魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女   作:ヒアデス

1 / 16
アインハルトと健斗を中心に進めるため、メインタイトルはVividではなくアインハルトの名前からとって『Eins(アインズ)』にしました。


第1話 昔の記憶、襲撃事件

「ケント・α(アルファ)・F・プリムス殿、少しいいだろうか?」

 

 退屈な講義から解放され屈伸しながら教室から出ようとしたところで男に声をかけられ、俺の口から「んっ?」と不機嫌さの混じった声が出る。

 相手は俺と同い年ぐらいで同じ学生服を着た緑髪の男だった。紫の右眼と蒼色の左眼を備えた秀麗な容姿で、大勢の女子(おなご)が顔を赤くしながら熱い視線を注いでいるのが見える。

 それに益々(ますます)不愉快さを覚え……。

 

「何の用でしょうか? クラウス・G・S・イングヴァルト殿。私は帰って今日教わった授業の復習と明日の予習をしたいのですが」

 

 そう言って踵を返そうとした途端、クラウスはきっと目を細め。

 

「嘘をつけ。今日も街に出て盛り場にでも繰り出すつもりだろう」

 

「だとしてもあんたには関係ないだろう。何刻も堅苦しい教室に閉じ込められていたんだ。終わった後ぐらい自由にさせてくれ。なんならクラウス王子も一緒に来るか? あんたも一度行ったらハマるはず――」

 

「いい加減にしろ!」

 

 挑発も込めて笑みを浮かべながら誘ったところで、クラウスの口から荒げた声が飛んできた。

 

「一国の王子が毎日のように盛り場に繰り出すものじゃない。君の父君、ザリアス陛下が知ったらお嘆きになるぞ。グランダムの王位継承者としてそろそろ真面目に己を高めることに専念して――」

 

「いいよな、大国の王子様は」

 

 小言を遮って言葉を返した途端、クラウスの眉がピクリと引き()る。

 

「《ダールグリュン帝国》とやりあえる力を持っている上に《聖王連合》からも一目置かれている『シュトゥラ王国』の王子様はいいよな。俺みたいな小国の王子に偉そうな口を叩く余裕と権限があって。

 うちみたいに大国に挟まれていつ滅ぼされるか分からない小国の王族と違って、そんな綺麗ごとが言える身分で本当に羨ましいよ。俺なんて平時の間に一つでも魔法を覚えろと部屋に押し込められて魔法を覚えさせられる毎日を過ごしていたからな。授業後に街で羽を伸ばすぐらい大目に見てほしいもんだ」

 

 もっとも、幼少から魔法を覚えさせられているのは、俺の元にある《闇の書》とかいう鎖が巻かれた変な本のせいでもあるんだが。

 そう心中で付け加えたところで、目の前からドンッと鈍い音がした。

 思わず目を向けると、俺の足元に硬そうな籠手が地面に沈み込んでいる。

 

「……? 何の真似だ?」

 

 心底意味がわからず首を捻る俺に――

 

「君に一騎打ちの決闘を申し込む。今から噴水の広場に行くぞ! その捻くれた根性を叩き直してやる!」

 

 決闘を申し込む時は普通手袋を投げつけるもんだが、シュトゥラでは籠手を投げつける決まりになっているのか?

 そんな疑問を持つ俺と違い――

 

「おお、決闘だ!」

「クラウス様があの劣等生と?」

「どっちが勝つと思う?」

「そりゃクラウスだろう。プリムスなんかじゃ一分も持たねえだろうな」

「クラウス様の御手があの問題児の血で汚れるなんて……」

 

 周りの生徒は口々にそんな事を言い合う。しかも俺が負けるのが前提みたいだ。

 俺は籠手を拾い、クラウスに投げつけながら――

 

「はっ。上等だ、当分学院に行けない顔にして後ろのファンも減らしてやるよ!」

 

 クラウスは籠手を掴み取り、ついてこいと背中を向け俺もその後に続く。

 

 

 それからすぐ俺とクラウスは噴水の広場で決闘を始め、生徒達の予想に違わず俺はボコボコにのされ、醜態を晒すことになる。

 だが、ない知恵を絞って機転を利かし、クラウスに何度か反撃を浴びせた事で向こうの歓心を買い、その後向こうから話しかけられるようになり、《騎士王》を祖先に持つクラウスの苦労や重圧を知った事で俺も心を許すようになり、いつの間にか互いに無二の親友と呼べる関係になった。

 

 

 

「もう国に(かえ)らねばならないのか?」

 

「ああ、王族は俺と父上しかいないからいつまでも国外に出すわけにはいかないって。せめて、今度ここに来る聖王女様ってのを見てからにしたかったのに」

 

「仕方ないさ。機会があったら彼女と一緒に挨拶に行くよ…………君がピンチになったら必ず駆けつける。また会おう、ケント」

 

「おう、こっちもなんとか時間を作ってシュトゥラに行く。もしうちの国が連合に加わりたいと言ってきたら仲介を頼むな」

 

「もちろん! その時を待っているよ!」

 

 クラウスは頷きながら右手を差し出してくる。俺も右手を差し出し、クラウスの硬い手を握り返す。

 そこで――

 

「ケント、ケント!」

 

 わかってるよ。いちいち呼ぶな。こういう時はお互い黙って――

 

 

健斗(けんと)! いい加減に起きてくれ!!」

 

 

 

 

 

 

「――!?」

 

 突然目の前に銀髪の美女が現れ、俺は大きく目を見開く。

 同時に、目の前の風景も曇りがかった広場から、薄青の天井になっていた。

 これはまさか……。

 

「リインか……?」

 

 青色の士官服の上にエプロンを付けた彼女は、ジト目で俺を見下ろしながら肯いた。

 

「ああ、リインだ。健斗の婚約者、リインフォース・アインス。……まだ寝ぼけているのか?」

 

 その問いに「みたいだ」と呟きながら上体を起こし目をこする。

 そんな俺を前に、リインは苦笑いを零しながら言った。

 

「朝食はもう出来てるから、早くシャワーと着替えを済ませてきてくれ。遅刻したら私までオーリスにどやされる」

 

「ああ、すぐ行く」

 

 ベッドから下りつつ返事を返す。だが、リインはなおも不安そうな顔で……

 

「本当に大丈夫か? 明日からしばらく実家に帰る予定だが」

 

「大丈夫大丈夫。俺のことは気にせず“お義母さん”やみんなと仲良くやってこい」

 

「……その呼び方、絶対本人の前でするなよ」

 

 リインの忠告に片手を振って応えながら、シャワールームに向かう。

 

 

 

 ミッドチルダや時空管理局を騒がせた都市型テロ『JS事件』から4年、生物兵器マリアージュによる連続襲撃事件から1年。

 そして『古代ベルカ戦争』から約300年後の、新暦79年初春。

 《グランダムの愚王》ケント・α(アルファ)・F・プリムスの生まれ変わりである俺、御神 健斗(みかみ けんと)も、《闇の書の分身》だったリインフォース・アインスも、今は地上本部の士官として平和と人々を守る仕事に務めながら、第1管理世界ミッドチルダの首都クラナガンの片隅で平穏な日々を謳歌していた。

 

 

 

 

 

 

「……ぅんっ……」

 

 窓から差し込んできた朝日で目を覚まし、私はむくりと起き上がる。

 ここは噴水近くの広場ではなく、訓練(トレーニング)器具で溢れた私の部屋で、ついさっきまで目の前にいた“親友”の姿もなくなっていた。

 

 ――当然だ。“彼”はあれから数年後に《ゆりかご》の光に吞み込まれ、シュトゥラも学術院も滅んだんだから。

 

 自分に言い聞かせるように心の中で呟き、私は新しく通うことになった『St(ザンクト).ヒルデ魔法学院』中等科の制服を手に洗面所へ向かった。

 紫色の右眼と蒼色の左眼をしっかり開き、“彼がなしえなかった悲願”を果たすことを誓いながら。

 

 

 

 

 


愚王シリーズ第4部

『覇王の記憶を受け継ぐ少女』


 

 

 

 

 

 『地上本部』会議室。

 

「クラナガンをはじめミッドチルダの犯罪率は昨年より減少傾向にあります。地上部隊が立てた対策の効果もあると思いますが、ミッド政府が発足させたMWAT(ミワット)の影響もかなり大きいのではないかと」

 

「それを受けて、他の管理世界政府からも独自の魔導部隊を立ち上げるべきではないかという声が上がっています。端末会社(デバイスメーカー)のような一部の企業と市民からも賛成の声が――」

 

 “軍需企業”か。管理局以外に“軍隊”ができれば、あっちも相当儲けられるだろうからな。しかし、現地の地上部隊だけで治安を維持しきれていない世界があるのも確かだ。

 ため息を堪えつつ、俺は進行役として口を開く。

 

「それの是非を決める権限はこちらにない。各世界(むこう)と上に任せよう。他に報告は?」

 

 訊ねる俺に、他の幹部が立ち上がりディスプレイを開きながら口を開いた。

 

「本局の“最重要手配対象”となっている《フッケバイン》と名乗る一味ですが、いくつかの管理外世界と開拓世界で一味の仕業と思われる襲撃事件が発生しているとの報告が上がっています。幸いミッドチルダを含め管理世界でそれらしい事件は起きていませんが」

 

 “フッケバイン”という名と襲撃事件の報告に眉が引き()りそうになりつつも。

 

「警戒しておくに越したことはない。襲撃事件はいずれも“集落壊滅”レベルの被害を受けている。ミッドでそんな事件が起きれば、また管理局の信頼が下がるうえに犯罪率も上がりかねない。それらしい事件や手がかりを見つけたらすぐ報告するよう各部署に通達してくれ」

 

 俺の命令に幹部は硬い顔と声で「了解」と返し、席に座りなおす。

 そうして重要な案件の報告と打ち合わせを終え、会議室に弛緩した空気が流れかけたところで20前後の若い幹部から……。

 

「事件と言えるほどではないかもしれませんが、最近クラナガン各所で傷害事件が起きています。と言っても、双方納得のうえでの野良試合のようなものですが……」

 

「いや、それも立派な事件だ。そのまま放っておくと重傷者や死傷者が出かねん。続けてくれ」

 

 そう言うと若手幹部は「はい」と返しながらディスプレイに目を落とし、再び口を開いた。

 

「時刻は夜。被害者は全員格闘技の経験者で、相手からの挑戦を受ける形で試合に応じ、そのまま敗北したとのことです。被害者たちも口が重くて……」

 

「自分たちも私闘をしているわけだしな。そりゃ後ろめたいだろう」

 

 感想をこぼす俺に対し幹部は、

 

「それだけではないと思います。相手は白い格闘着を着た十代後半の少女で、若い少女に負けた事を蒸し返されたくないのもあるのではないかと。二つ結びに束ねた碧銀色の髪に、目元に黒いバイザーをつけていて……《覇王イングヴァルト》と名乗っていたそうです」

 

「――!」

 

 その名を聞いた瞬間、俺も後ろに立つ副官二人の片方リインも目を見張る。それに気付かず――

 

「覇王イングヴァルト? ……どこかで聞いたような」

「古代ベルカの王の一人ですよ。聖王とともに敵対する国を滅ぼして回っていた」

「ええ。格闘技の使い手で、今でも格闘家の間では神様のように崇拝されているよ。戦争中も武器を持たず拳二つで敵軍を蹴散らして回ったという話もあってな。まあ最後のは誇張だろうが」

 

 いや、確かに“奴”は拳二つで数百数千もの敵を圧倒していた。それを何度も聞いているし、実際に見たこともある。

 胸中で突っ込みつつ、俺は咳払いをして彼らを黙らせた。

 

「報告ご苦労。俺の方にもその報告書を回してくれ。聖王教会やあの一家に注意勧告を出す必要があるかもしれん」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 頭を下げながら幹部は席につき、さらにいくつかの確認事項を終えたのち朝の会議は終了となった。

 

 

 

 

 

 

「御神司令、どう思います?」

 

 執務室に着いた直後、リインはいきなり訊ねてくる。もう一人の副官オーリス・ゲイズ二等陸尉は意図がつかめず、怪訝な顔をするのみだった。

 俺は席に腰を下ろし、幹部から貰った報告書のデータを開きながら答える。

 

「どうもなにも《覇王》のはずはねえだろう。あいつは古代ベルカ時代に《雷帝ダールグリュン》と相打ちになって死んだらしいし、そもそも犯人は女だ」

 

 報告書には何百行もの文章の他、街中に仕掛けられているサーチャーが映した映像もあり、スカート付きの格闘着を着た“犯人”が映っていた。一目で女とわかる。まあカメラ越しだから確実と言えないが。

 

「それは分かっています。しかし髪の色は同じですし、子孫という可能性もあるのでは――」

 

 リインの推測に、隣のオーリスがディスプレイを開きながら否定の言葉を放った。

 

「《覇王イングヴァルト》は妻を取らず子供もなく、彼の戦死と同時に覇王家は断絶し、《覇王》が治めていた『シュトゥラ王国』も『ダールグリュン帝国』ともども聖王連合に併合されてしまったとあります。それにもしイングヴァルト様に子孫がいたら《ベルカ三家》に匹敵する名家になっているでしょう。そんな話私は一度も聞いたことありません」

 

「「…………」」

 

 すらすら語るオーリスに俺もリインも唖然とした目を向ける。イングヴァルト“様”って……

 

「オーリス、もしかしてお前、《覇王》のファンなのか? 格闘技をやってたなんて話は聞かないが、まさか――」

「じょ、常識として知っているだけです! ベルカ王家ぐらい学生時代に教わりましたから」

 

 顔を赤くするオーリスに、じゃあ《聖王家》や《冥王》のことはどれぐらい知ってる? なんて聞いてやろうかと思ったが、歴史上の人物に憧れるぐらいはいいだろうと思い、黙ってやることにした。

 ここにも奴のファンがいたのか。

 

 ふとその時、俺たちの懐からピピッと通知音が鳴った。俺もリインもオーリスも自身のデバイスを取り出し、そこに送られてきたファイルを開く。

 そこには俺の従姪(めい)にあたる少女、『高町・スクライア・ヴィヴィオ』が友達二人と並んで写っている画像が映っていた。

 三人とも年相応に屈託のない笑顔を浮かべている。

 画像はもう一枚あり、2歳になったばかりの妹『ゆずは』とともにピースを向けるヴィヴィオの写真もあった。

 

 その二枚の画像を見て、オーリスは自嘲的な笑みを浮かべ。

 

「御神司令とリイン三佐はまだしも、私にまで送ってくれると思いませんでした……“四年前のこと”を思えば、私はあの子に恨まれていてもおかしくありませんから」

 

 オーリスの父、レジアス元中将はヴィヴィオを兵器に仕立てあげたスカリエッティの支援をしていた事がある。

 具体的な違法行為は知らされていなかったらしいが、父を助ける形でオーリスが間接的にあの男(スカリエッティ)に手を貸していたのも事実であり、未だヴィヴィオに対して負い目を感じているのだろう。

 

「オーリスが悪いわけじゃない事はあの子もよくわかっている。その二枚の写真が証拠だ。友人として遠慮なく受け取ってやれ」

 

「……はい」

 

 リインにオーリスははにかむ笑みを返す。そんな彼女たちに――

 

「じゃあそろそろ昼飯にするか。早くしないと混んじまう――」

 

 そう言って俺はデスクから立ち上がろうとするが――

 

「御神司令、12時まであと30分もありますよ」

 

「今日中に教会と高町家への注意勧告と本局への報告書の作成を済ませていただかないと困ります。また新たな襲撃事件が起こる可能性を考えると一分一秒も無駄にできません」

 

 リインは笑みを浮かべたまま、オーリスは仏頂面でそう告げてくる。

 ……こいつら、いつの間にこんな息が合うようになったんだ?

 

 

 

 

 

 

 St(ザンクト).ヒルデ魔法学院・中等科1年F組。

 授業が終わり、クラスメイトたちは家路に帰ろうとする。

 私も教科書とノートを鞄に入れ、席を立った。

 そこで――

 

「アインハルトさん!」

 

 ふと名前を呼ばれ、私はそちらに顔を向ける。

 長い黒髪の女子生徒が邪気のない笑顔と興味に輝く青い両目を向けて、私の元に近付いてきた。

 

「美味しいケーキがある喫茶店があるんだけど、アインハルトさんも一緒に行かない?」

 

 言いながら彼女は体を乗り出してくるが――

 

「申し訳ありません、甘いものは苦手で。これから寄らなければならない所もあるので遠慮させていただきます……それでは」

 

 彼女に頭を下げながら鞄を抱え、そのまま教室を出ようとする。

 その後ろから――。

 

「アインハルトさん、また明日学校でねーー!!」

 

 精一杯の笑顔を浮かべながら、彼女は大きく片手を振る。

 後ろめたさと罪悪感を覚えながらも私はもう一度会釈をし、今度こそ教室を出る。勉強道具と替えの服、目元を隠すためのバイザーの入った鞄を手に抱えながら。

 

――今日もまた強者(つわもの)と闘わないと。《覇王》――“彼”から受け継いだ力が何よりも強いと証明するためにも――。

 

 

 

 一方、アインハルトに声をかけた少女――F組のクラス委員を務めるユミナ・アンクレイヴは心配そうな顔でアインハルトの背中を見送っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。