魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女   作:ヒアデス

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第13話 波乱の予感

 9月初旬。

 第27回インターミドルチャンピオンシップ 中央区第1会場。

 そこのステージは今、即席のリングがいくつも設けられ、大会の出場を狙う選手たちが『選考会』と言う名目の闘いを繰り広げていた。

 

 

『それではCリング・Eリングの選考試合を始めます。Cリングはゼッケン367VSゼッケン554。Eリングはゼッケン1066VSゼッケン1084……』

 

「はあああっ!」

 

「――やああっ!」

 

 開始早々、Cリングで闘うミウラは相手が迫ってきた瞬間片足で相手を蹴り上げ、Eリングで闘いを始めたヴィヴィオも相手の懐に迫って打撃を与え、それぞれ急所に(とど)めの一撃を入れる。

 それを喰らった瞬間、相手は床に倒れ伏し、ミウラとヴィヴィオの勝利が決まった。

 

 あがり症に加え初の試合ということもあって、さっきまでガチガチに固まっていたミウラだったが、闘いの空気と相手の動きに身体が反応してくれたらしい。

 

 別のリングでも……。

 

『Dリング、スタンバイ・セット…………レディ――ゴー!』

「でえええいっ!」

 

 合図が放たれた瞬間、相手選手は槍型デバイスを突き出し、勢いよくアインハルトに迫る。

 

「はっ!」

 

 が、アインハルトは素早く片手を持ち上げ、裏拳で槍を弾き上げる。

 彼女はそのままもう片腕を振り上げ、相手の胸元に強い一撃を入れ場外まで叩き落した。

 

『でぃ、Dリング選考終了! 勝者、ゼッケン935』

 

 慄きの混じった勝利宣言が響く中、アインハルトは感慨なさそうな表情で相手選手に向けて「ありがとうございました」と小さく告げながら頭を下げる。

 それとは対照的に――

 

 

「すごいすごーい!! 一発でKО(ノックアウト)! あれなら(みんな)“スーパーノービス”も狙えますよね!?」

 

 下のステージとは逆に、選手の知り合いや家族ぐらいしかおらずガラガラの観客席で、親友たちの勝利を見てユミナは歓喜と興奮が混じった声を上げる。それに俺とリインは笑みと頷きだけを返した。

 ちなみに『スーパーノービス』とは、初出場や戦績がない『ノービスクラス(一般枠)』のうち、選考会で優秀な成績を収めた選手が入れるクラスで、同クラス同士での選考戦に勝てば『エリートクラス』に上がることができる。

 激戦区で知られるミッド中央じゃ、ここでスーパーノービスぐらい入れないと都市本選まで進むのは無理だ。

 だが、ナンバーズたちから手ほどきを受けたヴィヴィオと友人たち、《覇王》の記憶と経験を受け継ぎヴィヴィオを何度も打ち負かしてきたアインハルトと彼女に並ぶ素質を持つミウラにはいらぬ心配だったようだ。

 ()()()()と当たっていたら厳しかったがな――。

 

 

「お、おい、あっちの子もすごいぞ!」

 

 ふと横から上がった声につられ、俺たちも彼らが見ている方に目を向ける。

 そこでは――

 

「はああっ!」

 

 打撃を繰り出してきた黒髪の選手の胸元に蹴りが撃ち込まれ、相手は上体をのけ反らせながら後退する。

 白髪の選手はそのまま硬く握り込んだ打撃を打ち込みながら、リング端に追い込んでいく。打撃が鈍った一瞬の隙を突いて、相手は真横に跳んだ。

 

「っ、やああああっ!!」

 

 この機を逃すまいと黒髪の子は拳を握り締め、勢いよく殴りかかる。

 が、白髪の子は身をよじって拳を避けて相手の胸元に迫り――

 

「はあああっ!!」

 

 拳を突き入れた直後、相手は勢い良く後ろに吹き飛び、ロープを突き抜けてそのまま場外まで投げ出される。幸い、セコンドを含め激突した者はいなかったものの……。

 

『え……Aブロックしあ、選考終了! 勝者ゼッケン218!』

 

 

 

「すごい打撃……競技用のロープが千切れるなんて」

 

 気絶したままの選手と引き千切れたロープを見て、周りの観客同様ユミナも唖然と呟きを漏らす。

 

「ああ、“昔”よりさらに鍛えこんでるみたいだな」

 

「えっ、御神さん、あの選手を知ってるんですか?」

 

 ユミナの問いに俺は頷き、リインが答えた。

 

「彼女……リンネ・べルリネッタの一家とは縁があってな。あの子の事も色々聞いている。学校の体育や半年前から始めたストライクアーツで優れた成績を残しているとも」

 

 話を聞いてユミナは「はぁ」と感嘆とも戸惑いともとれぬ相槌を返す。

 そんな中、俺は二つ隣のリングで闘っている茶髪の少女に目を向けた。

 

 

「だあああっ!」

 

 リンネとは逆に、開始早々相手に攻めこまれ、フーカは両手を突き出してガードを取り続ける。相手は去年予選まで上がった子で、鋭い攻撃を浴びせてくる。

 そんな相手から何度も打撃と蹴撃を喰らい、フーカはよろめいた。

 

「そこだあっ!」

 

 止めを刺さんと相手は大きく拳を振りかぶる。だが、そこでフーカは目を開き、青色の魔力光を纏った拳を振り上げた。

 

「はあああっ!」

「ぐっ――!」

 

 下から顎を殴りつけられ、よろめく相手にフーカは拳を繰り出し何度も殴りつける。

 相手はそれでも退かず腕を振りかぶる――が、それより速くフーカが拳を突き上げた。

 

「――“四神流・青龍拳”!!」

 

 胴を貫かれた瞬間、相手選手は宙を舞い、ドンッと音をたてながらリングに落ち、動かなくなる。

 それを目にして――

 

「Dリング選考終了! 勝者ゼッケン476」

 

 勝利宣言が響く中、フーカは勝利の喜びに唇を吊り上げた。

 

 

 

「あの二人も予選通過。あの分ならスーパーノービス入りだろうな」

 

「ああ。アインハルトたちと当たれば強敵になるのは間違いない」

 

 俺の呟きにリインフォースも硬い返事を返す。その横から、

 

「あの子とも知り合いなんですか……あの子のご家族ともご縁があるんですか?」

 

 ユミナの問いに、俺は首を縦にも横にも振らず腕を組んだまま答えた。

 

「まあな。リンネと同じ施設出身で、今はベルリネッタ家のメイドとして働きながら格闘技もやっている。方針の違いでリンネとは別のジムだがな」

 

「メイドさんですか……」

 

 ユミナは戸惑いを露わにジャージ姿のフーカを見下ろす。確かにあの格好からメイドを連想するのは難しいだろう。メイド衣装も結構似合ってるんだがな。

 

「お、おい、マジかよあれ……」

「かわいそうに。あの子はここで終わりだな。他の大会なら違う階級行きになっただろうに」

 

 客達の声が届き、またも俺たちは彼らが見下ろす先を見る。

 そこには常人の三倍ほど大柄な女が立っていた。彼女に遮られて、こっちからは相手の選手がほとんど見えない。

 それを見て「すぐに逃げるか降参するだろう」と囁き同情する客たちとは裏腹に、司会は冷静なままの口調で告げた。

 

『Fリング、ゼッケン767VSゼッケン999。スタンバイ・セット……』

 

 掛け声に合わせて、巨漢の女は両手をまっすぐ伸ばして構えをとる。対して相手選手は微動だにする気配も見せない。

 

『レディ――ゴー!』

 

「でやああああっ!!」

 

 合図があがった瞬間、巨漢の女は見た目と裏腹な甲高い声と見た目に違わず豪快な足音を響かせながら張り手を突き出し、相手に押し迫る。

 しかし、相手は巨漢が突き出してきた張り手をひょいと避ける。巨漢はもう片方の腕を振り下ろし二撃目を繰り出そうとするが、「セイッ」という掛け声とともに拳を突き出された瞬間、張り手もろとも巨体を吹き飛ばされた。

 同時に、相手選手もその姿を露わをする。

 

「暑苦しい闘い方だねぇ。別の世界でやってる『HARITE』や『SUMOU』ってやつ? なら掛け声も『どすこい』の方がいいんじゃない?」

 

 巨漢を吹き飛ばした茶髪の少女は、嘲るような笑みと挑発的な言葉をぶつける。それを聞いて巨漢は顔を歪めながら起き上がり、「なんですって?」と文句を返した(意外にお嬢様っぽい口調だな)。

 それに臆することなく茶髪の少女は顔を上げ、()()()()()()()()()()()で巨漢を見つめ返した。その顔を見た瞬間、ピクリと眉が跳ね上がる。

 

「あれ、違った? まあいいや。もう一度かかっておいでよ。選考会なんかじゃ客も少ないし、さっさと終わりにしたいしさ……もっとも」

 

 そこで少女はちらりと顔を向け、自身と同じオッドアイの少女――アインハルトとヴィヴィオを見た。

 

「“覇王様”と“聖王様”への(はなむけ)にはちょうどいいかな。アタシの初デビュー、ちゃんと見といてよ♪」

 

 顔を逸らしたまま、遠くで観ている女の子たちにウインクを投げる。

 そんな相手に巨漢は湯気が出そうなほど顔を赤くして、

 

「なら、あんたの敗北と泣き顔を会場中に見せてあげるわぁぁ!!」

 

 巨漢は怒声を上げながら、茶髪めがけて真横に伸ばした腕を振り下ろす。が、茶髪は避けようともせず拳を突き出し――。

 

「セイ、セイッ!」

 

 茶髪の少女は特徴的な掛け声とともに突き出した拳で腕を弾き返し、すかさず繰り出してきた張り手も難なく受け止める。

 そんな相手に巨漢も只者ではないと気付いたのか、汗を垂らしながら緑の魔力光を纏った張り手を間断なく突き出す。が、茶髪は「セイッ」と掛け声とともに拳から放った()()で張り手を跳ね返し、四撃目で巨漢の体をも弾き飛ばした。

 が、巨漢はすぐさま意識を振り絞り、その場から飛び上がって自らの巨体で相手を圧し潰さんと落下してくる。

 しかし、茶髪はにやりと唇を吊り上げ――

 

「あんたみたいな雑魚が味わえるなんて光栄に思いなよ――《固有技能》震動付与(ヴァイブレイション・インパティッド)!!」

 

 聞き覚えのある技名を叫びながら茶髪も飛び上がり、空中で巨漢の腹を思い切り殴りつけ、巨大な体を浮かせる。茶髪は空気という見えない床を踏みぬいてさらに跳び上がり、彼女の頭を思い切り蹴り上げ、リングの床に叩き落した。

 その衝撃で会場中が揺れるほどの地響きと轟音が響き渡る。そんな中、茶髪はすたっと着地し、ぱんぱんと手を鳴らした。

 観客たちは皆彼女に目を向け、他の選手たちも闘いを止めて注視している。ヴィヴィオたちもアインハルトたち、リンネとフーカもだ。例外は彼女に敗れ、気を失っている巨漢の選手だけだろう。

 俺もリインも大きく目を見開いて茶髪の少女を見る。彼女の強さと技に驚いた、だけじゃない。

 

 あの姿、両眼――そして《固有技能》。

 間違いない。あいつは――

 

「えっ、Fブロック選考終了! 勝者、ゼッケン999!!」

 

 アインハルトとリンネの時以上に上ずった声で、司会は彼女の勝利を告げる。

 が、茶髪の少女は心外そうに人差し指を揺らし……。

 

「ちっちっ、ゼッケンなんて呼び方はやめてよ。大会出場とスーパーノービスは確定でしょ。誰かマイク貸してくんない!」

 

 少女の叫びを聞いて、近くにいたスタッフがびくっと身じろぎする。そんな彼にセコンドらしき女性が何事か告げてマイクを借り、少女の元へ持っていく。

 少女は礼も言わずマイクを奪い取り、会場中に声を響かせた。

 

『アタシはティーニエ・セヴェル! 愚王ケントとティッタ・セヴィルの血を引く《セヴィル家》の次期当主――そしてこの大会で優勝し、ベルカ王族の末裔たちも全員ぶっ倒して、“次元最強の魔法格闘家”になる女だ!!』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 ティーニエ・セヴィルの名乗りと宣言が響き渡り、さっきまでとは一転、会場はしんと静まり返る。

 

「セヴィル家の跡継ぎって、あのガキがかよ? しかも“愚王”の血まで引いてるって、マジ?」

 

 ツインポニーの赤毛の少女、ハリー・トライベッカは唖然と呟く。さっきまで彼女と喧嘩をしていた眼鏡をかけた真面目そうな黒髪の少女、エルス・タルミンもずれかけた眼鏡を直しながら、

 

「た、確かに、ティッタ・セヴィルは愚王ケントの異母妹に当たるから、傍系とはいえ愚王の子孫にもあたりますが……こんなところでそんな事を言うなんて」

 

 正気の沙汰とは思えません。と内心で付け足し、ハリーもまったく同じ感想を吐露する。

 “グランダムの愚王”はほとんどのベルカ人にとって口にしたくないほどの歴史の汚点。セヴィル家とて、彼の血が己らの中に混じっているなど信じたくもないはずだ。

 それをまさか、公衆のど真ん中、テレビカメラも回っている中で公言するなんて。

 彼女らの隣に座る、波打った長い金髪の少女、ヴィクトーリア・ダールグリュンとツインテールの黒髪少女、ジークリンデ・エレミアも硬い顔で彼女を見下ろす。

 

「とうとう来ましたわね」

 

「うん。去年までは実家の人たちに止められていたみたいだけど、今年からは無理みたいやね。これ以上止めたら実家を飛び出しかねないやろうし」

 

 ミッドチルダの養育義務年齢は義務教育が終わる11歳まで。それ以降は家族や本人が望めば、実家を離れたり職に就くことが認められる。

 ティーニエも今年で12歳になり、教育も中等科3年レベルまで習熟している。つまり、本人が実家に不満を持てば、すぐにでも家を飛び出してしまいかねないという事だ。あの風雲児をみっちり教育したい両親や使用人たちにとってそれは避けたいところだ。

 

「《覇王》を名乗る人間が現れてから、ますます抑えがきかなくなったらしいですわね。あの襲撃事件がこんな形で私たちに仇なすなんて……」

 

「しゃあない。覇王事件がなくても、そろそろ大会に出てくる頃やと思ってたし。(うち)らであの子がやり過ぎないように見守ってよ」

 

 ジークリンデの言葉にヴィクトーリアも硬い頷きを返す。

 二人もまた《ベルカ三家》に名を連ねる『ダールグリュン家』と『エレミア家』の息女。ティーニエと同じ立場だ。

 故に彼女が三家の名を汚さないように、目を光らせる義務があった。

 

 

 彼女らはインターミドルで何度も都市本選以上まで進んだことのあり、今年の大会にも『エリートクラス』として出場が確約されているベテラン選手。

 特にジークリンデ・エレミアは世界代表選優勝、棄権はあれど闘いによる敗退記録はない。つまり『次元最強』の格闘家の一人。見つかったら大騒ぎになるほどの有名人だ。

 しかし今、ハリーとエルスが揉めごとを起こし、ジークリンデがフードを外して素顔を晒しているにもかかわらず、彼女らに目を向けている者は誰もいない。

 自身の三倍ほどの巨漢の相手を楽に倒し、セヴィル家の跡継ぎ、更に愚王の血を引いていること、そして“次元最強”になる事を公言する新人が会場中の耳目を独占していた。

 

 

「今年のインターミドルは荒れるかもしれませんわ。“台風の目”になりそうなのが何人もいますし」

 

「うん……そうかもしれんね」

 

 “覇王を自称していた少女”と“次元最強を名乗ろうとする少女”を見ながらヴィクトーリアは吐露する。ジークリンデもそれに頷きを返すしかなかった。

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