漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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5話

「うわぁ、すっげぇ…」

 

と、思わず声を漏らす。

近未来的なビル群、主要施設間を移動するモノレール、視線を中央に向ければ、ひときわ異彩を放つ超高層ビル――ミレニアムタワーがそびえ立っている。

そして何より圧倒されるのは、人の多さと活気だ。

研究者らしき生徒、工具箱を抱えたまま談笑する集団、どこかで警告音が鳴ったかと思えば、誰も気にした様子もなく通り過ぎていく。

 

(これがキヴォトス三大学園の一角…ミレニアムか)

 

 

 

~~~ 数日前 ~~~

 

「防具ですか」

 

無事(?)に生徒会入りを果たし、放課後の生徒会の仕事も一段落した後の雑談タイム。

俺は銃弾対策として何か防具を買おうかと考えていることを、二人に話していた。

 

(前世でも馴染みがなかったからな……ホシノが普通に防弾チョッキ着てるのを見るまで、そもそもその発想自体なかった。っていうか、制服の上に防弾チョッキ着るって概念がなかった)

 

ちなみにだが生徒会所属後、先輩から「ユメって呼んでね」と言われたため、俺は二人の事を名前呼びするようにした。

どうやらこちら(キヴォトス)では名前呼びが主流らしい。

 

「うん。ホシノが着てるみたいな防弾チョッキや後、頭部を守るヘルメットとか考えてるんだ。」

 

デフォルトで呪力強化でもされているかのような耐久力を持つキヴォトス人と違い、不意の一撃で即死しかねない俺にとって、防御力は文字通りの生命線だ。

特に頭部。

頭さえ無事なら、反転術式でどうにか持ちこたえることもできる。

 

「…ヘルメットですか」

 

そう呟いたホシノが、ほんの一瞬だけだが、目を細めた。

さっきまでの雰囲気とは違う、微妙に険しい表情。

気になって理由を訊ねると、ホシノは少し困ったように説明してくれた。

このキヴォトスには、『ヘルメット団』と呼ばれる武装不良集団がいるらしい。

しかも「カクカク」だの、「デコボコ」だの、名前の前に妙な擬音が付いた派閥がいくつも存在しているとのこと。

 

(そーいや、最初に遭遇した不良の片割れもヘルメットしてたな。不良の定番装備なのか?)

 

ホシノは「まぁ、ケンジには必要でしょうね」っと言ってくれたが、

弱小校とはいえ生徒会所属の人物が、不良と誤解されそうな格好をするのはいかがなものかと。

それに、砂漠でヘルメット着用は正直辛そうと思っていたので、どうしようか悩んでしまう。

 

「それならミレニアムにいくといいかもね!」

 

ユメ先輩が、ぱっと明るい声で言った。

曰く、キヴォトスの最先端、最新鋭技術の多くを開発しており、新興勢力にもかかわらず、キヴォトス三大学園の一つとなるほど影響力を持つ学園との事。

 

「向こうなら選択肢が多いと思うよ。普通の市販品より、ずっと融通も利くし」

 

確かにそれならアビドス周辺で探すより、技術の本場に行った方が話は早そうだ。

 

「なるほど…それなら次の休日に行ってこようかな…」

 

「迷子にならないでくださいよ」

 

と、ホシノが涼しい顔で釘を刺してくる。

 

「えー?じゃあ、お姉さんがついて行ってあげようか?」

 

ユメ先輩はユメ先輩で、いつもの調子だ。

からかわれつつも、俺は内心で次の休日の予定を組み立て始めていた。

 

~~~~~~

 

(シャインタウン、スクランブルシティ、春葉原…なんか前世と似たようなスポットがあるな…)

 

聞き覚えのある地名に、思わずそんな感想が浮かぶ。

とはいえ、感傷に浸っている余裕はない。

きょろきょろと視線を彷徨わせ、立ち止まっては首を動かし、完全に「田舎から出てきたおのぼりさん」といった挙動で、最新技術のショーケースみたいな街並みに圧倒され続けていた。

そうしてようやく、事前に下調べしておいたいくつかのショップを見て回った。

 

 

 

 

(うーーーん、決められん…)

 

いろいろと店を見て回ったものの、結局のところ俺には大した装備知識などない。

商品を見ても何か凄そうなのはわかるのだが、

 

(多機能、可変、AI補助……いや、情報量が多い)

 

説明文を読むたびに、頭の中がどんどん散らかっていく。

 

(やっぱり、変にアレコレ機能が付いてるより、どシンプルに防弾チョッキとヘルメットを買うべきじゃないか?)

 

そんな結論めいたものを出しかけたところで、特に目的もなく、なんとなく入ったショッピングモール内をぶらぶらと歩いていると、ふと、周囲とは明らかに雰囲気の違う店舗が目に入った。

小さなスペース、派手なホログラムも、自己主張の激しい広告もない、装飾も皆無だ。

並んでいる商品も少数で、しかも統一感がなくバラバラ。

そして、店内にいる店員は一人だけ。

俺と同年代くらいに見える少女が、店内で簡易椅子にぽつんと座っていた。

 

興味をひかれて、俺はその店へと歩を進めた。

店の前に来ると少女もこちらに気づいて顔を上げる。

 

「やぁ、いらっしゃい。…ヘイローのない――それも男子生徒とは珍しいね。よかったら、見ていってよ」

 

一瞬だけ人間の男子()に驚いたような視線を向けつつも、フランクに話しかけてくる。

誘われるまま店内に入り商品を見渡すが、やはり商品に統一感はなく、陳列も雑然としている。

防具らしきプレートの隣に、用途不明の球体パーツ。ケーブルが露出したままの装置や、どう見ても日用品には見えない金属塊。

そもそも何に使うのかさえ判然としない物も多く、ショップというより、実験室の一角をそのまま切り取ってきたような印象だ。

 

流石に気になって、この店が何なのかを尋ねてみる。

彼女の名は『白石ウタハ』

ミレニアムサイエンススクール一年生で、エンジニア部所属。

ここに並んでいる商品は、すべて彼女自身が制作したものらしい。

ただし、完成度に納得がいかなかったため正式採用には至らず、かといって倉庫の肥やしにするのも忍びない。

そこでフリーマーケット感覚で売りに出している、というわけだ。

 

なぜこんなところで店を出しているのかというと、

ウタハの所属するエンジニア部は、ミレニアム校内に留まらず、キヴォトス広域で機械施設の保守点検や修理を請け負っているらしい。

このショッピングモールもその業務先の一つで、施設のオーナーの好意でたまたま空いていた小スペースを借り、こうして商品を並べているのだという。

 

「で、君は何を探してるんだい?」

 

ウタハからそう話を振られ、俺は正直に事情を説明した。

防具を探していること。

一通り見て回ったものの、知識不足もあって決め手に欠けていること。

 

「ふむ……なるほど…ならば、これはどうだい?」

 

そう言って差し出されたのは、反物のように円筒状に巻かれた布だった。

受け取って広げてみる。

見た目は至って普通。色も地味で、模様もない。強いて言えば手触りがいい位か。

 

「?…これは?」

 

思わず首を傾げる俺に、ウタハの目がわずかに輝いた。

 

「それは私が開発した特殊繊維だよ!」

 

一気に饒舌になる。

 

「防弾、防刃、衝撃吸収はもちろん、耐火性能も備えている。それでいて通気性と着心地にも徹底的にこだわった逸品さ。耐水性も万全でね、一般家庭用の洗濯機で洗っても性能は落ちない!」

 

と、胸を張るウタハ。

 

「……布、だよな?」

 

「そう、布だ!硬い装甲に頼るのは、発想としては悪くない。でもね、それだと可動性や快適性を犠牲にしがちだ。その改善を目指して出来上がったのがそれさ」

 

その言葉に、思わず布をもう一度見下ろす。

 

(見た目ただの布だよなぁ…)

 

「どのくらい防げるんだ?」

 

「そうだね…ライフル弾がギリギリかな?正確には貫通はしないけど、衝撃は来るくらいだね。まあ、人体側の耐久力にもよるけど、でも、防弾チョッキよりは軽いし、蒸れないし、動きやすい。何より着ていることを意識しなくて済むのが売りだよ」

 

(十分すぎる…これなら頭もバンダナみたいに巻けばOKだし…でも…)

 

「聞いてる分には申し分ないんだが、いったい何が気に入らなかったんだ?」

 

「ああ、それはね、自爆機能の搭載がどうしても出来なくてさ」

 

「成程、自爆機能ね……自爆機能?」

 

「うん」

 

俺は手に持った布に視線を向ける。

 

「これ防具…身を守る目的で作ったんだよな?」

 

「ああ。それで間違いないよ」

 

「それに自爆機能つけようとしたの?」

 

「うん」

 

「何で?」

 

「ロマンだからさ!」

 

曇りのない純粋無垢な幼子のような瞳でウタハはっきりと言ってのけた。

 

「……そっか」

 

『優秀だけど、ちょっと拘りが強い変わった子』程度に思っていたがどうやら、『優秀な狂人』だったらしい。

 

(まぁ、今回に限って言えば俺にとっては僥倖か)

 

多少、いやだいぶ引っかかる部分はあったが。性能自体は文句なし。

自爆装置非搭載は、俺にとってはむしろメリット。

 

「じゃあ、それを買うよ」

 

そう言うと、ウタハは満足そうに笑った。

 

「おお! 決断が早いね! いい選択だよ!」

 

そして、布を受け取りながら続ける。

 

「せっかくだし、インナーに仕立ててあげようか?服の下に着こめば見た目は完全に普段着だし」

 

「マジで?いいの?」

 

正直、それはかなりありがたい。

 

「採寸をさせてもらって……少し時間をもらえれば、すぐに仕立てるよ。ちょうどお昼時だし、食事でもしてきたらどうだい?フードコートのホットサンド、なかなかイケるよ」

 

「じゃあそうさせてもらおうかな…。自爆機能をつけようとするのは勘弁してくれよ?」

 

念を押すように言うと、ウタハは一瞬きょとんとしたあと、ふっと苦笑した。

 

「はは、ヘイローのない人に自爆機能を付けるほど非常識じゃないよ、私は」

 

そう言って肩をすくめる。

 

「いや、最初から付けようとするなよ」

 

「ロマンと良識は両立するものさ」

 

ドヤ顔だった。

 

「さいですか」

 

処置なしと判断し、採寸を終えた後フードコートで食事をしに向かった。

 

 

 

~~~数十分後~~~

 

(おすすめだけあって、美味かったな……)

 

ホットサンドの余韻に満足しつつ、店へと戻る。

ちょうど出来上がったらしいウタハが、いかにも仕事を終えた職人

といった満足げな顔で迎えてくれた。

きっちり畳まれたインナーが数着。同じ素材で仕立てられたシンプルなバンダナ。

 

「サイズは問題ないはずだ。バンダナも同じ素材だからね。頭部防護用。巻き方は自由だよ」

 

「普通に助かる……」

 

内心、かなり感心していた。

ミレニアムに来て大正解だったと思う。

商品を受け取り、さっそく身に付けた後、軽く動いてみて問題がないことを確認する。

 

「着心地も問題ないし……本当に助かったよ」

 

「気に入ってもらえたなら何よりさ。ああ、それとメンテナンスが必要になったら、エンジニア部を訪ねるといい。布とはいえ、内部構造は普通じゃないからね。自己流で弄るのはおすすめしない」

 

と、連絡先を渡してくる。

 

「了解。困ったらすぐ頼るよ」

 

「うん、それでいい」

 

そこまで言ってから、また少し得意げに付け加える。

 

「私が作ったものは、最後まで私が面倒を見る主義でね。マイスターとしての責任だ」

 

職人肌、という言葉がこれほどしっくり来る人物も珍しい。

 

「改めてありがとう。色々とサービスしてもらったし、よかったらコレ」

 

そう言って、余計に買っておいたホットサンドの入った紙袋を差し出す。

 

「おや? いいのかい?」

 

「おすすめしてくれたし、なんだか俺だけ食べてるのも悪い気がして。それに色々とサービスしてもらったお礼」

 

「なるほど。そういう気遣いができるのは、嫌いじゃないよ」

 

ウタハは小さく笑って、ホットサンドを受け取った。

 

「じゃあ、ありがたく頂くとしよう。次に来るときは、“完成品”を用意しておくよ」

 

「いや、完成度はもう十分だから」

 

「さて、どうかな?」

 

(やっぱり信用しきれない……)

 

そう心の中で突っ込みつつ、別れを告げて店を後にする。

妙なこだわり癖はあるが、腕は確か――それだけは間違いない。

 

(また何か必要になったらお願いしようかな)

 

などと気楽に考えていたが、彼女、そしてエンジニア部がキヴォトスでも屈指の問題集団だと知るのは、もう少し先の話だった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

高層ビルとネオンに満ちた中心部からモノレールで数駅。

窓の外の景色は、いつの間にか無機質な研究施設や近未来建築から、

どこか手付かず感の残る空き地の多いエリアへと変わっていた。

 

「同じ自治区内とは思えないな」

 

ミレニアム=最先端、というイメージは間違っていない。

だが、それはあくまで中心部の話だ。

郊外には放置されているエリアも少なくない。

そしてそういう場所には、決まって人目を避けたい連中が集まる。

 

《指名手配犯:~~~》

《懸賞金:~~万円》

《ミレニアム郊外・未開発地区にて目撃情報あり》

 

正直、大金とは言えない。

だが、今のアビドスにとっては無視できる額でもない。

 

(借金がなぁ……)

 

アビドスの借金は多額。

しかも限りなくアウト寄りのグレーな高金利。

月々の返済は下手をすると利息だけで終わる。

アビドス周辺の仕事は数が少ない上に、給料もお察しレベルだ。

 

(普通に働いて返す? 無理だな)

 

そんな時に知ったのが、賞金首制度だった。

アビドス周辺の不良生徒は数はそこそこいるが、三下の寄せ集めで賞金付きはほぼいない。

今回ミレニアムに来たのは防具の購入もそうだが、郊外にいる賞金首が目的である。

賞金額は低いが、装備も規模も比較的控えめ。

 

(今の俺には、ちょうどいい)

 

舗装が甘い道路を進み、崩れかけたフェンスを越え、人の気配が薄い区画へと足を踏み入れる。

胸元を軽く叩く。

布一枚、されどウタハ(マイスター)謹製の一品。

 

「初仕事だな。頼むぞ」

 

 

 

――――ミレニアム郊外・未開発地区

 

崩れた建材と放置されたコンテナの影、建屋の陰に複数の反応。

 

(……七、いや八人か)

 

リーダー格と思しき人物が中央。他は雑魚。連携も甘い。

 

(まずは、こいつで)

 

呪力を廻し、術式を発動させる。

敵集団の背後、地面がわずかに隆起し、小型の火山が静かに形成される。

次の瞬間、噴き上がる火炎。

悲鳴が上がるより先に、熱風と炎が背後から敵陣を舐め尽くした。

 

「なっ――!?」

 

「後ろから!?敵襲!?」

 

一気に広がる混乱。間髪入れずに次の手。

 

「――火礫蟲」

 

ドンッ、ドンッ、と連続する爆発音。

三人がまとめて吹き飛ばされ、地面を転がる。

 

(これで数は減った)

 

残った連中が慌てて散開しようとしたその瞬間、建屋の影から俺は前に出る。

不良集団に掌を向け、掌から放たれた熱線が一直線に走り、正面の敵をまとめて薙ぎ払った。

二人巻き込まれ、悲鳴が上がる。

残ったのは、リーダー格と、その取り巻きが二人。

 

「バケモンかよ……!」

 

「囲めッ!! 撃て!!」

 

半狂乱になった相手が銃口を向けてくる。

 

(ちょうどいい)

 

射線を切らない、わざと前に出続ける。

銃声が響き、ドン、ドン、と衝撃が体を叩く。

 

(胸、肩、腹。……問題なし)

 

衝撃はくるが、インナーが力を逃がし、呪力強化された肉体が受け止める。

 

(想定通りだな)

 

「チクショウ! 撃て撃て!!」

 

相手は必死に銃を乱射する。

一気に踏み込み、まず取り巻き一人の顎を打ち抜く。

打撃音、相手が崩れ落ちる。

 

次の一人は、銃を振り回した瞬間に手首を掴み、捻る。

 

「――がっ!?」

 

関節が悲鳴を上げ、銃が落ちる。

そのまま膝を腹に叩き込んで沈黙。

残るは、リーダーのみ。

 

「く……来るな……!」

 

引き金を引くが弾は外れ、次の瞬間には、腹に一発。

 

「あっ……がっ……」

 

衝撃が内部を揺さぶり、リーダー格は膝から崩れ落ち、そのまま倒れこんだ。

 

「……終了だ」

 

周囲は静まり返る。

焦げた地面。転がる銃。呻き声すら、もうほとんど聞こえない

 

(火力、耐久確認、近接制圧。想定通り……いや、余裕すらある)

 

拘束を済ませながら、内心でそう結論づける。

 

「初陣としては十分だ。次は、もう少し賞金が高い相手でもいいかもな」

 

スマホでヴァルキューレに確保報告をいれつつ、俺は得られた戦果に満足していた。

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