『この先に空間の裂け目がある、気をつけて進んでいこう』
俺はパエトーンという名のアライグマの誘導で謎の裂け目へと飛び込んだ。
「マジで気持ちわりぃな、入ったと思ったら全然別の場所に移動してきてるんだもんな。こんなもんロスサントスにあったらイキリギャング暗殺し放題だぞ」
『ははっ……、どうやらフィリップスさんのいる街もとても治安が悪かったようだね』
「こっちにはギャングやマフィアはいねぇのかい?」
『犯罪組織はもちろん存在するよ。零号ホロウと呼ばれるこの場所は殆どが未調査なんだ、だから文字通り無法地帯で犯罪の巣窟でもあるかもしれないね』
確かに、こんなに荒れ果てた街に警察の治安維持など不可能か。
「なるほどな、仮に安全地帯で殺人があってもこっちの化け物のせいにしちまえばいいし、逆にこっちで殺しちまえば証拠なんて残らねぇからな」
『それに、HIAや市政の軍がホロウ調査をしているけれど、補給物資を狙うギャングやホロウレイダーが多いからね』
「それはこの俺に対する皮肉ってやつか? パ・エ・トー・ン?」
『ふふっ、冗談さ。さぁ出口はもうすぐだ、このまま先に進んでしまおう』
中々、面白いジョークの言える野郎だ。
パエトーンに先導され進み続ける。
すると、パエトーンは急に立ち止まり周囲をキョロキョロと確認し始めた。
『おかしい……、ホロウがどんどん変化しているようだ……。マップの修正するには近くにあるデータスタンドを使わないといけないね』
「あぁん? 出口がわからなくなったって事か?」
『出口はすぐそこにあるはずなんだ、だけれどさっきも言った通りホロウが殆ど未調査の理由の一つがホロウ内の地形変化によるものなんだ。でも安心してほしい、マップ修正をすぐにすれば安全に帰れると思うよ』
「ならさっさと行っちまおうぜ」
そして、俺達はすぐにデータスタンドへとたどり着き、パエトーンは作業台のキーボードで何かを入力している。
『フィリップスさん、今はデータスタンドの演算パワーを使ってマップを書き換えているのだけれど、エーテルに釣られてエーテリアスが現れるかもしれない。撃退を任せても大丈夫かな?』
「あぁ、任せておけ」
案の定、パエトーンの言う通り化け物達が集まりだしパエトーンに向かって飛びつこうとしている。
パエトーンに当たらぬようショットガンを化け物に向けて複数発砲し、ふらついた化け物達を回し蹴りで複数体ドミノ倒しのように吹き飛ばしていく。
化け物達を何度もぶっ殺した慣れか奴らがコア様な物が露出した時に攻撃すると息の根が完全に止まるのを覚え、俺はコアにめがけて素手で体重の乗った拳を振り上げ化け物は絶命する。
「急所をぶっ壊せば即死だから弾の節約にもなるぜ」
『はは……、僕はこの子に流れ弾が当たらないかとてもヒヤヒヤしていたけどね……。フィリップスさんのおかげでマップを再取得出来たよお疲れ様』
「労いの言葉はここ出た後だぜ坊や、さっさと行こうぜ」
俺達はデータスタンドから離れ、脱出ルートへと足を運び出す。
途中の化け物を掃討しながら雑談を交わしていると、ふと疑問が出てきた。
「ところで、パエトーンはどうしてこんなイカれた廃墟に調査に来たんだ?」
『僕らはある公的機関の依頼で零号ホロウの調査をしていたんだけれど、脱出直前でホロウの変化が起こってしまって仲間と離れてしまったんだ。合流しようとしたところ君に会った感じだね』
「公的機関ねぇ……」
FIBやNOOSEの嫌な組織ばかり急に思い出してしまった。
とくにスティーブの野郎、あいつのこめかみに銃弾をぶち抜きたいほど怒りが込み上げてくる。
『大丈夫かい? フィリップスさん』
「いや、急にしりを愛し合ったやつの事を思い出しただけだ。問題ない」
『なるほど……。詳しい事は聞かないでおくよ……。さて、次の裂け目を抜ければもうすぐ出口だ』
俺達は裂け目に入り、出口に向かって歩み出したが、突然パエトーンのディスプレイが赤く点灯しはじめた。
『付近のエーテル濃度が急上昇?! マズイよフィリップスさん! 何かが来る! 早くこの場から避難しないと!』
周囲が煙のようなオーロラが現れ始める。
「おいおい! 何が起きてんだ?!」
『とても大きいエーテル反応が急速に接近してきている……!!! フィリップスさん!!! 上だ!!!!』
俺はパエトーンの叫び声と同時にショットガンを構え上空へとエイムを合わせる。
しかし、標的は想像の10倍は巨大な結晶まみれの化け物が上空から飛び降りてくるのが分かった
「ちっ! パエトーン!!! 捕まれ!!!」
俺は即座にパエトーンを抱え全速力でダイブをする。
轟音と共に砂塵を巻き上げながら化け物は着地したが、間一髪の所で俺達は落下点からは避けられたようだ。
『あ、あれは! デットエンドブッチャー……!』
「イカれたネーミングセンスだな……。パエトーン、出口はこいつの裏にある裂け目で間違いないのか?」
『あ、あぁ……。けれどあのエーテリアスは簡単に通してくれないだろう。フィリップスさん、ここは僕が囮になる。だからあなたは先に避難して欲しい』
「あぁ?! 何言ってんだてめぇ!」
『話している時間は無い。装備もフィリップスさんの銃に補給ボックスが一つだけだ、僕の手持ちの爆弾はまだ何個か取っておいてあるんだ』
だから大丈夫安心してと、このチンチクリンは笑顔で俺に言ってきた。
雪の日のボブキャプ強盗の出来事を想起させた。
複数人に囲まれた警察官、撃たれたブラッドとマイケル。
そして、何も出来ずに見捨てて逃げてしまった俺自身。
あの時のマイケルは裏切ったが、今のこいつはどうだろうか。
つい先程出会ったばかりなのに、このどうしようもない俺を命懸けで逃がそうとしている。
コイツが居なければこのクソみたいな地獄の場所から脱出すること事が出来なかったと言うのに、もうあんなふざけた出来事を繰り返してたまるか!!!
「てめぇの提案にはこう答える、Noだ!!!」
『フィリップスさん……!』
「いいか、パエトーン。俺は絶対にダチを置いて逃げねぇ。知り合って本当に短いがお前は俺の"仲間"だ! 絶対に見捨てねぇ!!!」
元々裏切られ、キャンプファイアーで死んだようなものだ。
なら最後の償いに死んでもコイツだけは救わなくちゃならない。
覚悟を決め、デケェ化け物に向け銃を構える。
『すまないフィリップスさん……。僕はあなたを脱出させる事ばかり考えていて、二人が助かるルートを完全に思考放棄していた』
パエトーンも俺の隣へと立ち、短い手で爆弾を取り出す。
『あなたがそうするなら僕は全力でサポートするよ。今の僕はあなたのプロキシであり、"仲間"だからね。必ず脱出へと導いてみせる』
「あぁ、いい答えだぜ。ダチ公」
砂塵が止み、化け物は俺達に向けバカデカイ咆哮をする。
牛刀の様な結晶だらけの武器を俺たちめがけ振り下ろし始める。
「ぐおぉぉおおお、なんて馬鹿力なんだよ!」
俺達は素早く避け瓦礫の影に身を隠したが、化け物の打撃は地面小さなクレーターができるほど強力だった。
これは一発でも当たればほぼ即死級だ。
『フィリップスさん、プランが2つあるんだけど聞くかい?』
「あぁ、イカれたプランなら大賛成だぜ」
『一つはこの崩れかけている地形を使ってエーテリアスを瓦礫の下敷きにしてその間に逃走する。二つは僕が携帯ビーコンを設置して救難信号を送って運良く付近にいる仲間へ助けを呼び、その間に僕らは持久戦をする』
「いいねぇ、あのクソ化け物をサンドイッチにすんのか。ならそのプランを二つ同時に進行させるぞ!」
『それは危険だ! 僕がビーコンを設置している間はフィリップスさんは一人であの化け物の相手をすることになる!』
「こっちはこんなイカれた修羅場を何度もやり過ごした人生だったんだよ。特にあの化け物が気に入らねぇ、このトレバー・フィリップス様が格上だと分からせてやらねぇとな」
『ビーコンだけ設置させても必ず近くの人が居るとは限らないからね……。分かった、フィリップスさんを信じるよ。物資の装備はフィリップスさんが使ってほしい、これでも気休め程度かもしれないけどね。それと遠くでも会話ができるイヤホンを渡しておくね』
現状の装備は自前のショットガン、物資のアサルトライフル、弾丸のリロード数回分、爆発物二個、絶望的な状況であった。
「コイツだけで充分だ、ビーコンは任せた!」
俺は瓦礫から飛び出しデカイ化け物へとショットガンを放つ。
「オラァ化け物!!! 偉大なるトレバー様の登場だ!」
「グァァァァアアアア!!!!」
化け物はこちらに気づき、俺へと無造作に結晶まみれの牛刀を振り下ろしまくる。
一歩でも避けるタイミングを誤ればあの世行きだ、慎重にそして素早く化け物の攻撃を見切りかわしていく。
「クソ野郎! 足元がお留守だ、バ──カ!!!」
なるべく結晶の無く、皮の薄い箇所へとショットガンをぶちかます。
効果があったのか化け物は膝を地面につけダウンする。
そのチャンスをつかさずパエトーンから受け取ったアサルトライフルに切り替え、化け物の背へと飛び乗り後頭部へフルオートで射撃する。
受け取った銃は不思議と反動が無く、とても扱いやすい。
化け物の後頭部へ1マガジン全て使い切るが、化け物は再び牛刀を握り締め四方八方へと振り回しまくっていた。
「クソが、なんて硬さだ。こっちは当たれば即死だってのに、それと肉食は俺の十八番だぞ!!!!」
だが、ダメージが通ってるのは確かだ、このままいけばもしかすると倒せるのかもしれない。
俺はアドレナリンで脳が興奮し、そう確信すると化け物へと切り替えたショットガンで足元へぶっぱなす。
化け物は再び振り下ろしたが同じワンパターンの攻撃だったので難なく避けた。
のだが、化け物は空振りした牛刀を遠心力で俺へぶつけようとしていた。
俺は透かさず受け身の体勢を取り、持っていたショットガンで牛刀へカウンターする。
「ヌォオオオオオオ!!!」
金属音がぶつかり合い豪快に響き渡る。
嘘だろ、俺はあの化け物の攻撃を弾いたのか……?
いつも間にかに、俺は〇〇〇マンみたいなスーパーパワーを手に入れたんだ?
『フィリップスさん! ビーコンの設置は完了した! そっちの援護に入るよ!』
「いいタイミングだ! パエトーン!」
化け物への防御方法とパエトーンの援護も加わった。
これは何とかなるかもしれない。
『爆発物はまだ残っているかい?』
「あぁ、少し弾丸は使い込んだが爆弾は残ってるぜ」
『なら、あの壊れかけている陸橋を使おう。僕が橋に爆弾をセットしてフィリップスさんが誘導する作戦はどうかな?』
「クレイジーなアイディアだ、乗った」
二手に分かれて、パエトーンの指示する誘導ポイントへ化け物を引きつける。
パエトーンは直ぐにでも崩落しそうな陸橋へとワタワタと駆け出して行った。
俺は化け物の攻撃を弾き後頭部へと銃を切り替え化け物をスタンさせながら近づいた。
どれ位の時間が経っただろうか。
残りの弾丸が底を尽き、ショットガン2発程度しか撃てなくなってしまったが目的の誘導ポイントへ辿り着くことに成功した。
「パエトーン! 誘導ポイントまで来たぜ! この後どうすればいい?!」
しかし、パエトーンからの返事は何も無い。
俺を置いて先に脱出してしまったのか?
おい、嘘だろ。このまま逃げ場が無く化け物と諸共爆発で瓦礫の下敷きになれってのか?
もしかして、パエトーンは俺の事を……
「あぁぁぁあああ!!!! パエト────ン!!!」
裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られた裏切られたまた裏切られた裏切られた
「ぁぁあああぁああぁあ!!! マ──ム!! パトリシア!!! マイケルー!!! ブラッド!!! トレバ──!!! フランクリン!!!! ロン!!!! ウェイド!!!!」
唇を噛み締め、拳を力強く握り血を吹き出す。
最後の最後の地獄でも俺は裏切られた、信じた瞬間に裏切られた。
怒りと絶望と悲しみが渦巻くが、それでも化け物は足を止めず武器を振りかざそうとしていた。
俺は残りの弾を全て使い発砲し、化け物の何度も打撃を受けた武器を粉々に破壊する。
武器は破壊しても化け物はまだ生きている。
化け物は拳を俺へと大きく振り上げる。
ここまでか、地獄のような経験だったが次は本当の地獄に行けるのか。
『フィリップスさん!!!』
聞き覚えのある声が聞こえた、アライグマの様な小さい生き物が俺へと駆け足でやってくる。
『決してあなたを死なせはしない!!!』
パエトーンは俺へと強烈なタックルを当て後方へと自分諸共吹き飛ぶ。
すると、小さな次元の裂け目が開き陸橋と30メートルほど離れた場所へとワープしたのだ。
パエトーンは『今だ!』と片手で持っていたスイッチを押すと、陸橋が連鎖的に爆発を繰り返していく。
「グァァァァアアアアギャァアアアアァアアァア」
化け物は大きな瓦礫の山が直撃し奇声を上げながら生き埋めにされていく。
『ふぅ、何とか間に合ったようだね』
「パ、パエトーン、お前俺を置いて言ったんじゃ……」
『え? そんな事はしないさ。言っただろ僕はあなたのプロキシで"仲間"だって、必ず脱出へと導いても見せるって』
ふふっとニコニコした顔がディスプレイに浮かび上がっている。
「パエトーン、俺と結婚してくれないか? 愛している」
『えっ? えぇ!? 急にそんなこと言われても……!』
「しかし、どうして俺の応答に答えてくれなかったんだ……」
『僕の方も設置が完了した時に反応がなかったんだ、少し耳を見せて欲しい。ふむふむ、あぁやっぱり。戦闘前に渡した無線イヤホンが壊れてしまっていたようだね』
「それじゃ、俺は勘違いでお前を裏切り者扱いを……すまないパエトーン」
『色々、言いたい事はあるとは思うけど、まずはこのチャンスが出来ている内に早く脱出をしよう。まだ化け物は生きているかもしれないからね』
自分の事でいっぱいになっていた俺はパエトーンの言葉でようやく現実に戻り、重い足をあげ出口の裂け目へと向かおうとしていた。
しかし、突然地鳴りが起こり瓦礫の山が振動を始める。
「くっそったれ……まだ生きていやがるのか!!!」
衝撃音と共に瓦礫の中から腕が一本出てきているのが分かる。
そして、徐々に身体が出始め、最初に戦闘した時の状態とは別の姿になっていたのだ。
『デッドエンドブッチャーの第二形態……! くっ……あと一歩で脱出だったのに……』
本当に本当にここまでか。
化け物は辺りの虹色のオーロラをかき集め、何かエネルギーの様な物を溜め込んでいる事が分かる。
「ははっ、どんな核兵器がぶっ飛んでくんだろうな……?」
弾丸と爆発物はもう既に使い果たした。これ以上打つ手が何も無い
化け物は溜め込んだエネルギーを俺達へと発射する。
せめてパエトーンだけでも守ろうと、小さな身体を抱きしめる。
仲間と呼んでくれた、この小さいダチを最後まで守らなければ。
閃光に包まれ、もう終わったとそう思ったその時、
「待たせたな、プロキシ」
淡く、蒼い焔が閃光を切り裂き、異形の大きな化け物を二つに切り裂く瞬間を、俺は目撃したのだった。