漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ   作:場取らず

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7話

「……そうですか。急に何をトチ狂ったことを言い出したのかと思ったら、黒服が…」

 

俺は昨夜、黒服と交わしたやり取りをホシノへ伝えた。

 

「確認しますが、誘いに乗ったりは…」

 

「まさか。あんな見た目からして胡散臭い奴の話に、ホイホイ乗れるかよ」

 

「結論出てるじゃないですか。いったい私に何を聞きたかったんですか?残念ですが、私も黒服やその組織について特別に知っていることはありません」

 

(何か追加で情報があればと思ったけどそっちはダメか…)

 

「断ったところで、素直に引っ込むとも思えないんだよなぁ。どうも、こっちの動きを盗み見てる感じもするし……」

 

「…監視されてると」

 

ホシノの雰囲気が、わずかにきつくなる。

あんな得体のしれない存在に監視されて、喜ぶ女子高生がいるはずもない。

 

「まぁ、俺は自治区外で賞金稼ぎをしてるから、そっちから探られた可能性の方が高いけどな。今のところ、目立った影響はない。ただ……何もせずに引き下がる連中かどうかもわからない。危惧してるのはユメ先輩を狙って俺たちを脅してくる可能性だ。」

 

「ユメ先輩を……。ありえないと、言い切れませんね。前にも、不良相手に身代金目的で誘拐されそうになってましたし……」

 

そう、少し前にユメ先輩は、あやうく誘拐されそうになったことがある。

アビドスの財政をよく知らない不良が、

「生徒会長だから金を持っているだろう」

という理由だけで、身代金目当てに狙ってきたのだ。

その時はホシノと俺で不良どもを蹴散らし、事なきを得た。

 

先輩はそんな目に遭ってもめげることなく、人助けを続けていた。

ホシノはそのことに大変ご立腹だったが、俺としては、ああいう底抜けの善性は嫌いじゃない。

ただ、いいように利用されやすいのも、また事実だ。

 

「……ホシノ」

 

「はい?」

 

「一つ、考えがある」

 

ホシノの目がわずかに細まる。

 

「聞きましょうか」

 

「あいつと、条件付きで手を打つ」

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

人通りの少ない路地裏は、昨日と変わらず静まり返っていた。

違うのは、俺の隣にホシノがいることくらいだ。

路地の奥から、黒いスーツ姿がぬるりと姿を現した。

 

「ククク……おや。お二人とは」

 

白く発光する右目が、俺からホシノへと移る。

 

「約束通り来たぞ」

 

「ええ。お待ちしておりましたよ、倉戸ケンジさん。そしてお久しぶりですね、小鳥遊ホシノさん」

 

「……」

 

黒服は一礼するが、それに対してホシノの視線は警戒感剥き出しだった。

 

「では、改めてお話を…」

 

「その前に」

 

 俺は一歩前に出た。

 

「今日は、あんたの提案に返事をしに来たわけじゃない」

 

「……ほう?」

 

「逆だ。俺から、条件を出す」

 

 一瞬、路地の空気が張り詰めた。

 

「条件、ですか」

 

「ああ、呪術…俺の使う力だがその中にはな、“縛り”って概念がある」

 

「……!」

 

 黒服の反応は、即座だった。

 

「契約だ。互いに守る義務を課し、破れば必ず反動が返ってくる」

 

「ククク……なるほど。貴方の力に付随する概念、というわけですね」

 

「理解が早くて助かる」

 

 俺は続ける。

 

「俺は、自分の呪力と術式についての情報を提供する」

 

「……ほう」

 

「原理、性質、発現条件。俺が把握している範囲でなら、隠すつもりはない」

 

黒服は黙って聞いている。

 

「俺は、自分の呪力と術式についての情報を提供する。加えて…研究や実験にも協力する」

 

「!」

 

今度は、はっきりと反応があった。

 

「ただし、条件付きだ」

 

 ホシノが横目でこちらを見る。

 

「内容は事前にすべて説明しろ。目的、方法、想定される影響」

 

「……」

 

「それを聞いた上で、俺が承認したものに限る。承認のない研究や実験には、一切協力しない。 その上で…縛りを結ぶ」

 

「内容を、お聞かせいただきましょう」

 

黒服の声から、軽さが消えていた。

 

「一つ。

俺やホシノを含めたアビドスに所属する生徒全員に手を出さない。直接・間接を問わずだ」

 

「……ふむ」

 

「二つ。

今日知り得た情報、今後得る情報を第三者に漏らさない。組織内であっても必要最小限に留めろ」

 

ホシノが静かに息を呑む。

 

「三つ。

呪力研究の成果物を使って誰かに危害を加えない。肉体的、精神的、経済的…その他すべてを含む」

 

沈黙。

黒服は、しばらく何も言わなかった。

 

「……ククク」

 

やがて、低い笑い声が漏れる。

 

「実に、重い縛りですね」

 

「だろうな」

 

「研究者としては正直に言って、首輪をつけられた気分です」

 

 

―――黒服 視点―――

 

正直に言えば、この契約は制約が多すぎる。

倉戸ケンジ本人のみならず、小鳥遊ホシノ、アビドスの生徒全体への不干渉。

情報の秘匿。

研究成果の使用制限。

研究者の立場から見れば、手足を縛られたまま未知を覗き込めと言われているようなものだ。

 

特に、暁のホルス。

 

キヴォトス最高峰の神秘。

その身柄を諦める価値を、この少年一人が上回るのか。

本来ならば、答えは否だ。

しかし。

 

倉戸ケンジという存在は、これまで観測してきたいかなる神秘とも異なっていた。

恐怖に似て、恐怖ではない力。

神秘に干渉しながら、その体系に属さないエネルギー。

そして…

 

(“縛り”ですか…)

 

契約そのものが、力として作用するという概念。

しかもそれは、実力差を無視し、破った際の反動すら予測できない。

合理性で考えれば、極めて危険だ。

だが。

 

(興味深い…)

 

キヴォトスの神秘体系では説明できない。

既存の理論にも収まらない。

この契約は、研究すること自体は制限していない。

新しい研究分野と言ってもいいかもしれない。

 

契約の成立。

解釈の揺らぎ。

違反判定の基準。

発動する反動の性質。

すべてが未踏の観測対象。

 

(……なるほど)

 

暁のホルスを失うのは惜しい。

だか、この未知の力と神秘の力が、互いにどのような影響を及ぼすか、上手く行けばそれも観測できるかもしれない。

 

「…いいでしょう。飲みましょう、その条件を」

 

―――――――――

 

(……は?マジで?)

 

一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

隣にいるホシノも表情にこそ出ていないが、驚いている様子が伝わってくる。

 

(いや、ちょっと待て。飲むのか?この条件を?)

 

俺が提示した縛りは、かなり厳しいはずだ。

正直、半分くらいは蹴られる前提だった。

そこから落とし所を探り、最低でもこちらへの干渉を防ぐのが目的だった。

その為にホシノにも知恵袋として同席してもらったのだ。

研究の自由はほぼ縛られる。

アビドスへの干渉も封じた。

情報漏洩も制限した。

出しておいてなんだが我ながら、だいぶ無茶な条件だと思っていた。

それを即決。

 

(コイツ、思ってた以上に研究バカか?)

 

「……そうか。物分かりがよくて助かる」

 

内心の動揺を押し殺し、俺は表情を崩さないようにしながら、できるだけ平静を装って言った。

だが内心では、まだ警戒が消えない。

こんなあっさり飲むってことは何か確認してくる可能性が高い。

縛りの契約は、文言の解釈がすべてだ。

少しでも曖昧な部分があれば、そこを突かれる。

 

「ククク……呪力および術式に関する情報の秘匿、研究成果の非加害利用、そして研究および実験は、貴方の事前承認を得た場合に限る。……その上で、一点だけ確認させていただきたい」

 

(来たか)

 

俺は小さく息を飲む。

 

「研究成果で“危害を加えない”という条項、これについてですが――自衛目的の使用は、問題ありませんか?」

 

「自衛?」

 

「例えば、キヴォトスそのものが滅びかねない事態が発生した場合…等ですね」

 

その言葉に、ホシノの眉がわずかに寄った。

何言ってるんですか、この人。

口には出さないが、そんな空気が隣から伝わってくる。

どう考えても、黒服が何か抜け道を作ろうとしているようにしか聞こえない。

が、

 

(多分、滅亡しそうな(そういう)事態が起きるんだろうな…)

 

ここはブルーアーカイブの世界。

メタ読みだが恐らくその事態を解決すべく、先生(プレイヤー)が来るのであろう。

 

黒服(コイツ)がどんな立ち位置なのか、俺知らないんだよなぁ…)

 

ストーリーの知識はない。ゲマトリアという名前も、昨夜初めて聞いた。

敵なのか、中立なのか、物語の重要人物なのか分からない。

 

(なら余計な火種は作らない方がいいか、少なくとも、本編が始まるまでは。)

 

「……自衛目的なら問題ない、ただし条件付きだ。自分の身を守るための防衛行動なら構わないが、それを口実に攻撃を広げるのは無しだ」

 

「ええ、それで構いませんよ」

 

「言質とったぞ…"縛り"だ」

 

「…ふむ、特に何か変わった感覚はありませんね」

 

「疑うなら条件を破ってみるか?ペナルティ受けるのはお前だぞ」

 

(原作で他者間の縛りを破った模写がないから、何が起こるのか俺も知らんけど…)

 

黒服は、くつくつと喉を鳴らした。

 

「ククク……ご忠告、ありがとうございます。いえ、契約を疑っているわけではありません。ただ、純粋な興味ですよ」

 

白く発光する右目が、こちらを捉える。

 

「では、本日のところはこれで。研究内容がまとまり次第、改めてご連絡いたします。それでは、倉戸ケンジさん。小鳥遊ホシノさん。ごきげんよう」

 

そう言うと、黒服の姿は路地の影に溶けるように消えていった。

数秒の沈黙。

俺はゆっくりと空を見上げた。

 

「……あの野郎、シレッと人の連絡先把握してんじゃねえよ…」

 

しばらくして、ホシノがぽつりと口を開いた。

 

「……良かったんですか?さっきの契約」

 

「ん?何が?」

 

俺は首を傾げる。

 

「その……条件」

 

「まぁ、確かに金を毟り取っとけばよk「違います」

 

即答だった。しかも食い気味。

 

「そういう話じゃないです。黒服に、あなたの能力の情報を教えるんですよね?しかも研究にも協力する…かなり危ない橋だと思うんですが」

 

「まぁ……それは否定しない、ただ俺の術式って、そこまで複雑なもんじゃないんだよ。炎と熱を操る。それだけ。手品の種がバレても、やること自体は変わらないタイプの能力だ」

 

「だから、そこまで痛手じゃない?」

 

「まぁな、それより問題だったのは、向こうが俺の力を調べ始める前にどうするか、だ」

 

「どういう意味です?」

 

「黒服が本気で俺を研究する気なら、いずれ能力の輪郭くらいは掴まれる。なら、その前に縛りを結んで、首輪つけといた方がいい」

 

「……イニシアチブを取りたかったと?」

 

「そういうこと」

 

ホシノはしばらく黙っていた。

 

「ああ、それから言っとくけど黒服から来る研究内容とかは、全部お前に共有するから」

 

「全部?」

 

「万が一、黒服に裏をかかれた場合の保険だ。縛りがあるとはいえ、解釈次第でどう転ぶか分からない。俺が見落としても、お前なら気付く可能性がある」

 

ホシノは小さく息を吐いた。

 

「ずいぶん信用してくれますね」

 

「ダブルチェックは必要だろ?」

 

「はいはい、ちゃんと相談してくれるなら、止めるときは止めてあげます」

 

「頼む。……あと、この件ユメ先輩には内緒な。余計な心配かけたくない」

 

ホシノは軽く肩をすくめた。

 

「わかってますよ。言ったら、先輩絶対止めますからね。心配して、また一人で無茶しますよ」

 

ホシノは少しだけ呆れたように言う。

 

「それは困るな、お互いに」

 

ホシノと並んで歩き出す。

さっきまでの張り詰めた空気が、少しだけ緩む。

 

(…キヴォトスが滅びかねない事態、か)

 

黒服の言葉が、頭の奥に引っかかっていた。

冗談とも、抜け道探しとも取れる問いだったが、あいつはわざわざ例に出した。

 

(自治区間で紛争からのアルマゲドンでも起こるのか?宇宙から侵略者でも来んのか?*1うーん…わからん)

 

ただ何であれ…。

 

(力をつけた方が良さそうだな)

 

とりあえず帰ったらトレーニングだ。

*1
モジュロ連載前に死んだのでシムリア星人のことは知らない

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