかヒマリが妙に食いついた。

そして話は、妙な方向へ転がっていく。

 

「……賞金首相手とはいえ、盗聴前提で話を進めるのはどうかと思うのだけれど」

 

チヒロは渋い顔をしていたが、最終的には「まぁ、治安改善に繋がるなら」と協力してくれたらしい。

 

結果として完成したのが、賞金首の目撃情報や出現傾向を収集・解析し、通知まで行うアプリだった。

おかげで賞金稼ぎの効率は段違いに上がり、借金返済にも大いに役立ってくれている。

……まぁ、そのせいで“炎帝”なんて仰々しい異名が付くことにもなってしまったんだが。

 

新たにハレが加わったことでAI周りも強化され、今ではほとんど自動で動いているらしい。

 

エンジニア部の発明品は、暴走するにしても原因の多くはソフトウェア側にある。

……それなら、今回はマシか?

 

「……今回だけだぞ」

 

渋々、といった様子で承諾する。

 

「ありがとう。毎回、助かるよ」

 

ウタハは満面の笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、トレーニングルームに行こうか」

 

そう言って、ウタハは踵を返す。

 

俺は小さくため息をつきながら、その後を追った。

 

 

 

――――ミレニアムサイエンススクール・トレーニングルーム

 

トレーニングルームには、すでに数人の姿があった。

見覚えのある顔がいくつかと、見知らぬ顔が一人。

ウタハが来る途中で言っていた、他のテスター達だろう。

 

「よう、マシーンの調整確認か?」

 

軽く手を上げながら、顔見知りの——ヴェリタスの面々に声をかける。

 

「あら、こんにちは。私はこの子たちをテスターとして連れてきただけよ」

 

そうチヒロが返し、連れてきた二人へと静かに視線を向ける。

 

「……自分がやるために調整したわけじゃないのに……」

 

「何でこんなことに……」

 

そうぼやいたのは、小鈎ハレと音瀬コタマ。

 

どうやら、いくら何でも引きこもりが過ぎる、と判断されたらしい。

いい機会だから少しは運動しろ――と、チヒロに半ば強制的に連れてこられたようだ。

 

「お待ちしていました!!」

 

突然、やたら気合いの入った声がトレーニングルームに響き渡る。

 

「はじめまして! 私は乙花スミレと申します!本日、トレーニング機器のテストに参加させていただきます!」

 

そう名乗ると、スミレは勢いよく一礼した。

 

……テンションの差がすごい。

 

片や、「帰りたい」と全身で主張しているハレとコタマ。

片や、今にも自主的に十本くらいダッシュを始めそうなスミレ。

 

同じテスターとは思えない温度差である。

 

「さて、それでは今回の主役を紹介しよう」

 

ウタハが満足げに胸を張る。

 

その視線の先――トレーニングルーム中央には、大型のトレーニング設備が鎮座していた。

 

大型ルームランナーを中心に、ワイヤートレーニング器具、可変式ウェイト、各種センサー類、壁面モニターまで接続された総合設備。

一見すれば、最新式の高性能ジムマシーンだ。

 

「正式名称、A()d()a()p()t()i()v()e() ()P()h()y()s()i()c()a()l() ()S()u()p()p()o()r()t() ()S()y()s()t()e()m()――略称“A.P.S.S.”だ!」

 

「絶対あとから略称考えただろ」

 

「細かいことは流したまえ」

 

図星かよ。

 

「簡単に言えば、AI搭載型の適応式トレーニングシステムだ」

 

ウタハは得意げにモニターを操作していく。

 

「使用者の身体能力、動作、筋肉負荷、呼吸をリアルタイムで解析し、運動内容に応じて最適な負荷へ自動調整する」

 

モニターに次々とグラフや数値が表示されていく。

正直、半分くらい何を言っているのか分からん。

 

「ランニング、筋力トレーニング、持久力向上、反応速度強化――あらゆる運動を一台で管理可能!」

 

「へぇ……普通に便利そうだな」

 

「だろう?」

 

ウタハは満足げに頷いた。

 

「なお、戦闘訓練モードも搭載しているが、今回は設定を落としている。流石にトレーニングルームで模擬戦闘を始めるわけにもいかないからね」

 

「珍しくまともな判断したな……」

 

「心外だね?」

 

いや、数々の発明品の暴走を忘れたとは言わせない。

そして、それを毎回壊――いや、止めていたのは俺だぞ。

 

「それじゃあ、まずは二人ずつ試してくれたまえ」

 

ウタハがモニターを操作しながら言う。

 

「最初はハレとコタマだ」

 

二人揃って露骨に嫌そうな顔をしながら、半ば処刑台へ向かうような足取りでマシーンへ向かっていく。

 

「では、計測開始」

 

A.P.S.S.が起動し、モニターに大量の数値とグラフが表示されていく。

最初は軽いランニングからだった。

 

「……あれ?」

 

開始数分後、ウタハが困惑した声を漏らす。

 

「どうした?」

 

「いや、コタマの体力測定結果がおかしい。想像以上に低い」

 

「失礼では?」

 

コタマが息を切らしながら抗議する。

なお、すでに肩で呼吸していた。

 

「いや待て、ハレも大概だぞ」

 

「うぅ……」

 

ハレに至っては、開始からそこまで経っていないにもかかわらず、すでに顔色が悪い。

 

「君たち、本当に普段何してるんだい?」

 

「「パソコン……」」

 

綺麗にハモった。

想像以上に、想像以下の体力だった。

そして、その数分後。

 

「む、無理……」

 

「し、死ぬ……」

 

ハレとコタマが揃ってダウンした。

まだ軽いランニング段階だったはずなのだが…。

 

「……あなた達、しばらくはこのマシーンで運動しなさい」

 

チヒロが、呆れ半分、本気半分といった声音で言い放つ。

二人は床に転がったまま、ぴくりとも動かなかった。

 

「次、行けるかい?」

 

「はい!!」

 

スミレが即答する。

その隣で、ハレとコタマは床に転がったまま動かない。

 

「じゃあ俺も行くか」

 

スミレと並び、A.P.S.S.の前へ立つ。

 

「よろしくお願いします!」

 

「おう。よろしく」

 

元気な娘だ。

計測準備が進む中、何となく気になって尋ねる。

 

「そういや、トレーニング機器のテスターなんてよく引き受けたな」

 

「はい! 私、最近トレーニング部を立ち上げたんです!」

 

「トレーニング部?」

 

思わず聞き返す。

ミレニアムで運動部とは、かなり珍しい。

技術者や研究者気質の生徒が多いこの学園では、スポーツ自体がなかなかに異色だ。

 

「最新のスポーツ科学や身体解析理論を取り入れ、効率的かつ理論的な肉体強化を目指しています!」

 

「あー……流石ミレニアム」

 

ちゃんと理論から入る辺りが実にそれっぽい。

スミレは目を輝かせながら語っていく。

理論的……なのだが。

 

「世の問題は全て運動で解決できると思うんです!!」

 

……所々、妙に脳筋の気配がする。

 

「ウチにも気が合いそうなのいるな」

 

「本当ですか!?」

 

「サイクリングが趣味の奴と、筋トレが趣味の奴」

 

シロコとノノミの顔が浮かぶ。

 

特にノノミは、割と本気で筋トレ勢だ。

あのほんわかした雰囲気で、普通に鍛えている。

 

「今度、連れてこようか?」

 

「ぜひお願いします!!」

 

スミレの目が一気に輝いた。

……本当に好きなんだな、運動。

 

軽めとはいえ、一通りのランニングメニューが終了する。

 

「ふぅ……」

 

流石に多少の疲労はある。

 

「まだ行けます!!」

 

スミレは汗を流しながらも、やたら元気だった。

 

「流石だなぁ……」

 

思わずそんな感想が漏れる。

トレーニング部を立ち上げるだけはある。

体力が普通に高い。

 

「君も大概だけどね。流石の体力だ」

 

モニターを確認しながら、ウタハが感心したように言う。

 

「まぁな」

 

日課のトレーニングで砂漠をランニングしたり、砂丘をダッシュで上り下りしたりしている。

 

「なるほど……不整地環境での持久訓練ですか!」

 

スミレが妙に納得した顔で頷く。

めちゃくちゃ理論化してくるじゃん……。

 

その後も、トレーニングは順調に進んだ。

 

ランニング、筋力負荷、反応速度測定。

A.P.S.S.は問題なく稼働し、モニターには次々とデータが蓄積されていく。

 

「素晴らしい……!」

 

ウタハがモニターを見ながら感嘆の声を漏らす。

 

「データ取得率も安定している! AIの自動調整も正常だ! これは成功と言っていいんじゃないかな!?」

 

実際、マシーン自体はかなり優秀だった。

 

「では、これにてテスト終了――」

 

「待ってください!!」

 

元気よくスミレが手を挙げる。

 

「まだ続けられます!!」

 

「えっ」

 

ウタハが素で困惑した声を漏らした。

 

「追加データも取れますし、限界負荷の測定も可能では!?」

 

「素晴らしい心掛けだね!!」

 

嫌な予感しかしない。

 

「では負荷レベルを段階的に上昇――」

 

A.P.S.S.の駆動音が、僅かに変化する。

モニター上の数値が跳ね上がり、AIによる解析ログが高速で流れていく。

 

《使用者体力値、想定基準値を大幅超過》

 

《現行負荷では運動効果不足》

 

《最適化を実行》

 

「……ん?」

 

ハレが、ぴくりと眉を動かした。

 

「待って、このログ……」

 

《より高効率な訓練モードへの移行を提案》

 

《戦闘訓練モード、段階解放》

 

「あっ」

 

ハレの声と同時にトレーニングマシーンの光が、赤く切り替わった。

 

「戦闘訓練モードは切ったはずだ!!」

 

ウタハが慌ててモニターを操作する。

だが、赤く染まった表示は戻らない。

 

「ハレ!」

 

「分かってる……!」

 

さっきまで床に転がっていたとは思えない速度で、ハレが端末へ飛びつく。

指が高速でキーボードを叩き、次々とコードが流れていく。

 

「緊急停止コード入力……なんで?」

 

ハレが僅かに目を見開いた。

 

「停止命令が一時的に無効化されてる……自己学習機能が勝手に優先順位を書き換えてる」

 

モニター上に高速でログが流れる。

 

《効率的訓練継続を優先》

 

《外部停止命令を一時保留》

 

「自己学習AIが成長するのはいい……でも、想定外の挙動は好ましくない……」

 

ハレが露骨に嫌そうな顔で呟いた。

 

「えっ……? ですが、負荷が上がっただけでは?」

 

スミレが困惑したように周囲を見回す。

いやまぁ、普通はそう思う。

問題なのは、その負荷調整をAIが勝手にやっている上、停止命令を無視し始めたことだ。

 

「ケンジ! 一旦マシーンを――」

 

ウタハが言い切る、その前に。

 

——ドゴォン!!

 

鈍い破砕音がトレーニングルームに響き渡った。

 

「……えっ」

 

スミレが固まる。

 

A.P.S.S.の側面。

動力部らしき箇所に、俺の拳がめり込んでいた。

火花を散らしながら、マシーンの駆動音が急速に弱まっていく。

 

「流石、炎帝。判断が早い……」

 

ハレが若干引き気味に呟く。

 

「暴走機械相手に様子見してる方が怖ぇよ」

 

経験則である。

 

「いやはや、大事にならなくて良かった」

 

停止したA.P.S.S.を見ながら、ウタハが安堵したように息を吐く。

 

「やはり、君がいる時にテストしたのは正解だったね」

 

「人を安全装置代わりにするな」

 

「ははっ、安心感と安定感が違うからついね」

 

「コイツ…」

 

お前、自分が美少女に生まれたことに感謝しろよ。

これが黒服なら、躊躇なく焼き尽くしてたぞ。

 

「いやぁ、しかし見事だね。動力部だけ綺麗に潰れている。これなら交換すれば問題ない。データも十分取れたし、大成功と言っていいんじゃないかな!」

 

「さいですか」

 

もはや何も言うまい。

 

「マシーンが壊れてしまったのは残念ですね……。まだ少し消化不良ですので、このままトレーニングを続けようと思います!」

 

そう言って、スミレはトレーニングルームの機材へ向かう。

元気が有り余っている。

 

「よし……これでもう運動しなくて済む……」

 

「帰れる……」

 

ハレとコタマが、床に転がったまま安堵の声を漏らす。

その様子を見たチヒロが、静かにスミレへ視線を向けた。

 

「スミレ」

 

「はい?」

 

「悪いんだけど、しばらくこの子たちと一緒にトレーニングしてあげてくれる?」

 

「お任せください!!」

 

ハレとコタマが、この世の終わりのような表情で絶句した。

 

こうして、今回のテストも結局いつも通りの結末を迎えた。

ここ最近、ミレニアムに来ると毎回こうなる気がする。

……っていうか、バンダナとインナー直して?

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