魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女   作:ヒアデス

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番外編 リンネとフーカ

 新暦78年11月。

 私立ロズベルグ学園・初等科校舎。

 

 

 早朝。教室に向かう生徒たちとは逆に、私はひとり玄関に向かう。

 “リンネ・ベルリネッタ”でなくなる前に、最後のけじめをつけるために。

 

「昨日、なんか連絡とかあった?」

 

「うちはなにも」

 

「ヤバいかもと思ったけど、あいつもビビったのかな」

 

 あの3人の呑気そうな会話が耳に入ってくる。まるでちょっとしたイタズラがバレてないか心配しているかのよう。

 今すぐ声を荒げて昨日のことを責め立てたくなるが懸命に抑える。誰かが来たらすぐあの三人と引き離される。

 そうなる前に……。

 

「――げっ」

 

 玄関から出てきた三人と出くわし、不快そうに顔をしかめられる。

 私は返事を返さず、じっと彼女たちを眺めた。

 

「な、なによ……?」

 

「邪魔だからどきなさいよ!」

 

 一人が不愉快そうに訊ね、もう一人が私を押しのけようと手を伸ばす。

 直後、私は腕を伸ばし、彼女の腕を掴み上げた。

 

「ちょっとなにしやがっ――いだっ」

 

 彼女の口から鈍い呻きが漏れ、掴んだ腕からギリギリという音が響く。……ごめんなさいローリーさん、あなたの母校でこんな事をして。

 

「お、おい、いったい何のつもり――」

 

 返事も返さず、ただ腕を()じり続ける。そうしているうちに彼女たちの顔に怯えが浮かんでくる。

 特に腕を掴んでいる子は懇願するように。

 

「ま、まって……もうやめ、い゛ぎっ――」

 

 声を聞くのも(わず)わしい。もう一思いに――

 

 

「そこまでにしておけ。それ以上やると取り返しがつかなくなるぞ」

 

 後ろから声がかかると同時に腕を掴まれ、思わず振り返る。

 そこにはいつの間にか、黒髪に黒い右眼と緑色の左眼の男の人がいた。見慣れない茶色い制服を着ていて、明らかに学校の関係者じゃない。

 私は目を細くして彼を睨み――

 

「なんですかあなたは!? 誰か知りませんが関係ない人は引っ込んでて――」

「時空管理局地上部隊、治安維持部の捜査官だ。そいつを離してやれ。でないとお前もしょっ引かざるを得なくなる」

 

 ――管理局の捜査官?

 それを聞いて私はつい力を緩める。その一瞬の間に捜査官は私の腕を持ち上げ、彼女から引きはがした。

 その瞬間、彼に怒りが沸いて――

 

「離して!! その人たちのせいでおじいちゃんとローリーさんから貰った大切なものが――」

 

 もういっそ捕まろうが構わない。

 そう開き直って腕を振るい、捜査官の手を払いのける。彼は意表を突かれたように目を見張るがすぐに我に返り、私が振り上げた拳を躱し、すかさず繰り出した蹴りも躱し、三撃目の打撃を受け止め口を開いた。

 

「オブシディアンケージ!」

 

 彼が呪文らしき言葉を唱えた瞬間、私の足元に三角の魔法陣と紺色の(ケージ)がせり上がり閉じ込められる。

 内側からガンガンと叩くも、檻はびくともしなかった。

 その間に騒ぎを聞いて大勢の生徒と何人かの教師がやってくる。

 

「へっ、バカなヤツ! 孤児のくせに調子乗るから」

「こんな危ない奴、とっとと捕まえちゃってよ!」

「これでお嬢様どころか犯罪者に転落だね。ざまあみろ」

 

 嘲笑を浴びせる三人をよそにガンッと檻を叩くも、やはりびくともしない。あともうちょっとだったのに!

 一方、捜査官は冷めた目で三人を眺めつつ、

 

「そうだな。令状はまだ取れてないが、証拠もあるし逃亡防止のために確保しておくか」

 

 そう言って彼は手を持ち上げる。もうこれ以上は無駄だと諦め、私は顔を伏せた。

 その直後――

 

「えっ?」

 

 三人の一人が間抜けな声を漏らす。何かと思って見てみると三人の手首にロープ状のバインドがかけられていた。

 

「ちょ、ちょっとちょっと、何やってんだよ? 捕まえるのはあっち!」

「無能デカ! さっさとこれほどきなさいよ!」

「色違い目だから前が見えてないんじゃないの!?」

 

 罵声も文句も意に介さず、捜査官は首を横に振りながら言った。

 

「捕まるのはお前らだ。お前たち三人にはそこの子に対する傷害と器物損壊、あと不正アクセスの容疑がかかっている。今から署で話を聞かせてもらうぞ」

 

「はぁ? どこにそんな証拠があるんだよ?」

「ふざけたこと言ってるとパパのコネであんたをクビにさせてやるわよ!」

 

 手首を縛られたまま彼女たちは脅しをかける。しかし、捜査官は平然としたまま口を開いた。

 

「リインフォース補佐、さっき回収した防犯サーチャーの映像データ」

 

『はい』

 

 彼の隣から女性の声がした直後、そこに空間モニターが浮かび、女子トイレの前の廊下が映し出される。

 唖然と眺める中、あの三人がローリーさんから貰った宝石を持ってトイレに入っていく光景が映し出される。その直後、映像が早回しされ体操服姿の私がトイレに駆け込んでいくのが見えた。

 もしかして、これって昨日の……。

 

『4年A(クラス)のリンネ・ベルリネッタさん、ご家族から緊急の連絡です。至急職員室まで来てください。繰り返します――』

 

 モニターの向こうから放送が聞こえてきた瞬間、三人は顔を青くする。その直後、慌ててトイレから出てくる三人が映った。

 

「それから数十分後、リンネが体を押さえながら出てきているのも確認した。トイレに入る前はなかった汚れをつけてな。あと、お前らが偽の清掃中の張り紙を貼ってる所もばっちり映ってたぞ。そこも見せてやった方がいいか?」

 

「ぐっ……」

 

 問いに答えず、三人は呻きのみを漏らす。そこへ教師の一人が寄ってきた。

 

「まあまあ捜査官さん、子供同士の喧嘩ですからここは穏便に。この三人とベルリネッタにはきつく言っておきますので今日のところはお引き取りを」

 

 教師は愛想笑いを浮かべながら、定型句を並べて捜査官を追い返そうとする。しかし、捜査官は冷淡な顔で訊ね返した。

 

「喧嘩? たった一人に三人がかりで危害を加えて、所有物を壊すのを喧嘩と呼んでるんですか? 我々はこういうのを傷害事件や窃盗事件と呼んでいるんですが。この学校も個人情報の扱いがかなり雑なようですね。部下に端末を調べさせたところ、パスワードすらかけられてなかったそうです」

 

 教師の喉から「ぐっ」と詰まるような声が漏れる。

 

「おそらく行政から指導がくると思いますのでお覚悟を。三人はこのまま警防署まできてもらおうか」

 

 捜査官は三人に矛先を戻し、歩き寄る。が――

 

「なんでよ!? ちょっとからかっただけじゃない!」

「そうよ、そんなことであたしらみたいな子供の未来を台無しにしていいと思ってんの!」

「そもそもなんで学校にポリ公がくんのよ!?」

 

 みっともなく喚く三人に、捜査官は呆れるように首を振って。

 

「だあほっ! 学校でやった事だろうが子供だろうが、お前らがやったことは明白な犯罪だ! 犯罪者を捕まえにポリ(管理局)が来るのは当たり前だ! お前らみたいなのが世に出て不正をしでかすようになるからな」

 

 さっきまでとは一転強い口調で責め立てられ、三人は一斉に黙り込む。

 捜査官は落ち着いたように低くした声で付け足した。

 

「それにお前らが壊した宝石、どれぐらいするのかわかってんのか?」

 

「えっ?」

 

 尋ねられた瞬間、またも間抜けな声が返ってくる。捜査官はモニターを弄り、宝石の画像を出してわざとらしく「うわっ」と口にした。

 

「あの爺さん、腕利きの宝石職人だっただけあって高そうなもん作ってんな。これだけでお前ら家族まとめて破産だぞ。向こうの意向次第でこれと踏み潰したデバイスとかの損害賠償と慰謝料、お前らの親に請求するから」

 

「え、うそ……」

 

 小枠に打ち出された価格を見て、三人は蒼白な顔になる。

 

「それとリンネ」

 

 捜査官が私の名を呼びながら振り返った瞬間、檻が砕け、私は自由の身になる。

 それと同時に信じられない報告が届いた。

 

「お爺さんの意識が戻ったそうだ。さっきご両親から連絡があった」

 

「ほんとう、ですか……?」

 

 思わず出た問いに捜査官は頷く。

 信じられない。もう目を覚まさないって聞いたのに。

 

「もう授業どころじゃなさそうだし、今から一緒に病院行くか? そいつらの連行は部下に任せる」

 

「はい、お願いします!」

 

 体を上げつつ即答する。

 その後、後ろにいた捜査員たちに連れていかれる三人とは別に、私は捜査官の車に乗せられ、おじいちゃんがいる病院に向かった。

 そこでローリーさんとダンさん、おじいちゃんと再会した。

 そしてさらに……。

 

 

 

 

 

 

 三日前、アルテナ大学病院。

 保護院の先生に連れられ、市内で最も大きな病院の最上階、その隅にある大きな部屋に案内された。

 ソファやテーブル、壁掛けのテレビまであって、儂が今まで見た病室とは大違いじゃ。

 

「君がフーカ・レヴェントンさんだね?」

 

「あっ、はい。フーカ・レヴェントンです」

 

 上体のみを起こしベッドに横たわっている患者さんに尋ねられ、儂は名乗り返す。

 口から顎まで白い髭を生やして、眼鏡をかけたおじいさん……どこかで見たような。

 内心首をかしげる儂に、おじいさんは嫌な顔どころか笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「ロイ・ベルリネッタです。リンネを引き取った夫婦の親、リンネの今の祖父でもある」

 

「リンネのおじいさん?」

 

 儂の問いにロイさんはゆっくり頷き、懐かしむように口にした。

 

「君とも一度会ってるんだが、覚えておらんかね? 二年前、雪かきをしていた君たちに飲み物を差し入れた爺さんを」

 

「覚えてます! あの時はありがとうございました!」

 

 完全に思い出した。リンネがかけた道を通り、儂らに熱い飲み物を奢ってくれたおじいさんを。

 頭を下げる儂に、ロイさんは笑みをこぼしながら頭を上げるように言ってくれた。

 

「わざわざ来てもらってすまない。本来ならこっちから訪ねるべきなんだが、外に出るのもままならんでな。そこにお詫びのジュースがある。遠慮なく飲んでくれ」

 

 そう言ってロイさんは近くの台に乗ってるジュース缶を指さす。おじいさんが好きそうなものじゃなかったから不思議に思っとったが。

 儂はまた礼を言いながらジュース缶を開け、一気に飲み干す。ロイさんは微笑ましそうに眺めつつ、先生に対し儂と二人きりにしてほしいと頼んでいた。

 

 

 先生が部屋を出、儂がジュースを飲み終わったところでロイさんは尋ねてきた。

 

「先生から聞いたが、フーカさんはリンネが施設にいた頃の一番の親友だったそうだね?」

 

「はい。お互い他の子より仲が良かったと思っとります」

 

「そうか。私たちに遠慮してるのか、院でのことは話してくれなかったからな」

 

「あいつらしいですね。リンネは元気にしてますか?」

 

 何気なく尋ねたつもりだったが、ロイさんは難しい顔をし考えるように上を見上げる。

 首を傾げたところで重い口ぶりで言った。

 

「実はな……今年に入ったあたりから学校の事を聞くたび話を濁したり悩んでいるような様子を見せるようになってな。調べてみたところ、一部素行の悪い生徒がいたり、嫌がらせを受けて退学している生徒もいるようなんだ……もしやリンネもあそこで何か嫌な思いをしているのかもしれん」

 

「えっ――それは本当ですか?」

 

 無意識に低くなった声で訊き返す。ロイさんは誤魔化しもせず首を縦に振った。

 

「妻や娘が通っている時はいい学校だったんだが、名門という看板を守ることに固執して、問題の発覚を防ぐ隠蔽や事なかれ主義が蔓延するようになっているらしい……すまん。もっと早く気付いていれば」

 

「…………」

 

 慰めの言葉もかけられず儂は黙り込む。

 

「娘夫婦もリンネが希望すればすぐ転校させるつもりでいるようだが、思い過ごしだとしたら逆にあの子を振り回すことになってしまう……そこでフーカさんにお願いがある」

 

「なんでしょう?」

 

 まさかと思いながらも尋ね返す。ロイさんは意を決したように言った。

 

「私たちの家に来てくれんか。君にならあの子も本心を打ち明けられるかもしれんし、ひょっとしたら君に会えなくて寂しいだけかもしれん。あの子を傍で支えてやってほしい」

 

「……それは養子として来たうえでですか?」

 

 儂の問いにロイさんは笑みを浮かべて答える。

 

「君がいいならそうするし、名前を変えたり私たちを家族と呼ぶのに抵抗があるなら里子という形で来てくれてもいい。娘たちも是非来てほしいと言っているんだが」

 

 すがるような言葉とリンネが苦しんでるかもしれんと聞いて、儂は頷きたくなるものの……。

 

「リンネが引き取られた……ロイさんの家はすごいお金持ちと聞いてますが……」

 

「妻とともに立ち上げた『ベルリネッタ・ブランド』という服と宝石を売る会社の経営に成功してな。社長を引き継いだ義息子の手腕もあって贅沢な暮らしができている」

 

 ロイさんは照れながら説明し、真剣な表情に戻って続ける。

 

「君に不自由はさせんし、やりたい事や希望もできる限り叶えると約束しよう。だから私たちの家に――いや、リンネの傍にいてやってくれんか」

 

 何十歳も離れ、大きな会社を立ち上げた事もあるおじいさんに頭を下げる勢いで頼みこまれる。じゃが――

 

「すみません、お断りします!」

 

 頭を下げながら告げた瞬間、向こうから声を飲み込む気配が伝わってくる。儂は頭を下げたまま続けた。

 

「ロイさんの気持ちもリンネが苦しんでいるのもたぶん分かります……でも、見ての通り儂は行儀も作法も知らない粗忽(そこつ)もんじゃから、お嬢様なんてできんし性に合いません。それに馬鹿にされたらやり返さずにいられん性格で、リンネがいじめられてるとこを見たら、多分殴りあいになると思います。院にいた時もそれであいつに迷惑かけたこともあったし、ロイさんとあいつの今の両親にも迷惑かけると思います」

 

「行儀など気にするつもりはないし、もし向こうと喧嘩になっても全力で庇うつもりだ。儂も娘夫婦も、リンネとその親友のためならそれぐらいなんでもない……と言ってもかね?」

 

 ロイさんは迷いのない口調で告げ、最後の問いをかけてくる。

 本当に愛されてるのじゃな、リンネは。

 じゃからこそ儂なんかが入り込むわけにいかん。

 

「儂のせいで家族に迷惑をかけたら、それこそあいつを裏切る事になります。じゃから養子や里子の話はお断りさせていただきます」

 

「……そうか」

 

 ロイさんはとため息を零しながら顎に手を当て、しばらくしてから思いがけない事を言った。

 

「では“お手伝いさん”としてうちで働く、というのはどうかね?」

 

「…………えっ?」

 

 想像もしていなかった一言に、口から気の抜けた声が漏れる。

 そんな儂にロイさんは悪戯っぽい笑みを浮かべて繰り返した。

 

「お嬢様が合わんならお手伝いさんとしてうちに来てくれないか。そうすれば行儀や作法など気にしなくていいし、リンネの話し相手もできる。もちろん給料は出すし学校にも行かせよう……それでどうかな?」

 

 まさかの提案に儂はあんぐり口を開ける。

 たしかにお嬢様よりはまだ気楽じゃが、金持ちの家で働くとなるとお手伝いさんというより“メイド”じゃあ。しかもリンネや儂みたいな子供を欲しがるなんて……。

 

「まさかロイさん、よからぬ趣味があるんじゃないじゃろうな?」

 

 敬語も忘れ半目で訊ねる儂に、ロイさんはとぼけるように答えた。

 

「さて、子供好きなのは事実だからフーカさんの受け取りようによっては否定できんが」

 

 ……別の意味でリンネが心配になってきたわい。それにどの道、あと2年もすれば院を出て働くつもりじゃったしな。

 

「少しだけ考えさせてください。先生とも相談したいから。ただし――」

 

 ただしと加えた瞬間、ロイさんは笑みを消し真剣な表情を見せる。

 

「さっき言った通り、儂は礼儀知らずじゃから失礼なことを言ったりしてしまうかもしれません。それ抜きでもリンネには言いたいこと言わせてもらいますし、場合によっては喧嘩もするつもりです。そんな不良メイドでもいいならですが」

 

「はっはっ。それぐらい構わんよ。なんなら私にもため口で話してくれていい。期待して待っているよ……御神君の言う通りに言ったら本当に上手くいったな

 

 ぼそりと呟きが聞こえるが、小声すぎて聞き取れず儂は首をひねる。さっきの問答のせいか、もうロイさんに対して遠慮する気にはならなかった。

 

 

 

 その3日後、返事を兼ねてお見舞いに行ったところで、ロイさんの娘夫婦と学校から駆けつけてきたリンネと再会した。

 さらに彼女を送ってきた御神(みかみ)さんとリインフォースさんという局員とも会ったんじゃが、そこで聞いた所によると儂をメイドにする云々は御神さんの案だったらしい。

 リインフォースさんも『本当にそんなこと提案したんですか!?』と呆れとったわい。

 

 

 

 

 

 

 そして一週間後、“その時”はきた。

 フーちゃんと父さんと母さん、御神さんたちが見守る中、おじいちゃんはベッドに横たわったまま呟く。

 

「リンネ、フーカ、ローリーとダン君もありがとう……娘夫婦とかわいい孫たちに囲まれて、幸せな人生だった……」

 

「もう、おじいちゃんったら、またすぐ元気になるよ」

 

 もしかしたらと祈りながら、おじいちゃんと自分に言い聞かせる。けど、おじいちゃんは首を横に振った。

 

「いい。私はもう長くない。こうして話せるのはおそらく今日で最後だろう」

 

 それは私にもわかっていた。あの時奇跡的に目を覚ましたものの、その後また体が悪くなって上半身も起こせないほど弱っていったから。

 

「フーカ、君が来てからリンネもローリーたちも、家の皆が明るくなった。こんな事ならもっと早く来てもらえばよかったな」

 

「今さら言うても遅いですよ。もっと早く呼んでくれればいっぱい働いていっぱい稼いで、大旦那さんに花束ぐらいプレゼントしたんじゃがなー」

 

 フーちゃんはわざとらしく両腕を首の後ろに組んで生意気な声と笑みを向ける。私も母さんたちもそれを咎めはしなかった。フーちゃんの飾りのない振る舞いと言い方がおじいちゃんも好きだったから。

 

「御神君とリインフォースさんもありがとう。君たちのおかげでリンネの問題も解決した。三年前、孫を引き取る事を勧めてくれた上にここまでしてくれて、何と礼を言っていいか」

 

「いえ、俺たちはお孫さんが暴行を受けたらしいと聞いて捜査をしただけですから。本当にいいんですか? 慰謝料や賠償請求しなくて。結局執行猶予が付きそうですし、それぐらいやってもいいと思いますが」

 

 尋ねる御神さんに母さんは苦笑と返事を返す。

 

「さすがにそこまでしたらご家族が可哀そうですから。あの宝石もデバイスに作り直してもらいましたし」

 

「確かに追い詰めすぎると別の問題を起こしかねません。加害者三人のうち、サラという子には素行の悪い兄がいるみたいです。彼が生活に困って犯罪に走ったら別の被害が出るかもしれません」

 

 リインフォースさんは文章だらけのモニターを見ながら告げる。彼女たちの横暴さはお兄さんの影響もあるかもしれない。どの子がサラさんかはわからないしどうでもいいけど。

 

 

「ローリー、ダン君、孫を欲しがっていた儂の我儘(わがまま)を聞いてくれてありがとう。これからもリンネとフーカを頼む」

 

「そんなの当たり前よ」

 

「二人とも、僕たちにとってかけがえのない子ですから。手放せと言われてもお断りします」

 

 母さんは涙を拭いながら、父さんも重い声で答えを返す。

 おじいちゃんは微笑み、再び私たちの方を向いて言った。

 

「リンネ、フーカ、これからはやりたい事をやりなさい。勉強も仕事もいいが、好きなものやりたい事を見つけてそれに全力でぶつかってみろ。それがおじいちゃんの最後の望みだ」

 

 そう言われてもなんて言っていいか困る。けど――

 

「当たり前じゃ! 儂もリンネも最初からやりたいようにやっとる。そのうちミッドや次元中を驚かせるようなことをしてやるから、じいちゃんは空の上で儂らの活躍を見守ってておれ!」

 

「じいちゃんか……悪くないな」

 

 フーちゃんの呼び方と気持ちのいい宣言を聞いて、おじいちゃんは小さく笑う。私も――

 

「私も、まだ何をしたいのかわからないけど、おじいちゃんがいるところまで届くような活躍をするから。それまで見ていて!」

 

「そうか、それは楽しみだ。……これでもう心残りはない。安心して妻のもとへ行ける…………」

 

 おじいちゃんは目を閉じ、ゆっくりと眠りにつく。

 それを見て私もフーちゃんも父さんと母さんも涙を零し、リインフォースさんまで貰い泣きしていた。

 そのままおじいちゃんは目を覚ますことなく、三日後に息を引き取った。

 

 

 

 その後、私は体育中にジル・ストーラーさんの目に留まってストライクアーツを始め、フーちゃんもそれに興味を持ち同じジムに入った。

 そして今年、二人そろって『インターミドル』に挑戦することになる。

 

 見ていて、おじいちゃん。次元中を驚かせるような私たちの活躍を!

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