漏瑚の術式を持ってブルアカ世界へ 作:場取らず
「……そうですか。急に何をトチ狂ったことを言い出したのかと思ったら、黒服が…」
俺は昨夜、黒服と交わしたやり取りをホシノへ伝えた。
「確認しますが、誘いに乗ったりは…」
「まさか。あんな見た目からして胡散臭い奴の話に、ホイホイ乗れるかよ」
「結論出てるじゃないですか。いったい私に何を聞きたかったんですか?残念ですが、私も黒服やその組織について特別に知っていることはありません」
(何か追加で情報があればと思ったけどそっちはダメか…)
「断ったところで、素直に引っ込むとも思えないんだよなぁ。どうも、こっちの動きを盗み見てる感じもするし……」
「…監視されてると」
ホシノの雰囲気が、わずかにきつくなる。
あんな得体のしれない存在に監視されて、喜ぶ女子高生がいるはずもない。
「まぁ、俺は自治区外で賞金稼ぎをしてるから、そっちから探られた可能性の方が高いけどな。今のところ、目立った影響はない。ただ……何もせずに引き下がる連中かどうかもわからない。危惧してるのはユメ先輩を狙って俺たちを脅してくる可能性だ。」
「ユメ先輩を……。ありえないと、言い切れませんね。前にも、不良相手に身代金目的で誘拐されそうになってましたし……」
そう、少し前にユメ先輩は、あやうく誘拐されそうになったことがある。
アビドスの財政をよく知らない不良が、
「生徒会長だから金を持っているだろう」
という理由だけで、身代金目当てに狙ってきたのだ。
その時はホシノと俺で不良どもを蹴散らし、事なきを得た。
先輩はそんな目に遭ってもめげることなく、人助けを続けていた。
ホシノはそのことに大変ご立腹だったが、俺としては、ああいう底抜けの善性は嫌いじゃない。
ただ、いいように利用されやすいのも、また事実だ。
「……ホシノ」
「はい?」
「一つ、考えがある」
ホシノの目がわずかに細まる。
「聞きましょうか」
「あいつと、条件付きで手を打つ」
~~~~~~~~~~
人通りの少ない路地裏は、昨日と変わらず静まり返っていた。
違うのは、俺の隣にホシノがいることくらいだ。
路地の奥から、黒いスーツ姿がぬるりと姿を現した。
「ククク……おや。お二人とは」
白く発光する右目が、俺からホシノへと移る。
「約束通り来たぞ」
「ええ。お待ちしておりましたよ、倉戸ケンジさん。そしてお久しぶりですね、小鳥遊ホシノさん」
「……」
黒服は一礼するが、それに対してホシノの視線は警戒感剥き出しだった。
「では、改めてお話を…」
「その前に」
俺は一歩前に出た。
「今日は、あんたの提案に返事をしに来たわけじゃない」
「……ほう?」
「逆だ。俺から、条件を出す」
一瞬、路地の空気が張り詰めた。
「条件、ですか」
「ああ、呪術…俺の使う力だがその中にはな、“縛り”って概念がある」
「……!」
黒服の反応は、即座だった。
「契約だ。互いに守る義務を課し、破れば必ず反動が返ってくる」
「ククク……なるほど。貴方の力に付随する概念、というわけですね」
「理解が早くて助かる」
俺は続ける。
「俺は、自分の呪力と術式についての情報を提供する」
「……ほう」
「原理、性質、発現条件。俺が把握している範囲でなら、隠すつもりはない」
黒服は黙って聞いている。
「俺は、自分の呪力と術式についての情報を提供する。加えて…研究や実験にも協力する」
「!」
今度は、はっきりと反応があった。
「ただし、条件付きだ」
ホシノが横目でこちらを見る。
「内容は事前にすべて説明しろ。目的、方法、想定される影響」
「……」
「それを聞いた上で、俺が承認したものに限る。承認のない研究や実験には、一切協力しない。 その上で…縛りを結ぶ」
「内容を、お聞かせいただきましょう」
黒服の声から、軽さが消えていた。
「一つ。
俺やホシノを含めたアビドスに所属する生徒全員に手を出さない。直接・間接を問わずだ」
「……ふむ」
「二つ。
今日知り得た情報、今後得る情報を第三者に漏らさない。組織内であっても必要最小限に留めろ」
ホシノが静かに息を呑む。
「三つ。
呪力研究の成果物を使って誰かに危害を加えない。肉体的、精神的、経済的…その他すべてを含む」
沈黙。
黒服は、しばらく何も言わなかった。
「……ククク」
やがて、低い笑い声が漏れる。
「実に、重い縛りですね」
「だろうな」
「研究者としては正直に言って、首輪をつけられた気分です」
―――黒服 視点―――
正直に言えば、この契約は制約が多すぎる。
倉戸ケンジ本人のみならず、小鳥遊ホシノ、アビドスの生徒全体への不干渉。
情報の秘匿。
研究成果の使用制限。
研究者の立場から見れば、手足を縛られたまま未知を覗き込めと言われているようなものだ。
特に、暁のホルス。
キヴォトス最高峰の神秘。
その身柄を諦める価値を、この少年一人が上回るのか。
本来ならば、答えは否だ。
しかし。
倉戸ケンジという存在は、これまで観測してきたいかなる神秘とも異なっていた。
恐怖に似て、恐怖ではない力。
神秘に干渉しながら、その体系に属さないエネルギー。
そして…
(“縛り”ですか…)
契約そのものが、力として作用するという概念。
しかもそれは、実力差を無視し、破った際の反動すら予測できない。
合理性で考えれば、極めて危険だ。
だが。
(興味深い…)
キヴォトスの神秘体系では説明できない。
既存の理論にも収まらない。
この契約は、研究すること自体は制限していない。
新しい研究分野と言ってもいいかもしれない。
契約の成立。
解釈の揺らぎ。
違反判定の基準。
発動する反動の性質。
すべてが未踏の観測対象。
(……なるほど)
暁のホルスを失うのは惜しい。
だか、この未知の力と神秘の力が、互いにどのような影響を及ぼすか、上手く行けばそれも観測できるかもしれない。
「…いいでしょう。飲みましょう、その条件を」
―――――――――
(……は?マジで?)
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
隣にいるホシノも表情にこそ出ていないが、驚いている様子が伝わってくる。
(いや、ちょっと待て。飲むのか?この条件を?)
俺が提示した縛りは、かなり厳しいはずだ。
正直、半分くらいは蹴られる前提だった。
そこから落とし所を探り、最低でもこちらへの干渉を防ぐのが目的だった。
その為にホシノにも知恵袋として同席してもらったのだ。
研究の自由はほぼ縛られる。
アビドスへの干渉も封じた。
情報漏洩も制限した。
出しておいてなんだが我ながら、だいぶ無茶な条件だと思っていた。
それを即決。
(コイツ、思ってた以上に研究バカか?)
「……そうか。物分かりがよくて助かる」
内心の動揺を押し殺し、俺は表情を崩さないようにしながら、できるだけ平静を装って言った。
だが内心では、まだ警戒が消えない。
こんなあっさり飲むってことは何か確認してくる可能性が高い。
縛りの契約は、文言の解釈がすべてだ。
少しでも曖昧な部分があれば、そこを突かれる。
「ククク……呪力および術式に関する情報の秘匿、研究成果の非加害利用、そして研究および実験は、貴方の事前承認を得た場合に限る。……その上で、一点だけ確認させていただきたい」
(来たか)
俺は小さく息を飲む。
「研究成果で“危害を加えない”という条項、これについてですが――自衛目的の使用は、問題ありませんか?」
「自衛?」
「例えば、キヴォトスそのものが滅びかねない事態が発生した場合…等ですね」
その言葉に、ホシノの眉がわずかに寄った。
何言ってるんですか、この人。
口には出さないが、そんな空気が隣から伝わってくる。
どう考えても、黒服が何か抜け道を作ろうとしているようにしか聞こえない。
が、
(多分、
ここはブルーアーカイブの世界。
メタ読みだが恐らくその事態を解決すべく、
(
ストーリーの知識はない。ゲマトリアという名前も、昨夜初めて聞いた。
敵なのか、中立なのか、物語の重要人物なのか分からない。
(なら余計な火種は作らない方がいいか、少なくとも、本編が始まるまでは。)
「……自衛目的なら問題ない、ただし条件付きだ。自分の身を守るための防衛行動なら構わないが、それを口実に攻撃を広げるのは無しだ」
「ええ、それで構いませんよ」
「言質とったぞ…"縛り"だ」
「…ふむ、特に何か変わった感覚はありませんね」
「疑うなら条件を破ってみるか?ペナルティ受けるのはお前だぞ」
(原作で他者間の縛りを破った模写がないから、何が起こるのか俺も知らんけど…)
黒服は、くつくつと喉を鳴らした。
「ククク……ご忠告、ありがとうございます。いえ、契約を疑っているわけではありません。ただ、純粋な興味ですよ」
白く発光する右目が、こちらを捉える。
「では、本日のところはこれで。研究内容がまとまり次第、改めてご連絡いたします。それでは、倉戸ケンジさん。小鳥遊ホシノさん。ごきげんよう」
そう言うと、黒服の姿は路地の影に溶けるように消えていった。
数秒の沈黙。
俺はゆっくりと空を見上げた。
「……あの野郎、シレッと人の連絡先把握してんじゃねえよ…」
しばらくして、ホシノがぽつりと口を開いた。
「……良かったんですか?さっきの契約」
「ん?何が?」
俺は首を傾げる。
「その……条件」
「まぁ、確かに金を毟り取っとけばよk「違います」
即答だった。しかも食い気味。
「そういう話じゃないです。黒服に、あなたの能力の情報を教えるんですよね?しかも研究にも協力する…かなり危ない橋だと思うんですが」
「まぁ……それは否定しない、ただ俺の術式って、そこまで複雑なもんじゃないんだよ。炎と熱を操る。それだけ。手品の種がバレても、やること自体は変わらないタイプの能力だ」
「だから、そこまで痛手じゃない?」
「まぁな、それより問題だったのは、向こうが俺の力を調べ始める前にどうするか、だ」
「どういう意味です?」
「黒服が本気で俺を研究する気なら、いずれ能力の輪郭くらいは掴まれる。なら、その前に縛りを結んで、首輪つけといた方がいい」
「……イニシアチブを取りたかったと?」
「そういうこと」
ホシノはしばらく黙っていた。
「ああ、それから言っとくけど黒服から来る研究内容とかは、全部お前に共有するから」
「全部?」
「万が一、黒服に裏をかかれた場合の保険だ。縛りがあるとはいえ、解釈次第でどう転ぶか分からない。俺が見落としても、お前なら気付く可能性がある」
ホシノは小さく息を吐いた。
「ずいぶん信用してくれますね」
「ダブルチェックは必要だろ?」
「はいはい、ちゃんと相談してくれるなら、止めるときは止めてあげます」
「頼む。……あと、この件ユメ先輩には内緒な。余計な心配かけたくない」
ホシノは軽く肩をすくめた。
「わかってますよ。言ったら、先輩絶対止めますからね。心配して、また一人で無茶しますよ」
ホシノは少しだけ呆れたように言う。
「それは困るな、お互いに」
ホシノと並んで歩き出す。
さっきまでの張り詰めた空気が、少しだけ緩む。
(…キヴォトスが滅びかねない事態、か)
黒服の言葉が、頭の奥に引っかかっていた。
冗談とも、抜け道探しとも取れる問いだったが、あいつはわざわざ例に出した。
(自治区間で紛争からのアルマゲドンでも起こるのか?宇宙から侵略者でも来んのか?*1うーん…わからん)
ただ何であれ…。
(力をつけた方が良さそうだな)
とりあえず帰ったらトレーニングだ。