漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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20話

――――D.U.外郭地区

 

「こりゃまた……」

 

思わずそんな言葉が漏れた。

道路脇では横転した車両が黒煙を上げ、割れた硝子の破片が辺りに散乱している。

カンナが言った通り住民は避難済みなのが不幸中の幸いか。

そして――

 

「ヒャハハハハ!!」

 

「燃やせ燃やせぇ!!」

 

「ぶっ壊せ!!」

 

なーにが楽しいのか、不良どもが好き勝手に暴れ回っている。

手には違法改造された銃器。

中には軍用装備と思しき武器まで混じっていた。

 

「郊外とはいえキヴォトスの中心都市の姿か?これが……」

 

キヴォトスの治安が悪いのは今に始まった話じゃないが、これは流石に度が過ぎていた。

送ってくれた車両が遠ざかっていくのを見送り――俺は改めて目の前の光景へ視線を向けた。

 

「さて、やりますか」

 

そう呟きながら、一歩前へ踏み出した。

 

まずは手近な連中へ向けて腕を振る。

次の瞬間、放たれた炎が不良たちを飲み込み、まとめて吹き飛ばした。

 

「ぎゃあああっ!?」

 

「うわぁぁぁっ!?」

 

加減はしているから当然命に別状はない。

だが十分過ぎるほどの威力だった。

 

そして、その光景を見た一人の不良が顔を真っ青にして叫ぶ。

 

「え、炎帝だ!!」

 

その一言で周囲がざわついた。

 

「なっ!?」

 

「炎帝!?」

 

「なんでこんな所にいるんだよ!?」

 

慌てて逃げ出そうとする者まで現れる。

だが、その時だった。

 

「落ち着け!!」

 

一際声の大きい不良が前へ出る。

 

「こんだけ人数がいて武器まであるんだぞ!いくら炎帝だろうが敵うもんか!!返り討ちにしてやれ!!」

 

その言葉に周囲の不良たちが顔を見合わせる。

 

「そ、そうだよな!」

 

「こっちは何十人もいるんだ!」

 

「他の連中も呼べ!!」

 

「炎帝がなんぼのもんだ!!」

 

さっきまで逃げ腰だった連中まで調子付き始める。

典型的な群集心理だ。

 

「うん、そうなると思った」

 

俺としては予想通りだが。

 

「どうだ! 炎帝!!調子に乗ってられるのも今日で最後――」

 

先程啖呵を切った不良が得意げに叫びながらセリフを言い終わる前だった。

 

ドンッ!!

 

足元で爆炎が弾ける。

噴射された炎による急加速。

一瞬で距離を詰めた俺は、その勢いを乗せたまま蹴りを叩き込んだ。

 

「ごばぁっ!?」

 

不良の身体がくの字に折れ曲がり、そのまま後方へ吹き飛んでいく。

何人かを巻き込みながら地面を転がり、最後は街路樹へ突っ込んで止まった。

 

静まり返る周囲。

 

俺は吹き飛んでいった不良へ視線を向けながら首を傾げる。

 

「……前に出て集団率いるのかと思ったら、何後ろに隠れようとしてんだよ……」

 

思わず呆れた声が漏れる。

さっきまで威勢よく叫んでいたくせに、俺が動いた瞬間には真っ先に後ろへ下がろうとしていたのだ。

 

「リーダー気取りなら最後まで前に立てよ」

 

その言葉に周囲の不良達も思うところがあったのか、気まずそうに目を逸らした。

 

――隙だらけだ。

 

俺は躊躇なく腕を振る。

放たれた炎が弧を描き、不良たちをまとめて薙ぎ払った。

 

「ぎゃあああぁぁっ!?」

 

「熱っ!? 熱っ!!」

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

次々と吹き飛ばされる不良たち。

 

「てめぇ! あの雰囲気で問答無用で攻撃するか!?空気読め!!」

 

「読んだから攻撃してんだよ」

 

言いながら更に炎を放つ。

爆炎が炸裂し、また数人まとめて吹き飛んだ。

 

「ぎゃあああっ!?」

 

「無理無理無理!!」

 

「やっぱ逃げるぞ!!」

 

「ふざけんな!! 囲め囲め!!」

 

逃げ出そうとする者。

まだ立ち向かおうとする者。

指示を飛ばす者。

それを無視する者。

 

統率も何もあったものじゃない。

いい感じに混乱してきた。

 

「よしよし」

 

このまま瓦解してくれれば手間が省ける。

 

住民は既に避難済み。

建物の損壊も気にしなくていいとカンナから許可を貰っている。

なら遠慮する理由はない。

 

何より、ワカモといつエンカウントするかわからない。

あいつ相手に戦うなら、不良集団なんて不確定要素は先に排除しておきたい。

乱戦時のあいつの厄介さは前回で身に染みている。

 

なので今のうちに片付ける。

俺は次の集団へ視線を向けた。

 

 

 

―――先生 side―――

 

立ちはだかる不良たちを皆の力で無力化し、シャーレの部室まであと少しというところまで辿り着いた。

 

「騒動の中心人物を発見! 対処します!」

 

ハスミの声と共に、一人の少女がゆっくりと姿を現す。

 

狐の面。

和服を思わせる制服。

 

「フフ……連邦生徒会の子犬たちが現れましたか。では――」

 

少女は言いかけて、不意に言葉を止めた。

 

「あら?」

 

その視線が私たちではなく、通りの向こうへ向けられる。

次の瞬間――。

 

ドゴォォォォン!!

 

爆発音が響き渡った。

続けて、悲鳴。

 

「ぎゃあああぁぁっ!!」

 

「ひぃぃぃっ!!」

 

何人もの不良たちがこちらへ向かって吹き飛んでくる。

地面を転がり、壁へ激突し、次々と動かなくなっていく。

 

「ちょ!? 今度は何よ!」

 

「炎? まさか……」

 

「ハスミさん、これは……」

 

「ええ、彼でしょうね」

 

その場の全員の視線が爆発のあった方へ集まる。

土煙の向こうから、一人の人影がゆっくりと歩いてくる。

 

バンダナを巻いた頭から覗く黒髪。

日に焼けたような褐色の肌。

長身で鍛え上げられた精悍な体つきの――

 

”……男の子?”

 

思わずそんな言葉が漏れる。

 

キヴォトスでは珍しい男子生徒。

それに、ヘイローも持っていない。

 

その青年はゆっくりと歩みを止め、ワカモへ視線を向けた。

 

「……よぉ、久しぶりだな。……できれば会いたくなかったけど」

 

青年は小さく肩を竦める。

 

「あら、つれないですわね」

 

ワカモはくすりと笑う。

 

「ですが、この場でお会いしたくなかったという点では、私も同意いたします」

 

そう言うと、踵を返し――。

 

「私はここまで。後は任せます」

 

その言葉を残し、迷いなく駆け出す。

 

「待て、ワカモ!」

 

青年が追おうとした、その瞬間だった。

 

ゴゴゴゴゴゴ……

 

地響きと共に、一両の巡行戦車が通りへ姿を現した。

 

巡行戦車の陰にいた不良が高笑いする。

 

「ハハハハッ! 何が炎帝だ! 戦車相手に何ができ――」

 

「邪魔だ」

 

青年は短くそう呟くと、片手を軽く前へ突き出した。

 

次の瞬間、炎で形作られた紙飛行機のようなものが幾つも生み出される。

それらは生き物のように宙を舞い、真っ直ぐ巡行戦車へ向かって飛んでいった。

 

ドドドドドッ!!

 

次々と爆発が起こる。

 

炎の紙飛行機は狙い澄ましたように戦車へ突き刺さり、その度に砲塔や機銃が次々と吹き飛んでいく。

 

さらに青年が視線を落とした、その直後。

巡行戦車の真下から炎が噴き上がった。

 

ゴォォォッ!!

 

爆発と共にキャタピラが吹き飛び、巡行戦車はその場で完全に動きを止めた。

 

”……え?”

 

あまりに一方的な光景に、思わず言葉を失う。

何が起きたのか理解する頃には、戦闘は終わっていた。

 

青年は狐面の少女がいた方へ視線を向ける。

だが、そこにはもう誰もいない。

あの一瞬のうちに、姿をくらませてしまったようだ。

 

不服そうな顔をした後、青年は今度はこちらへ視線を向ける。

その表情が、ほんの少しだけ驚きに代わる。

何やら少し悩むそぶりをした後。

 

「あー……こんにちは?」

 

どこか気の抜けた挨拶だった。

 

――――――――――――

 

好き勝手暴れ回る不良どもを虱潰しに蹴散らしながら、連邦生徒会所有と思しき建物へ向かう。

 

ドゴォォォォン!!

 

今日何度目か数えるのも馬鹿らしくなるくらい不良どもを吹き飛ばした、その時だった。

 

(うげっ……)

 

思わず顔をしかめる。

見間違えるはずもない、ワカモだ。

 

姿を隠しているなら隠しているで奇襲を警戒しなければならないが、真正面から鉢合わせしたらしたで嬉しい相手でもない。

 

ワカモの正面には数人の集団。

雰囲気からして不良ではないが、かといって連邦生徒会という感じでもなかった。

 

(……何だ?あの集まり)

 

気にはなったが今はワカモが優先だ。

そう判断した矢先、地響きと共に一両の巡行戦車が姿を現す。

 

「邪魔だ」

 

火礫蟲を放ち、砲塔と車載機銃を次々と破壊する。

続けて戦車の足元へ小型火山を発生させると、爆発と共にキャタピラが吹き飛んだ。

巡行戦車はその場で完全に沈黙する。

 

(ワカモは……逃げたか)

 

相変わらず足が速い。

追うべきか一瞬迷う。

 

だが、さっきの集団も気になった。

改めて視線を向ける。

 

(ホント……どういう集まりだ?)

 

まず目に入ったのはミレニアムのジャケットを着た娘。

見覚えはない。

 

その隣に立つトリニティの制服姿の二人。

羽川ハスミと守月スズミ。

何度か賞金稼ぎの仕事で顔を合わせたことがある。

 

少し離れた場所には、眼鏡を掛けたゲヘナ風紀委員の少女。

話したことはないが、こちらも見覚えはあった。

そして――。

 

(……え?)

 

思わず目を疑う。

 

(ヘイローが無い……人間の大人!?)

 

キヴォトスに来て三年。

ヘイローを持たない人間なんて、自分以外見たことがない。

獣人でもロボットでもない、普通の大人も初めてだ。

 

黒服?あいつ人間のカテゴリーに含まれるのか?

 

一つだけ、あの人の正体に心当たりがあった。

ヘイローを持たない大人。

思い当たる人物は一人しかいない。

 

(とにかく、接触を……)

 

そう思って一歩踏み出そうとし――止まる。

知り合いと初対面の人が混ざっている状況で、最初に何と言えばいいんだ?

 

数秒悩んだ末、とりあえず無難そうな言葉を選んだ。

 

「あー……こんにちは?」

 

……我ながら、もう少しマシな第一声はなかったのかと思う。

 

”え?あ、うん。こんにちは”

 

きちんと返事を返してくれた。

多分、良い人だ。

 

「何呑気に挨拶してるんですか……」

 

ミレニアムのジャケットを着た娘から呆れたような声が飛んでくる。

 

「先生、こちらは倉戸ケンジさん。アビドス高校三年生で『炎帝』の異名を持ち、賞金稼ぎをしている方です」

 

ハスミが俺の紹介をしてくれる。

 

「トリニティでもその名は知られていて、私たちも何度か共闘したことがあります。実力は折り紙付きですよ」

 

スズミも続ける。

 

「こうして直接お話しするのは初めてですね。ゲヘナ風紀委員会所属、火宮チナツです」

 

眼鏡の娘――チナツさんが一歩前に出て軽く会釈する。

 

「えっ……あっ、ミ、ミレニアムサイエンススクール、セミナー所属の早瀬ユウカです。お会いするのは初めてですが、お話はいろいろ伺っています」

 

さっきまで勢いよくツッコミを入れていたのとは対照的に、ユウカさんはどこかぎこちなく自己紹介をした。

 

「ああ、どうも。アビドス高校の倉戸ケンジです」

 

今度はちゃんとした自己紹介ができた。

 

”うん、改めてこんにちは。シャーレの先生です。よろしくね”

 

……やっぱりそうか。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。先生」

 

そう返しながら、俺は小さく頭を下げた。

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

先生たちと合流し、改めてシャーレの部室へ向かう。

 

……まぁ、そこへ辿り着くまでに特に問題は起こらなかった。

というのも、戦車を一瞬で無力化されたことで、残っていた不良たちの戦意は完全に砕け散ったらしい。

 

「に、逃げろぉぉぉっ!!」

 

「あんなバケモン相手にしてられるか!!」

 

「覚えてろよぉぉぉ!!」

 

蜘蛛の子を散らすように、不良たちは我先にと逃げ出していく。

 

俺たちはそのまま連邦生徒会所有の建物――シャーレの部室へ到着する。

先生は中へ入っていき、俺たちは外で待機することになった。

 

「そういえば」

 

ふと気になっていたことを口にする。

 

「ずいぶん珍しい組み合わせだが、なんでこのメンバーなんだ?」

 

トリニティにゲヘナ、それにミレニアム。

キヴォトス三大学園が揃い踏みである。

 

「ここ最近のキヴォトス全域での治安悪化について、連邦生徒会長へ直接お話を伺うためです」

 

ハスミが静かに答える。

 

「全員たまたま同じタイミングで居合わせたんですけど、七神首席行政官にシャーレ奪還を押し付け……いえ、依頼されたんです」

 

ユウカさんが少し不満そうに肩を竦める。

 

成程、事情は理解した。

つまり、ここにいる全員が偶然集まった即席部隊というわけだ。

 

「質問続きで申し訳ないが、シャーレってのは何なんだ?」

 

俺が尋ねると、再びハスミが答えた。

 

「シャーレとは、連邦生徒会長が失踪前に新設した捜査機関です。正式名称は【連邦捜査部S.C.H.A.L.E】。学園や自治区の垣根を越えて活動できる権限を持ち、生徒も所属学園に関係なく受け入れる組織との事です」

 

「先生はその顧問として連邦生徒会長に呼ばれたそうです」

 

チナツさんが補足する。

 

(顧問、か……)

 

先生とは言うが、学校の教員というわけではないらしい。

まぁ、医者や弁護士、政治家、それに用心棒なんかも「先生」と呼ばれることはある。

 

そもそもBDでの自己学習が主流のキヴォトスで、学校の教師が何を教えるんだという話だ。

強いて言うなら、倫理観とか順法意識とか、その辺りだろうか。

……この世界だと一番必要な授業では?

 

そんなことを考えていると、一台の車両がシャーレの前へ停車した。

 

「お待たせしました」

 

降りてきたのは七神首席行政官だった。

俺たちに軽く会釈すると、そのまま足早にシャーレの中へ入っていった。

 

それから暫くして、先生と七神主席行政官が戻ってくる。

無事サンクトゥムタワーの制御権を取り戻せたようだ。

 

その報告を受けるや否や、ハスミやユウカさん達がそれぞれの学園に報告を入れる。

アビドス(うち)?そもそも大した影響ありませんでしたが?

……まぁ、帰ってから話せばいいか。

 

"みんな、お疲れ様"

 

先生が俺たちを労うように声を掛けてくれる。

その一言に、それぞれが安堵したような表情を浮かべた。

 

ハスミたちは先生へ挨拶を済ませると、それぞれの自治区へ戻るため、その場を後にしていく。

 

「先生もお疲れ様です」

 

そう言って軽く頭を下げる。

 

キヴォトス着任初日で、いきなりテロリスト相手に戦い、占拠された施設を奪還し、サンクトゥムタワーの制御権まで取り戻す羽目になる。

……ホント、お疲れ様である。

 

「アビドスにも機会があったら是非来てよ。…不便な所だけど。けど、ホシノ(ロリッ娘)シロコ(クールビューティ)*1ノノミ(ゆるふわお嬢様)セリカ(ツンデレ)アヤネ(メガネっ娘)と可愛い娘揃ってるよ!」

 

"うん、ケンジだけ他の子と比べて、誘い方おかしくない?"

 

「そうですか?」

 

首を傾げる。

だってアピールポイント他に柴関ラーメン位しかないし。

ユメ先輩(天然お姉さん)は卒業してD.U.だし。

 

"いや、そういう問題じゃないと思うけど……"

 

先生は苦笑しながらそう返した。

 

「まぁ、とにかく機会があったら是非」

 

そう言って軽く手を振る。

 

"うん、その時はよろしくね"

 

先生へ別れを告げ、俺もアビドスへの帰路に就いた。

 

(……すっかり忘れてたけど、原作開始か。アビドスにはどう関わるんだろ?)

 

思い付くのは借金問題くらいだ。

まぁ、今回みたいな物騒な事件になることはないだろう。

そんなことを考えながら、俺はD.U.を後にした。

 

――この時の俺は、まだ知らなかった。

その考えが、砂糖よりも甘い見通しだったことを。

 

そして、アビドスを待ち受ける現実が、想像していた何倍も深刻で、何倍も大きな事件であることを知る日は、もうすぐそこまで迫っていた。

*1
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