ベーカリー・カルデアのある街で   作:テトマト

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第5話 ふたり分の紙袋

 放課後の商店街は、昼間より少しだけ人が増えていた。

 制服姿の学生や、買い物帰りの人たちが行き交う中、

 さくらは知世と並んで歩いている。

 

「今日も、開いてますわね」

 

「うん。

 この時間なら、だいたいいつも」

 

 白い扉と、控えめな看板。

 もう見慣れたはずなのに、

 ふたりで来ると少しだけ違って見えた。

 

 扉を開けると、鈴の音が鳴る。

 

「いらっしゃいませ」

 

 藤丸が顔を上げ、すぐにふたりに気づいて微笑んだ。

 

「こんにちは、さくらちゃん。

 それに、知世さんも」

 

「こんにちは」

 

「こんにちは。

 先日はお世話になりましたわ」

 

 マシュも穏やかに会釈する。

 

「また来てくださって、ありがとうございます」

 

 それだけのやりとりなのに、

 “戻ってきた”という感じがした。

 

 知世はさっそく、店内をゆっくりと見渡す。

 棚に並ぶパン。

 午後の光の入り方。

 前に来たときと同じはずなのに、少し嬉しそうだ。

 

「やっぱり、素敵ですわ」

 

 そう言ってから、カメラを構える。

 

「撮っても、よろしいですか?」

 

「どうぞ」

 

 控えめなシャッター音が、静かな店内に響く。

 

 さくらがパンを選ぶ様子。

 棚の前で少し悩む横顔。

 知世は迷いなく、その一瞬を切り取っていく。

 

「……あの」

 

 さくらが小さく声をかけた。

 

「そんなに撮らなくても……」

 

「だめですわ。

 これは“記録”ですもの」

 

「き、記録……?」

 

「はい。

 さくらさんが、ここで笑っている時間の」

 

「……ほぇぇぇ!?」

 

 思わず声が裏返った。

 

「そ、そんな……!

 そ、そんな大したことじゃ……!」

 

 両手をぶんぶん振りながら、

 さくらは顔を真っ赤にする。

 

「えっと、その……

 パン、パン選びます!」

 

 逃げるように棚の方へ向かう背中に、

 シャッター音が、楽しそうに重なった。

 

「ふふ……」

 

 知世は満足そうだ。

 

「今日は、どれにしますか?」

 

 マシュの問いかけに、

 さくらは少しだけ落ち着いてから答えた。

 

「ウルクの朝焼きパンを」

 

 知世がぱっと顔を上げる。

 

「それが、さくらさんのお気に入りですの?」

 

「うん。

 なんていうか……

 食べると、ちゃんと朝が来る感じがして」

 

「まあ……!」

 

 知世は感動したように手を合わせる。

 

「それは、ぜひ同じものを」

 

 ふたり分のパンが、並んで紙袋に入れられる。

 同じ名前、同じ重さ。

 

 それだけなのに、

 少しだけ特別に感じられた。

 

「……また、来てもいいですか?」

 

 さくらが袋を受け取りながら言うと、

 藤丸は少し驚いたようにしてから、笑った。

 

「もちろんです」

 

「パンが焼けている時間なら、

 いつでも」

 

 店を出ると、夕方の風がふたりの間を通り抜けた。

 

「いい場所ですわね」

 

 知世が、しみじみと言う。

 

「うん」

 

 さくらは紙袋を胸に抱える。

 

「ここに来ると、

 なんだか、ほっとするんだ」

 

「ほっと?」

 

「うん。

 大丈夫、って思えるの」

 

 知世は何も言わず、

 ただ優しく微笑んだ。

 

 ふたり分の紙袋が、並んで揺れる。

 

 それだけで、

 今日という一日は、

 少しだけ、やさしくなった。

 

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