ベーカリー・カルデアのある街で   作:テトマト

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第7話 並んで歩く、その先

 

 

 放課後の友枝町は、まだ明るさを残していた。

 けれど、影は長く、風は少しだけ涼しい。

 

 さくらは、少し前を歩いている。

 

「ほんとに、ただのパン屋さんだからね」

 

 振り返ってそう言う声は、いつもより軽い。

 

「分かってる」

 

 小狼は短く答えながら、

 無意識に周囲へ目を走らせた。

 

 何もないはずの場所でも、

 体が先に反応してしまう。

 

(……気配は、ない)

 

 それでも、足取りは慎重だった。

 

「ね、ここ」

 

 白い扉と、小さな看板。

 通りの中では目立たないはずなのに、

 なぜか見落とせない。

 

「最近、よく来てるの。

 ここのパン、すーごい美味しいの!!」

 

 言い切る声に、迷いはない。

 

 扉が開き、鈴の音が鳴る。

 

「いらっしゃいませ」

 

 カウンターの奥から、穏やかな声。

 青年と、その隣に立つ少女。

 

 どちらからも、特別な気配は感じられない。

 

「こんにちは」

 

「こんばんは」

 

 自然に挨拶を交わす。

 

「こんにちは、さくらちゃん」

 

 名前を呼ばれているのを見て、

 小狼はわずかに目を細めた。

 

「こちら、小狼くん。

 ……私の、大事な人」

 

 一瞬、言葉に詰まりそうになって、

 小狼は咳払いでごまかした。

 

「は、初めまして」

 

「初めまして。

 来てくれてありがとう」

 

 藤丸の応対は、変わらない。

 探るような視線も、意味深な間もない。

 

 店内は静かで、

 焼きたてではないパンの匂いが、やさしく残っていた。

 

 その空気に、

 さくらの肩が、ふっと下がる。

 

 それを見て、

 小狼は胸の奥で何かがほどけるのを感じた。

 

「ウルクの朝焼きパン、くださーい」

 

 迷いのない声。

 

「はい、どうぞ」

 

 藤丸は慣れた様子でパンを取り、

 紙袋に入れる。

 

「小狼くんは?」

 

「……今日は、同じので」

 

 さくらが、ぱっと顔を上げる。

 

「一緒だね」

 

「……ああ」

 

 それだけで、十分だった。

 

 ふたり分のパンが、並んで袋に入れられる。

 

 会計を終え、店を出ると、

 外の空気は少し冷えていた。

 

「どう?」

 

 さくらが聞く。

 

 小狼は、紙袋を見下ろしてから答える。

 

「……変な場所だな」

 

「えっ」

 

「何もないのに、

 落ち着く」

 

 さくらは、少し驚いたあと、笑った。

 

「でしょ」

 

 歩き出しながら、

 小狼は隣のさくらを見る。

 

 さっきまでの張りつめた感じが、

 もうない。

 

(ここは……)

 

 戦う場所じゃない。

 力を使う場所でもない。

 

 ただ、

 さくらが力を抜いていられる場所。

 

 それだけで、

 ここを否定する理由はなかった。

 

「また、一緒に来てもいいか?」

 

 小狼がそう言うと、

 さくらは少しだけ照れてから、頷いた。

 

「うん」

 

 ふたり分の紙袋が、並んで揺れる。

 

 その距離が、

 今のふたりには、ちょうどよかった。

 

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