魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女   作:ヒアデス

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第12話 小さな主人公(アスティオン)・天瞳流道場

 カルナージの合宿から一週間後、私たちは再び八神家にお邪魔していた。

 はやてさんたちは嫌な顔もせず、むしろ楽しげに――

 

「さて、約束どおり覇王様の愛機が完成したんで、お披露目&お渡し会ということで!」

 

「パチパチ!」

「まってましたー!」

 

 はやてさんの横でツヴァイさんが拍手をし、アギトさんは紙吹雪をばら撒く。私も掃除手伝うべきでしょうか?

 

「あっ、近くの屋台で売ってたドーナツです。もしよければ」

 

「おおきに。みんなが帰ってきたら一緒に頂くわ」

 

 チンクさんが差し出すドーナツ入りの袋を、はやてさんは嬉しそうに貰い受ける。

 それを横目にしながら――

 

「もしかして、ツヴァイさんとアギトさんも協力してくれたんですか?」

 

 私の問いに二人はこくりと頷く。

 

「ユニットベースは私が組んで、健斗さんがAIシステムの主要部分を作って」

 

「私が補助部分の作成と調整をしました!」

 

 ツヴァイさんに続いて、はやてさんが胸を叩きながら合いの手を入れる。

 

「で、肝心の外装はアギトの手作り」

 

「そーだぞ!」

 

 はやてさんに抱き着かれて、アギトさんは照れながら頷く。

 

「健斗さんの案で、クラウスって王様が飼ってた雪原豹をモチーフにするのは決まってたから、あたしは外でも出せるように少しアレンジしただけだけどな」

 

 外に出せる!

 その言葉とともに、『ライゼ』そっくりな豹とともに会場に立つ姿が脳裏に浮かび、期待に胸を沸き立たせる。

 これぞ『覇王の後継者』に相応しい姿! クラウス(覇王様本人)満面の笑み(にっこり)のはず!

 

 一方、御神さんはばつが悪そうに苦笑しながら、「まあ、あの豹とはかなりかけ離れたけどな」と呟いた気がした。

 

 

「とにかく、百聞は一見に如かず。早速ご対面といこう。リイン!」

 

「はいです!」

 

 パチンと指を鳴らすはやてさんに合わせて、ツヴァイさんが20cmほどのプレゼント箱を取り出し、私の前に置く。

 

……この中に豹をモチーフにしたデバイスが?

 

 内心首をひねりながら私はラッピングを解き、胸を弾ませながら蓋を持ち上げる。ユミナさんとミウラさんも両隣に座ったまま、ドキドキした様子で見守っていた。

 そんな私たちの前に現れたのは――。

 

………………、猫?

 

 箱の中ですやすや眠る動物型デバイスを見て、私は思わず目をパチクリさせる。どう見ても(トラ)柄の猫にしか見えない。

 

「きゃあ、かわいい!!」

 

 猫みたいなデバイスを見て、ユミナさんは喜色に満ちた声を上げる。だが、やはりギャップは拭えず私は呆然とする。

 ライゼどころか豹ともかけ離れている。虎柄だけはあの子とそっくりですが。

 

「いやな、豹と間違われるとパニックが起きて警邏隊とかを呼ばれるかもしれないだろう。そのためあえて豹に見えないようにアレンジしたみたいなんだ。もう少しキリっとさせた方がいいんじゃないかと言ったんだが」

 

 御神さんが注釈を垂れる中、デバイスはもぞもぞ動きながら目を開き、私に向かって「にゃあ」と可愛い鳴き声を上げた。

 向こうからはやてさんが「触れたげて」と言ってくる。

 それに従い、私は両手でそっとデバイスを抱き上げた。体も温かくて、本当に生きているみたい。

 

「こんなかわいらしい子を私がいただいてもいいんでしょうか?」

 

 私の問いにアギトさんは「もちっ」と頷き、「アインハルトさんのために生み出した子ですから」とツヴァイさんが言ってくれる。

 

「つうか、貰ってくれんと俺たちの苦労が水の泡になるし、お前も大会に出られんぞ。遠慮なく使ってくれ、つか使え。外装が不満なら今度作り直してやるから」

 

 御神さんにまで言われ、私はデバイスを抱えたまま「はい」と頷く。

 

 

「名前はまだついてないから、よかったらマスター認証と一緒につけてあげてな」

 

「バリアジャケットの調整もしたいので、庭でお願いします」

 

 はやてさんとツヴァイさんに促され、私はデバイスと一緒に庭に立つ。

 ライゼとはかなり違う。でも、なぜか懐かしくて見ているだけで胸がポカポカする。

 

 ――そうだ。ライゼの他に飼ってた豹たちの子供が生まれるたびに、オリヴィエ殿下とリッドと一緒に子供たちをあやしたり遊んであげたりしたっけ。気が早いオリヴィエ殿下はいつも子が生まれる前から名前を考えてくれて。

 オリヴィエ殿下がいた最後の年、産後の状態が悪くてそのまま死んでしまったライゼと同じ虎模様の子供。あの子に彼女が贈るはずだった名前は――。

 

「アスティオン」

 

 そう告げると、デバイスはピクリと動き私を見上げる。

 二人が好きだった物語の、勇気を胸に諦めず進む、小さな主人公。

 

「個体名称登録――あなたの名前は『アスティオン』。愛称(マスコットネーム)は『ティオ』」

 

 名前を付けられ“ティオ”は嬉しそうに鳴く。彼を肩に乗せながら声を張り上げて唱えた。

 

「アスティオン――セットアップ!」

 

 

 

 

 詠唱を唱えた瞬間、アインハルトの足元に浮かぶ魔法陣から緑色の閃光が噴き出し、バリアジャケットを着た大人形態に姿を変えた彼女が現れる。

 その姿と構えを見た一同から「おお~~」と感嘆の声が漏れた。

 

「あれ、前と髪型変わってない?」

 

「そうですか?」

 

 ユミナに指摘されアインハルトは髪を撫で、結び目がついている事に気付く。そして作成者の俺をちらりと見るが、俺は手を加えた覚えはない。女の子の髪型なんて詳しくないしな。

 

「アスティオンが調整してくれたんですよ。きっと」

 

「ああ。そっちのほうがいいよってな」

 

 ツヴァイとアギトに言われ、アインハルトは「そうなんですか?」とアスティオンに尋ね、ティオは「にゃー」と無邪気な泣き声を返す。

 そんな中、俺はちらりと、もう一つ変化している部分に目を向けた。

 

 アインハルトが身に着けているバリアジャケットも微妙に変化しており、スカートの前に大きな切れ目が入っていて黒いインナーが丸見えになっていた。

 〇〇〇じゃないから見えても大丈夫なんだろうか?

 

「健斗、見えてしまうのは仕方ないが、ちらちら覗き見るのはやめてくれ。傍から見るとかなり怪しいぞ」

「――っ!」

 

 すぐ後ろからリインの声がして、思わずそちらを振り返る。彼女の隣ではやてもじとりとした目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 翌日。休日を利用して私は朝早くから御神さんとリインさんに連れられ、南部にある大きな道場に来ていた。

 木造の部屋で、御神さんたちとともに膝を折るように座りながら、師範たちと相対する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「『抜刀術天瞳流(てんどうりゅう)』総師範、天瞳 剛真(てんどう ごうしん)と申す」

 

「あ、アインハルト・ストラトスと申します。稽古に協力していただき誠に感謝致します」

 

 四角い眼鏡をかけ白い髭を蓄えた総師範の姿と威厳に圧倒され、たどたどしい口調で名前と感謝を告げる。そこで師範の横に立つご夫人が「あらあら」と声を挟んだ。

 

「おじいさんったら、また怖い顔しちゃって。気にしないでいいのよストラトスさん。久しぶりにレツヤの仕事仲間やお友達が遊びに来てくれて喜んでるの」

 

「は、はあ……」

「よ、喜んでなどおらん!」

 

 私の相槌を掻き消さん勢いで師範は野太い声を返す。“天瞳(テンドウ)”に“レツヤ”ってもしかしなくても……。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「初めまして。天瞳カローナと申します。先日は孫息子のレツヤがお世話になりまして。もしよかったら今後もあの子と仲良くしてやってくださいね」

 

「いえ、お孫さんには私の方がお世話になりっぱなしで。こちらこそよろしくお願いします!」

 

 深々と頭を下げる夫人に、私も慌てて頭を下げ返す。異世界風の衣装を着ているものの、ミッドではありふれた名前と金髪碧眼。ご夫人はこちらの世界の人でしょうか?

 

《アインハルト、気を緩めすぎるなよ。ああ見えて恐ろしいのは奥さんの方だ。昔は管理局の前身組織の一員、しかも三提督の同期でな。もし新暦後も局に居続ければ、“四提督”になってたのは間違いない》

 

《えっ? 本当ですか?》

 

 思念で尋ねる私に御神さんはわずかに首を縦に揺らす。

 

《しかも在籍時はミゼットさんとやり合ったことが何度もあってな。他の二提督はおろか、初代三提督(最高評議会になる面々)すら止められなかったらしい》

 

「あらあら、御神さんもストラトスさんも脂汗なんか流しちゃって。まさか念話で人の昔話なんか言いふらしたりなんてしてませんよね?」

 

「い、いやいや、そんなわけないじゃないですか!」

 

 尋ねられた瞬間、御神さんは否定しながら首をぶんぶん振る。確かに、失礼な真似はしない方がよさそうですね。

 

「まあ、こんなところまで来たんだ。まずは一服するといい」

 

 師範の言葉を補足するように、夫人も「どうぞ」と目の前に置かれた緑色のお茶が入ったコップを示す。 

 御神さんとリインさんは一言「いただきます」と告げながら両手でコップを持ち、ゆっくりと口を付ける。私も同じように「いただきます」と告げてコップを持って口を付けた。……ものすごく苦い。

 顔をしかめかける私とは裏腹に、師範はコップを傾けお茶を一口で飲み干し、御神さんに向けて口を開いた。

 

「御神の(わっぱ)が訪ねてきたから何事かと思えば、己の弟子の稽古をつけてほしいと言い出すとはな」

 

「弟子じゃありませんって。知り合いの子が大会に出ることになって、練習相手を紹介しているだけです。それでまずは格闘型にとって相性の悪い刀剣類の使い手に相手を頼もうかと思いまして」

 

「ふむ。確かに誰と当たるかも分からぬ予選では、己が不得手を克服する以上の対策はあるまいの。なれば儂が相手を務めるとしようかの」

 

 そう言って師範が片膝を持ち上げた瞬間、背中がぞわりと粟立つ。ここで彼と闘ったら、十日は立っていられなくなる気がする。

 

「いやいや、それじゃあ対等な取引になりません。ストラトスの斬撃対策の練習をさせてもらう代わりに、“そちらのお弟子さん”の接近戦対策をさせてやるって条件で来たんですから(あんたに勝つなんて大会優勝より難しいしな)」

 

 両手を振る御神さんを見て、「儂は別に構わんのだがの」と言いながら師範は座り直す。

 片や、私は安堵の息をつきながら“お弟子さん”を見る。

 御神さんと師範の掛け合いを笑いながら眺め、優雅な所作でお茶を口に運んでいた黒髪の女性はこちらの視線に気付き、コップを口から離しながら淡い笑みを向けた。

 

「練習相手にご指名頂いて光栄です。ただ、私も今年こそは優勝したくてね。接近戦型(インファイター)対策を身につけるために本気で行かせてもらうつもりだが……本当にいいのかい?」

 

 赤い目をギラリとさせながら訊ねる女性に、私は首を縦に振る。

 

「構いません。私も斬撃対策を掴むために本気で行かせてもらいますから!」

 

「怖いな。今にも殴り倒さんという()をしてるじゃないか」

 

 口調とは裏腹に彼女は不敵な笑みを浮かべ、師範に体を向けて告げた。

 

「総師範、御神さん。ストラトスさんとお手合わせをさせてください。お互い得ることはあっても無駄になることはないと思います」

 

 頭を下げる彼女に倣い、私も二人に頭を下げる。師範と御神さんからは頷く気配とともに――

 

「ミカヤが良いのなら、儂が断る道理はない。両人とも精々励むがよかろう」

 

「俺としては願ったり叶ったりだ。ボロ負けしすぎて見放されないようにな」

 

 二人から激励を貰い、リインさんと奥様も微笑む。

 

 そうして私は天瞳流師範代にしてすでにインターミドル出場権を持つベテラン選手、そしてレツヤさんの姉弟子でもあるミカヤ・シェベルさんとのスパーに臨む事となった。

 

 

――お見せしましょうティオ。《覇王流》の斬撃対策を!

「にゃあ!」




【原作を読んだ方への補足】
ライゼは雪原豹ながら突然変異で虎模様だったということにします。そうしないとティオよりビビストのウラカンの方がモデルに近いということになってしまいますから。
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