漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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16話

「ユメ先輩が久々に顔見せにくるって」

 

嬉しそうなホシノからそう聞いたのは数日前だった。

 

D.U.の専門学校へ通っているユメ先輩だが、どうやら資格試験に無事合格したらしい。

 

連絡はちょくちょく取っているし、近況も聞いている。

それでも実際に顔を合わせるとなると話は別だ。

向こうでの生活にも慣れたらしく、今度の休日に久しぶりにアビドスへ帰ってくるという。

 

要領がいいとは言えず、抜けたところのある先輩だが、真面目な性格もあって勉強はしっかりやっており、成績も意外と良い。

お人好しでおっちょこちょいだが、努力だけは決して欠かさない人だった。

 

久々の再会と資格試験合格のお祝いも兼ねて、少し奮発して良いお菓子を用意しようという話になった。

 

そして「お菓子ならトリニティ」という話になり、俺たちは買い出しのためトリニティ自治区へ向かうことになった。

 

今回は高級菓子の目利き役として、ノノミも同行している。

 

いや、同行しているのは俺の方か。

今回の買い出しの主役はどう考えてもノノミだ。

 

「何を買うか悩んじゃいますね☆」

 

助手席でノノミが楽しそうに呟いた。

 

事前に色々と情報は集めていたらしいが、やはり実物を見て決めたいということで今回の買い出しになったらしい。

 

ちなみにミラクル5000も候補に挙がったのだが、流石に全員分確保は厳しいとのことで却下された。

俺もその判断は正しいと思う。

 

「それにしても、この車もすっかりケンジ先輩の愛車ですね」

 

助手席のノノミが車内を見回しながら言う。

 

「乗ってる頻度が一番多いのは確かだが、学校の所有物だからな?」

 

そう、この度アビドス高校も車を所持することになったのだ。

おらが学校にも文明の利器が来たのである。

 

まぁ文明の利器というには少々物騒かもしれない。

何せ見た目が完全に装甲車だ。

 

賞金稼ぎであちこち駆け回る以上、そろそろ足が欲しいとは思っていた。

だが、そこは悲しいかな借金苦の貧乏校である。

 

中古のオンボロでも手に入れば御の字だと思っていたところに現れたのが、毎度おなじみミレニアムのエンジニア部。

 

前回先延ばしになった修理済みの防具を受け取りに訪れた際、試験車両の運用を打診されたのである。

 

曰く――「あらゆる地形に対応した万能車」らしい。

そもそもが砂漠地帯のアビドス。

加えて賞金首を追ってキヴォトス中を走り回る俺は、向こうからすれば格好のデータ収集役だったようだ。

 

肝心の余計な機能(こだわり)は自爆機能か、変形機構か、はたまた自動運転AIかと、せめて被害は俺だけに抑えようと腹を括っていたところ、今回追加されたのはまさかのタッチ決済機能だった。

 

フロントバンパー部分に。

 

成程、お店のレジまで車でダイレクト入店、お買い物を済ませて颯爽とお帰り、と。

大胆かつ画期的な機能ですね、ヴァルキューレ出動待ったなしに目を瞑れば。

 

それらの感想を『ありがたく使わせてもらう』という言葉に込めてしっかりと伝えておいた。

 

思いは言葉にしなければ伝わらない。

そして、伝わったからといって聞き入れてもらえるかはまた別である。

 

そんなこんなで手に入れたこの車だが、賞金稼ぎをしている俺が必然的に一番乗る機会が多い。

 

次いでショッピング好きのノノミ。

対策委員会のおやつや日用品の買い出しで郊外へ向かう際によく使われている。

 

シロコも運転しないわけではないのだが、どちらかと言えばサイクリングの方が好きらしい。

 

ホシノは――本人の名誉のため多くは語らないが、【座高】とだけ言っておく。

 

砂漠の殺風景な景色が、徐々に整備された道路へ変わっていく。

乾いた砂地は減り、代わりに街路樹や芝生が目立ち始めた。

行き交う車の数も人の数も増えていく。

 

ノノミの案内で車を走らせる。

トリニティの中心部へは賞金稼ぎの仕事や買い出しで何度か訪れたことがある。

だが、今回足を踏み入れた区域は初めてだった。

 

並んでいる店の雰囲気からして違う。

いわゆる高級商業エリアという奴だろうか。

 

高級ブティックに高級腕時計専門店、会員制らしき店まで見える。

 

お嬢様学園であるトリニティの中でも、更に上澄みが集まっているのだろうか。

漂うセレブ感が数段階違う気がした。

 

……え?ここで買い物するの?

 

お高いと言っても、以前ミラクル5000を売っていたような洒落た店や百貨店のような場所を想像していた。

少なくとも、会員制の店が並んでいそうな区域ではない。

 

流石にこの辺りは駐車スペースも限られているらしい。

目的の店の近くは既に満車だった。

 

他の駐車場が少々離れた場所にあったため、ノノミを先に降ろす。

軽く手を振るノノミを見送り、俺は駐車場へ向けてハンドルを切った。

 

駐車場へ到着し、車を停める。

 

並んでいるのは高級車ばかりだった。

流石はトリニティ。

 

と思ったのだが、何故かたまに戦車が混じっている。

流石はキヴォトス。

 

ノノミと合流すべく街中を歩く。

 

違和感――。

 

いや、違和感も何も、運転している時から薄々感じてはいた。

 

自分の場違い感が凄い。

周囲を歩く生徒達は皆上品だ。

お嬢様というより、もはやセレブである。

 

格好がどうとかの問題ではない。

立ち振る舞いというか、内面から滲み出る雰囲気というか。

根本的な部分からして違う気がした。

 

『なぜここに平民がいますの?』

 

と、頭の中のイマジナリーお嬢様*1が見下してくる。

気持ちノノミとの合流を急ぐ。

 

もっとも、こんな場所で走るなど論外だ。

早歩きですら浮きそうだった。

そんなことを考えながら歩いていると、目的の店の近くまで来た。

 

「……ん?」

 

思わず足を止めた。

前方で何やら揉めている集団が見えた。

 

一人はノノミ。

そしてもう一方は――

 

「えー?」

 

どう見ても不良、どう見てもスケバン。

絵に描いたような三下だった。

俺なんか目じゃない位遥かに場違いな連中がそこにいた。

 

「どうした?」

 

揉めている連中を無視してノノミへ声を掛ける。

 

「ケンジ先輩!」

 

ノノミがぱっと表情を明るくした。

 

「ンダテメッコラー!」

 

「チェラッコラー!」

 

チンピラたちに威嚇される。

……本当にどうした?

 

「ん? コイツ……」

 

チンピラの一人が俺を見て呟く。

 

「実はこの人達が――」

 

ノノミが説明しようとした時だった。

 

「シバルナッケンゴラー!」

 

「ワメッコラー!」

 

相手の威嚇で遮られる。

いい加減鬱陶しい。

仕方なく相手の方へ向き直ると――。

 

「バカよせ!そいつ【炎帝】だ!炙られる前に逃げっぞ!」

 

「マジで!?シャレになってねーぞ!」

 

「アイェェェ!?エンテイ!?エンテイナンデ!?」

 

脱兎の如く逃げていった。

 

「……」

 

……本当に何だったんだ?

 

とりあえず事情を聞こうとノノミへ視線を向ける。

 

「あの」

 

不意に声が掛かった。

 

ノノミの少し後ろ。

整った制服に上品な立ち振る舞い。

一目で分かる育ちの良さ。

この街の空気に相応しい女生徒だった。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

店内に流れる落ち着いた音楽。

漂う紅茶の香り。

 

あの後、近くの喫茶店へ移動した。

 

先程の騒動は、どうやらセレブな女生徒――桐藤ナギサさんに、あのチンピラ達が当たり屋まがいのことをして難癖を付けていたらしい。

そこへ偶然近くにいたノノミが割って入り、今度はノノミ相手に絡み始めたとのことだった。

 

「……」

 

すげぇなあいつら。

この街の雰囲気に呑まれず、そんな真似ができるのか。

クソ度胸だけなら今まで出会った連中の中でも上位かもしれない。

心が強ぇ奴らなのか?

 

何度も丁寧に礼を述べるナギサさんに、ノノミが先程の騒動で落とした荷物を手渡す。

中身は紅茶だったらしい。

 

そこから会話が広がり、気付けばこうして喫茶店へ移動していた。

現在進行形で二人は紅茶談義に花を咲かせている。

 

「この茶葉でしたらアールグレイが……」

 

「近頃は山海経から流通しているものも増えておりますわ。これがなかなかに……」

 

楽しそうで何よりである。

 

俺の紅茶知識など午後の紅茶くらいのものだ。

そしてこの場でそんな発言をしようものなら、良くてギロチン、悪くて拷問だろう。

大人しく空気に徹することにした。

 

ナギサさんは聖女様(サクラコさん)とはまた違ったタイプのお嬢様だった。

 

優雅で穏やかな性格。

言葉遣いも所作も洗練されている。

間違いなく良家のお嬢様なのだろう。

まかり間違っても、白米にうなぎのタレだけをぶっかけた飯など食べたことはないはずだ。

いや、存在そのものを知らない可能性すらある。

 

ちなみに今朝の俺の朝食である。

 

そしてそんな相手と問題なく会話を続けるノノミ。

流石はネフティスのご令嬢といったところか。

タイプこそ違えど、上品さでは全く引けを取っていない。

 

前世でも今世でも下々民である俺には縁のない世界が目の前で繰り広げられていた。

帰るまで荷物持ち兼護衛役として影に徹しよう、そう固く心に誓った。

 

「それにしても噂に聞く、炎帝……倉戸ケンジさんとお会いできるとは光栄です」

 

速攻で影から引きずり出された。

 

「ご活躍はうかがっております。今では名前を聞いただけでキヴォトス中の犯罪者が震え上がると……」

 

尾ひれに背びれどころか、肺呼吸まで覚えて陸へ上がる勢いで噂が膨れ上がっている。

 

そんな訳がない。

確かに先程の様に逃げ出す連中もいるが、それ以上に向かってくる連中も普通にいる。

 

ノノミがどこか誇らしげに微笑んでいた。

『頼りになる先輩です☆』じゃないんだ。

今この場においては君の方が俺の億倍頼りになるからね?

 

「我が校の生徒も幾度かお助けいただいていると聞いております」

 

「ええ、まぁ…」

 

「この間も、人質を取って立てこもっていた犯人を華麗に撃退したとか」

 

「華麗」

 

華麗とは、犯人の死角から小型火山を生成し、奇襲を仕掛けた件のことだろうか。

 

「他にも、武装犯罪集団を堂々とした態度で相対し、投降させたと」

 

「堂々」

 

堂々とは、武装集団の内何人かを炎の壁で囲み、『武装解除に応じないならこのまま炙り続ける』と本隊へ告げた件のことだろうか。

 

人の噂も七十五日というが、収まるどころか悪化しているのは何故なのか。

 

「正義実現委員会の方々とも良好な関係と聞いております」

 

「いろいろとお世話になっております」

 

これに関しては事実だ。

正実に限らず、ヴァルキューレを始めとした各自治区の治安組織とは極力揉めないよう心掛けている。

 

下手なことをして、『自分たちの縄張りで勝手をされた』などと思われれば賞金稼ぎの活動に支障が出る。

だから捕まえた相手がその自治区で事件を起こしていた場合、引き渡しを求められれば素直に応じるし、逆に捜査協力や応援を頼まれれば可能な範囲で手を貸す。

 

そのおかげだろうか。

最近では要件が終わった後に犯人を返してもらえたり、手続きだけ済ませて賞金を振り込んでくれたりすることも増えた。

 

持ちつ持たれつというやつだ。

俺としても助かっている。

 

少々変わっているのがゲヘナの風紀委員だろうか。

 

「あ、そいつ捕まえたの?やるじゃん、お疲れ」

 

大体こんな感じで終わる。

まぁ、問題児が多すぎて感覚が麻痺しているのだろう。

むこうからすれば、問題を起こしていた連中が大人しくなるならそれで良いのかもしれない。

 

「ふふっ、噂とは随分違う方ですね」

 

「そうですか?」

 

「ええ。勿論良い意味で、です」

 

何が良い意味なのかは分からなかったが、褒められているらしい。

なら良しとしよう。

 

その後もしばらく雑談を続けた後、

 

「お二人とも、本日はありがとうございました」

 

ナギサさんはそう言って上品に一礼した。

 

「いえいえ☆」

 

ノノミも笑顔で応じる。

 

「こちらこそ」

 

こうして俺達はナギサさんと別れた。

 

 

 

ナギサさんと別れた後、本来の目的だった買い物を再開する。

 

「こちらのお店です☆」

 

嬉しそうに歩くノノミの後を付いていく。

 

「さっきの店じゃないのか?」

 

「はい♪ ナギサさんからおすすめされたんです」

 

成程、嫌な予感しかしない。

 

辿り着いた先の店を見て確信した。

格式が高い、とにかく格式が高い。

店構えからして違う。

 

冷やかしで入店した瞬間、店員に

 

『お客様、何か御用でしょうか?』

 

と笑顔で退店を促されるのは不可避だろう。

 

そんな俺の不安などどこ吹く風と、ノノミは物怖じする様子もなく店内へ入っていく。

慌ててその後を追う。

 

「いらっしゃいませ」

 

出迎えた店員へノノミが何かを手渡した。

店員の表情が僅かに変わる。

そして丁寧に一礼。

 

「あちらへどうぞ」

 

案内された。

 

(……待って?今の何?あれは何?紹介状とかそういうやつでは?そういえばナギサさんから何か受け取っていらっしゃいましたね?一見さんお断りというやつですか?)

 

せめて値段を見てうろたえるような真似だけはすまい。

ノノミに恥をかかせる訳にはいかない。

 

そう覚悟を決めていた俺の決意は杞憂に終わった。

何故なら値段が書いていないからだ。

……何?時価?

 

その後、買い物は無事終了した。

流石は超一流店の店員である、購入した商品をノノミではなく俺へ手渡してきた。

上下関係を完全に理解している。

 

「折角ですから、お菓子以外も色々見て帰りましょう☆」

 

満足そうなノノミがそう言った。

 

俺は静かに覚悟を決めた。

今度こそ、帰るまで荷物持ち兼護衛役に徹しよう。

下手に目立って良いことは何もない、今日一日でそれだけはよく分かった。

 

 

 

後日。

 

買って帰ったお菓子は大変好評だった。

ユメ先輩はもちろん、ホシノもシロコも。

そして選定役を務めたノノミ自身も満足そうだった。

 

高級店だの紹介状だの時価だの。

色々あった気がするが、全員が喜んでくれたのなら結果オーライだろう。

 

帰り際、お菓子とは別にノノミが選んだ先輩へのお土産もたいそう喜んでくれた。

後輩からのプレゼント。priceless。

 

……なお、お値段を知ってしまった場合、先輩の意識は間違いなくlessである。

*1
ドリルヘアー

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