漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ 作:場取らず
――――ミレニアムサイエンススクール・エンジニア部
エンジニア部でテスターを務めた際に貰い受けたこの車は、先日のカイザー襲撃の際にも大いに役立ってくれた。
アヤネが操る車は、時に遮蔽物となって敵の攻撃から皆を守る盾として、また時に矛となってPMC兵を轢き倒したとのこと。
ただ、あれほどの激戦だ。
普段の整備は俺やアヤネで済ませているが、今回は本格的な点検と修理のため、エンジニア部まで持ち込むことにした。
「なかなか派手にやったね。いや、あの激戦を考えれば大人しいほうかな?」
「運転手が優秀だからな。まぁ、車の性能あってこそだが」
「そう言ってもらえるなら嬉しいね。貴重なデータも取れているし、テスターとして君を選んで正解だったよ」
実際、普段の賞金稼ぎの足としてもこの車には随分と助けられている。
俺たちが提供したデータが役に立っているのなら何よりだ。
今回のPMC兵を轢いた際のデータなんかも、そうそう得られるものではないだろう。
何の役に立つのかは知らんが。
「ふむ……。これは部分的に直すより、一度オーバーホールしてしまった方が早いね。暫く預かるよ」
「分かった。こっちは急がないから、よろしく頼む」
この後は特に用事も無い。
ミレニアムまで来たんだし、適当にその辺をぶらついてから帰ろうかと考えていると――。
「こんにちは~!」
"お邪魔するね"
元気な声と共に入ってきたのは、先生と見覚えのないチビッ子たちだった。
***
「廃部回避のための助っ人として呼ばれたと」
"うん。ゲーム開発部から相談を受けてね"
先生からミレニアムへ来た理由を聞きながら、向こうでヒビキやコトリから説明を受けつつ、何やら物色している娘たちに目を向ける。
ゲーム開発部。
名前の通りゲームを作る部活らしいが、部員不足に加えて活動実績も足りず、このままだと廃部になってしまうらしい。
双子の姉妹――見るからに騒がしそうというか、ドパガキっぽい方が姉の才羽モモイさんで、大人しそうな方が妹のミドリさん。
で、もう一人、髪の長い娘が、この度ゲーム開発部に入部したという天童アリスさん。
部員も増えて廃部問題はひとまず解決。
今回はそのアリスさんが使う武器を見繕うため、エンジニア部にお邪魔した――といった流れらしい。
「銃撃戦の経験は少なそうだし、初心者なら拳銃がいいんじゃないかな。これなんてどう? ミレニアム史上初、Bluetoothが搭載された銃。スモモ機能にNFC機能もあるから、コンビニペイも使えちゃう」
「『これで決済を』って拳銃突き出したら、店員さんびっくりしちゃうよ!」
ヒビキの言葉にモモイさんがつっこむ。
銃社会のキヴォトスでも、それはアウト判定らしい。
「そういえば君の車にもNFC機能はあるし、メンテついでにスモモ機能も追加しておこう」
「お前らの、脊髄で考えて大脳の審査を通さず実行するところ、嫌いじゃないけど欠点だよ」
なんでそれを車に搭載しようとする。
まぁ、言ったところで無駄だろう。
自爆機能だの何だの、明らかに危ないものを勝手に追加されない限りは好きにさせておこう。
そんなやり取りをしている間にも、ヒビキ、コトリ、才羽姉妹による武器選びは続いている。
肝心のアリスさんはというと――少し離れたところで、何やらじっと見つめていた。
「ふっふっふっ……お客さん、お目が高いですね。それはエンジニア部の下半期の予算、約70%をかけて作られた……エンジニア部の野心作!『宇宙戦艦搭載用レールガン』です!!」
コトリが待ってましたと言わんばかりに眼鏡を光らせる。
"宇宙戦艦!? そんな物まで作ってるの?"
聞き捨てならない単語が飛び出し、先生が驚きの声を上げた。
「はい!エンジニア部では今、ヘリコプターや作業用ロボットに続いて、宇宙戦艦の開発を目指しているのです!このレールガンはその第一歩!大気圏外での戦闘を目的とした実弾兵器!ミレニアムでも類を見ない初の試みです!」
「おおっ! 格好いい!」
「さすが! 今回は上手くいってるんだね?」
目を輝かせるモモイさんに続いて、ミドリさんも感心したように声を上げる。
「当然です!……と言いたいのですが……。このレールガンだけで下半期の予算を70%も使ってしまったので、宇宙戦艦そのものを造るとなると、果たしていくら予算が必要になるのか……」
先ほどまで目をらんらんと輝かせていたコトリの勢いが、急にしぼんだ。
「……
「技術が進歩しても、人は貨幣経済から脱却できない。ままならないものだね」
「そんなの計画の段階で分かり切ってたことじゃん! なんで完成まで持っていっちゃったのさ!?」
「愚問だね、モモイ。……宇宙戦艦の主砲はロマンだからだよ」
その言葉にヒビキが深々と頷く。
「その通りです! この魅力が分からないなんて……全く、これだからモモイは」
「バカだ! 頭が良いのにバカの集団がいる!」
お気付きになられましたか。
こいつら、以前もコールドスリープを実現するとか言って冬眠装置を作り、「未来で会おう!」なんて意気揚々と実験を始めた挙句、案の定アイスキャンディーになりかけてたからな。
そして、解凍させられたのは俺だ。
「念のため君が来る時に実験して正解だったね」じゃねーんだよ。
あの時ばかりは、まとめてバーベキューにしてやろうかと思ったわ。
「エンジニア部の情熱が注ぎ込まれたこの武器の名称は……『光の剣:スーパーノヴァ』!」
「……! 光の剣……!わぁ、うわぁ……! これ欲しいです!」
『光の剣』という名前がよほど琴線に触れたのか、先ほどまで静かにレールガンを眺めていたアリスさんが一気に食いついた。
「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいけど……」
対するウタハの反応は芳しくない。
「この『スーパーノヴァ』は基本重量だけで140kg以上! さらに光学照準器とバッテリーを足して砲撃を行うと、瞬間的な衝撃は200kgを超えます!」
まぁ、宇宙戦艦に搭載する武装であって、個人携行用じゃないだろうからなぁ……。
…………。
栗浜アケミならいけそうだな。
「カッコいいと言ってくれただけでも嬉しいよ。持っていけるのなら、あげたいところなんだけどね」
「!」
ウタハの言葉を聞いた瞬間、アリスさんが勢いよく振り返る。
「汝、その言葉に一点の曇りもないと誓えるか?」
「……なんか、あの娘だいぶ喋り方が独特ですね」
思わず隣の先生へ小声で尋ねる。
"い、いろいろあってね……ははっ……"
「?」
何やら歯切れが悪い。
事情でもあるんだろうかと首を傾げていると――。
グググググッ……。
「も、持ち上がりました!」
アリスさんがその小さな体で、先ほどまで床に鎮座していた140kg超のレールガンを持ち上げていた。
「おお……」
キヴォトスには見た目からじゃ想像もつかない怪力の持ち主もいるが、この娘もそういうタイプなのか?
「えっと……これがBボタンでしょうか?」
「ま、待って……!」
ヒビキが慌てて制止しようとするが、一歩遅い。
「光よ!!」
ズドォォォォン!!
凄まじい轟音と衝撃が部室を揺らし、放たれた一撃が天井をぶち抜いた。
「わ、私たちの部室の天井がー!?」
コトリの悲鳴が響き渡る。
「見事に吹き抜けになったな」
もうもうと立ち込める煙の向こうには、青空が広がっていた。
まぁ、天井については後で頑張って直してくれ。
それよりも――。
「…………」
レールガンを抱えたままのアリスさんを見る。
すげぇなあの娘、あれだけのもんをぶっ放したってのに、撃った瞬間もほとんど体幹がブレてなかったぞ。
「アリス、この武器を装着します!」
当の本人は、すっかりレールガンが気に入ったらしい。
「……そうだね。約束だし、持っていって構わないよ」
「ウ、ウタハ先輩、いいんですか!?」
「まぁ、実戦データが取れるようになったと前向きに考えよう」
驚くコトリとは対照的に、ヒビキは早くも開き直っている。
「ありがとうございます!」
「いや、お礼にはまだ早いさ」
「え?」
「ヒビキ。処分要請されていたドローンとロボット、全機出してくれるかい?」
「……うん」
「こ、これ『簡単には武器を持っていかせない』みたいなパターン!?」
「その通りさ」
モモイさんの問いに、ウタハが不敵な笑みを浮かべる。
そんなことを言っているうちに、ヒビキが稼働させたのであろうドローンとロボットの群れが次々と姿を現した。
「先生。こっちには来ないだろうけど、念のため俺の後ろに」
"ミ、ミレニアムもなかなかに変わった場所だね"
先生が若干引きつった顔で俺の後ろへ移動する。
「治安の良し悪しはあれど、危険じゃない場所は無いよ。キヴォトスは」
ゲヘナだろうがトリニティだろうがミレニアムだろうが、程度と方向性が違うだけで大体どこかおかしい。
「俺達みたいな常識人は苦労するよね」
"ツッコミ待ちかな?"
何でさ。
***
結論から言えば、勝負はゲーム開発部の圧勝だった。
次々と襲いかかるドローンやロボットを、モモイさんとミドリさんが危なげなく迎え撃っていく。
一人一人を見れば、そこまで突出して強いわけじゃないが、双子というだけあってお互いの動きをよく分かっている。
連携すると途端に化けるタイプか。
そして何より――。
「光よ!!」
轟音と共に、スーパーノヴァから放たれた一撃が複数のロボットをまとめて吹き飛ばす。
やっぱりすげぇな、あの娘。
140kgを超えるレールガンを抱えて動き回るだけでも大したもんだが、それ以上に目を引くのは撃った時だ。
あれだけの反動を受けても、ほとんど体勢を崩していない。
単純に力が強いだけじゃない。
足腰も含めて、全身が相当に頑丈なんだろう。
見た目からは想像もつかない身体能力だ。
そうこうしているうちに最後の一機も撃破され、辺りに動いているドローンやロボットはいなくなった。
「本当にすごいね……」
「……素晴らしい」
ヒビキとウタハも素直に感嘆の声を漏らしている。
「じゃあ、これで――」
「では最後に」
終わったとばかりに声を上げたモモイさんを、ウタハが遮った。
「剣の番人たる彼に認められれば、それはアリス、君の物だよ」
ウタハが芝居がかった仕草で腕を伸ばし、俺を指さす。
「……お前なぁ」
モモイさんが俺の顔をまじまじと見つめる。
「えーーーっと……。エンジニア部のお客さんだと思ってスルーしてたけど……誰?」
「説明しましょう!」
待ってましたと言わんばかりにコトリが一歩前へ出た。
「彼の名は倉戸ケンジさん!アビドス高等学校の三年生にして、同校生徒会の会計! そしてキヴォトス全土を股にかけて活動する賞金稼ぎでもあります!」
「賞金稼ぎ!?」
「はい! 銃火器ではなく炎を自在に操るという極めて珍しい戦闘スタイルを持ち、『炎帝』の異名で知られる凄腕の賞金稼ぎです!」
「猿庭? 猿回しとかの芸を仕込むの?」
私に従え猿共……ってか?
「そうじゃなくて『
「じゃあ、
……多分元ネタ前世のあのゲームなんだろうな。
「剣を護る炎の守護者……! この人に認められることが、光の剣を入手するための最終イベントなのですね!」
アリスさんが期待に満ちた目を俺へ向ける。
そんな大層なものではなく、巻き込まれた哀れな男子生徒なのだが……。
まぁ、わざわざ水を差すこともなかろう。
乗っとくか。
「なかなかやるようだが、その『光の剣』が欲しければ、このキヴォトスの一般的男子生徒にその資格を見せてもらおう」
「「「 " ……一般的? " 」」」
なんだよ、その反応。
「嘘は言ってないぞ。現状キヴォトスの男子生徒は俺だけだから、俺が最高値であり最低値、そして平均だ」
「……後進が出てきたら、さぞ迷惑だろうね。その基準」
ウタハが呆れたように呟く。
失礼な。
「では……行きます!」
アリスさんがスーパーノヴァを構え、銃口をこちらへ向ける。
「光よ!!」
「おっと」
銃口の向きとレールガンのチャージが完了するタイミングを見て、その射線から身体をずらす。
直後、凄まじい轟音と共に光が俺の横を通り過ぎ、その先を派手に吹き飛ばした。
(怖ッ……)
この間のビナーといい、一撃で致命傷になりかねない奴の相手ばっかさせられてんな、俺……。
つーかウタハの奴、こんな威力のもんと俺を対峙させんなよ。
こと耐久力だけで見りゃ、お前らの方が上だぞ。
「あ! えっと……えっと……」
一方、攻撃を躱されたアリスさんはというと、明らかに狼狽えていた。
うーん……身体能力のわりに、戦闘経験は本当にないんだな。
初撃を躱された途端、次に何をすればいいのか分からず動きが止まっている。
まぁ、仕方ないか。
連射できる武器じゃないしな、
「じゃ、今度はこっちから行くぞ」
まぁ、様子見程度だ。
せっかくだし、さっきモモイさんが言っていたゲームのキャラっぽく――。
軽く腕を振るい、地を這うように炎を走らせる。
「わわっ!」
迫る炎を見て、アリスさんが慌てて横へ飛ぶ。
「うわっ! ホントに炎使いなの!?」
「スゴーイ!」
ギャラリーにも好評のようだ。
「ほらほら、どんどん行くぞ」
続けて何発か炎を走らせる。
「ア、アリスは回避行動を取ります!」
宣言する必要はないと思うが、本人は大真面目らしい。
右へ、左へ。
次々と迫る炎を、アリスさんは危なっかしくも躱していく。
動きに無駄が多いが、それを有り余る身体能力で補っている。
何しろ140kgを超える代物を抱えたまま走って、跳んで、それでいてこっちの攻撃を見てから避けているのだ。
反応速度もいい。
戦い方を知らないだけで、身体のスペックそのものはとんでもないぞ、この娘。
「どうした? 逃げの一手か?」
「…………」
俺の言葉に、アリスさんが足を止める。
こちらへ向き直ると、スーパーノヴァを構え――その銃口を真っ直ぐ俺へ向けた。
「……アリスは逃げません」
先ほどまでの慌てた様子はない。
「貴方に勝って光の剣を入手します! アリスは勇者です!!」
「なら、その資格を見せてもらわないとな」
軽く笑って、火球を放つ。
だが、今度のアリスさんは避けなかった。
「おっ?」
スーパーノヴァを盾のように構え、そのまま火球へ正面から突っ込んでくる。
炎の中を強引に突破して、一気に俺との距離を詰めてきた。
(避けるのをやめて、頑丈さに任せて突っ込んできたか)
「光よ!!」
スーパーノヴァに光が収束していく。
「よっと」
発射される寸前、銃身を下から蹴り上げる。
「わっ!?」
強引に逸らされた銃口が天井を向き――。
ズドォォォォン!!
再び、天井が吹き飛んだ。
「また部室の天井がーーー!?」
コトリの悲鳴が響き渡る。
……まぁ、穴が一個から二個になっただけだ。
誤差だろ、誤差。*1
「うう……クエスト失敗ですか……? レベルが足りませんでした……」
尻もちをついたまま、アリスさんがしょんぼりとうなだれる。
「いや、合格」
「え? でも……アリスは負けました……」
「条件は『番人の俺に認められること』だろ?俺に勝つことじゃない」
アリスさんの身体能力は十分に見せてもらった。
戦い方こそまだまだだが、それだってこれから覚えていけばいい。
というか、涙目で小動物のようにプルプル震えているこの娘に「ボディーがお留守だぜ」などと追撃を入れてみろ。
周囲から非難囂々である。
「だから、
そう告げてから、ウタハの方を見る。
「もちろんさ」
「……!」
アリスさんの顔が一気に明るくなる。
「クエストクリアです! パンパカパーン! アリスは『光の剣:スーパーノヴァ』を手に入れました!」
「おめでとう」
「はい! ありがとうございます、炎の番人さん!」
……その呼び名、定着しないよな?
「やったね、アリス!」
「ふぅ、とりあえずよかった」
「取っ手をもう少し補強しておこうか。アリス、ちょっとこっちに来て。ついでに担ぎやすいようベルトも付けるから」
「はい!」
アリスさんの周りに先生やゲーム開発部の二人、ヒビキとコトリが集まっていく。
その輪から少し離れたところで、俺は隣にいるウタハへ声を落とした。
「……で、どうだったんだよ?何か引っかかったから、俺をあの娘に当てたんだろ」
「…………」
さっきまでの悪戯っぽい表情が、わずかに消える。
「最低でも1トン以上と推定される握力。発射時にも一切崩れない体幹バランス。そして、肌全体を見ても傷一つ見当たらない綺麗な肉体……いや、
「……機体?」
「最初から過酷な環境下での活動を想定し、ナノマシンによる【自己修復】を前提として設計された体」
そこで一度言葉を切り、楽しそうにはしゃぐアリスさんへ視線を向ける。
「つまり、あの娘は【戦闘】を目的として造られたアンドロイドだ」
「…………」
戦闘用、ねぇ……。
その割には、さっきの動きはどうなんだ?
身体能力こそとんでもなかったが、戦い方は素人もいいところだった。
それに――先生はこのことを知ってんのか?
さっきアリスさんについて聞いた時、妙に歯切れが悪かった。
少なくとも、何かしら事情があることは知っていそうだが……。
「それで、お前は――」
これからどうするつもりだ。
そう尋ねようとした俺より先に、ウタハが口を開いた。
「やれやれ、どうにも変わった後輩が出来たものだ」
「…………」
そう言ってアリスさんを見るウタハの表情は、いつもと何も変わらなかった。
先ほど『光の剣』を手に入れた時に見せた、アリスさんの天真爛漫な笑顔を思い出す。
(……まぁ、ロボット市民なんて既に普通にいるしな。ビナーみたく暴れるわけでもないし、悪意があるようにも見えなかった。先生も事情を知った上で受け入れているみたいだし、それなら俺が気にする必要もないか)
「変わり者なんて珍しくないだろ。キヴォトスじゃ特に」
「君がそれを言うのかい? 変わり者筆頭」
「誰が変わり者筆頭だ。俺は一般的な男子生徒だぞ」
「その破綻した理屈はもう聞いたよ」
そんなことを言い合いながら、俺たちも皆の輪へと加わった。