漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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27話

風紀委員会によるアビドス襲撃から数日。

色々と後回しになっていた問題も、ようやく片付き始めていた。

 

まずは、跡形もなく吹き飛んだ柴関ラーメンについて。

爆破した張本人である便利屋68は、あの騒動の後で柴大将へ直接謝罪したらしい。

何をどう説明したのかまでは知らないが、大将も彼女たちの謝罪を受け入れたとのことだった。

 

もちろん、それで壊れた店が元に戻るわけではない。

だが意外なことに、大将は柴関ラーメンを建て直すつもりはなかった。

元々、近いうちに店を畳む予定だったらしい。

理由は、以前から出されていた立ち退き命令。

その話を聞いた俺たちは、当然ながら疑問に思った。

アビドス自治区にある店に、一体誰が立ち退きを命じているのか。

 

そこで土地の権利関係について詳しく確認したところ――別の問題が浮かび上がった。

現在、アビドス高校が所有している土地は、校舎とその周辺のごく一部。

それ以外のアビドス自治区については、その大部分が既にカイザー系列の企業へ渡っていた。

 

「こんな大事に、ずっと私たちは気付かないまま……」

 

「ですが、どうしてこんなことに?学校の自治区の土地を勝手に売買するなんて、普通はできるはずが……」

 

「……アビドスの生徒会でしょ。自治区の土地を処分できるのは、そこの生徒会だけ」

 

「はい。記録を確認したところ、取引を行ったのは前々生徒会でした……」

 

前々生徒会。

ってことは、ユメ先輩の一つ前。

先輩に押し付けるような形で生徒会長を任せて、そのままアビドスから去っていった連中か……。

 

ユメ先輩は……まぁ、知らなかっただろうな。

引き継ぎなんて何もなかったって言ってたし、もし知ってたらもっと大騒ぎしていたはずだ。

 

その後、何だかんだ残っていた生徒たちも次々いなくなって、最後に残ったのは俺とホシノと先輩の三人。

おまけに、使う校舎を本館から今の別館へ移したせいで、昔の資料もほとんど残っていなかった。

 

……そりゃ、今まで誰も気付かないわけだ。

俺も学校の自治区は学校の物って聞いてたから今まで疑った事すらなかった。

 

「何やってんのよ、その生徒会の奴らは!学校の土地を売る?それもカイザーなんかに!?なんでそんなこと……」

 

"そういう風に仕向けられたんだろうね……"

 

「え?」

 

"アビドスがお金を借りた相手は、同じカイザーグループのカイザーローン……。多分だけど、最初は利子の支払いに充てるとか、そういう理由で使っていない土地を手放させたんじゃないかな……。それで一度土地を売ってしまえば、その時の支払いは何とかなる。でも借金そのものがなくなるわけじゃない。そうやって少しずつ、ずるずると……"

 

「……アビドス自治区そのものが、ゆっくりとカイザーのものになる」

 

「相当昔から仕組まれてたのかもな。これだけの土地を手に入れるなら、一年や二年でどうにかできる話じゃないだろうし」

 

そこまで口にして、ふと引っ掛かった。

 

「……そういや、この二年間は土地を売れなんて話、一度も来てないよな?」

 

「うへぇ……少なくとも、おじさんは聞いた覚えないね」

 

「はい。私もありません」

 

それまで何年もかけて土地を買い取っていたのなら、どうしてこの二年間は何もなかった?

 

……いや。

考えてみれば、理由は単純か。

 

俺がアビドスへ入学してから、賞金稼ぎを始めた。

それ以外にも、皆でどうにか金を稼いで支出を抑えて、借金を返してきた。

 

その結果、それまで月々の利子を支払うだけで精一杯だった状態から、少しずつとはいえ元金そのものを減らせるようになった。

つまり、土地を売らなければ支払いができない状況ではなくなった。

 

だから、この二年間は土地の売買を持ちかけてこなかった。

少なくとも、表向きは。

裏ではカタカタヘルメット団や便利屋68を雇って、俺たちをアビドスから追い払おうとしていたわけだ。

 

……ただ、そうなると新たな疑問が浮かぶ。

 

「何でそこまでして、アビドス全域を手に入れようとするんだ?」

 

既にカイザーが所有しているアビドスの土地は広大だ。

 

今となっては見る影もないが、アビドスはかつてキヴォトスで最大の規模を誇った学校。

当然、その自治区だって広い。

 

何かを建てるための土地が欲しいだけなら、既に持っている土地にさっさと建てればいい。

地下資源でも埋まっていて、それが目当てだというならそれこそ借金を盾に、土地の所有権なり採掘権なりを確保してしまえば済む話だ。

わざわざ時間と金を掛けて、俺たちを追い出す必要なんてない。

 

なのに、カイザーはそれをやっている。

カタカタヘルメット団を使って学校を襲わせ、今度は便利屋68まで雇った。

つまり――。

 

「俺たちがいると、何か都合が悪い……?」

 

"その可能性は高いと思う"

 

先生の言葉に、全員が黙り込む。

 

土地そのものが目的じゃない。

少なくとも、それだけじゃない。

だったらカイザーは一体、このアビドスで何をしようとしている?

 

"そのことに関して、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ"

 

「何か分かったんですか?」

 

"分かったというより……この前、ヒナから聞いた話なんだけど"

 

ヒナから?

そういえば、風紀委員会が撤退する前に先生と何か話してたな。

 

"『アビドスの放棄された砂漠で、カイザーコーポレーションが何かを企んでいる』って。ただ、詳しいことまではヒナも把握してないって言ってたよ"

 

「砂漠で……?」

 

「そんな所で一体何を……」

 

「もう、そんなのここで考えてたって分からないでしょ!何を企んでるのか、ちゃんとこの目で直接確かめなきゃ!」

 

相変わらずの猪突猛進っぷりだが、今回に至っては正論だ。

 

「ん。そうだね」

 

「セリカちゃんの言う通りです」

 

"それじゃあ、準備ができたら行こうか……アビドス砂漠へ"

 

 

 

――――アビドス砂漠

 

アビドス砂漠――――自治区の砂漠化が進む以前から、元々砂漠だった地域だ。

 

普段から故障したドローンや警備ロボ、オートマタなんかがそこら中を徘徊しており、人気がないからといって安全な場所ではない。

 

もっとも、今回は以前ミレニアムのエンジニア部から、テスターを条件に譲り受けた車で、そのまま砂漠を突っ切っている。

多少道が悪かろうが問題なく走れるし、そこらの警備ロボ程度なら正面からぶつかったところでどうということもない。

 

進路を塞ぐ奴だけ適当に片付けながら、目的のセクターへ。

強行突破――と言えば聞こえは物騒だが、道中は思っていたよりずっと順調だった。

 

一年の頃、生徒会の仕事で一度だけ来たことのある場所を通り過ぎる。

かつて砂祭りが行われていたという、今ではすっかり干上がったオアシス。

そこからさらに奥へ。

 

この辺りまで来ると、俺にもほとんど土地勘はない。

 

「……!」

 

助手席で端末を確認していたアヤネが、不意に声を上げた。

先行させていた偵察用ドローンから、何か見つけたらしい。

 

「前方に巨大な施設があります!工場……いえ、駐屯地でしょうか?と、とにかく物凄く大きいです!」

 

「こっちからはまだ見えないな」

 

「はい。まだかなり距離があります。方向を指示しますので、そのまま進んでください!」

 

アヤネの指示に従って、車を進める。

そして、しばらく走ったところでそれは見えてきた。

 

「な、何これ……」

 

セリカが呆然と呟く。

 

まず目に入ったのは、砂漠のど真ん中に延々と張り巡らされた有刺鉄線。

右を見ても、左を見ても、その終わりが見えない。

軽く数キロは続いているんじゃないだろうか。

 

そして、その向こう側。

砂漠の中から生えるように、巨大な建造物がそびえ立っていた。

遠目からでは詳しい用途までは分からないが、その姿は、どことなく石油のボーリング施設を思わせる。

一つの施設というより、もはや一つの街に近い規模だ。

 

「……こんなの、昔はなかったよ」

 

いつもの気の抜けた調子とは違う、ホシノの声。

 

施設の様子を確認するため、一度車を停めて外へ出る。

もう少し近付いてみるか。

そう考えた、その時――。

 

ダダダダダッ!

 

「っ!?」

 

突然、銃弾が砂地を抉った。

 

「侵入者だ!」

 

「捕らえろ!逃がすな!」

 

有刺鉄線の向こうから、武装した集団が次々と姿を現す。

 

「!?オートマタ!?」

 

「アヤネ!先生を連れて車に戻れ!」

 

「は、はい!」

 

"みんなも無茶しないで!"

 

アヤネと先生が車へ駆け戻るのを確認して、前へ向き直る。

話を聞く――なんて雰囲気じゃないな。

 

「よく分からないけど、歓迎の挨拶ならちゃんと返さなきゃね」

 

ホシノがショットガンを構える。

 

「ん。派手にやる」

 

シロコも銃口を敵へ向けた。

 

「お前ら、ほどほどにな」

 

さて。

ここが何なのかは知らないが……。

いきなり撃ってきた以上、正当防衛ってことでいいよな?

 

***

 

強くはなかった。

全く強くはなかったんだが……何というか、面倒というか、厄介というか。

倒しても倒しても次から次へと出てくるわ、逃げようとも降伏しようともしないわ。

結局、襲ってきた連中を全部片付けるまで、そこそこ時間を食わされてしまった。

 

「うへ~……結局こいつら何なのさ」

 

ホシノが倒れたオートマタをショットガンの先で軽くつつく。

 

「この方たちもそうですが、この施設は一体……」

 

『皆さん!施設に何らかのマークを発見しました!これは……』

 

「マーク?」

 

『はい。拡大します』

 

手元の端末へ、アヤネから送られてきた映像が表示される。

そこに映っていたのは――。

 

「……カイザーPMC」

 

「何かやってるって、ここのこと?……っていうか、PMCって何?」

 

「民間軍事会社だよ」

 

「ぐ、軍事ぃ!?なんでそんなものがアビドスに――」

 

セリカが声を上げた、その時。

 

――――バラバラバラバラ

 

遠くから聞こえてくる、重いローター音。

 

それだけじゃない。

地面からも、微かな振動が伝わってくる。

 

『大規模な戦力を確認!こちらを包囲しようとしています!ヘリに装甲車、それに戦車まで……ものすごい数です!』

 

「…………」

 

どうやら思っていた以上に、とんでもない場所へ踏み込んじまったらしい。

 

***

 

――――多い。

とにかく、多い。

 

戦車を潰せば装甲車が来る。

装甲車を吹き飛ばせばヘリが来る。

それを落としたと思えば、今度はオートマタの大群。

一体どれだけの戦力をここに集めてるんだ。

 

一体一体は大したことないとはいえ、こうも次から次へと湧いてこられたらキリがない。

 

「とにかく、一旦このセクターから離脱するぞ!調べるにしたって出直した方がいい!」

 

「うへぇ~……おじさんも賛成~。こんなの全部相手にしてたら日が暮れちゃうよ」

 

"みんな、車まで戻って!"

 

どうにか包囲の薄いところを食い破り、車へ乗り込む。

あとはこのまま、このセクターを離脱するだけ――。

 

『! 前方に敵集団!』

 

「もう!しつこい!」

 

「ん。でも、あれを突破すれば離脱できる」

 

シロコの言う通りだ。

多少数が多かろうが、あそこさえ抜ければ――。

 

『……!待ってください!集団の先頭に、人影が……』

 

砂埃の向こう。

こちらの進路を塞ぐように展開した部隊。

その先頭に確かに、一人だけ立っている。

 

「侵入者とは聞いていたが……アビドスだったとは。まさか君たちがここまで来るとは思っていなかったが……まぁいい」

 

「……貴方は?」

 

「まさか私を知らないとは。君たちなら、よく知っていると思っていたが」

 

男が一歩前へ出る。

 

「私はカイザーコーポレーションの理事を務めている者だ。正確には――カイザーコーポレーション、カイザーローン、カイザーコンストラクション、カイザーPMC。その全ての理事を務めている。つまり……君たちアビドス高等学校が、多額の借金をしている相手でもある」

 

「ッ!」

 

「嘘……!」

 

「…………」

 

まさか、こんなところで向こうのお偉いさんと直接ご対面することになるとはな。

 

「ちょうどいい機会だ。古くから続くこの借金について、話し合いでもしようじゃないか」

 

「つまり、あなたがアビドス高校襲撃の黒幕ってことでいい?」

 

「そうよ!ヘルメット団や便利屋を仕向けて、私たちを苦しめてたのはアンタってことなんでしょ!?」

 

「やれやれ……最初に出てくる言葉がそれか。勝手に私有地へ侵入し、善良なるPMC職員たちを攻撃。挙げ句、施設を散々破壊しておいて」

 

「善良って割には、警告もなしに発砲されたけどな」

 

「口の利き方には気を付けた方がいい。ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所だ。君たちは企業の土地に不法侵入していることを理解すべきだ」

 

「んじゃ、分かりやすく看板でも出しといてくれ」

 

「……わざわざ私を挑発するために、ここまで来たのかね?……まあいい。君たちがどういう経緯でここへ来たのか、大体の予想はつく。先に言っておくが、土地の取得に関しては正式な契約を交わし、公式の記録にも残されている合法的な取引だ。今さら君たちが何を言おうと、それが覆ることはない」

 

そこは、俺たちも確認している。

気に食わないのは間違いないが、少なくとも書類上は正規の手続きを踏んでいた。

 

「そして――なぜ我々がこれほど広大なアビドスの土地を手に入れたのか。それを知るために、ここまで来たのだろう?いいだろう、教えてやる。私たちはアビドスのどこかに埋められているという宝を探しているのだ」

 

「そんなでまかせ、信じられるわけないでしょ!」

 

「それに、それだとこのPMCの兵力に説明がつかない。この戦力は、私たちの自治区を武力で制圧するため。違う?」

 

「10人にも満たない学校を相手に、我々がこれほどの戦力を用意したとでも?」

 

理事は鼻で笑う。

 

「これはあくまで、宝探しを妨害された時のためのものだ。君たち如きに用意したものではない」

 

「…………」

 

「君たちなど、いつでも、どうにでもできるのだよ」

 

理事が懐から端末を取り出す。

 

「――例えば、こんな風にな」

 

どこかへ連絡を入れる。

 

「私だ。……そうだ。進めろ」

 

「何を……」

 

「残念なお知らせだ。たった今、君たちアビドス高等学校の信用評価が最低ランクまで落ちてしまったそうだよ」

 

その直後、アヤネの端末が鳴った。

 

『えっ……?学校から転送……カイザーローン?』

 

「アヤネ?」

 

『…………え?そ、そんな……』

 

見る見るうちに、アヤネの顔から血の気が引いていく。

 

『契約に基づく信用評価の変更に伴い、変動金利を……さ、3000%に変更。……それで……来月以降の利息が……9130万……』

 

「あん?」

 

利息3000%?

 

「きゅ、9000万円!?」

 

「くっくっくっ……これで分かったかね? 君たちの首に掛かっている紐が、一体誰の手に握られているのか。まあ、これだけでは少々面白みに欠けるな。保証金も貰うとしよう。今後も返済を継続する意思があるというのなら――3億円を、一週間以内にカイザーローンへ預託してもらおうか」

 

「う、嘘でしょ……」

 

「嘘なものか。この利率でも問題なく返済を続けられるということを、証明してもらわなければならないのでね。もしそれができないと言うのなら学校を――」

 

「いや、違法だろその利息」

 

「……何?」

 

「3000%だぞ?契約に変動金利って書いてあれば、好き勝手にいくらでも上げていいって話にはならないだろ」

 

「何を言い出すかと思えば……。カイザーローンは正式な認可を受けて営業している金融企業だ。金利についても、信用評価に応じて変動することは契約時に双方合意の上で定められている。何の問題がある?」

 

「変動金利に同意してることと、3000%なんて馬鹿みたいな利息が合法かどうかは別問題だろ」

 

「我々は合法であると認識しているが?」

 

「そりゃお前らはそう言うだろうよ」

 

俺だって何の根拠もなく反論しているわけではない。

一年の頃、ユメ先輩やホシノと一緒に、アビドスの借金について連邦生徒会へ相談しに行ったことがある。

 

結局、直接的な支援を受けることはできなかったが、せめて利息の見直しだけでもできないかと相談した。

その時に返ってきた答えは――高いが、ギリギリ違法とは言えない。

確か、そんな内容だったはずだ。

 

なら逆に言えば、今までの利息が法律で認められるギリギリの上限だったんじゃないのか?

それをいきなり3000%?

というか3000%って何だ、小学生の煽りか。

 

「前に連邦生徒会へ相談した時は、今までの利息ですら『高いがギリギリ違法ではない』って回答だったぞ」

 

「…………」

 

「それがいきなり3000%になりました、でも合法です?無理があるだろ」

 

「信用ランクが最低まで下がったと言っている」

 

「んじゃ、その辺りも含めて連邦生徒会に持ち込んで裁定してもらうか」

 

こういうのって調停室でいいんだろうか?

 

「ふん!相手にされるとでも思っているのか?」

 

「別に訴えるのはこっちの勝手だろ。相手にされないって思ってるんなら『馬鹿なガキが悪あがきしてる』って高みの見物してろよ」

 

ぶっちゃけ、期待はしていない。

一年の頃だって、結局どうにもならなかったんだ。

今回だけ都合よく連邦生徒会が助けてくれる、なんて楽観するつもりもない。

 

だが、それとこれとは別だ。

カイザーが「合法だ」と言えば、それだけで合法になるわけじゃない。

少なくとも、本当に問題がないのか第三者に判断を仰ぐくらいはできるはずだ。

 

「そもそも、この施設を貴様たちが襲撃したことが――」

 

"それについてですが――"

 

それまで黙って話を聞いていた先生が口を挟む。

 

"今回、アビドスの生徒たちがこの場所へ来たのは、私からの正式な依頼によるものです"

 

「……何?」

 

"アビドス砂漠でカイザーコーポレーションが何かを企んでいるという情報を受けて、私が調査を依頼しました。ですから、今回の件を理由にアビドス高校の信用評価を下げるというのは筋が違います"

 

「…………」

 

"責任を問うのであれば、依頼したシャーレにお願いします"

 

先生……。

 

いつの間にそんな話になったんだ?

今回ここまで来たのは、元を辿ればセリカの「直接確かめに行こう」から始まった話だ。

 

「え?でも――むぐっ!?」

 

あ、同じこと思ったな。

余計なことを口走る寸前だったセリカが、シロコとノノミに左右からインターセプトされてら。

 

「ん。先生からの依頼だった」

 

「そうですね~。私たちは先生からの依頼を受けて、こちらへ調査に来たんですよ~」

 

「むぐっ!?むぐぐっ!」

 

「…………」

 

……まあ、先生が何をしようとしているのかは分かる。

俺もそういうことにしておこう。

 

「……シャーレの責任だと?」

 

"はい。それと、こちらからも確認したいことがあります"

 

先生の表情が変わる。

 

"カイザーローンによる突然の信用評価変更。それに伴う3000%への利息引き上げと、3億円の保証金要求"

 

「それらは全て契約に基づいた正当な――」

 

"それが本当に正当なものなのかについては、こちらでも正式に確認します"

 

理事の言葉を遮り、先生はさらに続ける。

 

"そして、この施設についてもです"

 

「……何?」

 

"これほど大規模な軍事施設を建設し、大量の兵器と戦力を配備している。先ほど、宝探しを妨害された時のため、と仰っていましたね"

 

「必要な申請は全て済ませている」

 

"では、その申請内容と、実際にここで行われている事業が一致しているかどうか確認させてもらいます"

 

「…………」

 

"S.C.H.A.L.E.として、正式に"

 

その瞬間。

今まで俺たちを見下すように話していた理事の雰囲気が、明らかに変わった。

 

「……連邦捜査部シャーレ、か」

 

"はい"

 

「なるほど……」

 

初めてだった。

こいつが俺たちを――いや、先生を。

明確に警戒したのは。

 

「……どうやら、随分と頼りになる新しい庇護者を得たようだな」

 

"庇護者……?"

 

「以前とは大違いだ、と言っているのだよ」

 

理事の視線が、先生から俺たちへと移る。

 

「かつてのアビドスを守ろうと必死になっていた生徒会長がいたそうじゃないか。確か……梔子ユメ、といったか。借金まみれの学校を立て直そうと奔走し、砂漠化した自治区を復興させ、いつの日かアビドスをかつての姿に戻す……そんな夢物語を本気で信じていたそうだな」

 

理事が鼻で笑う。

 

「奇跡を信じ、夢を語り、必死になって足掻いたところで現実は変わらない。残ったのは莫大な借金と、我々へ売り渡された広大な土地だけだ。もっとも、彼女自身は土地の売買には関わっていないようだが……そんなことは些細な問題だ。生徒会長を名乗りながら、自分の学校が置かれている状況すら満足に把握していなかったのだからな」

 

理事の視線が、俺とホシノを順番に捉える。

 

「君たちが一番よく知っているのではないかね?あの生徒会長が、どれほど馬鹿で愚かだったのかを!」

 

その瞬間。

 

突如、ケンジとホシノ(二人)の脳内に溢れだした、存在す(・)る(・)記憶――

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「ホシノちゃん!ケンジくん!聞いて聞いて!凄いお得なお話聞いちゃった!あのね?一日、あることをするだけで100万円も稼げるんだって!それで、その情報を20万円で売ってくれるんだって!……へ?誰からその話聞いたって?あそこにいる人だけど……あ、あれ?二人ともどこに行くの!?ひぃん!?」

 

・

 

・

 

・

 

「二人とも!凄い情報を入手しちゃった!あのね?あのね?世の中にはリボ払いって制度があって、それを利用すれば返済も楽に――って二人とも!?どうしてこの世の終わりみたいな顔して膝から崩れ落ちるの!?……あ、起き上がった。な、何でこっちににじり寄ってくるの!?それも表情が抜け落ちた顔で!ひぃぃぃん!?」

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「…………」

 

「…………」

 

俺とホシノは二人して、雲一つない空を見つめる。

しばしの沈黙。

 

その後、お互いに顔を見合わせる。

そして、揃って理事へ向き直り――。

 

「「ええ、まぁ」」

 

「お、おう……」

 

「「「…………」」」

 

三人とも黙る。

 

「……じゃあ、利息やら何やらについては後日改めてってことで……」

 

「みんな、帰るよ」

 

そう言って、俺とホシノは揃って車へと歩き出す。

 

本当なら、まだ言いたいことはいくらでもあった。

だが……なんというか。

すっかりそんな気を折られてしまった。

 

これが、キヴォトス最大級の企業――カイザーグループ。

そして、その理事にまで上り詰めた男の力……。

恐ろしい奴だ。

 

『え?あの、先輩方!?』

 

「ちょっ……!どうしたのよ二人とも!?」

 

「何があったんでしょうか……?」

 

「ん。背中から哀愁を感じる」

 

俺とホシノの後ろから、困惑した声が次々と聞こえてくる。

 

"……オホン!では理事、調査の件についてはまた改めて連絡しますので、今回はこれで"

 

先生も何とも言えない表情を浮かべながら咳払いすると、話を強引に締め括った。

 

そうして、呆然とする理事とカイザーPMCの連中に見送られながら、俺たちは車へと戻り、そのまま帰路へ就いた。

 

 

 

 

 

 

「あの……理事、我々はどうすれば……」

 

「……撤収だ」

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