漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ 作:場取らず
――――ミレニアム自治区・郊外
賞金首を追ってミレニアムの郊外へ。
来た。
見た。
捕まえて引き渡した。
といった感じで仕事を終え、そのままミレニアムへと向かう。
先日の光の剣入手イベントの後、あの場にいた皆でゲームをしようという流れになり、俺も混ざって色々とキヴォトスのゲームを遊ばせてもらった。
中には前世で知っているゲームを元ネタにしたらしいものもいくつかあり、その中の一つが昔かなり熱中していたゲームによく似ていた。
懐かしさもあって眺めていると、「よかったら貸そうか?」とモモイからありがたい申し出があり、その厚意に甘えることにした。
あちらもレトロゲームの愛好家が増えることは嬉しいらしい。
で、久々に遊んだところ見事に再燃。
自分用のゲーム機とゲームを購入し、借りたゲーム機を返すべくゲーム開発部の所へ向かおうとしていたところで――。
「あん? おお、『炎帝』じゃねーか。久しぶりだな」
「うぃっす」
メイド服に龍柄のスカジャンを着た、小柄で目つきの悪い少女――美甘ネルと鉢合わせした。
メイド部の部長、美甘ネル。
表向きはメイド部を名乗っているが、その実態はミレニアムのエージェント集団、
本業は秘密ということになっているものの、ミレニアムの一般生徒にも既に知れ渡っているため、学内では公然の秘密という状態――ということをウタハから聞いた。
アイツ、政治とかそういうのに無関心なのはいいが、他校の生徒の俺に教えていい情報なのか?
んで、このヤンキーメイド、どうも戦闘狂の気があるらしく、以前から俺がミレニアムを訪れるたびに何かと勝負を持ちかけられていた。
まぁ、俺が乗り気じゃなかったり逃げたりしていたので、向こうがブー垂れて終わっているのだが。
「動画見たぜ?デカブツ相手に大暴れしたらしいな」
「あれはカイザーが流した悪質なフェイク動画です」
「ハッ! それでしらばっくれてるつもりか? それとも……」
好戦的な笑みを浮かべながら、ネルが銃を構える。
「この場で確かめてやろうか?」
こうなっては仕方がない、俺は懐から財布を取り出し――。
「これで勘弁してください」
「カツアゲじゃねーよ!? しかも500円とか舐めてんのか!?」
「学校の借金が無くなっただけで、俺の懐が温かくなったわけじゃないんすよ。カンベンしてくださいよ、パイセン」
「誰がパイセンだ!
(相変わらず打てば響くな、このリトルマイルドヤンキー)
口に出したら戦争になるので、絶対に言わないが。
「ったく……相変わらずノリ悪ぃ奴だな」
「金持ちも貧乏人も、喧嘩しないに越したことはないと思うんだ」
「キヴォトスにその名を轟かす炎帝様のお言葉とは思えねーな」
「…………」
「あ? どうした?」
「さっき言ってた動画の影響なのか最近はさ、俺の姿を見るなり賞金首共が『命だけはお助けを!』って泣きながら降伏してくるんだよね……」
「お、おう」
「前までは逃げる奴、向かってくる奴で半々くらいだったんだけど、あの一件以来、即降伏が七割くらいに……」
「ほーん。しっかし、三割の連中はオメーに立ち向かう根性があるわけだ」
「いや、こっちの接近に気付いてなかったりで、こっちから奇襲かけて会話交わさず制圧してる」
「……むしろ原因それじゃねーのか?」
余計な被害を出さないよう迅速に対処しているだけなのに、どうして……。
「んで?
「いや、今日はゲーム――」
そのとき、ポケットの中でスマホが鳴った。
「ちょい失礼……」
スマホを確認する。
ヒマリからのメール。
内容は――。
「…………」
「あん? どした?」
黙ってスマホの画面をネルに見せる。
「あ? ヒマリから?…………ああん?」
《ネルと一緒に、添付した場所まで来てください。
超天才清楚系車椅子美少女ヒマリちゃんより》
「何でアイツ、俺がお前と一緒なこと把握してんの?」
「……まぁ、ふざけた奴だが『全知』の称号は伊達じゃねーってことだ。その気になりゃ、こっちの居場所なんざ筒抜けだろ。ミレニアムじゃ特にな」
つまりあれか?
事情は分からんが、アイツ俺の行動監視してたのか?
何で今日に限ってそんな……まさか俺がミレニアムに来るたびに監視してたんじゃないだろうな?
何にせよ嫌な予感しかせん……よし。
「……もうそろそろ日も暮れるし、遅い時間に男が女性のところを訪ねるのもよくないな。俺は帰るから、悪いけどヒマリによろしく言っといて――」
今度はネルのスマホが鳴った。
「……ホレ」
《引き摺ってでも連れてきてください。
可憐で弱々しく、清楚で病弱な一輪の花 ヒマリちゃんより》
「清楚な乙女はそんな強硬策とらねーんだよ」
「ウダウダ言ってねーで、とっとと行くぞ。それともマジで引き摺ってやろうか?」
「……わーったよ。遅くなるかな? それならメシ買っていきたいんだけど……」
「だからとっとと行くって言って……『軽くつまめる軽食と甘い系のお菓子買ってきてください』ってメッセージ来たわ……」
もう電話して来いよ……。
***
途中のスーパーで頼まれた物と自分たちの夕飯を買い込み、ヒマリから指定された場所へ向かう。
案内されたのは、ミレニアムの一角にひっそりと設けられた部屋だった。
外から見ただけでは何の部屋か分からないが、中に入ってみれば複数のモニターやら端末やらが並んでいる。
……秘密基地?
「ようこそ、お二人とも。飲み物はそちらにありますので、ネル。私はコーヒーをお願いします」
「あたしが用意すんのかよ!」
そう文句を言いながらも手を動かしてるのは、流石メイド部部長といったところか。
「んで? 何の用で俺達を呼んだんだ? まさか買い物とコーヒー淹れさせるために呼んだわけじゃないだろ?」
「もしそうだったら
コーヒーを淹れながらネルが言う。
「ええ。実はこれからゲーム開発部がヴェリタス、エンジニア部と組んで、セミナーを襲撃する手筈になっていまして」
「「は?」」
「セミナーの方には私から襲撃の件を伝えていまして、C&Cに警護任務を依頼して迎え撃つよう仕向けました」
「「 ??? 」」
何言ってんだ、この黙ってれば深窓の病弱天才美少女。
「何で
「警護依頼なんて、あたし聞いてねーぞ?」
「では、最初から説明しましょう」
まとめると、前回のアリス加入でゲーム開発部は無事に廃部回避……とはならず、成果物の提出が必須事項という新たな決まりを、部長会議をすっぽかしていたせいで知らなかったらしい。
そのため、ミレニアムの一大コンテスト「ミレニアムプライス」にゲームを出品し、そこで評価を得ることになったとのこと。
で、そのゲーム作りのため、ミレニアムの伝説的ゲームクリエイターが書き残したとされる神ゲーマニュアル「G.Bible」を入手。
そこまでは良かったものの、肝心の中身にはパスワードロックが掛かっており、解除するにはヒマリの作ったハッキングツール"Optimums Mirror System"――通称「鏡」が必要。
問題は、その「鏡」がセミナーに没収されてしまっていること。
そこで奪回作戦を……という流れらしい。
………RPGのおつかいイベか?
「で、何で襲撃する側の
「つーか、そこまで状況把握してんなら、お前がそのG.Bibleのロック解除を手伝ってやりゃいいじゃん。何でこんな大事にしてんだよ?」
「G.Bibleの情報をゲーム開発部に教えたのも私。そして解析のためにヴェリタスを頼らせ、『鏡』が必要だと知った彼女たちが、その奪還に動くよう仕向けたのも――
「……私達? お前以外にも誰か噛んでんのか?」
チヒロ……は絶対違うな。
あいつはこういうの、絶対に止める側だし。
「……リオのやつか。仲が悪いお前らが一緒になって、何企んでやがる」
「それほどの重大な問題だと思っていただければ」
「後輩焚き付けてセミナー襲撃させる方がよっぽど問題だろーが。
リオって、ミレニアムの生徒会長――調月リオだよな?
面識はないが、前々から何かにつけてヒマリが彼女をディスっているのは知っていた。
それだけなら単に馬が合わないんだろうと流すところなのだが。
(チヒロも警戒してんのが引っかかるんだよな……)
奇人変人揃いのミレニアムにおける数少ない常識人。
そんなチヒロまで警戒しているというのが、少し気にはなっていた。
外から見ている分には、何か問題があるようには見えないのだが……。
「なぁ、その生徒会長ってのはどういう人なんだ?」
調月リオをよく知っていそうなネルに聞いてみる。
「
「失礼な! 澄みきった純正なミネラルウォーターのようなこの私と、あんな濁りきった道頓堀の如き陰気な女を同列にしないでください!」
とりあえず、キヴォトスにも道頓堀があることは分かった。
「で? その襲撃の件と、俺達をここに呼んだのはどういう関係なんだ?」
「簡単なことです。お二人には、これから始まる争奪戦を私と一緒に見届けていただきます」
「……見るだけ?」
「それだけのために引き摺ってでも連れて来いっつったのかよ」
「ええ。お菓子も必要でしたので」
「そっちが本命じゃねーだろうな?」
「あなた方が参戦すると、戦力比が偏るんですよ。ネルが警護側にいると知れば、そもそも彼女たちが襲撃に踏み切るかも怪しいでしょうし。ケンジさんが襲撃側に加わるとワンサイドゲームになりかねない。かといって、お二人とも参戦させると少々被害が……*2」
「はぁ? んだそりゃ」
「俺、参加させられるの確定なの? 一応アビドスの生徒会会計なんだけど……。そもそも普段から、他校の内情に首突っ込むようなことは避けてるんだが」
「ケンジさん、今まで何回エンジニア部の実験に巻き込まれました? モモイもケンジさんが来たら助けを求めてすがってくるでしょうが、NOと言えます?」
「…………」
あー、
そして
前回会ったばかりだが、ありありとその光景が目に浮かぶ。
「ちなみに先生は巻き込まれ、説得を試みるも泣きつかれて陥落しました」
(先生……アビドスでは銀行強盗に巻き込まれ、ミレニアムではセミナー襲撃か……)
ご愁傷様……。
他の自治区に行ったら何させられるやら……。
「お二人が揃っていたのは偶然ですが、お陰で手間が省けましたね」
「ハッ! 相変わらず回りくどい手を使う奴らだな。あたしがその提案断って、このまま向こうに合流するっつったらどうすんだ?」
「その場合は仕方ありません。ケンジさん、止めてください」
「お前ら人を何だと思ってんだよ……」
「へぇ……」
ネルがニヤリと笑う。
「リオやヒマリの悪巧みにゃ正直興味ねーが……オメ―と
「俺は面白くねぇよ」
好戦的で、戦闘を価値観の基本に置くような戦闘民族じゃないんだよ、俺は。
とはいえ、このまま行かせるわけにも……。
どうするか考えを巡らせていると、一計が浮かんだ。
文明人としての矜持を見せてやろう。
「仕方ねぇな……」
俺はゆっくりと動く。
「お! 珍しくやる気になったか」
ネルが好戦的な笑みを浮かべる。
「おっしゃ! 表に出な。久々に面白そうな喧嘩が――」
「ホレ」
盛り上がっているネルに、あるものを投げる。
「あ? んだこりゃ?……携帯ゲーム機?」
「構えろ。ゲーム勝負といこう」
「…………はぁ!?」
そっちは興に乗っているようだが、こっちは全くだ。
お前の得意ではやってやらん。
「ふざけんな! 誰がそんなもん――」
「え、逃げんすか?」
「あ?」
「あんだけ普段強気な発言しといて、自分が不利な土俵となったら勝負から降りる――そんなダセェ真似、まさかしないっすよね? パイセン」
「当然ですよ、ケンジさん。ミレニアムが誇る最強の実力者、約束された勝利の象徴たるコールサイン『
ヒマリが援護射撃――じゃねぇな。
完全に悪ノリで言ってやがる。
「てんめぇら……」
ネルの額に青筋が浮かぶ。
「……上等だ。そこまで言われて引き下がれっか! 一回だ! 一回だけだからな!」
「流石パイセン」
「パイセン言うな!!」
「では、こちらのモニターに画面を映しますね。大きい方が見やすいでしょう」
ヒマリは手際よく接続を済ませていく。
良い空気吸ってんな、コイツ。
ゲームが起動し、画面にタイトルが映る。
「『大鏖殺 スナッフシスターズ』? どういうゲームだよ」
「相手をステージの外へふっとばす対戦アクションゲームだ。いろんなキャラがいるぞ」
「要するに相手をブッ飛ばしゃ勝ちってことか?」
「だいたい合ってる」
「なら簡単じゃねぇか、とっとと始めて……おい! 何でCPU戦選んでんだよ!」
「お前このゲームやったことないだろ? キャラも多いし、操作方法覚えながら手に馴染むキャラ探してから勝負した方がフェアだろ」
「変なところで律儀ですねぇ」
「チッ! 余計な気回しやがって……とりあえず見た目が気に入った奴を……」
勝負はフェアに――というわけではない。
このゲームをやっていない初心者のネルと、前世を含めれば相当やり込んでいる俺とでは、実力差は明らか。
ここで俺が圧勝。
ネルがブチギレ。
そのままリアルファイトへ移行。
……容易に想像できる。
それでは何のためにゲームを持ち出したのか分からない。
適当な理由をつけて練習させつつ、時間を稼ぐのだ。
俺は持ちキャラである、赤い野球帽がトレードマークで血の付いたベコベコの金属バットを持つエスパーのお姉さんを選択。
ネルも見た目が気に入ったキャラを選び、まずはCPU戦を始めた。
***
「オラッ! 終いだ!」
CPUにメテオスマッシュを決めたネルが、ガッツポーズをとる。
「おー、やるじゃん」
「キリがいいところで終わりましたね。あちらも始まりましたよ」
ヒマリの言葉に、俺達はモニターへ視線を向ける。
「チッ、結局お前らに乗せられただけかよ」
「仕向けといてなんだが、案外素直に引き下がるのな」
「すっかりそんな気も失せちまったよ。それに、あいつらもあたしがいないの承知で護衛依頼を引き受けたんだろ? なら任せるさ」
ネルはそう言って、モニターへ目を向ける。
「むしろ、あたしが不在なのを理由に断ってたらヤキ入れてやるくらいだ。まぁ、情けねぇ仕事するようなら根性叩き直してやるがな」
うーん、信頼の仕方が体育会系。
ビッグシスター「流石にアビドスの倉戸ケンジとネルが戦闘した場合、被害額が無視できないわね……。(私も資金を横領してるし)ユウカの負担を減らすためにも、あの二人は盤外に置きましょう」
全知「気の使い方がもっとこう……あるでしょう!!」