漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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23話

――――カタカタヘルメット団のアジト

 

「う、うう……何者だ、貴様らは……」

 

「ふふふっ……あなた達はクビだそうよ」

 

倒れ伏すヘルメット団を見下ろしながら、少女は肩をすくめる。

 

「今日この時をもって、アビドスの仕事は私たち便利屋68が引き受けるわ」

 

「ふ、ふざけ……!」

 

ダァン!!

 

「ぐぅっ……!」

 

カタカタヘルメット団のリーダーが地面へ倒れる。

 

「はぁ……最後まで冴えない相手だったわね」

 

アルが銃を下ろすと、ほどなくして三人も戻ってきた。

 

「こっちは終わったよー」

 

「こっちも制圧完了だよ、社長」

 

「な、なんか皆さん……私たちが来る前からボロボロでしたね……」

 

「そうなのよねー。まったく張り合いがないったら。……ま、その分アビドス相手に私たちの力を見せつけてやればいいわ!」

 

「……そのことなんだけどさ、社長」

 

カヨコが床に転がるヘルメット団員達に視線を向ける。

 

「本当にアビドスと……、炎帝とやり合う気なの?」

 

「…………エンテイ?」

 

「……はぁ」

 

カヨコは額に手を当て、小さくため息をつく。

 

「やっぱり知らなかったんだ」

 

「ちょ、ちょっと!その『やっぱり』って何よ!」

 

「あ、あのっ!その……有名な方なんでしょうか……?」

 

ハルカがおずおずと手を挙げる。

 

「す、すみません!私も知らなくて……物知らずで本当にすみません!」

 

「大丈夫だよ、ハルカ。気にしなくていい」

 

「えっ?私と対応違いすぎない?」

 

「まーまー、社長。カヨコちゃん、続き続き♪」

 

「……賞金稼ぎだよ、凄腕のね。本名は倉戸ケンジ。"炎帝"っていうのは、彼についた異名」

 

「異名付きのバウンティハンター!?何それ、カッコいい!」

 

「喜ぶところじゃないでしょ、社長。詳しい理屈は知らないけど、炎を自在に操るらしい。これまで何人もの名の知れた賞金首が、手も足も出ずに倒されてる。今じゃ『炎帝』って名前そのものが、不良達の間じゃ恐怖の対象だ」

 

「いいじゃない!いいじゃない!そんな大物を倒せば、私たち便利屋68の評判もうなぎ登り間違いなしよ!」

 

「おっ、アルちゃんやる気満々だね。で、どれくらい強いの?その炎帝って人」

 

「私もあくまで聞いた話だから詳しくは分からないけど……」

 

カヨコは一度言葉を区切る。

 

「ゲヘナのヒナ風紀委員長や、トリニティの剣先ツルギ……。その辺りと肩を並べる実力者だって、噂になってる。少なくとも、キヴォトス最強格の一人なのは間違いない」

 

「………へ?」

 

先ほどまで威勢の良かったアルが、ぽかんと口を開ける。

 

「…………ヒナと…同格……?」

 

「わお、そんなに?」

 

ムツキもさすがに目を丸くする。

 

「ブラックマーケットでも、炎帝と事を構えるのは避けるって話もあるしね。……まあ、さすがにこれは尾ひれが付いてると思うけど」

 

「だってさ、アルちゃん。どうする?」

 

ムツキがにやにやと笑いながら問いかける。

 

「わ、私はどこまでもアル様に付いて行きます!!」

 

ハルカは拳を握り、必死な表情で宣言した。

 

「な……」

 

アルはカヨコを見つめたまま固まる。

 

「社長?」

 

次の瞬間――

 

「なんですってーーーーー!?」

 

アジト中にアルの絶叫が響き渡った。

 

 

 

――――アビドス高校

 

「それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。本日は先生もお越しいただいているので、有意義な議論ができると思うのですが……」

 

司会を務めるアヤネが、一同を見回す。

 

「いつもは不真面目みたいに聞こえるんだけど……」

 

セリカがぼそりと呟く。

うん、まあ基本的にはみんな真面目にやってるんだよな。

……むしろ、それが問題なんだけど。

 

「それでは、本日の議題は『学校の負債をどう返済するか』です。ご意見のある方は挙手をお願いします」

 

「はい!はい!」

 

「はい、1年の黒見さん」

 

「何で苗字呼びなのよ? ……まあいいわ。対策委員会の会計補佐として言わせてもらうけど、我が校の財政状況は非常に厳しいわ!主な収入源はケンジ先輩の賞金稼ぎと、たまに請け負う護衛依頼。それに私たちのアルバイト代を合わせて、利息も含めて少しずつ返済はしてるけど……完済までの道のりは、まだまだ遠い!だから、何かこう……でっかく一発狙わないと!」

 

セリカは勢いよく一気にまくしたてる。

 

(でっかく一発……何か嫌な予感が……)

 

「と、いう訳でこれ見て!」

 

そう言って一枚のチラシを取り出し、高々と掲げた。

 

「『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』……?」

 

「身に着けるだけで運気が上がるんだって!これを周りの3人に売れば……」

 

うーーーん、典型的なマルチ商法。

何で警戒心は人一倍強いくせに、思考回路だけは一直線なんだよ……。

 

満場一致で却下されたセリカは、がっくりと肩を落とし、ノノミの胸に顔を埋めてベソをかいていた。

 

(確か生活安全局が詐欺対策の講習やってたな……。今度セリカも連れて行くか。お年寄り向けだけど)

 

「で、では気を取り直して……次にご意見のある方は」

 

「はい!はい!」

 

「…3年の小鳥遊委員長。ちょっと嫌な予感がしますが…」

 

(俺は物凄く嫌な予感がする……)

 

そしてその予感は的中する。

 

「生徒数を増やそう!」

 

ホシノが堂々と宣言する。

うん、方向性は間違っていない。

学校に人が増えれば、予算も、人手も、将来的には収入だって増える。

問題は――

 

「他校のスクールバスを襲撃して、生徒をごっそり連れてくればいいんじゃない?」

 

解決方法が犯罪一直線なことだ。

 

「ん。興味深い」

 

シロコ、お前は同調するな。

『ん。ケンジ先輩、三大校のどこが一番狙い目?』じゃねーんだよ!

『ゲヘナでいいんじゃない?』じゃないよ、ホシノ!お前絶対悪ふざけで言ってるだろ!?

『風紀委員と交渉して何とかできない?』じゃねーよ!俺を矢面に立たせんな!

 

「ホシノ先輩……もっと真面目に会議に臨んでいただかないと……」

 

アヤネの一言で、ホシノは「はーい」と素直に引き下がる。

お前、仮にも生徒会長が犯罪計画を立案するんじゃないよ。

先生、そんな顔しないでください、わかります。

俺も同じ気持ちです。

 

「ん。じゃあ次は私」

 

出たな、悪い意味での大本命。

 

「……2年の砂狼さん」

 

「ん。銀行を襲う」

 

………成程、ホシノ(あの親)にしてシロコ(この子)ありか。

 

他自治区へ賞金稼ぎに行くたび、「ちょっと銀行寄っていい?」なんて言うから何事かと思っていた。

まさか、本気で下見していたとは。

 

(うわ、マジでしっかり練った計画書持ってやがる……)

 

「あと、覆面も人数分用意した」

 

(お前、全員巻き込む気だったのか…いや、一人で決行されるよりは止められるだけマシなのか?)

 

「わぁ~。これ、シロコちゃんの手作りですか?」

 

ノノミが興味津々に覆面を手に取る。

 

目出し帽なのは全員共通。

アヤネは黄色で『0』。

ホシノはピンクに『1』。

シロコは青地に『2』。

ノノミは緑色で『3』。

セリカは赤で『4』。

そして俺は――黒地に『FIRE』

 

(……何で俺だけ数字じゃなくて『FIRE』なんだよ。早期リタイアでもしろってか?*1

 

当然ながら却下、アウトローウルフはふくれっ面。

 

「……みなさん、もうちょっと真面目な提案を……」

 

「では!次は私が!」

 

「2年の十六夜さん……犯罪と詐欺は無しでお願いします……」

 

「大丈夫ですよ。クリーンもクリーン、アイドルです!スクールアイドル!」

 

……まぁ、まともか?

皆、ビジュアルだけなら文句なしだ。

歌や踊りの適性は知らないが、意外とワンチャンあるかもしれない。

 

「それに、キヴォトスでは唯一と言っていい男子生徒のケンジ先輩もいます!そこを売りにすれば、きっと大きな話題になりますよ~!」

 

「よーし、なら俺はマネージャーだな。任せろ」

 

冗談じゃない。

キラキラしたステージに立つ女の子を見るのはいいが、自分がステージに立つなんてごめん被る。

 

「品のないギラギラのスパンコールスーツに、サングラス。ついでに胡散臭いフランス語交じりで喋れば完璧だろ。先生、プロデューサー頼めます?」

 

"私も?構わないけど……ケンジのそのマネージャー像は何なの……"

 

先生が呆れたような視線を向けてくる。

結局、アイドル案もあえなく却下された。

 

「そんなぁ……。ポーズや『水着少女団』ってユニット名まで、徹夜で考えたのに……」

 

(ちゃんと寝ないから頭が回ってないんじゃないか……?睡眠はしっかり取りなさい)

 

「あの…みなさん…そろそろ本当にまともな議論を……」

 

アヤネが憔悴しきっている。

全く、毎度毎度困った連中だ。

そして、そのしわ寄せを受けるのは、俺やアヤネのような常識人なのである。

 

「お前らなぁ……詐欺だの犯罪だのアイドルだの、もっと地に足のついた提案をしろ」

 

「ケンジ先輩…!」

 

アヤネが、ようやく味方を見つけたとでも言いたげな目を向けてくる。

任せろ、有意義な議論というものを見せてやる。

 

「いいか、お前ら?確かに借金はいまだ膨大だ。一発逆転を狙いたくなる気持ちも分かる」

 

俺は皆を見回し、ゆっくりと言葉を続ける。

 

「だが、運任せのギャンブルなんぞ、大抵ろくなことにならん。大事なのは行動。そして、成功に至るまでの確かなプロセスだ」

 

アヤネが「その通りです」と言わんばかりに、うんうんと力強く頷いている。

 

「アビドスは生徒数六人。金はもちろん、資源や工業といった特産もない。あるのは借金と砂だけだ」

 

一呼吸置き、用意しておいた資料を机の上へ置く。

 

「それでも、自分に何ができるのか。やれることはないか。徹底的に考え、調べ上げた。その末にたどり着いた結論が――これだ」

 

先生が資料を手に取り、表紙へ視線を落とす。

 

"…………火災保険?"

 

「そう!」

 

俺は勢いよく立ち上がる。

 

「各自治区へ賞金稼ぎに行ったついでに、火災保険の支払い事例を過去10年分調査!さらに消防局の娘達にも話を聞いて情報収集を重ねた!安心しろ!俺の術式を上手く活用すれば、合法的に保険金で焼け太りすることが――」

 

アヤネ渾身のちゃぶ台返しが、俺の壮大なプレゼンを文字通りひっくり返した。

 

 

 

――――柴関ラーメン

 

「一体、何がダメだったんでしょうかねぇー」

 

"……本気で言ってる?"

 

先ほどの会議で激怒したアヤネの機嫌を取るため、柴関ラーメンへ来ていた。

アヤネは女性陣に囲まれ、なだめられている。

なお、セリカだけはそのままバイト中だ。

 

「まあ、原因は一つですよね」

 

"あ、やっぱりわざとだったんだね?ダメだよ?あんまり後輩をからかっちゃ……"

 

先生が苦笑しながら言う。

 

「女子高生に焼け『太り』はダメでしたね。ワードチョイスを完全にミスった。次はその辺りも考慮してプレゼンをしないと……」

 

"………………一度、アビドスのみんなで倫理観の授業を受けようか"

 

「ああ、それはいいですね」

 

俺は深く頷く。

必要な奴が、この学校には多すぎる。

常識人組(俺とアヤネ)の負担が少しでも減らせれば御の字だ。

 

そんなやり取りをしていると、店内が少しだけ騒がしくなり、俺は何気なく入口の方へ視線を向ける。

 

(……何だ?)

 

揉め事――という雰囲気ではない。

ちょうどバイト中のセリカが、入ってきた四人組の少女達と何やら言葉を交わしていた。

常連という様子でもなければ、知り合い同士という空気でもない。

やがて話が終わると、セリカは厨房へ向かって注文を伝える。

 

「大将!柴関ラーメン並、一丁!」

 

「あいよ!」

 

威勢のいい返事が返ってくる。

しばらくして、セリカが出来上がったラーメンを盆に乗せて運んできた。

……が。

 

「お待たせしました!柴関ラーメン並です!」

 

(……あれは、柴関ラーメン超特盛・美食研スペシャル!?)

 

そう、この店は美食研究会公認店である。

以前、アカリに「ケンジさんの行きつけってないんですか~?」と聞かれたことがあった。

 

あのイタリアンビュッフェ店以外にも、何度か店を教えてもらった引け目もあり、俺は柴関ラーメンを紹介した。

 

大将の腕は信頼していたが、相手はあの美食研究会だ。

万が一を考えて俺も同席したものの――結果は、大絶賛。

ハルナもイズミもジュンコ*2もいたく気に入ったようだ。

……唯一の弊害は、アカリたちが来店した日に鉢合わせすると、俺が賞金稼ぎ帰りに楽しみにしているラーメンが綺麗さっぱり消えてなくなることくらいか。

 

先程の四人組、どうやら最初は一杯のラーメンを四人で分け合うつもりだったらしい。

……財布事情はお察しだな。

そんな様子を見て、大将の人の好さが発動したのだろう。

 

サービスとして出された柴関ラーメン特盛・美食研スペシャルを前に、四人は一瞬呆気に取られていた。

だが、一口スープを飲み、麺をすすった次の瞬間――その表情がぱっと輝く。

どうやら味もお気に召したらしい。

その様子を見ていたノノミが「美味しいですよね~」と声を掛けたのをきっかけに、いつの間にかアビドスの女子組と四人組は会話に花を咲かせていた。

 

その輪を眺めていると、一瞬だけサイドテールの少女と、ポニーテールの少女の表情が曇る。

どこか気まずそうにこちらへ視線を向けてきたかと思えば、すぐに何事もなかったように話へ戻っていく。

一方で、リーダーらしき少女は終始上機嫌だった。

ラーメンを褒め、女子組と笑い合い、最後には店主へ元気よく礼を言って店を後にする。

こちらも食事を済ませ、それぞれ会計を済ませると、互いに軽く会釈を交わし、そのまま店を後にした。

 

 

 

―――便利屋side―――

 

「う、うう……」

 

「アルちゃーん、大丈夫?」

 

「こりゃ相当参ってるね」

 

「嘘でしょ……。あの子たちがアビドスだなんて……何という運命のイタズラ……」

 

ラーメン屋で楽しそうに笑っていた少女たちの姿が脳裏をよぎる。

まさか、その相手が今回の依頼の標的だったとは。

 

「ほらほら、『情け無用』『お金もらえば何でもやる』がうちのモットーでしょ?」

 

「わかってるわよ……。はぁ……行くわよ!バイトの傭兵を集めて!」

 

***

 

便利屋68が雇った傭兵たちは、装備を確認しながら思い思いに口を開く。

 

「んー、ようやく出発か?」

 

「そうよ。高いお金払ってるんだから、しっかり働いてもらうわよ」

 

「……炎帝相手にあの金額なら良心的でしょ」

 

「そーそー。引き受けただけありがたいと思ってよ」

 

「残業とかも無しだよ?ちゃんと契約守ってね」

 

「わ、わかってるわよ!」

 

「有り金全部はたいてこの子たち雇ったけどダイジョブかな?」ヒソヒソ

 

「おかげで危うく飯抜きになるとこだったけどね…。正直不安だけどやるしかないでしょ」ヒソヒソ

 

ムツキとカヨコが小声で漏らす。

 

「ムツキ!カヨコ!何してるの?行くわよ!」

 

「はいはーい」

 

「……はぁ」

 

「ア、アル様!私、頑張ります!」

 

それぞれが異なる思惑を胸に、便利屋68と傭兵たちは静かにアビドスへ向けて歩き出した。

 

 

 

――――アビドス高校

 

校舎へ向かってくる大規模な兵力を確認し、俺たちは迎撃に出た。

懲りずにまたカタカタヘルメット団が押し寄せてきたのかと思いきや、アヤネの調べでは日雇いの傭兵集団らしい。

そして、その集団の先頭に立っていたのは――見覚えのある四人組の少女たちだった。

 

「あんたたち……!ラーメンの特盛まで無料にしてもらったのに、この恩知らず!」

 

セリカが四人を指差し、声を張り上げる。

 

「ぐぐっ……!」

 

先頭に立つ少女が露骨に言葉を詰まらせた。

 

「あはは、ごめんね?でも、こっちも仕事だからさ」

 

「申し訳ないけど、公私は区別させてもらうよ」

 

「ん。仕事って傭兵のバイトだったんだ。誰の差し金なのか、力ずくで口を割らせる」

 

シロコが銃口を四人へ向ける。

 

「ふん…やれるものならやってごらんなさい!あと、バイトじゃないわ!私達は便利屋68!れっきとしたビジネスよ!」

 

先頭の少女が気を取り直したように胸を張る。

 

「便利屋68だと…?」

 

「ん?ケンジ知ってるの?」

 

「ああ…。ホシノ、最初から全力で行け。俺も雇われた傭兵共を速攻で片付けて合流する。…先生、申し訳ないんですが……そのつもりで指揮をお願いできますか?」

 

「うへぇ…珍しいじゃん。ケンジがそんなこと言うなんて」

 

"……それだけの相手なんだね?分かった。任せて"

 

便利屋68。

顔も構成員も知らなかったが、その名前だけは聞いたことがある。

あのゲヘナ風紀委員会に目を付けられ、継続的に監視されているアウトロー集団。

 

つまり――

危険度で言えば、美食研究会や温泉開発部(あいつら)と同類である。

冗談じゃない、そんな連中を相手に様子見や出し惜しみをする余裕はない。

初めからクライマックスのハイライトで行く。

 

「総員!攻撃!」

 

"行くよ!みんな!"

 

***

 

「こ、これで終わったと思わないことね!アビドス!!」

 

「あっ!待ちなさい!……逃げるの早いわね」

 

「まあ、追撃は無しだ。深追いはやめとけ」

 

俺は追いかけようとしていたセリカを制する。

 

「うへぇ……ケンジ、大丈夫?一発もらってたけど……」

 

ホシノが俺の腕を見る。

 

「ああ、多少痛むが……まあ大丈夫だ。思っていた以上に厄介な連中だったな」

 

軽く腕を回しながら息を吐く。

雇われ傭兵を片付け、便利屋68へ向かおうとした、その瞬間。

リーダーの娘――アル、だったか。

 

爆炎で傭兵ごと視界を遮り、その隙に一気に距離を詰めるつもりだった。

だが、あいつは爆炎の向こうから俺の位置を正確に捉え、一切迷いなく狙撃してきた。

ギリギリで腕を差し込み、防御が間に合わなければ危なかった。

 

すぐさま反撃の炎を放ったが、それすら紙一重で回避された。

最後は回避先を読んで展開した小型火山で何とか仕留めたが、あと一歩判断が遅れていれば、こちらが二発目をもらっていた可能性もある。

 

「うへぇ……ケンジが『最初から全力で行け』って言った理由がよく分かったよ」

 

ホシノが苦笑しながら肩をすくめる。

 

「先陣を切ってた突っ込んできた帽子の娘、最初の一撃で仕留めるつもりだったんだけど……踏みとどまられちゃった。おじさんも衰えたねぇ……寄る年波には勝てないよ…」

 

「ん。二発目も耐えたのはびっくりした」

 

「撤退するときも、起き上がって自分の足で走って逃げていきましたもんね」

 

シロコは静かに頷き、ノノミも感心したように付け加える。

 

"うん。あとの二人も侮れなかったね"

 

先生も便利屋68を見送った方向へ視線を向ける。

 

形勢不利と見るや否や、即座に撤退を決断したポニーテールの娘。

その判断に呼応するように爆弾でこちらを撹乱し、仲間の撤退時間を稼いだサイドテールの娘。

誰一人として無駄な動きがなかった。

 

もし最初からカタカタヘルメット団ではなく、あの便利屋68がアビドス襲撃の指揮を執っていたとしたら――。

 

『あんな実力者達にも狙われるなんて……先が思いやられます……。一体、何が起きているのでしょうか……』

 

アヤネが静かに呟く。

……いよいよ、黒幕を突き止める必要が出てきたようだ。

 

 

 

―――便利屋 side―――

 

「あはははは!アルちゃん、頭がボンバーヘッドって感じだね!」

 

「うっさいわね!」

 

アルがアフロになった頭を押さえながらムツキを睨みつける。

 

「炎使うとは聞いてたけど、あんな気軽にポンポン撃ってくるの!?死ぬ気で躱せたと思ったら、なんかちっちゃい火山まで出てきたんだけど!?」

 

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!まったくお役に立てず、それどころかやられてしまって……!死んでお詫びを……!」

 

「いや、大丈夫だから、ハルカ。むしろ、あんな化け物を僅かでも足止めできただけでも大健闘だよ」

 

カヨコがハルカの肩を叩いて落ち着かせる。

 

「そうよ!炎帝だけじゃなくて、あのちっちゃいピンク髪の子も何なの!?ヒナ並のプレッシャーだったんだけど!?なんで生徒数六人の学校に、あんなバケモノ共がいるのよ!?」

 

「あの二人が別格だったのは確かだけど……他の子たちも十分強かったよ。で、どうするの社長?依頼、失敗しちゃったけど」

 

「うっ……それは……」

 

アルの表情が見る見る曇る。

 

「まあ、それも問題だけどさ。今夜の晩ご飯、どうするの?有り金、バイトの子たちを雇うので全部使い切っちゃったよ?」

 

ムツキのその一言で、アルは白目をむき、その場で固まってしまった。

*1
ん。銀行襲って借金返済すれば、後は悠々自適

*2
恐ろしいことに今年もまた一人増えた

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