漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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17話

賞金稼ぎに他自治区へ。

今回はシロコも同行。

 

実戦経験を積ませる目的もあるのだが、その成長速度には目を見張るものがある。

索敵、追跡、射撃に判断力も向上しており、以前のような危うさはほとんど見られない。

 

流石に俺やホシノほどではないが、それでも同年代の生徒の中では上位に位置するのではなかろうか。

 

もっともホシノ(親御さん)は未だに少々心配している。

 

記憶を失い行き倒れていたシロコを見つけたのはホシノだ。

面倒を見てきた期間も俺より長い。

親代わりのような感覚なのだろう。

 

まぁ時々アビドスを襲撃してくる不良集団――その中には俺へのリベンジ目的の連中も含まれるのだが――を共に撃退していることもあり、シロコの実力自体は認めている。

 

シロコの成長度合いを考えればそう時間はかかるまい。

相手を選ぶ必要はあるが、来年には単独で賞金稼ぎを任せても問題ないだろう。

 

予想以上に後輩が優秀だったおかげで、仕事は予定より早く片付いた。

 

折角の休日だ。

このまま帰るのも少々勿体ない。

街には大型のスポーツ用品店があるらしく、シロコはサイクリング用品、俺は新しいランニングシューズを見たいとのことで、そのまま二人で向かうことにした。

 

シロコは最近、自転車に随分と熱を入れている。

ミレニアムのスミレとはサイクリング仲間になった様で、時折休日に一緒に走っているそうだ。

 

ノノミとも筋トレ仲間らしく、聞く限りでは寝ても覚めてもトレーニングの話ばかりしているらしい。

 

そんな話をしながら歩いていると、途中でシロコが足を止めた。

視線の先には銀行。

 

「ん、ちょっと銀行を見てくる。すぐ終わるから先に行っていて」

 

「おう、んじゃ後でな」

 

シロコは銀行へ向かって歩き出した。

 

(…銀行を見てくる?預金残高でも確認しに行ったのか?)

 

少々引っ掛かりつつも、深く考えるほどのことでもない。

俺は一足先にスポーツ用品店へ向かうことにした。

 

 

 

スポーツ用品店へ到着した俺は、早速ランニングシューズ売り場へ向かう。

流石は大型店というべきか。

品揃えはかなり豊富だ。

機能性重視のものから競技用まで幅広く取り揃えられている。

 

「さて、どれにするか……」

 

折角なら長く使えるものを選びたい。

そんなことを考えながら商品を見ていると、不意に外が騒がしいことに気付いた。

 

最初は気のせいかと思った。

休日の市街地、多少賑やかなのは珍しくない。

 

だが、何やら様子がおかしい。

店の外から聞こえてくる声は、楽しげなものではなくどこか切迫している。

店内の客達も徐々に落ち着きを失い始めていた。

 

「あれ、何かあった?」

 

「事故か?」

 

「いや、あっち見ろ」

 

何人かが窓際へ集まり始める。

店員達も困惑した様子で外へ視線を向けていた。

ざわざわとした不安の波が店内へ広がっていく。

 

そして――。

遠くから聞こえてきた爆発音が、その空気を一変させた。

 

――――ドォォォンッ!!

 

腹の底まで響くような轟音。

店のガラスがびりびりと震え、陳列棚の商品が僅かに揺れた。

 

「うわっ!?」

 

「なっ……!?今の何!?」

 

店内の客達が悲鳴を上げる。

俺も思わず顔をしかめた。

 

爆発自体は珍しくない、ここはキヴォトスだ。

爆弾も銃撃戦も日常の範疇である。

 

が、今のは流石に規模が違う。

 

音だけでこれだ。

発生地点は相当離れているはず。

にもかかわらず、この衝撃。

 

少なくともチンピラや不良集団の喧嘩で起きる騒ぎではない。

 

俺はすぐにスマホを取り出し、シロコへ連絡を入れる。

だが。

 

「……繋がらない?」

 

何度試しても結果は変わらない。

電波状況が悪いのかと思ったが、どうやら俺だけではないらしい。

 

「えっ!?なんで!?」

 

「全然繋がらないんだけど!」

 

「モモトークも見れない…」

 

周囲の客達も次々とスマホを取り出していた。

家族や友人へ連絡を取ろうとしているのだろう。

しかし反応を見る限り、誰一人として成功していない。

店員達も同様だった。

 

「通信障害……?」

 

誰かが不安そうに呟く。

 

(さっきの爆発で電波の基地局でもやられたか?)

 

可能性はあるが、偶然にしては出来過ぎている気がした。

嫌な予感がする。

 

(とにかくまずはシロコと合流しないと)

 

俺は困惑している客や店員の間を抜け、店の出口へ向かう。

そしてそのまま店を飛び出し、シロコと別れた銀行の方へと走った。

 

通りへ出た瞬間、その足が止まりそうになる。

 

「なっ……」

 

人、人、人。

 

爆発があった方向から逃げてきたのだろう。

大勢の人々が通りを埋め尽くさんばかりに溢れていた。

 

悲鳴、怒号、泣き声。

様々な音が入り混じり、辺りは完全な混乱状態となっている。

 

人の流れは一方通行だ。

誰もが爆発の起きた方向とは反対へ向かっている。

当然、その流れに逆らう俺はまともに進めない。

 

そしてようやく、シロコと別れた銀行の建物が見える位置まで辿り着いた。

 

「……あれは」

 

銀行の前に武装した集団がいた。

一見すると、こいつらが今回の騒ぎの元凶にも見える。

だが。

 

「違うな」

 

すぐに否定する。

どうも様子がおかしい。

爆発の中心地には見えないし、建物の損傷も限定的だ。

何より周囲の連中の動きが場当たり的過ぎる。

統率も何もない。

 

視線を遠くへ向ける。

黒煙はここよりさらに向こうに見える。

騒ぎの中心は恐らくそちらだろう。

 

「便乗して火事場泥棒かよ…」

 

思わず舌打ちする。

どうやらどこかで起きた大事件に乗じて銀行強盗を始めたらしい。

実にキヴォトスしてやがる。

ただ今はそれよりも…。

 

「シロコ……」

 

可能性は低いがゼロとは言い切れない。

銀行へ向かった以上、まだ建物内にいるかもしれない。

 

「糞っ!」

 

思わず悪態が漏れる。

 

この程度の連中なら、本来なら炎で一網打尽に出来る。

数秒も掛からないが、今はマズい。

 

周囲は依然として避難する一般人で溢れている。

ここで術式を使えば、混乱はさらに拡大するだろう。

最悪、将棋倒しでも起きれば被害は強盗以上だ。

 

ならやることは一つ。

 

「仕方ないか」

 

正面から突っ込んで、一人ずつ叩きのめす。

俺は人混みを抜け、銀行へ向かって駆け出した。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

「ふふっ……」

 

高層ビルの屋上。

街を見下ろしながら、狐面の少女は楽しそうに笑った。

眼下では混乱が広がっている。

 

人々が逃げ回り、警報が鳴り響く。

各所から立ち昇る黒煙。

 

実に素晴らしい光景だった。

 

「良いですねぇ……」

 

狐坂ワカモは目を細める。

今回は少しばかり派手にやってみた。

 

各所へ仕掛けた爆薬を起爆。

混乱に乗じて暴れ始めた不良達を煽り立て。

ついでに以前どこからか頂戴した通信妨害装置まで投入してみた。

 

結果は上々。

 

「ふふふ……」

 

通信網は麻痺し、避難誘導は混乱。

不良達は好き勝手に暴れ回る。

想像以上の成果だった。

 

「やはり準備というものは大切ですね」

 

ご機嫌な様子で呟く。

もう少し騒ぎを大きくしても良いかもしれない。

そう考えた、その時だった。

 

不意に背筋へ微かな違和感が走る。

ワカモは反射的に頭を傾けた。

 

――パァンッ!!

 

直後。

つい先程まで頭のあった場所を銃弾が通り過ぎる。

 

「……あら?」

 

驚いたように目を瞬かせる。

ゆっくりと振り返るとそこには、ライフルを構えた銀髪の少女が立っていた。

 

「ん、残念。勘がいい」

 

「あらあら、これはこれは可愛らしい子犬ちゃん」

 

ワカモは楽しそうに笑う。

 

「撃たれる直前まで気付けなかったとは、私としたことが少々浮かれ過ぎていましたか」

 

「ん、矜持が傷ついた?」

 

シロコは表情一つ変えずに問い掛ける。

ワカモは一瞬きょとんとした後、くすりと笑った。

 

「いえいえ、これはこれで楽しくなってまいりました♪」

 

「楽しくなってきた?ん、危機感の欠如」

 

シロコはライフルを構え直す。

 

「そのお面の下のニヤケ面、吹っ飛ばしてあげる」

 

「ふふっ……」

 

ワカモは肩を震わせる。

どうやら本当に楽しんでいるらしい。

 

「それは流石に高望みですわよ?」

 

狐面の奥から甘い声が響く。

 

「だって――」

 

次の瞬間。

ワカモの瞳が獲物を見定めるように細められた。

 

「アナタ、弱いですもの♡」

 

「ん!!」

 

シロコが引き金を引く。

狐と狼の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

~~~~~~~~~~

 

コンビニ行く感覚で銀行を襲っていた連中を片付けた頃には、ようやくヴァルキューレの生徒達が到着していた。

 

何人かは顔見知りだったので、今回の騒動について話を聞く。

返ってきた情報に思わず顔をしかめた。

 

この騒動の首謀者は【厄災の狐】こと狐坂ワカモ。

……またとんでもないビッグネームが出てきたもんである。

通信障害もワカモの仕業らしい。

 

ただ幸いなことにヴァルキューレの専用回線は生きているらしく、現在応援部隊を要請中。

もうじき到着するとの事。

 

やはり銀行内にシロコの姿はなかった。

騒ぎに巻き込まれ、人混みに流された可能性もある。

 

いや……あいつの性格を考えると、その可能性は低い。

この状況なら恐らく――。

 

「騒ぎの中心へ向かったか」

 

幸い、目印には困らない。

遠くには今なお黒煙が上がり続けている。

 

「悪いけど後、任せる」

 

顔見知りのヴァルキューレ生へそう告げると、俺は再び走り出した。

目指す先は騒動の中心。

 

~~~~~~~~~~

 

銃声が響く。

 

シロコはビルの屋上を駆けながら次々と射撃を行う。

狙いは正確、判断も悪くない。

死角を取られれば即座に位置を変え、ドローンによる索敵も併用している。

並の生徒が相手なら、とっくに決着が付いていただろう。

 

だが。

 

「ふふっ♪」

 

ワカモは楽しそうに笑う。

その身のこなしは異常だった。

 

銃弾を紙一重で回避し。

時には壁を蹴り、時には物陰へ飛び込み。

 

まるで未来でも見えているかのように攻撃を躱していく。

 

「素晴らしいですわ」

 

ワカモは拍手でもするような軽い口調で言った。

 

「その歳でここまで動ける生徒はそうそうおりません。飼い主さんの教育()の賜物でしょうか?」

 

「ん……」

 

「ですが」

 

その瞬間だった。

シロコの視界からワカモが消える。

まずい。

そう思った時には遅かった。

 

――ダァン!!

 

凄まじい衝撃。

ワカモの一撃がシロコを吹き飛ばした。

 

「かはっ……!」

 

地面を転がる。

立ち上がろうとするが身体が言うことを聞かない。

 

「ふふっ」

 

ワカモはゆっくりと歩み寄る。

 

「思った以上に楽しませていただきました。本当に可愛らしい子犬ちゃんでしたわ」

 

シロコは歯を食いしばり、それでも立とうとする。

だが、身体は既に限界だった。

 

視界が揺れ、膝が崩れる。

そしてシロコはその場に倒れ伏した。

 

「さて」

 

ワカモは楽しそうに微笑む。

 

「存外楽しめましたし、そろそろ失礼するとしましょうか♪」

 

そう言って踵を返そうとした、その瞬間だった。

不意に悪寒が走る。

 

「っ!」

 

反射的に飛び退く。

直後。

 

――ゴォッ!!

 

灼熱の奔流がワカモの目前を掠めた。

轟音と共に屋上の床が赤熱する。

コンクリートが溶け、黒い焦げ跡が一直線に刻まれた。

 

「……あら?」

 

ワカモは目を瞬かせる。

威力そのものは脅威だが先程の攻撃は明らかに狙いが甘い。

 

いや、違う。

外したのではなく、最初から当てるつもりが無かった。

 

「これはこれは」

 

ワカモは熱線が飛んできた方向へ顔を向ける。

 

「随分と手荒い呼び止め方ですこと」

 

「後輩が世話になったのに礼もせず帰すのは失礼だからな」

 

そう言いながら、俺はワカモから視線を外すことなくシロコの傍へ歩み寄る。

 

まずは安否確認。

呼吸を確認し、目立った外傷も無し。

どうやら単に気を失っているだけらしい。

 

まったくこのじゃじゃ馬娘は。

無茶をするなとは言わない。

俺だって人のことは言えない、が相手を選べ。

 

よりにもよって厄災の狐に単独で喧嘩を売る奴があるか。

目を覚ましたら説教決定である。

 

もっとも、今回に限って言えば、監督不行き届きなのは俺も同じだ。

ホシノ(アビドスのボス)からの折檻は不可避だろう。

 

シロコを庇うように前へ出る。

 

「今度は俺が相手になるよ」

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