漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ 作:場取らず
あちらの状況を見てみると、アリスがエレベーターの指紋認証システムを突破するため扉を撃ち破り、セミナーに確保されていた。
「あれ? アリス捕まってんじゃん。あの娘のこと調べたくて、こんな騒動起こしたんじゃないのかよ」
こんな騒ぎを起こす理由なんて、あの娘くらいしか思い当たらなかったんだが。
「あ? あのチビが目当て? てか、何でお前そんなこと知ってんだよ」
「前に来た時に知り合ってな。ウタハ曰く『戦闘を目的としたアンドロイド』だそうだ」
「アンドロイドォ? 見た目じゃ人間と区別つかねぇのは珍しいが……」
「まぁ、ウタハなら気づいていても不思議ではありませんか……。できれば内緒にしておいてほしかったのですが……」
「ここまで大勢の人巻き込んで、何を調べるってんだよ……。ビナーみたいな……えーっと、デカグラマトンだっけ? あれと同種の奴なのか?この前相対したときにはそんな気はしなかったが……」
「いえ、それとはまた別です。はっきりとは言えないのですが……私達も手探りで、あの娘の真価を見極めている最中なのです」
……それにしたって周囲を巻き込みすぎなうえ、不確定要素も多すぎでは?
「んで? なんか御大層なこと言ってた割には、何の策もなしにやけっぱちの玉砕で終わりか?」
モニターの向こうで警備に連れていかれるアリスを見ながらネルが呆れたように言う。
「いえ、これもあの子たちの作戦の内ですよ。詳しいことはお楽しみということで、続きを見守りましょう」
「なら今のうちに、買ってきた飯食っててもいい?」
「ええ、どうぞ。電子レンジはそちらにありますので、必要でしたら」
「お、ありがと」
「……緊張感ねぇなぁ、おい」
***
買ってきた飯を食べ終え、再びモニターへ目を向けていると、向こうにも動きがあった。
今度は才羽姉妹と先生が、例の保管庫へと向かっているらしい。
セミナー側もその動きは掴んでいるようで、迎撃のためC&Cのアカネが直々に向かっている。
……のだが。
「……なんでマキとコトリのところに向かってるんだ?」
モニターに映っている位置関係を見る限り、アカネが向かっている先にいるのは才羽姉妹ではない。
先に協力者を各個撃破するつもりなのだろうか?
「ふふっ。こういうことですよ」
そう言って、ヒマリが手元の端末を操作する。
「……マキとコトリが才羽姉妹に?」
画面の中では、先ほどまで映っていた才羽姉妹の姿がマキとコトリへと変わっている。
それどころか、先ほどまで確かに映っていたはずのアカネの姿もない。
「今ご覧になっているのは、セミナー側の監視カメラに送られている映像です。システムへ侵入し、あらかじめ用意していた録画映像を流していたようですね」
「つまり、アカネは偽物の映像に釣られたってことか」
その間にも、本物の才羽姉妹と先生は保管庫のあるフロアへ続くエレベーターへと向かっていく。
さらにアカネのいるフロアでは、シャッターが降ろされていった。
「へぇ。あいつら、アカネを閉じ込めやがったのか」
ネルが感心したように口笛を吹く。
そして才羽姉妹と先生は、そのままエレベーターへ乗り込んだ。
「……ん?」
そこでネルが眉をひそめる。
「何でアイツら、あのエレベーター動かせたんだ? あれ、セミナーの連中とか限られた奴の指紋認証がなきゃ動かねーはずだぞ」
「ああ、それなら先ほどのアリスちゃんの行動のおかげですね」
「アリスの?」
「ええ。アリスちゃんは指紋認証を突破するため、エレベーターの扉そのものを破壊しました。あそこまで壊されてしまえば、セキュリティシステムごと交換するしかありません」
さっき捕まったの、ただ無策に突っ込んだわけじゃなかったのか。
「とはいえ、今回の襲撃にはエンジニア部も加担しています。セミナーとしても、いつものエンジニア部製システムをそのまま使うわけにはいかなかったのでしょう。今回は別の製品を選んだつもりだったようですが……」
ヒマリが楽しそうに笑う。
「その交換用システムも、エンジニア部が偽名で登録していた製品だったようですね」
「そこまで仕込んでたのかよ。アリスが扉を壊したところから全部予定通りってわけか」
「……随分と回りくどいことしやがる」
ネルはそう言いながらも、どこか楽しそうだった。
***
途中、警備との偶発的な遭遇はあったものの、才羽姉妹と先生は生徒会専用フロアを順調に進んでいく。
そして保管庫まであと少しというところで、破砕音と共に才羽姉妹のすぐ傍の壁が大きく抉れた。
「狙撃?」
咄嗟に身を隠す二人を見て、ネルが鼻を鳴らす。
「カリンの奴だな。壁に隠れたところで、アイツの49mm弾の前じゃ紙切れ同然だ」
「人に対して使う武器じゃないと思うんだがなぁ……対戦車ライフルは」
毎度思うが、あれの直撃を食らっても最悪気絶で済むキヴォトス人の耐久力はどうかしてる。
こっちは呪力で強化してなきゃ、文字通り身体が吹き飛ぶんだぞ。
モニターの向こうでは、カリンの狙撃によって進路を塞がれた才羽姉妹が、迂闊に顔を出せず足止めされていた。
「正面から抜けるのは厳しそうだな」
「そりゃそうだ。アイツの射線に入った時点で、普通なら終わりだぜ」
後輩の腕前を語るネルの口調には、隠す気もない自信が滲んでいる。
「さて、あの二人はどう切り抜けるつもり――ん?」
モニターの端に、カリンへと近づいていく何者かの姿が映る。
「ウタハと……」
隣にいるのは、人型には程遠い無骨な機械。
「んだありゃ? エンジニア部が作ったロボットか?」
「全ての天候に対応可能な二足歩行型戦闘用の『椅子』なんだとよ」
「……椅子? あのセントリーガンもどきが?」
「雷の玉座って名前らしいぞ。ウタハは『雷ちゃん』って呼んでたな……」
「いい椅子ですよね、雷ちゃん。流石はウタハです」
ヒマリが感心したように頷く。
車椅子繋がりなのか、椅子には一家言あるらしい。
「……頭のいい連中の考えることは分からん」
「同感だ」
俺とネルの意見が、綺麗に一致した。
そのウタハwith雷ちゃんだが、カリンの狙撃をまともに受けた雷ちゃんが派手にひっくり返った。
仰向けになったまま、二本の脚をばたばたと動かしている。
「……あ? んだよ、あの……自称椅子に自信があったからカリンの前に出てきたんじゃねーのか?」
「俺もそう思ってたんだが……。ウタハも別に戦闘が強いわけじゃないし……」
てっきり雷ちゃんの火力か装甲で、カリンをどうにかするつもりなのだと思っていた。
だが、直後にカリンの周囲で爆発が巻き起こる。
「……どっから撃ってんだ?」
「これ曲射砲か?」
「ええ。ヒビキがミレニアムタワーの向こう側から砲撃していますね」
ヒマリが答える。
「カリンからは見えねぇ場所から撃ってんのかよ」
どうやらウタハと雷ちゃんは、カリンの意識を引きつけるための囮だったらしい。
砲撃を受け、さすがのカリンも狙撃を続ける余裕はなくなった。
その隙を逃さず、足止めされていた才羽姉妹と先生が再び走り出す。
***
そして一行は、ついに保管庫の前へ辿り着く。
だが当然、そこまで簡単に通してくれるはずもなく、扉の前にはC&Cのナンバー2―― 一ノ瀬アスナが立ちはだかっていた。
「まぁ、最終防衛ラインに人員を配置するのは当然だわな」
「いや、あいつの場合はそんなんじゃねぇ。単に直感で動いた末に、たまたまあそこに辿り着いただけだ」
ネルが即座に否定する。
「……勘?」
「そういうやつなんだよ、アイツは」
程なくして戦闘が始まった。
アスナの高い戦闘能力を前に、才羽姉妹は徐々に追い詰められていく。
それでも二人は互いに援護し合いながら、どうにか食らいついていた。
「へぇ……アスナ相手に食い下がるじゃねーか。並の奴なら、とっくに決着ついてたぜ」
ネルが感心したように呟く。
「あの双子、二人で組んだ時の動きは悪くねぇ。けど、それ以上に――」
そこでネルの視線が、二人の後方にいる先生へ向いた。
「いちいち判断がいいと思ってたが……指揮してる奴の力か。先生、つったか?」
「指揮能力はピカイチだぞ。体験済みだ」
「面白そうだな。興味が湧いてきたぜ」
アスナ一人を相手にするだけでも、すでにギリギリの戦況。
だが、そこへさらに轟音と共に、才羽姉妹のすぐ傍を弾丸が掠めた。
「カリンも戻ったか」
別のモニターへ目を向ける。
先ほどまで砲撃を受けていたはずのカリンが、倒れたウタハの傍らで再びライフルのスコープを覗き込んでいた。
ヒビキも砲撃を続けたいところだろうが、あの位置ではウタハまで巻き込んでしまう。
「あの砲煙で視界を塞がれても、しっかり相手を捉えるか」
便利屋のアルもそうだったが、上澄みのスナイパー連中は目眩まし程度じゃ妨害にもならんな……。
「ま、あれくらいはできて当然だろ」
そして、悪い知らせはそれだけではなかった。
別の画面で、アカネを閉じ込めていたシャッターが爆ぜる。
爆煙の向こうから、アカネが悠々と姿を現した。
「……おいおい、力ずくで出てきたぞ」
「あいつ、あたしのこと『暴れすぎ』だの『周囲を破壊しすぎ』だの言ってっけど、あいつも大概だよなー」
「ユウカが毎回、C&Cの『お掃除』の結果を見て頭を抱えていますからねぇ」
「あの会計が細けぇ事気にしすぎなんだよ」
「お前らさぁ……」
こちとら能力が能力なだけに、周囲への被害には細心の注意を払っているというのに、この頭キヴォトス共は……。
損害賠償なんてことになっても払えるだけの金は無いんだよ、
「そういう意味では、ケンジさんはユウカからの評価が高いですよ」
「え? 何で?」
シャーレの部室奪還時が初対面だし、その後も特に交流した覚えはないのだが……。
「ケンジさんがいる時といない時では、エンジニア部が実験で出す被害総額が天と地ほど違うそうで」
「……差額分、請求してもいい?」
もうミレニアムから完全に安全装置代わりとして認識されてんじゃねーか。
その時、モニターに一瞬だけ激しいノイズが走った。
「ん? どうしたんだ、今の。機材トラブルか?」
「いえ。向こうでハレがEMPを作動させた影響ですね。現在、ミレニアムタワーの電力が遮断されています」
「そこまですんのかよ」
ネルが呆れたように言いながら、モニターへ視線を戻す。
「増援の到着を遅らせることくらいはできるだろーが、アスナをどうにかしねぇ限り状況は変わらねぇぜ?」
ネルの言う通りだ。
確かに電力を落としたことで、セミナー側の対応を多少は遅らせられるだろう。
だが、目の前にいるアスナは健在。
才羽姉妹は相変わらず押され続け、突破口を見つけられないでいる。
それどころか別の通路から、大量の警備ロボを引き連れたユウカさんが姿を現し、そのまま後方を塞ぐように展開していく。
さらに別方向からは、アカネまで合流してくる。
「前にアスナ、後ろにユウカさんと警備ロボか」
「で、トドメにアカネまで来た、と」
完全に包囲されたな。
詰んだかな、これは。
そう思った直後、モニターの画面が突如として眩い光に埋め尽くされた。
「っ! 今のは……」
凄まじい破砕音が響く。
やがて爆発の煙が晴れていくと、警備ロボの半数近くが破壊され、アスナまで床に倒れていた。
「アリスのスーパーノヴァ? 捕まってたんじゃ……」
「ああ、それなら先ほどの停電ですね。反省室の電子ロックも解除され、それでアリスちゃんは外へ出られたのでしょう」
「じゃあ、EMPは最初からアリスを逃がすためでもあったのか」
「ええ。本来なら、そのまま彼女一人で保管庫へ向かい、鏡を奪取する――というのが当初の計画だったのですが……」
ヒマリがモニターの中のアリスを見て、小さく笑う。
「ふふっ。仲間の救助を優先しましたか」
予定外の行動だというのに、どこか嬉しそうな口調だった。
「とんでもねぇ威力だな、あのバカみたいにデケェ武器。アスナの奴、ありゃしばらく動けねーな」
ネルが倒れたアスナを見ながら感心したように言う。
「……あん? そういやカリンからの狙撃、止まってねーか?」
「あ、ホントだ」
カリン側を映しているモニターへ目を向ける。
「……閃光弾?」
ビルの屋上が、断続的な強烈な光に照らされていた。
どうやらヒビキが砲撃を閃光弾へ切り替えたらしい。
「あれじゃまともに見えやしないな。下手に撃ちゃ味方に当たる」
ネルの言う通り、これではカリンも迂闊に引き金を引けない。
少なくとも、狙撃は完全に封じられたようだ。
一方、正面では残った警備ロボとアカネが、アリスの加わったゲーム開発部を迎え撃つ。
だが、さっきまでとは明らかに流れが違った。
アリスの火力が加わったことで正面からの圧力が一気に増し、そこへ先生の指示が飛ぶ。
「完全に流れ持ってかれたな」
ネルが呟く。
先生の指揮で一度掴んだ主導権を手放さず、そのまま残った警備ロボを撃破。
最後まで食い下がっていたアカネも、ついに膝をついた。
こうしてゲーム開発部と先生は窮地を切り抜け、ついに目的の保管庫へと辿り着いた。
「……うちの連中から逃げ切りやがったか。やるじゃねぇか」
ネルが楽しそうに笑う。
感心しているのは間違いないんだろうが――。
(獲物を見つけたような笑顔してんなー)
ロックオンされたか?
***
その後、無事に【鏡】を手に入れた一行だったが、すぐに何かに気づいて身を隠した。
こちらのモニターにも、保管庫へ向かって進む複数の反応が映る。
「誰か近づいてきてるな。結構な数だ」
「ありゃ保安部の連中だな。戦って勝てねぇこたぁねぇだろうが、もたもたしてっと増援が来る。アスナやアカネも、そのうち復帰してくんぞ」
「一難去ってまた一難……ん?」
保安部へ近づいていく、小さな人影が見えた。
「あれは……」
見覚えがある。
ゲーム開発部の部長――花岡ユズだ。
「あん? あのでこもゲーム開発部か?」
「あぁ……ただ、対人恐怖症レベルの人見知りだから、今回の襲撃には参加してないと思ってたんだが……」
前にみんなでゲームをした時も、しばらくはロッカーに引きこもりっぱなしで、モモイ達に引っ張り出されて、ようやく姿を見せたくらいだ。
もっともゲームの腕前は、とんでもなかったが。
前に会った時の様子を思い返す限り、とてもじゃないが武装した集団相手に堂々と話しかけられるタイプには見えなかった……のだが。
モニターの向こうで、ユズは多少言葉を詰まらせながらも保安部の生徒達へ何かを訴えている。
どうやら「戦闘ロボが暴走したので救援をお願いしたい」と説明しているらしい。
最初こそ訝しげだった保安部の生徒達も、やがてユズの言葉を信じたのか、そのままフロアから離れていった。
顔色はだいぶ悪かったが、かえってそれが話の信憑性を増していたのかもしれない。
少なくとも、演技には見えなかったのだろう。
実際、半分くらい本気で具合悪そうだったし。
「度胸あんじゃねぇか。武器や経験なんかより、戦闘で一番大事なもんだぜ」
「……ゲーム好きの優しい性格の娘だからな?勝手にそっち側の人間として品定めするのはやめたげて?」
まぁ、何だかんだで今回の襲撃には参加してるんだけど。
ともあれ、これでゲーム開発部一行は無事【鏡】の奪取に成功したわけだが――。
「……なぁ」
ふと、根本的な疑問が浮かぶ。
「あの娘達の最終目的って、ミレニアムプライスでの入賞なんだよな?」
「ええ、そうですね」
「鏡の奪取に成功したところで、犯人だってバレてんだろ?この後、普通に捕まるんじゃねぇのか?」
作品の提出期限だって、もうそれほど残っていないはずだ。
ミレニアムの罰則がどんなものかは知らないが、まさか逃げ切ったからお咎めなし、なんてことにはならないだろう。
「ああ、その点でしたらご安心を。今回の一件は、『極秘で行われた緊急事態発生時の対応訓練だった』ということで処理されますので」
ヒマリはさらりと言う。
「…………」
今なんか、とんでもなく都合のいい言葉が聞こえたぞ。
「鏡についても、用が済み次第セミナーへ返却するよう、私からヴェリタスの子達へ伝えておきます」
「……ああ、だからか」
ネルが手元の端末へ目を落とす。
「今リオから『依頼は撤回。今回の件はなかったことに』って連絡が来たぞ」
つまり、セミナー会長公認で丸ごと揉み消す気らしい。
まぁ、他ならぬミレニアムの生徒会長がそう言うのなら、部外者の俺が口を挟むことでもないが……。
いいのか? それで。
―――― 一週間ほど後・ミレニアムエンジニア部部室
頼んでいた車の整備が終わったとの連絡を受け、引き取りのため再びミレニアムを訪れていた。
「よう。ミレニアムプライス入賞おめでとう」
ウタハの作品は7位に入賞していた。
……何で光学迷彩下着なんて作ったのかについては、触れないでおこう。
「ありがとう。そうだ、君のインナーやバンダナにも同じ機能を追加しようか?」
「どこに置いたか分かんなくなりそうだからやめとく」
光学迷彩には興味があるが。
「そういや、ゲーム開発部も特別賞を受賞してたな。廃部は免れたんだろ? 後でお祝い言いに顔出しに行くよ」
ゲーム開発部の新作――『
俺もプレイさせてもらったが、これがなかなかどうして面白い。
気づけば結構な時間、熱中して遊んでしまった。
普段あまりゲームをしない
「ああ、そうしてあげるといい。今日はコトリやマキ達と一緒にバケモン*1をやると言っていたよ」
「ああ、そういや新作出るんだったな」
確か『飢餓/疫病』だったか。
まぁ、何はともあれ一件落着で良いのか?
先生にも、後で労いの言葉をかけるとしよう。
「あ、そうそう。スモモ機能、車に搭載しておいたよ」
「それこそ光学迷彩搭載してくれよ」
ケンジが鏡争奪戦でやった事。
友達ん所でゲームして飯食って、実況見ながらだべってた。