漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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22話

突然だが、アビドス対策委員会の基本戦術について解説しよう。

 

まずは俺が炎でドーン。

続いてホシノが突撃してドーン。

最後に後輩たちが残党へドーン。

……以上。

 

これがアビドス対策委員会の戦術ドクトリンである。

『攻撃は最大の防御』、『ガンガンいこうぜ』この二つを地で行くのがアビドス流だ。

 

……なぜ急にこんな話を始めたのかというと──

 

『カタカタヘルメット団の退却を確認! 並びにアジト、補給所、弾薬庫の破壊も確認しました!』

 

反攻作戦で、カタカタヘルメット団の前哨基地を最高速度でぶち抜いたからである。

 

連中にとっては、守るだけだったアビドス側からのまさかの逆襲。

そこへ先生の的確な指揮も加わり、敵はろくな反撃もできないまま各個撃破。

気付けば前哨基地は壊滅していた。

 

風林火山で言うなら、「風」と「火」は完璧だったと思う。

 

林と山?

忘れたのか?アビドスは砂漠地帯だ。

 

何はともあれ、カタカタヘルメット団による襲撃は一息つけたと思っていいだろう。

まだ相当数の構成員は残っているようだが、前哨基地に補給所、弾薬庫までまとめて潰された以上、しばらくは大人しくなる……はずだ。

 

……まぁ、今はそれよりも――

 

 

 

――――前哨基地襲撃、翌日

 

「おはようございます」

 

「おはよ、ケンジ。久々の自宅のベッドでの寝心地はどうだった?」

 

「ベッドも良かったけど、それ以上に湯船に浸かれたのがでかかったな」

 

昨日、ヘルメット団の前哨基地を制圧して学校へ戻った後。

ひょんなことからアビドスの借金を知った先生へ、俺たちは改めてこの自治区の現状を説明した。

 

数十年前から始まった砂漠化。

それを食い止めるため、多額の借金をして対策を講じるも成果は上がらず、将来に希望を見いだせなくなった生徒たちのほとんどが転校・退学。

そうして学校だけでなく、自治区全体がゆっくりと衰退していったこと。

 

当然ながら、先生はその話に驚いていた。

……もっとも、一番大きな反応を見せたのは先生ではなく。

 

「今さら部外者なんかに頼れるわけないでしょ!」

 

借金返済への協力を申し出てくれた先生に対し、案の定、反骨心の強いセリカが反発した。

 

……まぁ、気持ちは分からんでもない。

これまで自治区の大人たちですら、この問題には見向きもしなかったのだ。

そんな状況で、昨日今日会ったばかりの外部の人間を簡単に信用しろという方が無理な話だろう。

 

「今日は自由登校日だけど、セリカは……」

 

「うーん、多分登校しないんじゃないかな。アルバイトに行くんだと思うよ」

 

「だろうな」

 

憎まれ口こそ叩くが、学校のためにと様々なアルバイトを掛け持ちしている努力家だ。

本人は照れ隠しなのか、絶対に認めようとはしないが、あいつなりにアビドスのことを考えている。

 

「先生が来たらセリカちゃんのバイト先に行ってみようか。柴関ラーメンみたいだから、お昼も兼ねて」

 

「お、二人の仲を取り持つってわけか」

 

「まぁね。ヘルメット団の撃退にも協力してくれたし、借金のことまで手伝ってくれるって言うんだもん。いきなり全部を信用するのは難しくても、少しずつ知っていけばいいでしょ?」

 

(……大分マシにはなったけど、まだまだ警戒は継続中ってところか)

 

まぁ、セリカにしてもホシノにしても、ここは時間をかけるしかない。

下手に俺が間へ入って余計に拗らせるより、その辺はホシノに任せた方がいいだろう。

 

「んじゃ、そっちは生徒会長様にお任せしますかね」

 

「あれ?ケンジは行かないの?」

 

「補佐が頑張ってるんだ。会計がサボるわけにもいかんだろ」

 

そう言って取り出したのは、以前ヴェリタスに作ってもらった賞金首通知アプリ。

ヘルメット団の襲撃対応でしばらく賞金稼ぎを休んでいたせいか、未確認の情報がずいぶんと溜まっていた。

 

「柴関ラーメンは仕事終わりのお楽しみだな。車は…大丈夫だとは思うが、念の為学校に置いておくか…」

 

オペレーターのアヤネが運転することも増えたしな。

車だって、野郎より美少女眼鏡っ娘に運転してもらった方が本望だろう。

 

「うへぇ……いつもすまないねぇ。学校が借金まみれなばっかりに……」

 

「それは言わない約束でしょ。おとっつぁん」

 

「……振っといてなんだけど、私、おとっつぁんなの?」

 

「一人称おじさん使っといて、そこ気にするのか…」

 

……まぁ、キヴォトス(こっち)だとおかっつぁんになるのか?

知らんけど。

 

その後、溜まっていた賞金首の依頼を何件か片付け、報酬を受け取る頃には、空はすっかり夕焼けに染まっていた。

 

予定通り、今日の締めは久々の柴関ラーメンだ。

 

 

 

――――夜・柴関ラーメン

 

「いらっしゃいませー!……って、今度はケンジ先輩!?」

 

「よう、お疲れさん」

 

「全く……皆して来なくてもいいじゃない…」

 

「大将、久々。可愛い子雇ったね」

 

昼間、先生たちに散々いじられたらしく、セリカが抗議してくる。

そんなセリカはさておき、俺はカウンターの向こうにいる柴大将へ声を掛けた。

 

「よぉ、坊主。なんか大変だったみたいだな。セリカちゃんは働き者で助かってるよ」

 

「~~~っ! ご・ちゅ・う・も・ん・は!?」

 

顔を茹でダコみたいに真っ赤にしたセリカが、注文を催促してくる。

 

「醤油ラーメン大盛り。煮卵付きで」

 

「大将!醤油大!煮卵!!」

 

「あいよ」

 

柴関ラーメンは醤油・塩・味噌の三種類。

どれも絶品なので毎回悩むが、最終的にローテーションを組むことで解決した。

 

外食──特に柴関ラーメンは、自宅では侘びしい食事ばかりの俺にとって数少ない癒しである。

普段の食事?自炊なんざサラダチキンと味噌汁が作れりゃ十分だ。

 

「それで、どうだったの?久しぶりの賞金稼ぎは?」

 

お冷を持ってきたセリカが尋ねる。

 

「大漁だったぞ。……ちょっと活動してなかっただけで死亡説が流れてたらしくてな。久々に会ったヴァルキューレの子には『ご無事だったんですね!信じてました!』って言われるし、一方で賞金首どもには『うわぁ!出たぁ!!』って、完全に化け物扱いされたりしたけど……」

 

「お……お疲れ様……」

 

「そういや昼に先生達来てたんだろ?」

 

「……そうよ。大方ホシノ先輩の悪巧みなんでしょうけど。何と言われようと私はあの先生(ストーカー)を認めな――」

 

「その時のお前が働いてる写真、モモトークで送られてきたんだけどな」

 

「……は?」

 

「『どれが一番のベストショットだと思う?』って聞かれててさ。本人としてはどれが一番なんだ?」

 

「知らないわよ!!」

 

ちなみに撮影者は、それぞれホシノ、シロコ、ノノミである。

 

「醤油大、煮玉子あがったよー」

 

文句を言い返しかけたセリカだったが、大将の声に「はい!」と返事をして、出来上がったラーメンを取りに向かった。

 

「醤油ラーメン大盛り、煮玉子トッピング、お待ちどうさまです」

 

言葉遣いこそ丁寧だが、顔は「文句なら山ほどある」と言いたげに頬を膨らませている。

……うん。

 

パシャリ。

 

「ちょっ、何撮ってるの!?」

 

「俺的ベストショット」

 

抗議するセリカをよそに、『俺のベストショット』の一言を添えて、先ほど撮った写真をモモトークへ送信した。

 

「いただきます」

 

セリカの抗議をBGMに、ラーメンへ箸を伸ばした。

 

***

 

(いやぁ、食った食った)

 

柴関ラーメンを後にし、自宅まで夜道を歩く。

 

もはや柴関ラーメンは、俺にとって故郷の味だ。

しかも看板娘までできた。

今後も通う楽しみが増えたというものである。

……強いて不満を挙げるとすれば、自宅からやたら遠いことか。

 

まぁ、その自宅も地元民(ホシノ達)から、「あそこ、まだ人住んでたんだ……」なんて言われるような場所だから、文句は言えないんだけど。

 

そんなことを考えながら歩いていると、スマートフォンが鳴った。

画面に表示された名前は――ホシノ。

 

『ケンジ?今どこにいる?』

 

いつも通りの、気の抜けた調子。

……を装った声。

 

「……何があった?」

 

一拍置いた後、受話器の向こうから短く返ってきた。

 

『……セリカちゃんが…』

 

 

 

―――黒見セリカ side―――

 

(……痛っ)

 

ズキズキと頭が痛む。

ゆっくりと目を開けると、身体は問題なく動くものの、頭に鈍い痛みが残っていた。

 

柴関ラーメンからの帰り道、カタカタヘルメット団の襲撃を受け、そのまま攫われてしまったようだ。

 

身体を起こそうとして、ここがトラックの荷台であることに気付く。

 

僅かな隙間から見えるのは、どこまでも続く砂漠。

おそらく、アビドス郊外を移動中なのだろう。

 

(これじゃ、もし脱出できてもみんなに連絡が取れない……!)

 

何か打開策はないかと必死に考える。

しかし、焦れば焦るほど何も思い浮かばない。

 

力なく荷台の隅へ座り込んだ。

 

(……みんな、心配してるかな)

 

このまま、私はどうなるんだろう。

砂漠のどこかへ埋められるのだろうか。

そうなったら他の子達みたいに、私もアビドスを去ったことにされるのかな。

 

(……裏切ったって、思われるのかな。誤解されたまま、みんなに会えなくなるなんて……)

 

そんなの、嫌だ。

 

悪い想像ばかりが頭をよぎり、止まらない。

 

「うっ……うぅ……」

 

涙が零れそうになった、その時。

 

ドォォン!!

 

キィィィィッ!!

 

爆発音が響き、続いてブレーキ音。

 

「きゃあっ!?」

 

激しく揺れた荷台で、セリカの身体が壁へ叩き付けられた。

 

「な……何が……?」

 

痛む身体を起こす。

荷台の外で何かがぶつかるような音がしたかと思うと、次の瞬間――

 

バァン!!

 

荷台のドアが乱暴に開け放たれた。

 

「セリカ!無事か!?」

 

飛び込んできたのは、今まで見たこともないくらい焦った表情をしたケンジ先輩だった。

 

――――――――――――

 

ホシノからセリカが攫われたことを聞き、すぐさま先生達と連絡を取り合う。

先生はシャーレの権限でセントラルネットワークへアクセスし、セリカとの通信が途絶える直前の位置を特定してくれており、その場所から一番近くにいた俺が先行して犯人を追跡することになった。

 

呪力で身体能力を限界まで引き上げ、炎の噴射でさらに加速。

砂漠を一直線に駆け抜ける。

 

やがて、遠くに砂煙を巻き上げながら走るトラックを視界に捉えた。

 

(あれか!)

 

トラックの進路上へ爆炎を叩き込む。

突然現れた炎の壁に運転手は慌てて急ブレーキを踏んだ。

その隙を逃さず、一気にトラックへと突撃する。

 

有無を言わさず乗員を叩きのめし、荷台のドアを乱暴に開け放った。

 

「セリカ!無事か!?」

 

「ケ……ケンジ先輩?」

 

「大丈夫か!?怪我してないか!?」

 

「え、えっと……うん。大丈夫……」

 

その言葉を聞き、目立った外傷もないことを確認して、ようやく胸を撫で下ろした。

 

「そうか……良かった。ホシノ達ももうすぐ合流する。一旦ここから離れるぞ」

 

そう言って、セリカを肩に抱え上げる。

 

「ちょ!?いや、自分で動け――」

 

「んじゃ行くぞ」

 

そのままセリカを抱え、ホシノ達との合流地点へ向かった。

 

***

 

「ん。セリカ、大丈夫?半べそだったって聞いた」

 

「なにぃー!?可愛いセリカちゃんが泣いてただと!ママが悪かったわ、ごめんねー!後でケンジには『もっと早く助けなさい!』って叱っとくから!」

 

「おい」

 

「セリカちゃん……怖かったんですね。もう大丈夫ですよ!私の胸の中で思いっきり泣いてください!さあ!!」

 

そう言って、ノノミは両腕を大きく広げ、いつでも飛び込んで来いと言わんばかりの体勢を取る。

 

「いらないわよ!っていうか泣いてない!!」

 

顔を真っ赤にして全力で否定するセリカ。

 

「良かった……セリカちゃん、無事で……」

 

「アヤネちゃん……」

 

"本当に無事で安心したよ"

 

「先生まで……」

 

"お姫様が攫われたとなれば、助けに行かないわけにはいかないからね!"

 

「誰がお姫様よ!バッカじゃないの!?ぶん殴られたいの!?」

 

すっかり元の調子だ、これならもう大丈夫だろう。

 

「……!前方よりカタカタヘルメット団の兵力多数確認!こちらを包囲しようとしています!」

 

アヤネの報告に、その場の空気が一変する。

ここはすでに、連中が根城にしているエリアだ。

 

「さらに、大型の重火器を多数確認しました!」

 

"包囲される前に突破するよ。みんな、準備はいい?……みんな?"

 

「いやぁ……正直、あいつらのこと少し舐めてたわ。人質を取るなんて、人並みの知能はあったらしいな。……なら、こっちも相応の対処をしないと」

 

「うへぇ…………まぁ、ヘイローの無事『だけ』は保証してやりますよ……」

 

「悪い子には(めっ)☆ですよー♪」

 

「ん。カタカタヘルメット団を潰す」

 

「せ、先輩たち……なんか殺気立ってない?」

 

"……末っ子を誘拐されて、みんな激怒してるみたいだね"

 

「誰が末っ子よ!」

 

「……気持ちは分かります」

 

「アヤネちゃん!?」

 

「ん。セリカはアヤネ達と一緒に車で休んでて」

 

「先生、指揮をお願いします☆」

 

「それじゃ……行こうか!」

 

ホシノの号令を合図に、俺たちは包囲してくるカタカタヘルメット団へ向かって一斉に駆け出した。

 

***

 

「うわぁ……ホシノ先輩と交戦した敵が、一瞬で吹っ飛ばされてる……」

 

「まるでブルドーザーみたいですね☆」

 

(そう言いながらノノミ先輩、残敵にミニガン撃つの止めないし……)

 

『! 敵重戦車の出現を確認!Flak41改良型……を、ケンジ先輩が無力化しました……』

 

「ん。戦車解体ショーが始まって終わった」

 

"うーん……いつかどこかで見た光景"

 

包囲網を形成しようとしていたカタカタヘルメット団は、あっという間に瓦解していく。

これがアビドスの包囲殲滅陣である。*1

 

結局、その後もカタカタヘルメット団の抵抗は長く続かなかった。

先生の指揮の下、俺たちは残敵を掃討し、そのままアビドス高校へと帰還した。

 

***

 

――――? ? ?

 

「…格下のチンピラ如きではあの程度が限界か」

 

主力戦車まで送り出したというのに、この有様。

所詮は捨て駒……期待しすぎたか。

 

男は机の上に置かれた通信端末へ手を伸ばす。

短い電子音の後、回線が繋がった。

 

「仕事を頼みたい」

 

一拍置いて、男は相手の名を告げる。

 

「――便利屋68」

*1
敵が包囲しようとしてきたので殲滅したの意

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