漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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14話

――――? ? ? ・黒服の研究所

 

 

「完了しましたよ」

 

黒服が、いつもの調子でそう告げる。

その視線の先には、ジュガイ君が鎮座していた。

 

ジュガイ君――こいつはどうやら《モモフレンズ》の“ペロロ”というキャラクターらしい。

以前、ユメ先輩とノノミが楽しそうに話しているのを聞いて初めて知った。

 

お前、そこそこメジャーなキャラだったのか……。

正直、もっとこう……一発ネタ系のマスコットだと思っていた。

 

いや、実際モモフレンズの他メンバーと比べても、どう考えてもお前だけ異質なんだが。

 

多分、イロモノ枠なのだろう。

なら今まで通り”ジュガイ君”呼びで構わんか。

 

「見た目は変わらんのな」

 

「内部機能の追加ですので、外装へ手を加える必要はありませんでした」

 

黒服は淡々と答える。

 

「今回搭載したのは、“空間境界投影機能”です」

 

ジュガイ君へ呪力を流し込む。

周囲の空間へ、半透明の線や枠のようなものが浮かび上がる、それらは壁ではない。

防御力も、拘束力もない。

 

「……ホログラムか?」

 

「近いものではあります」

 

浮かび上がった境界は、意識して呪力を流せば、立方体になったかと思えば球状へ変化し、次の瞬間には複雑な幾何学模様のように組み替わっていく。

 

まるで、“空間そのものへ線を引いている”ような感覚だった。

 

「これは、あくまで領域認識補助機能です」

 

「領域認識?」

 

「ええ」

 

黒服が、半透明の境界へ視線を向ける。

 

「術者自身へ、“ここからここまでが自らの領域である”と認識させるための、結界術訓練用補助機能です」

 

黒服は、当然のように言い切った。

 

「空間を区切る。内と外を定義する。“領域”を認識する。これらは全て、結界術に必要な基礎工程である――と、私は推測しています」

 

なるほど。

俺から聞いた情報を元に、黒服なりに結界術を理論化したのか。

 

それが実際の呪術における結界術と比べて、正しいのか間違っているのかは正直分からない。

だが、少なくとも“何を意識すればいいのか”という指針があるだけでも、手探りでやるより遥かにマシだった。

 

幸い、《帳》は下ろせる。

少なくとも、俺には結界術の才能が全く無いというわけではないのだろう。

 

とはいえ、原作で伏黒が「結界術ってのは難しいよな」と言っていた通り、実際にやってみると感覚があまりにも曖昧だった。

 

空間を区切り、内と外を定義し、領域として認識する。

 

言葉にすれば単純だ。

だが、それを“理解する”のと、“実際に成立させる”のとでは話が違う。

 

おそらく結界術とは、相当な才能とセンスを要求される技術なのだろう。

 

だが、ある程度これを物にしなければ、その先――《領域展開》へは辿り着けない。

 

領域展開。

 

呪力を練り上げ、強力な結界を構築する呪術の極致。

習得方法について、体系化されたカリキュラムのようなものは基本的に存在しない。

当然ながら、一朝一夕で習得できる代物ではない。

 

それどころか、幾つもの修羅場や死線を潜り抜けてきた歴戦の呪術師ですら、習得している者は極僅か。

それほどまでに、領域展開という技術の難易度は高い。

 

恐らく、一番手っ取り早いのは、少年漫画よろしく極限状態――死線の果てに覚醒する、みたいなパターンなのだろう。

実際、原作でも領域展開を発現するケースは、窮地に陥ってからが多い。

 

だが、俺は別にバトルジャンキーではない。

賞金稼ぎをやっているのだって、あくまでアビドスの借金返済が目的だ。

 

それに、今まで相手にしてきた賞金首たちも、犯罪者ではあるが、呪霊や呪詛師のような

“どうしようもない悪”という感じではない。

 

キヴォトスは物騒な世界だ。

銃撃戦も爆発も日常茶飯事。

だが、その割に“殺人”への忌避感は妙に強い。

少なくとも、その感覚は前世と変わらない……いや、むしろ前世以上かもしれない。

 

だから正直、今の俺には領域展開なんてものを使わなければならない相手や状況――『死んでも勝つ』といった事態を想像できなかった。

 

以前、黒服は言っていた。

“キヴォトスが滅びかねない脅威”がどうとか。

もっとも、後から問い詰めた時には、

 

「ククク……あれは、あくまで物の例えですよ」

 

と、言っていたが。

 

「まぁ、可能性が0ではない――とだけ」

 

などと、妙に含みを持たせた言い方をしてきやがる。

本当に質が悪い。

 

心の底から燃やしてやりたくなる。

……いや、炙るくらいなら許容範囲ではないだろうか?

一発くらいなら誤射だ、誤射。

 

そうだ!

領域展開が使えるようになったら、今まで協力してくれた礼として黒服(こいつ)を領域の中へ招待してやろう。

きっと喜んでくれる。

 

……お?そう考えると、なんか急にやる気が出てきたな。

やはり目標というのは大事だ、モチベーションが違う。

 

それに、たとえ未完成だったとしても、領域は領域。

展開できれば俺の術式は強化される。

それだけでも戦力向上としては十分大きい。

やれることは、多いに越したことはないだろう。

 

「じゃ、また新たな日課の訓練メニューだな。時間はかかるだろうが、領域展開出来たら(成果が出たら)体験させてやるよ」

 

「ククク……期待していますよ」

 

黒服が、愉快そうに笑った。

 

「では次は、符術の方を試してみましょう」

 

黒服が、机の上へ数枚の紙を並べながら言う。

今回の実験は、生得術式以外――汎用呪術の検証だ。

 

原作でも細かい情報は少ない。

そのため、現在は黒服が俺から聞いた情報を元に、理論を組み立てながら片っ端から試している段階だった。

 

もっとも、成果が全く無いわけではない。

今のところ、比較的進展がありそうなのが、先程試した結界術と、これから行う符術。

 

その一方で、どうしようもなかった分野もある。

 

封印術――これについては、そもそもキヴォトスに呪物や呪霊が存在しない。

検証対象そのものが存在しない以上、試しようがなかった。

 

そして、式神術。

これに関しては…どうやら俺には、式神術の才能が壊滅的に無いらしい。

 

思えば、《火礫蟲》も妙だった。

俺が使うそれは、原作のような虫ではなく、炎で形作られた紙飛行機のような見た目をしている。

おまけに制御も半自律などではなく、完全に俺自身によるマニュアル操作だ。

 

当初は、“あれは呪霊としての漏瑚の能力”なのだと思っていた。

だが、今考えると、あれには式神術の要素が関係しているのかもしれない。

 

……まぁ、つまり。

俺にはその辺りの適性が無かったということなのだろう。

 

「……驚くほど適性がありませんね」

 

黒服にも割と真顔でそう言われた。

お前、ほんと覚えとけよ……。

 

で、符術だ。

とりあえず、“札に何らかの効果を付与する”ところから始めよう、という話になった。

 

黒服が机の上へ並べた紙を手に取る。

見た目は普通の紙と大差ない。

だが、触れてみると妙に呪力の馴染みが良かった。

 

「特殊加工済みの媒体です。呪力伝導率、定着性、耐熱性、諸々を…」

 

黒服が何やら色々説明していたが、とりあえず、“特殊な紙”ということだけは理解した。

これを、俺が加工するという訳だ。

 

「さて……」

 

……どうすりゃいいんだ?

 

札を使った術なんてものは、創作物では割とポピュラーだ。

昔話の《三枚のお札》だとか、陰陽師だとか、ゲームや漫画でもよく見る。

だが、“実際の作り方”なんてものは当然知らない。

 

「どうかしましたか?」

 

黒服が、不思議そうにこちらを見る。

流石にここで「やり方が全く思い浮かびません」は、なんか負けた気がした。

 

なのでもう呪術廻戦とか関係なく、完全に思いつきでやることにした。

 

「まぁ……こういうのは雰囲気だろ」

 

適当なことを呟きながら筆を取る。

インクへ少量、自分の血を混ぜる。

これも完全に思いつきだ。

なんかこう……呪術っぽいし。

 

そして、呪力を流し込みながら紙へ梵字を書き始める。

もちろん、正確な形なんて知らない。

完全にうろ覚えである、我ながら酷い。

 

「ほう……それも、呪術的に意味のある文字なので?」

 

黒服が興味深そうに問いかけてくる。

どうやら、作業を始めてから妙に躊躇なく進めているせいで、完全にそれっぽい知識があるように見えているらしい。

 

実際はほぼ雰囲気である。

 

「前に説明した通り、俺もそこまで情報を持ってるわけじゃないがな……まぁ、該当しそうなものを試そうと思ってな」

 

嘘である。

俺は雰囲気で呪符を作っている。

呪術師は嘘ついてなんぼよね。

 

だが黒服は、そんなこちらの内心など知らず、感心したように梵字を見つめていた。

 

「なるほど……術式を記号化し、外部媒体へ定着させるための指定ですか」

 

「……まぁ、上手くいく保証はないがな」

 

なんかそれっぽく解釈し始めた。

助かる。

 

インクが乾いたのを確認し、今度は札そのものへ呪力を流し込む。

……当然、これも雰囲気だ。

というか、そもそも正解が分からない。

とりあえず、“術式を込める”イメージでありったけ呪力を叩き込んでいく。

 

「……よし」

 

札を軽く摘み上げる。

見た目は特に変わらない。

 

「一先ず、こんなもんでどうだ?」

 

黒服へ札を渡す。

黒服はそれを受け取ると、興味深そうに何度か角度を変えながら眺めた。

 

「ふむ……」

 

「どうだ?」

 

「見た目からは、特に変化はありませんね」

 

「だろうな」

 

俺から見ても普通の札にしか見えない。

というか、成功しているのかすら怪しかった。

 

「では、札の起動をお願いします」

 

黒服が、実に興味深そうな声で言う。

 

「はいはい」

 

返事はしたものの、内心ではそこまで期待していなかった。

正直、ほぼ雰囲気で作った代物だ。

どう考えても失敗している気しかしない。

 

札を、黒服からも見えるよう机の上へ置く。

 

「……いくぞ」

 

そう言って、ほんの僅かだけ呪力を札へ流し込んだ。

 

次の瞬間。

 

ボッ。

 

札の中央から、小さな火が灯った。

マッチ程度の、小さな炎。

 

「…………」

 

「…………」

 

一瞬、部屋の空気が止まる。

 

「――おお」

 

黒服から、感嘆の声が漏れた。

 

(……え、嘘だろ? マジで?)

 

一瞬、自分で術式を誤発動させて札を燃やしたのかと思った。

が、違う。

 

呪符へ視線を向ける。

適当に描いた梵字モドキが、僅かに赤く発光していた。

 

そして何より。

火は灯っているのに、札そのものは燃えていない。

焦げすら無かった。

 

むしろ――。

 

(……札から呪力が?え、ホントに成功した?)

 

直後。

梵字モドキの光が、ふっと消える。

 

ボッ。

 

今度こそ、札そのものへ火が燃え移った。

一瞬で炎が紙を飲み込み、そのまま呪符は灰になって崩れ落ちる。

 

「…………」

 

「なるほど」

 

黒服が、妙に満足げな声を漏らした。

 

「術式定着そのものは成功していますね。耐久性と出力維持に課題はありますが、方向性は間違っていないようです」

 

「お、おう……」

 

なんか普通に成功判定された。

しかも、よくよく考えれば、最後に流し込んだ呪力はかなりの量だった。

本気で術式として発動させれば、この研究室くらいなら普通に火の海へ変えられる程度には込めていたはずだ。

それなのに、実際に発現したのはマッチ程度の小さな火。

 

つまり、起動時に流し込まれた僅かな呪力を札が感知し、それに合わせて術式をある程度制御・圧縮していたことになる。

……そう考えると、確かにこれは“成功”と言っていいのかもしれない。

雰囲気だけの適当な作り方だったのに。

 

黒服は完全に気を良くしたらしく、既に次の実験工程を考え始めていた。

 

「興味深い……実に興味深いですね」

 

「お前、絶対テンション上がってるだろ」

 

とりあえず、今回の実験は成功判定になったらしい。

 

今後は、呪符へどこまで術式を蓄積できるのか、どれほどの威力まで耐えられるのかとか、

あるいは、俺以外――呪力を扱えない人間でも使用可能なのか。

 

そういった点を検証していくらしい。

黒服は既に次の研究計画を組み始めていた。

 

「使用者側へ最低限の呪力すら存在しない場合、外部エネルギーによる代替起動も視野に――」

 

研究者の勢いが怖い。

というか。

 

(……ヤベッ、梵字モドキ、どんな形で書いたか覚えてねぇ……)

 

完全に雰囲気で書いた。

二度と同じ物を作れる気がしない。

 

 

 

その日の晩。

アビドスへ戻った後、今日の研究内容をホシノへ報告。

 

「うへぇ〜……呪符ねぇ。それって、つまりカイロとか作れるって事?」

 

「出てくる感想がそれかよ」

 

だが、その程度の扱いの方が、ひょっとすると気楽なのかもしれなかった。

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