漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ 作:場取らず
賞金稼ぎに他自治区へ。
今回はシロコも同行。
実戦経験を積ませる目的もあるのだが、その成長速度には目を見張るものがある。
索敵、追跡、射撃に判断力も向上しており、以前のような危うさはほとんど見られない。
流石に俺やホシノほどではないが、それでも同年代の生徒の中では上位に位置するのではなかろうか。
もっとも
記憶を失い行き倒れていたシロコを見つけたのはホシノだ。
面倒を見てきた期間も俺より長い。
親代わりのような感覚なのだろう。
まぁ時々アビドスを襲撃してくる不良集団――その中には俺へのリベンジ目的の連中も含まれるのだが――を共に撃退していることもあり、シロコの実力自体は認めている。
シロコの成長度合いを考えればそう時間はかかるまい。
相手を選ぶ必要はあるが、来年には単独で賞金稼ぎを任せても問題ないだろう。
予想以上に後輩が優秀だったおかげで、仕事は予定より早く片付いた。
折角の休日だ。
このまま帰るのも少々勿体ない。
街には大型のスポーツ用品店があるらしく、シロコはサイクリング用品、俺は新しいランニングシューズを見たいとのことで、そのまま二人で向かうことにした。
シロコは最近、自転車に随分と熱を入れている。
ミレニアムのスミレとはサイクリング仲間になった様で、時折休日に一緒に走っているそうだ。
ノノミとも筋トレ仲間らしく、聞く限りでは寝ても覚めてもトレーニングの話ばかりしているらしい。
そんな話をしながら歩いていると、途中でシロコが足を止めた。
視線の先には銀行。
「ん、ちょっと銀行を見てくる。すぐ終わるから先に行っていて」
「おう、んじゃ後でな」
シロコは銀行へ向かって歩き出した。
(…銀行を見てくる?預金残高でも確認しに行ったのか?)
少々引っ掛かりつつも、深く考えるほどのことでもない。
俺は一足先にスポーツ用品店へ向かうことにした。
スポーツ用品店へ到着した俺は、早速ランニングシューズ売り場へ向かう。
流石は大型店というべきか。
品揃えはかなり豊富だ。
機能性重視のものから競技用まで幅広く取り揃えられている。
「さて、どれにするか……」
折角なら長く使えるものを選びたい。
そんなことを考えながら商品を見ていると、不意に外が騒がしいことに気付いた。
最初は気のせいかと思った。
休日の市街地、多少賑やかなのは珍しくない。
だが、何やら様子がおかしい。
店の外から聞こえてくる声は、楽しげなものではなくどこか切迫している。
店内の客達も徐々に落ち着きを失い始めていた。
「あれ、何かあった?」
「事故か?」
「いや、あっち見ろ」
何人かが窓際へ集まり始める。
店員達も困惑した様子で外へ視線を向けていた。
ざわざわとした不安の波が店内へ広がっていく。
そして――。
遠くから聞こえてきた爆発音が、その空気を一変させた。
――――ドォォォンッ!!
腹の底まで響くような轟音。
店のガラスがびりびりと震え、陳列棚の商品が僅かに揺れた。
「うわっ!?」
「なっ……!?今の何!?」
店内の客達が悲鳴を上げる。
俺も思わず顔をしかめた。
爆発自体は珍しくない、ここはキヴォトスだ。
爆弾も銃撃戦も日常の範疇である。
が、今のは流石に規模が違う。
音だけでこれだ。
発生地点は相当離れているはず。
にもかかわらず、この衝撃。
少なくともチンピラや不良集団の喧嘩で起きる騒ぎではない。
俺はすぐにスマホを取り出し、シロコへ連絡を入れる。
だが。
「……繋がらない?」
何度試しても結果は変わらない。
電波状況が悪いのかと思ったが、どうやら俺だけではないらしい。
「えっ!?なんで!?」
「全然繋がらないんだけど!」
「モモトークも見れない…」
周囲の客達も次々とスマホを取り出していた。
家族や友人へ連絡を取ろうとしているのだろう。
しかし反応を見る限り、誰一人として成功していない。
店員達も同様だった。
「通信障害……?」
誰かが不安そうに呟く。
(さっきの爆発で電波の基地局でもやられたか?)
可能性はあるが、偶然にしては出来過ぎている気がした。
嫌な予感がする。
(とにかくまずはシロコと合流しないと)
俺は困惑している客や店員の間を抜け、店の出口へ向かう。
そしてそのまま店を飛び出し、シロコと別れた銀行の方へと走った。
通りへ出た瞬間、その足が止まりそうになる。
「なっ……」
人、人、人。
爆発があった方向から逃げてきたのだろう。
大勢の人々が通りを埋め尽くさんばかりに溢れていた。
悲鳴、怒号、泣き声。
様々な音が入り混じり、辺りは完全な混乱状態となっている。
人の流れは一方通行だ。
誰もが爆発の起きた方向とは反対へ向かっている。
当然、その流れに逆らう俺はまともに進めない。
そしてようやく、シロコと別れた銀行の建物が見える位置まで辿り着いた。
「……あれは」
銀行の前に武装した集団がいた。
一見すると、こいつらが今回の騒ぎの元凶にも見える。
だが。
「違うな」
すぐに否定する。
どうも様子がおかしい。
爆発の中心地には見えないし、建物の損傷も限定的だ。
何より周囲の連中の動きが場当たり的過ぎる。
統率も何もない。
視線を遠くへ向ける。
黒煙はここよりさらに向こうに見える。
騒ぎの中心は恐らくそちらだろう。
「便乗して火事場泥棒かよ…」
思わず舌打ちする。
どうやらどこかで起きた大事件に乗じて銀行強盗を始めたらしい。
実にキヴォトスしてやがる。
ただ今はそれよりも…。
「シロコ……」
可能性は低いがゼロとは言い切れない。
銀行へ向かった以上、まだ建物内にいるかもしれない。
「糞っ!」
思わず悪態が漏れる。
この程度の連中なら、本来なら炎で一網打尽に出来る。
数秒も掛からないが、今はマズい。
周囲は依然として避難する一般人で溢れている。
ここで術式を使えば、混乱はさらに拡大するだろう。
最悪、将棋倒しでも起きれば被害は強盗以上だ。
ならやることは一つ。
「仕方ないか」
正面から突っ込んで、一人ずつ叩きのめす。
俺は人混みを抜け、銀行へ向かって駆け出した。
~~~~~~~~~~
「ふふっ……」
高層ビルの屋上。
街を見下ろしながら、狐面の少女は楽しそうに笑った。
眼下では混乱が広がっている。
人々が逃げ回り、警報が鳴り響く。
各所から立ち昇る黒煙。
実に素晴らしい光景だった。
「良いですねぇ……」
狐坂ワカモは目を細める。
今回は少しばかり派手にやってみた。
各所へ仕掛けた爆薬を起爆。
混乱に乗じて暴れ始めた不良達を煽り立て。
ついでに以前どこからか頂戴した通信妨害装置まで投入してみた。
結果は上々。
「ふふふ……」
通信網は麻痺し、避難誘導は混乱。
不良達は好き勝手に暴れ回る。
想像以上の成果だった。
「やはり準備というものは大切ですね」
ご機嫌な様子で呟く。
もう少し騒ぎを大きくしても良いかもしれない。
そう考えた、その時だった。
不意に背筋へ微かな違和感が走る。
ワカモは反射的に頭を傾けた。
――パァンッ!!
直後。
つい先程まで頭のあった場所を銃弾が通り過ぎる。
「……あら?」
驚いたように目を瞬かせる。
ゆっくりと振り返るとそこには、ライフルを構えた銀髪の少女が立っていた。
「ん、残念。勘がいい」
「あらあら、これはこれは可愛らしい子犬ちゃん」
ワカモは楽しそうに笑う。
「撃たれる直前まで気付けなかったとは、私としたことが少々浮かれ過ぎていましたか」
「ん、矜持が傷ついた?」
シロコは表情一つ変えずに問い掛ける。
ワカモは一瞬きょとんとした後、くすりと笑った。
「いえいえ、これはこれで楽しくなってまいりました♪」
「楽しくなってきた?ん、危機感の欠如」
シロコはライフルを構え直す。
「そのお面の下のニヤケ面、吹っ飛ばしてあげる」
「ふふっ……」
ワカモは肩を震わせる。
どうやら本当に楽しんでいるらしい。
「それは流石に高望みですわよ?」
狐面の奥から甘い声が響く。
「だって――」
次の瞬間。
ワカモの瞳が獲物を見定めるように細められた。
「アナタ、弱いですもの♡」
「ん!!」
シロコが引き金を引く。
狐と狼の戦いの火蓋が切って落とされた。
~~~~~~~~~~
コンビニ行く感覚で銀行を襲っていた連中を片付けた頃には、ようやくヴァルキューレの生徒達が到着していた。
何人かは顔見知りだったので、今回の騒動について話を聞く。
返ってきた情報に思わず顔をしかめた。
この騒動の首謀者は【厄災の狐】こと狐坂ワカモ。
……またとんでもないビッグネームが出てきたもんである。
通信障害もワカモの仕業らしい。
ただ幸いなことにヴァルキューレの専用回線は生きているらしく、現在応援部隊を要請中。
もうじき到着するとの事。
やはり銀行内にシロコの姿はなかった。
騒ぎに巻き込まれ、人混みに流された可能性もある。
いや……あいつの性格を考えると、その可能性は低い。
この状況なら恐らく――。
「騒ぎの中心へ向かったか」
幸い、目印には困らない。
遠くには今なお黒煙が上がり続けている。
「悪いけど後、任せる」
顔見知りのヴァルキューレ生へそう告げると、俺は再び走り出した。
目指す先は騒動の中心。
~~~~~~~~~~
銃声が響く。
シロコはビルの屋上を駆けながら次々と射撃を行う。
狙いは正確、判断も悪くない。
死角を取られれば即座に位置を変え、ドローンによる索敵も併用している。
並の生徒が相手なら、とっくに決着が付いていただろう。
だが。
「ふふっ♪」
ワカモは楽しそうに笑う。
その身のこなしは異常だった。
銃弾を紙一重で回避し。
時には壁を蹴り、時には物陰へ飛び込み。
まるで未来でも見えているかのように攻撃を躱していく。
「素晴らしいですわ」
ワカモは拍手でもするような軽い口調で言った。
「その歳でここまで動ける生徒はそうそうおりません。飼い主さんの
「ん……」
「ですが」
その瞬間だった。
シロコの視界からワカモが消える。
まずい。
そう思った時には遅かった。
――ダァン!!
凄まじい衝撃。
ワカモの一撃がシロコを吹き飛ばした。
「かはっ……!」
地面を転がる。
立ち上がろうとするが身体が言うことを聞かない。
「ふふっ」
ワカモはゆっくりと歩み寄る。
「思った以上に楽しませていただきました。本当に可愛らしい子犬ちゃんでしたわ」
シロコは歯を食いしばり、それでも立とうとする。
だが、身体は既に限界だった。
視界が揺れ、膝が崩れる。
そしてシロコはその場に倒れ伏した。
「さて」
ワカモは楽しそうに微笑む。
「存外楽しめましたし、そろそろ失礼するとしましょうか♪」
そう言って踵を返そうとした、その瞬間だった。
不意に悪寒が走る。
「っ!」
反射的に飛び退く。
直後。
――ゴォッ!!
灼熱の奔流がワカモの目前を掠めた。
轟音と共に屋上の床が赤熱する。
コンクリートが溶け、黒い焦げ跡が一直線に刻まれた。
「……あら?」
ワカモは目を瞬かせる。
威力そのものは脅威だが先程の攻撃は明らかに狙いが甘い。
いや、違う。
外したのではなく、最初から当てるつもりが無かった。
「これはこれは」
ワカモは熱線が飛んできた方向へ顔を向ける。
「随分と手荒い呼び止め方ですこと」
「後輩が世話になったのに礼もせず帰すのは失礼だからな」
そう言いながら、俺はワカモから視線を外すことなくシロコの傍へ歩み寄る。
まずは安否確認。
呼吸を確認し、目立った外傷も無し。
どうやら単に気を失っているだけらしい。
まったくこのじゃじゃ馬娘は。
無茶をするなとは言わない。
俺だって人のことは言えない、が相手を選べ。
よりにもよって厄災の狐に単独で喧嘩を売る奴があるか。
目を覚ましたら説教決定である。
もっとも、今回に限って言えば、監督不行き届きなのは俺も同じだ。
シロコを庇うように前へ出る。
「今度は俺が相手になるよ」