魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女 作:ヒアデス
一回戦が終わった後もチームの組み合わせやフィールドを変えて試合は続き、違う展開や戦法で
その後はさすがに四回戦まではいかず、スバルさんたちは露天風呂にゆっくり浸かり、フェイトさんたちはお姉様やエリオさんたちと部屋でくつろぎ、なのはさんは故郷からきたお友達と一緒にゆずはさんの面倒を見ていて、
私たちは……。
「う、腕があがらない……」
「おきられない……」
ベッドに倒れたままリオさんとコロナさんは弱音を零す。レツヤさんは入り口近くに立ったまま「だから途中で抜けろと言ったのに」と呟き、ユミナさんと橙髪の少女は苦笑しながら彼女たちにマッサージと治療をしていた。
かくいう私もヴィヴィオさんとミウラさんと一緒に、隣のベッドで横になっている状態だ。
「アインハルト様、ちょっと失礼します。今からヒーリングをしますから」
少女に声をかけられ、私はあわてて体を起こした。
「いえ、ただの疲労ですから、そこまでしていただくほどでは――」
断ろうとする私に少女は片手を振って――
「気になさらないでください、いつもやってる事ですから。――申し遅れました。聖王教会の治療士、イクスと申します。《冥王イクスヴェリア》と言った方が分かりやすいかもしれませんが」
《冥王》と聞いた瞬間、疲れも忘れてぴんと背筋を伸ばす。そして片手を胸に当てながら口を開いた。
「冥王陛下とは知らず失礼しました。アイン……ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルトと申します。シュトゥラ国王クラウス・G・S・イングヴァルトの子孫です」
我ながら無味乾燥な自己紹介を告げる私に、陛下は笑みを浮かべながら首を縦に振る。
「はい。あの方にそっくりなのですぐに分かりました。300年前にオリヴィエ王女ともどもお会いしたことがあります。クラウス様の子孫とお会いできて本当にうれしいです」
「こちらこそ、《冥府の炎王》と名高いイクスヴェリア陛下にお目にかかれて光栄です」
右手を差し出す陛下に私も右手を伸ばし、彼女の手を軽く握り返した。
「ったく、二人共かてえな。今はどっちも一般ピーポーなんだから楽にやりゃいいのに。ヴィヴィオなんて聖王と言われても信じられないぐらい一般に染まっちまってるぜ」
レツヤさんはヴィヴィオさんに親指を向けながら言い捨てる。それを聞いて、ヴィヴィオさんは胸を反らしながら得意げに言った。
「高町・スクライア家で一般人として育てられましたから! むしろ私たちよりレツヤの方が偉いんじゃない? 最高行政官の息子さんなんだから」
その一言にレツヤさんはうっと言いそうに顔を歪める。
「俺も親父も偉くなんかねえって。親父は選挙で選ばれて4年か8年ミッドの代表やってるだけで、俺に至ってはただの捜査官だ。ご先祖様が王様だったなんて未だに何かの間違いだと思ってるしな」
「と、とにかく、レツヤとヴィヴィオの言う通り、私も今はただの治療士ですから普通に接してください。呼び方もできればイクスでお願いします」
「はい……心得ておきます」
陛下、いえイクスさんの申し出に色のいい返事を返す。そんな私にイクスさんは両手を伸ばして
姿形を知らなかったとはいえ、私はこんな方に闘いを挑もうとしていたのか。御神さんが止めた理由がよく分かる。
それに彼女もクラウスの記憶で見た覚えがあるような……。
「さて、自己紹介とお堅い話はここまでにして。アインハルト、今日みたいな試合は初めてって聞いたけどどうだった? “以前”までの方が面白い?」
からかいじみた口調で尋ねるルーテシアさんに、私は首を横に振った。
「いえ、とても勉強になりました。自分の弱さも知りましたし反省もしました」
私の世界だと思っていたもの……見ていたものは本当に狭かった……。
羞恥を覚えながら吐露する私に、ルーテシアさんは微笑ましそうな笑みを浮かべながら「そう」と呟き、人差し指を持ち上げた。
「じゃあ近々こんな大会が開かれるんだけど……興味ない?」
言いながら彼女が虚空をぽんと押した瞬間、そこにモニターが浮かんだ。
「『
ルーテシアさんの声とともに、紙吹雪が舞い大勢の少女がひしめくスタジアムの光景と賑やかな歓声が飛び込んでくる。
「全管理世界から集まった若き魔導師が覇を競い合う魔法戦競技――『インターミドル・チャンピオンシップ』」
“チャンピオンシップ”――その言葉が耳に届いた瞬間、胸がドクンと高鳴った。
「あっ、知ってます! 年に一度開かれる総合魔法戦競技の祭典! 私も毎年録画して見てるんです♪」
話を聞いてユミナさんが声を弾ませる。ヴィヴィオさんも明るい顔を見せながら口を開いた。
「出場可能年齢は10歳から19歳で、私たちも今年から出られるから出たいねって話してるんです」
「ヴィヴィオさんたちもですか!? ボクも師匠のお墨付きをもらって今年から出る予定なんです!」
話を聞いた途端、ミウラさんも疲れを忘れたように起き上がりながら告げる。そういえば何かの大会に出ると言ってたような。聖王と冥王に会うことで頭がいっぱいで忘れてましたが。
「全世界から腕自慢の魔導師や格闘家が集まってくるから、自分の力がどこまで通じるか確かめるのにすごくいいみたいよ……仕事がなければ私も出たかったんだけど」
「出れたとしてもヴァイゼンからだから、世界代表にでもならん限りかち合わんだろうけどな」
残念そうに付け足すルーテシアさんに、レツヤさんが苦笑しながら補足する。その間も胸の鼓動は収まるどころか、どんどん大きくなるばかりだった。
「あら懐かしい! インターミドルの映像?」
ふと声がして、私たちは後ろを振り返る。そこにはドリンクを持ってきたメガーヌさんとフェイトさんの姿があった。
「フェイトさん! アリシアさんとエリオたちと一緒じゃなかったの?」
「アリシアはゆずはを見になのはの部屋に行ってて、エリオたちももう寝ちゃったから」
尋ねるヴィヴィオさんにフェイトさんは苦笑しながらドリンクを差し出す。
一方、大会の映像を見て目を丸くしたままのメガーヌさんに、レツヤさんがルーテシアさんを親指で指しながら「自分の代わりにアインハルトを大会に出場させようとしてるみたいっす」と報告していた。
「そう、懐かしいわねー。昔を思い出すわ」
「もしかして、メガーヌさんも出場した事があるんですか?」
ユミナさんの問いにメガーヌさんは誇らしげに頷く。
「ええ、学生時代に少しね。少女らしい青春時代を熱い戦いに燃やしたものよ。クイントと初めて会ったのも、都市決勝で優勝をかけて闘った時だっけ」
ほうっと顔を染めて思い返すメガーヌさんに、「そうなんですかー」とリオさんが相槌を返す。その横でレツヤさんはぼそっと、
「そりゃ物騒な青春時代をお持ちで。どおりで魔導師系にかかわらず格闘が強いわけだ」
「聞こえてるわよ。バイト代から悪口の慰謝料さっぴいちゃおうかしら」
メガーヌさんの凄みにレツヤさんはぶんぶん首を振る。
それを眺めながらドリンクを口にしていたところで――
「アインハルトさん!」
突然ミウラさんに呼ばれ、上擦った声で「はい」と返しながら彼女の方を向く。
「アインハルトさんも出てみませんか? アインハルトさんの力なら絶対いいとこ行けます! スパーリングや今日の試合でもボクよりずっと重いパンチを打ってましたし!」
輝いた目と快活な笑顔を向けながら私を誘ってくる。その声と表情に打算はなく、ただ純粋に
「私からもお願いします!」
ヴィヴィオさんにまでそう言われ、私はきょとんとしながら彼女を見る。ヴィヴィオさんは真剣な顔で続けた。
「この間も今日もアインハルトさんに勝てませんでしたが、大会が始まる9月までにいっぱい鍛えてもっともっと強くなって、公式試合に出場します――そこでアインハルトさんと戦って勝ちたいです!」
その言葉を聞いた瞬間、胸の中に熱いものが湧き上がってくる。
それに彼女たち以外にもまだ見ぬ強い相手が現れるかもしれない。そう考えただけで胸が沸き立ってくる。
私は胸を抑えて深呼吸し、自身を落ち着かせてヴィヴィオさんとミウラさんに向き直った。
「皆さん、ありがとうございます――インターミドル、私も挑戦してみようと思います」
「はいっ!」
「ありがとうございます!」
決意を胸に頷く私に、ヴィヴィオさんとミウラさんは心底嬉しそうな笑みを返す。
が、そこでメガーヌさんは顎に指を載せながら首を傾け……
「あれ? でもアインハルトちゃんデバイス持ってる? 今日見た限り使ってるように見えなかったけど」
「えっ?」
突然の言葉に、思わず上ずった声を漏らす。そこでコロナさんが「あっ」と手を叩いた。
「ごめんなさい、言い忘れてました! 大会の規定でCLASS3以上のデバイスを装備しないと参加できない事になってるんです。安全のため、『クラッシュエミュレート』とかと同期させなければいけませんから……それでアインハルトさん、デバイスの方は……」
コロナさんの問いに私は失望を覚えながら、
「……持ってないです。
まさか、そんなことで大会に出られなくなるなんて――。
『ふっふっふ……そんなこともあろうかと準備しておいたよ』
突然、くぐもった笑い声が響き、思わず部屋を見渡す。
その直後、頭上に黒髪の男性が映ったモニターが現れた――ってこの人は。
「健斗さん!」
『よう我が姪っ子たちと元部下ども。バカンスは楽しんでるかー?』
御神さんの問いにヴィヴィオさんは「もちろん」と返し、今日の試合の事を簡単に伝える。一方、レツヤさんとルーテシアさんはジトリとした目で御神さんを見上げた。
(あの人、もしかしてこのタイミングで出てくるためにずっと俺たちの話を聞いていたんじゃ?)
(隊長ならあり得るわ。七課の時もたまにああいう
『実はお前が八神道場に通うようになった時からはやてたちと準備をしていてな。おおよその設計はもう出来てある。格闘系だから武器型でも動きを阻害するような重い装着型でもなく、クリスのような補助制御型の方がいいだろう?』
「あっ、はい。できればその方向でお願いしたいです」
今まで修行を見ていただいただけあって話が早い。私のスタイルと希望をずばり言い当ててくる。それによく考えれば御神さんと八神さんも古代ベルカ式の魔導騎士。あの人たちなら私のデバイスぐらい作れるかも……。
『デザインはまだだが……シュトゥラにいた雪原豹をモデルにしようと思ってる。嫌なら今のうちに言ってくれ。何度も作り直していられるほど俺もはやてたちも暇じゃない』
「いえ、是非それでお願いします!」
私は間髪入れず返事を返す。雪原豹のことまで、まるでシュトゥラを知っているかのよう。
『それなら問題ない。一週間ぐらいでできると思うから、それまでに大会の申し込みでもしておけ。デバイスがあっても申し込みを忘れたら出場できんからな』
「はい! ありがとうございます」
深く頭を下げる私に御神さんは頷きを返す。
彼がくぐり抜けた命を懸けた“戦い”とは違う、『魔法戦競技』という“闘い”の舞台。
あなたの
「クラウス……私はそこで闘ってもいいですか?」
無意識に呟きを漏らした直後、笑みを消したヴィヴィオさんとイクスさんの方から視線を向けられた気がした。
ちょうどそこで御神さんは思い出したように――
『ああ、ミウラもミッドに戻ったらその日か翌日ぐらいに八神家に行ってくれ。ザフィーラとはやてが休みだから家にいるはずだ』
「はい? そうしようと思ってましたが」
ミウラさんは首をかしげながらも肯く。
それが八神道場からの“卒業”の話だと私が知るのは、旅行帰りの翌日ミウラさんからのメールを見た時の事だ。
◇
一方その頃。
夜も更け、皆が寝静まりかけているカルナージより7時間早く早朝を迎えているミッドチルダでは……。
ミッドチルダ南部9区アルテナの郊外にある『ベルリネッタ邸』。
「おはようございます、父さん、母さん」
トレーニングとシャワーを終えて湯気を立てながら白髪の少女が食堂に入ってくる。そんな愛娘に、口髭を蓄えた茶髪の壮年と少女に似た白髪の夫人はにこやかな笑みと挨拶を返した。
「おはよう」
「おはようリンネ」
温かく迎える両親にリンネも笑みを返しながら、自身の席に向かう。
が、席の近くに立っていた茶髪のメイドは咎めるような声をぶつけた。
「遅いぞお嬢様、旦那さんも奥さんもずっとお嬢様が出てくるのを待っておったんじゃぞ」
リンネは壁にかけられた時計をちらりと見て、メイドに返事を返す。
「汗くさい体で来るわけにいかないじゃない。それにいつもと同じ時間だよ」
「まあまあ、リンネの言う通りいつも通りの時間だし、仕事の話をしていたから待った気はしない。それより食事にしようじゃないか」
「フーカちゃんも一緒にどう? もう食事も用意しちゃったし食べてくれると助かるんだけど」
夫人の勧めにフーカと呼ばれたメイドは迷うように視線を彷徨わせるも、色鮮やかなサラダとバターが添えられたパンとオムレツといった朝食を見た途端ゴクリと喉を鳴らし、
「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
と言ってフーカもリンネの向かい側の席につき、主人夫婦と親友と一緒に食事を始める。
何口か朝食を口に入れたところで、夫人が声をかけた。
「そろそろ大会の受付が始まるって聞いたけど、二人とも準備は出来てる?」
「うん。今日コーチと一緒に手続きするつもり」
「儂も手が空いたらデバイスでぱぱっと済ませるつもりです」
リンネは食事を飲み込んでから、フーカは咀嚼しながら返事を返す。それを聞いて旦那が訊ねた。
「ぱぱっとって大丈夫かい? なんなら今日ぐらい休んでジムに行ってきてもいいが」
「大丈夫大丈夫です。お嬢様と違ってこれぐらい一人で出来ますから」
手を振りながら答えるフーカに、リンネはむっと眉を寄せる。
「どうだか。フーちゃん肝心なところでドジ踏むし。コーチさんに見てもらった方がいいんじゃない」
その返しに今度はフーカがむっとリンネを睨む。それを見て夫人は「まあまあ」と声を挟んだ。
「とにかく二人ともいっぱい食べて頑張ってらっしゃい。フーカちゃんも毎日よく働いてくれてるし遠慮なんてしなくていいから」
温かい激励にリンネとフーカは返事を返して食事を済ませ、玄関まで来た。
そこで二人は立ち止まり、階段の向こうにかけられている肖像画を見上げる。
「行ってきます、おじいちゃん」
絵の中で微笑む眼鏡をかけた老紳士に向かって、リンネはいつものように声をかける。それからすぐに踵を返して扉をくぐり車へ乗り込むお嬢様を見送ってから、フーカは再び老紳士に顔を向けた。
「
そう告げた瞬間、絵の中の老紳士、ロイ・べルリネッタはほんのわずか笑みを深めた……ように見えた。
◇
同時刻。ミッド北部、ベルカ自治区の北西部にあるベルリネッタ邸より二回り大きい屋敷『セヴィル邸』でも……。
「お嬢様、今日からインターミドルの参加申請の受付が始まりますが……本当に出場されるおつもりですか?」
不安そうに尋ねるメイドに、短い茶髪の少女は「もち」と頷く。
『お嬢様』という呼称に似合わず、彼女はジャージを着、右手の中に硬そうな
「《ベルカ三家》の跡取りとして、いつまでもヴィッキーやリンデにでかいツラさせておくわけにいかないっしょ。今年から《聖王》様も出るらしいし……“覇王”と名乗ってた子も出るかもしれないでしょ?」
目線を向けながら訊ねる主にメイドは首を縦に振る。
「はい。例の少女、アインハルト・ストラトスは捜査官に捕まった
「ふーん。
呟きながら少女は右手を強く握り、手の中からパキッと音が漏れる。が、それとは裏腹に少女の顔には面白そうな笑みが貼り付いていた。
「まっ、いいや。
このティーニエ・セヴィル様が“全次元最強”の魔法格闘家になってやるんだから!!」
黄色の右眼と緑色の左眼をギラギラと輝かせ、声高く息巻いた瞬間、彼女の手の中からバキバキッと破砕音が響く。それを聞いて、メイドは思わず二歩後ずさった。
片や、ティーニエは不敵な笑みを浮かべたまま粉々に砕けた胡桃を紅茶に入れ、
「じゃ、参加の申し込みよろしくー」
そう言ってティーニエはズズズと音をたてながら紅茶を啜り飲む。
が……。
「いえ、いたずら防止のため、申し込みは本人でないとできない決まりになっています。旦那様たちからもそれぐらい自分でやらせろと言いつけられておりますので、あしからず」
「えっ? そうなの?」
かくしてそれぞれ、目標、誓い、夢、企み等を胸にインターミドルへの参戦を決める。
二ヶ月後の9月、インターミドルの出場をかけた予選が始まる!