漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ 作:場取らず
「先日のカタカタヘルメット団との戦闘で回収した兵器の残骸を分析した結果……これらは、キヴォトスでは製造・流通が禁止されている型番だと判明しました」
「製造禁止?そんな物、どこから手に入れたっていうのよ……」
「そういう代物を扱う場所……。ブラックマーケットか?」
「はい。正規では絶対に手に入りませんので、その可能性が最も高いです」
"ブラックマーケット?"
「中退や休学、退学……様々な理由で学校を離れた生徒たちが集まり、独自のコミュニティを形成している地域です。連邦生徒会の管理も及んでおらず、無許可の違法な部活動も数多く存在しています」
「それだけじゃない。闇業者やマフィアなんかも入り浸ってる。犯罪の温床ってわけさ。……そういえば、この前の便利屋もブラックマーケットで騒ぎを起こしたって、ゲヘナの風紀委員が言ってたな」
「でしたら、その二つの関連性を調べる価値はありそうですね」
「じゃあ決まりだね~。ブラックマーケットを調べようか。アヤネちゃんとケンジは車で待機。調査は残りで行くよ」
「あれ?ケンジ先輩は中に入らないんですか?」
「あー、そっか。セリカちゃんとアヤネちゃんは知らなかったね」
ホシノが苦笑する。
「ん。ケンジ先輩、ブラックマーケット出禁」
「「えっ?」」
"で、出禁!?"
「……甚だ遺憾である」
俺は遠い目をしてそう呟いた。
"……何やったの?"
先生のもっともな疑問に、ホシノ達は顔を見合わせる。
――事の顛末は、こうだ。
俺が追っていた賞金首がブラックマーケットへ逃げ込み、そいつと繋がりのある犯罪組織に匿われたことがあった。
別に人生裏街道を爆走する連中なんぞ知ったことではない。
賞金首ごとその組織を潰してしまえば済む話だ。
……だが、この手の連中は品位も理性も知性も半人前以下。
そのくせプライドだけは一人前である。
面子を潰されたなどというくだらない理由で、関係ない連中まで因縁をつけてくるのは目に見えていた。
既に不本意な異名のせいで面倒事は山ほどあるというのに、これ以上増やされるのは勘弁願いたい。
とはいえ、見逃せば「ブラックマーケットへ逃げ込めば安全」という前例を作ることになる。
少し考えた末、俺が出した結論はこうだ。
賞金首と匿っていた犯罪組織をまとめて叩きのめし、全員戦闘不能にした上でマーケットガードへ引き渡す。
「外から厄介事を持ち込んできた賞金首と、それを匿った不届き者は制圧しておきました。後はお願いします」
とでも言えばいい。
マーケットガードは非認可とはいえ、一応はブラックマーケットの治安維持組織だ。
後始末を任せることで向こうの顔も立つ。
賞金は泣くことになるが、ブラックマーケットに逃げ込んでも無駄だという、事例になればいい。
ちなみに匿っていた犯罪組織のアジトは、キレイさっぱり焼き払ってある。
犯罪組織のアジトなど、更地になった方が景観にも優しい。
俺なりの、美化活動である。
……そんなことが幾度か続いた。
そして、また別の賞金首がブラックマーケットへ逃げ込み、例によって匿われたとの情報を掴み、俺がマーケットへ足を踏み入れようとした、その時……。
「……待て、入るな」
マーケットガードに呼び止められ、そのまま縄でぐるぐる巻きにされた賞金首をこちらへ突き出される。
「ほら、賞金首だ。そいつはもう引き渡す」
そう言うと、マーケットガードは心底疲れ切った顔で続けた。
「……だから頼む。帰ってくれ。そんで二度と来るな」
……という訳で、俺はブラックマーケットを事実上出禁になった。
甚だ遺憾である。
後で聞いた話では、何故か俺がブラックマーケットへ現れるたびに周囲の犯罪組織が勝手に武装を始め、一触即発の事態になるらしい。
おまけに、この件についてマーケットガードが否定も肯定もせず沈黙を貫いたせいで、憶測が憶測を呼び、
『ブラックマーケットですら炎帝とは揉めたがらない』
『炎帝が来ると犯罪組織ごと消し飛ぶ』
『マーケットガード公認の出禁』
などと尾ひれに背びれどころか翼まで生えた噂が一人歩きし、今なお俺への風評被害として飛び交っている。
一体、俺が何をしたというのだろう。
「「"
全員の視線が痛い。
何故俺をその目で見る……。
「うへぇ……こう見えてケンジ、意外と問題児だからねぇ」
ホシノが呆れたように肩をすくめる。
「異議あり!ブラックマーケットから歓迎されるような人物の方が、よほど問題児だろう!?逆に考えれば、ブラックマーケットに拒否されるということは、それだけ俺が真っ当な人間という証拠だ!つまり俺は、優等生オブ優等生と言っても過言では――」
「過言よ」
「過言ですね」
「ん。過言」
「過言です☆」
"過言だね"
……解せぬ。
――――ブラックマーケット・近郊
ブラックマーケットから少し離れた場所に停車した車の中で、俺とアヤネは待機していた。
「それでは先輩。私達は通信とナビゲートを担当しますので、何かあればすぐに対応してください」
「了解」
アヤネは通信機のスイッチを入れ、チャンネルを合わせる。
『――こちらホシノ。予定通りブラックマーケットへ入ったよ~』
「こちらアヤネ。通信良好です。周囲の様子はどうですか?」
『スッゴイ賑わってるよ』
『ん。街一つくらいの規模がある』
『人も多いわね。見た感じ、生徒だけじゃなくてマフィアっぽい人もいるわ』
「ブラックマーケットだからな。表じゃ売れない物も、人も、情報も全部集まる。普通の繁華街とは訳が違う」
さて、どこから調査を始めたものか。
以前ブラックマーケットへ足を運んだ時の記憶を掘り起こし、使えそうな店や情報屋を思い返していると――。
『わわわっ! そこどいてくださーい!!』
ドンッ!
一人の少女が慌ただしく駆け抜けようとし、勢い余って少女はシロコへぶつかり、そのまま尻もちをつく。
『いたたた……』
『"大丈夫?"』
先生が手を差し伸べる。
『あ、ありがとうございます……』
少女が立ち上がった、その時。
『いたぞ!』
『あ?何だお前ら?お前らもそいつの身代金目当てか?』
『うへ?身代金?』
ホシノが首を傾げる。
『そうさ! そいつはトリニティ生!キヴォトスで一番金を持ってる学校の生徒だ!だから拉致って身代金をたんまり――』
そこまで聞けば十分だった。
身代金目的の誘拐。
理由を察したシロコとノノミは互いに視線を交わし、次の瞬間。
鈍い打撃音と悲鳴が路地に響き渡った。
***
少女を追いかけてきた不良達を片付け、さらに駆け付けた仲間達までまとめて叩きのめした。
『みなさん、ありがとうございました。危うく学園に迷惑をかけちゃうところでした……。』
『えっと、ヒフミちゃんだっけ?トリニティのお嬢様が、どうしてこんなところに?』
ホシノが不思議そうに尋ねる。
『実は……探し物がありまして、もう販売終了している物なんですが、ブラックマーケットならまだ取引されているかもしれないって聞いて……』
そう言うと、ヒフミは大切そうに鞄を開き、中をごそごそと探し始めた。
(販売終了した物……?骨董品か?それとも年代物の銃か……あるいは闇ルートへ流れた美術品の類か)
車内で通信を聞いていた俺は首を傾げる。
それにしたってこんな所に一人でこっそりとやってくるのはどうかと思うが……。*1
『これです。ペロロ様とアイス屋さんがコラボした限定のぬいぐるみ!』
そう言って彼女が取り出したのは……。
(ジュガイ君……じゃねぇ、モモフレンズのペロロだったか?)
『可愛いでしょう!?』
ヒフミさんは目を輝かせながらぬいぐるみを掲げる。
……本人はそう言うが、俺にはアイスを詰め込まれて力尽きかけているようにしか見えなかった。
ノノミは、すっかり意気投合した様子で、ヒフミさんとモモフレンズ談義に花を咲かせ始めた。
一方で、ホシノは『最近の若いやつにはついていけん』と曖昧な笑みを浮かべ、セリカは何とも言えない表情でぬいぐるみを眺め、シロコもじっと見つめた後、『……ん』とだけ呟いた。
……どうやら、他の面子も俺と似たような感想だったらしい。
『この人形も限定で百体しか作られていないんです。まぁ、幻のレアグッズ【ペロロ・ボクサー】ほどではないんですが……』
『"ペロロ・ボクサー?"』
名前からして、ボクシング関係のグッズなのだろう。
……待て。
何だ、この嫌な予感は。
『ペロロ・ボクサーですか?それも限定品なんですか?』
ノノミが興味津々といった様子で身を乗り出す。
『昔、世界ボクシングJ・ミドル級タイトルマッチで、鷹村マモル子選手と武雷闇ホーク美選手が対戦した時、解説席に飾られていたのが【ペロロ・ボクサー】なんです!大会スポンサーだったモモフレンズの会社が記念に製作した、世界に一つだけの非売品なんですよ!』
ヒフミさんが若干興奮気味に説明する。
(ま、まぁ……あれが本物だと決まった訳じゃない。どっかの誰かが話を聞いて作った模造品って可能性も――)
『これがそのペロロ・ボクサーです!』
そう言ってヒフミさんがスマホの画面をこちらへ向ける。
「…………」
……あ、間違いない。ジュガイ君だ、これ。
毎日呪力関連のトレーニングで見慣れている、見間違えようがない。
(ジュガイ君……一点物のレアグッズだったのか)
ホシノ、通信越しに「どうすんの、これ?」って目線送ってくんな。
『まぁ、もし見つけられたとしても、私のおこづかいじゃ厳しいんですけどね……』
ヒフミさんは少し残念そうに笑う。
『その試合、ボクシングの歴史に残る名勝負だったんです!私もボクシングは全然詳しくないんですけど、動画で見た時は思わず手に汗握っちゃいました!けど、その影響でボクシングファンからも注目されるようになっちゃって……今では、とんでもない値段が付いてるんです』
そう言って再びスマホの画面をこちらへ向ける。
そこに表示されていた査定額は――。
「こ、こんなのがこの値段!?」
セリカが思わず絶叫する。
ノノミも目を丸くし、シロコですら僅かに目を見開いていた。
一方の俺は。
(嘘だろ……!?)
頭の中が真っ白になった。
(ジュガイ君……そんなプレミア付いてたのか)
……だからホシノ!「マジでどうすんの、これ?」って目線を送ってくんな!
万が一にも俺が所有していることがバレたらどうする!
持っているのだ!あの忌み物を!
(……何とか話題を変えないと)
「そうだ」
わざとらしく咳払いを一つ。
「ヒフミさん。その様子だと、ブラックマーケットには結構詳しい感じ?」
『え?』
「さっき助けたお礼ってわけじゃないけど、俺たちもちょっと探し物があってさ。案内してもらえると助かるんだけど」
『わ、私なんかでお役に立てるか分かりませんが……皆さんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けさせてもらいます!』
よし、どうにか話題を逸らすことに成功した。
『上手く誤魔化せたねぇ』
……うるさいよ。
***
それから数時間。
ヒフミさんの案内もあり、ブラックマーケット中を歩き回って情報を集めてみたものの、カタカタヘルメット団や違法兵器の出所に繋がるような有力な情報は得られなかった。
『うへぇ~……さすがに歩き疲れちゃったねぇ』
『少し休憩しましょうか』
ノノミの提案に全員が頷き、近くの屋台でたい焼きを買うことにした。
「それじゃ、こっちも少し休憩するか」
俺とアヤネも車を降り、積んでいたクーラーボックスから飲み物を取り出す。
「結局、収穫らしい収穫はありませんでしたね……」
アヤネは少し残念そうに呟く。
「まあ、一日で尻尾を掴めるようなら苦労しないさ」
『……あれ?あの車……』
ホシノの間の抜けた声が通信越しに聞こえる。
「どうかしましたか?」
ホシノ達の視線の先では、マーケットガードに厳重に護衛された一台の現金輸送車が、一軒の銀行の前で停止した。
『今車から降りた奴、いつもアビドスから借金を回収していく奴じゃない!』
『あの車って……カ、カイザーローンですか!?』
ヒフミさんが驚きの声を上げる。
『"何か知ってるのかい?"』
『はい。カイザーローンはカイザーコーポレーション系列の金融会社です。カイザーグループ自体は違法行為をしているわけではありませんが、法律のグレーゾーンを巧みに利用することで有名で……ティーパーティでも警戒対象になっています』
(カイザーか……)
確かに、あまりいい噂は聞かない。
(ブラックマーケットの闇銀行に出入りしていたってことは……)
「先輩」
隣で端末を操作していたアヤネが顔を上げる。
「輸送車の走行ルートを確認しようとしましたが、記録はすべてオフラインで管理されているようです」
「意図的に足取りを追えなくしてるってことか」
『そういえば……借金の返済も、毎回現金での受け渡しでしたよね』
ノノミが思い出したように呟く。
『ちょ、ちょっと待ってよ!じゃあ私たちが返してるお金って……ブラックマーケットに流れてるってこと!?』
セリカが青ざめた表情で叫んだ。
「ま、まだそうと決まった訳じゃありません。証拠が足りません。現時点ではあくまで状況証拠だけです」
アヤネが慌てて首を振る。
『あっ』
ヒフミさんが何かを思い出したように声を上げた。
『さっきの人、集金確認の書類にサインしていました!もしそれを見られれば、アビドスから回収したお金だって証明できると思います!』
『"なるほど"』
『あうう、でも……』
ヒフミさんは銀行の方へ視線を向ける。
『あれだけのマーケットガードが警備していますし、銀行はブラックマーケットの中でも一番警備が厳しい場所です。正面から確認するのは……』
『いや』
シロコが静かに首を横へ振る。
『他に方法はないよ。ホシノ先輩ここは、例の方法しか』
『なるほどぉ。あれかぁ、あれなのかぁ』
(おい……まさか……)
頼むから俺の予感よ、外れててくれ。
そんなささやかな願いも虚しく、シロコはおもむろに懐へ手を入れると、一枚の覆面を取り出し、何の躊躇もなく被り……。
『銀行を襲う』
(やっぱりかぁぁぁぁぁ!!)
『だよねー。そういう展開になるよねー』
(ホシノ!?何でお前も覆面被ってんの!?)
『悪徳銀行退治ですね♧』
(ノノミ!?)
『……マジで?マジなのね?……それなら……とことんまでやってやるわよ!』
(乗るなセリカ!!戻れ!!)
「はぁ…了解です。もう聞く耳持たないでしょうし……何とかなるはず……」
(終わりだ……)
最後の砦だったアヤネまで深いため息を吐きながら覆面を被る。
『"みんな……"』
(!!)
先生!そうだ!まだ先生がいる!
先生!大人として、短絡的な思考に陥っているこいつらの目を覚ますような、含蓄のある一言を――!
『"万が一の時は、私が全部責任を取るから……!"』
(神は死んだ……)
最後の砦を失い、希望はあると駆け込んだ
ふと通信の向こうを見ると、ノノミがヒフミさんへ何かを差し出している。
(……おい、何でヒフミさんにまで覆面を渡してる?それ、さっきたい焼きが入ってた紙袋だろ。他校の生徒をそんな自然な流れで共犯にするな)
一瞬戸惑ったヒフミさんだったが、周囲の勢いに押されるように紙袋を被る。
(…………あーーーーーーーっ!!もうっ!!分かったよ!!)
半ばヤケクソ気味に腹をくくり、俺は勢いよく車のドアを開けた。
「ケンジ先輩?」
アヤネが驚いたように振り向く。
「マーケットに潜入して陽動をかける。可能な限りマーケットガードの目をこっちへ向けさせるからその間に銀行へ入れ」
俺は車のトランクを開ける。
取り出したのは、潜入用に用意していた変装道具と覆面。
……本来はブラックマーケットで情報収集を行うための備えだった。
まさか銀行強盗の援護に使うことになるとは、夢にも思わなかったが。
「……こうなったら」
覆面を手に取り、小さく息を吐く。
「何が何でも成功させるぞ」