魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女 作:ヒアデス
「ママ、ゆずは、勝ったよー! 全員スーパーノービス入り!」
「うん、信じてたよ!」
「しんじえたー」
帰宅早々、開口一番に報告するヴィヴィオさんになのはさんとゆずはさんは温かい返事を返す。
その向こうの台所から甘い匂いとともにフェイトさんが顔をのぞかせてきた。
「ちょうどフルーツタルト出来上がったから、一緒に食べよう。みんな手を洗ってきて」
「はーい!!」
威勢のいい返事をしながら皆さんは手洗い場に向かう。そんな中、ミウラさんは足を止めて……
「あの、ボクまでご馳走になっていいんでしょうか?」
「いいよいいよ。ミウラちゃんとアインハルトちゃんもチームメイトみたいなものだし、遠慮しないで食べてって!」
なのはさんはあっけらかんと頷き、洗面台の方を示す。
彼女たちに促されるまま手を洗い終えた後、今日の報告をしながらお菓子を召し上がっていたところでユミナさんが今日の選考会のニュースをやってる事に気付き、テレビをつけた。
そこで目に飛び込んできたのは――
『本日行われた第27回インターミドルの選考試合、女子大会の方では選考会ながら激しい闘いが見られましたが、その中で注目を浴びたのは……』
『アタシはティーニエ・セヴェル! 愚王ケントとティッタ・セヴィルの血を引く《セヴィル家》の次期当主――そしてこの大会で優勝し、ベルカ王族の末裔たちも全員ぶっ倒して、“次元最強の魔法格闘家”になる女だ!!』
マイクを持ちながら宣言する“彼女”の姿が映り、私たちは食事を止めてそちらを見る。そこにアナウンサーの声が被せられた。
『ベルカに詳しい方はご存じかもしれませんが、彼女は《ベルカ三家》に名を連ねるセヴィル家のご息女。中等科進学を機に、今年からインターミドルへの出場を決めたそうです。これで《三家》のご令嬢全員がインターミドルに出場することになりますね』
「セヴィル家って、健斗――“愚王ケント”の妹さんの子孫たちだよね?」
テレビを見ながら呟いたフェイトさんに、
「はい。歴史の番組や動画で何回か聞いたことがあります」
とコロナさんが答える。初等科では習わない所なのに。
「ベルカ王族の子孫を全員倒すって言ってたけど……ヴィヴィオとアインハルトちゃんも狙われてたりしてー」
なのはさんの一言に、私もヴィヴィオさんもぎょっと目を
確かに、彼女が優勝だけでなくベルカ王族の打倒も目指しているなら、《覇王》の子孫である私と《聖王》の血を引くヴィヴィオさんにも挑んでくるかも。以前の私も同じことを考えていましたし。
ですが……。
「大会で当たる可能性はあります――その時は全力で迎え撃つつもりです」
拳を握りながら強く宣言する私に、ヴィヴィオさんも「うん、そうですね」と続く。
「私たちも行ける日は試合見に行くから」
「健斗とはやてたちも時間が出来たら見に行くって言ってたから、みんながんばって!」
「ありがとうございます!」
なのはさんとフェイトさんの応援に、私たちは声を揃えて返事を返す。
ティッタさんの子孫だろうと負けない。
『さて、彼女を含むルーキー選手たちのエリートクラス入りを決めるスーパーノービス戦の組み合わせですが、このような組み合わせになっています』
「おっ、きたきた!」
テレビにトーナメント表が映り、リオさんは声を弾ませながらそちらを見る。
しかし……
「えぇ――これって!?」
なぜなら……。
◆
「今日から新しいお友達が来ます。みんなに自己紹介を……」
戸惑いを隠せない様子で促すシスターに、“短い茶髪の転校生”は「はいっす」と頷き。
「はじめまして、ティーニエ・セヴィルと言います。今日からこのクラスで勉強することになりました。昨日選考会で優勝と打倒王家を宣言した本人っす。インターミドルの話や質問はもちろん魔法戦技の挑戦も受け付けてるんで、いつでも声をかけていいよ!」
にかっという擬音が似合う笑みとウインクまで向ける転入生に、クラスメイトたちは唖然とする。私に至っては喉元まで出かかった声を抑えるのに必死だった。
――なんで彼女が転入してくるんですか? しかも私と同じクラスに!?
「じゃあセヴィルさんの席はあそこの――」
「あっ、あの子の隣がいいです! きみ、その席譲ってくれない? その代わり大会でいい席用意させるから。ねっ!」
「えっ……別にいいですけど」
私の隣にいた女子生徒は戸惑いながら鞄を持って席を立ち、空いていた席へ移る。
入れ替わりにティーニエさんはずかずかやってきて、空いた隣の席に腰を下ろした。
「よろしく、ストラトスさん」
「よ……よろしくお願いします」
自己紹介しましたっけ?
などという疑問も入れられない私の隣で、彼女はいそいそと教科書とノートを取り出し授業の準備を始める。
その光景にユミナさんもあんぐりしながらも、シスターに呼ばれて我を取り戻したように始業の号令を行った。
Ⓒ
以上の報告をアインハルトから受けて、俺もリインもオーリスも唖然とする。
王家打倒を宣言して翌日に《聖王》と《覇王》がいる学校に転入って、絶対偶然じゃねえだろ。つかアインハルトと同じ齢だったのかよ。
「調査によると、ティーニエはすでに高等科進学可能な学力を持っているはずですが……」
「元の学年に学び直しという形で入り直すことは可能です……進級先の勉強に行き詰ったりした例以外で使われた事はほとんどありませんが」
リインの問いに、オーリスはズレかけた眼鏡を整えながら答えを返す。彼女も昨日のニュースを見たらしく、ティーニエの目的を察しているのだろう。
――絶対、
しかもまさか、ティーニエが“あの子”の……。
◆
そんな騒動を挟みつつ、出場枠も埋まってから一週間後、『第27回インターミドル・チャンピオンシップ』の地区予選がスタートした。
『それでは出場選手を代表して、昨年度都市本選ベスト2、ヴィクトーリア・ダールグリュン選手から予選に挑む選手達へ激励の挨拶をお願いしたいと思います』
司会が告げた直後、長い金髪と翠目の美女がステージに立ってマイクを受け取り、澄んだ声を発した。
『僭越ながら開会の挨拶を務めることになりました、ヴィクトーリア・ダールグリュンです。今年もインターミドルが始まりました。格闘家を目指している方々は
宣戦布告で挨拶を締めくくった瞬間、整列した選手たちや隅に立つ関係者とスタッフたちは両手を鳴らして盛大な拍手を贈る。
俺も両手を打ち鳴らしながらヴィクトーリアという子の容貌に目をやる。“彼女”にそっくり、いや瓜二つだな。
「どうした健斗、昔の恋人でも思い出したような顔をして」
拍手に紛れてからかうような声が届く。隣で手を叩きながらこっちを見ているリインだった。俺は誤魔化すように――
「そんなのじゃねえよ。“ダールグリュン”本家は皇帝がクラウスと相打ちになって断絶したはずだと思ってな」
「おそらく分家……“エリザヴェータ”の子孫だろう。見た目もあの子そっくりだしな。素直にあの子のことを思い出していたと言え。そこまで禁止しようとするほど狭量なつもりはない」
最後の一言にばつの悪さを覚えながら会場に目を戻す。
ヴィクトーリアはスタッフにマイクを返しながら壇上を降りてきて、俺たちに気付いたのかこちらに視線を寄こすものの、すぐに顔を戻してステージを後にする。
それと入れ替わりに、モニターに実況らしき短く切り揃えた水色髪の女が映った。
『ダールグリュン選手、開会の挨拶ありがとうございました! ここからはわたくし、
それでは早速、インターミドル地区予選スーパーノービス戦を開始します! ここで勝ち上がった方が即エリートクラスに上がる事が出来ます』
――ってお前かよ!? デビルークに留学中のはずだけど、あっちの大学って暇なのか?
『
名前を呼ばれた直後、青色のゲートから武道着風のバリアジャケットに身を包んだリオが歩いてくる。初出場のせいか歓声も拍手も小さい。
それに対して赤色のゲートから出てきたのは――。
『対する
彼女が出てきた瞬間、リオに対するものより数段ほど大きい歓声が沸き起こる。
選考会での活躍と宣言に加え、今まで出てこなかったセヴィル家の参戦という話題の影響か。
リオはディードとともに緊張した様子で、片やティーニエはジャージ女性を後ろに従えて悠々と片手を上げながらリングへ進み、軽やかにリングに上がった。
「はじめまして、後輩ちゃん。君の事も色々聞いてるよ。聖王様のお友達なんだって?」
挑発的な口調で尋ねるティーニエに、リオは硬い顔で頷く。
「はい。
“聖王様”という呼び名を訂正しながら挨拶を返す相手に、ティーニエはにっと口を吊り上げる。
「いいね。後輩と対戦相手はこれぐらい生意気じゃなくっちゃ。
「お嬢様、私語は慎んでください。煽り行為とみなされかねませんので」
後ろからセコンドに注意をぶつけられ、ティーニエは「へいへい」と肩を竦めながらステージの中央に進む。
リオも中央に進みながらお守り型のデバイスを掲げた。
「いくよ、《ソルフェージュ》!」
『Powered-System Set Up』
リオとソルフェージュが声を発した瞬間、彼女の足元に赤い魔法陣が現れ、リオは10代半ぐらいの体格に変身する。それを見て、会場から軽いざわめきが発し、ティーニエも目を見張った。
一方……
「『大人形態』――あいつもそれで闘うのか」
変身したリオを見て、俺は思わずつぶやく。それを聞いてリインが声を挟んできた。
「知らなかったのか? アインハルトとヴィヴィオとは別方式のようだが、彼女も大人形態になれるらしい」
「いや、それぐらいヴィヴィオから聞いてる……確かに、ティーニエみたいなパワータイプには10歳ぐらいのままじゃ厳しいとは思うが……」
「……?」
我ながら煮え切らない呟きを漏らす俺に、リインは首をかしげる。
彼女や守護騎士たちは生まれた時から今の姿のままで、子供だった時代がないからな。気付きにくいのか。
◇
『スーパーノービス戦の規定ライフは双方10000。1ラウンド
「はい!」
「おう。なんならアタシは4000ぐらいで」
「煽りは禁止です!」
リオもティーニエも(セコンドに叱られながら)肯き、互いに対峙しあった。
『セコンドアウト……それでは試合』
『開始』と叫んだと同時、会場中にカーンと甲高いゴングが響く。
その直後――
「はあああぁ!」
「でえええぃ!!」
早々、リオは雷を纏った拳を振るい上げ、ティーニエも風を纏った腕を突き出し、真正面からぶつかりあう。
その衝撃で二人の周りから突風と轟音が巻き起こった。
『いきなり炎と風を纏った拳のぶつかり合い! ノービス戦とは思えぬ激しい開戦です! と解説してる間にウェズリー選手が消えてる!』
ウズリポが驚愕の声を上げる中、リオはティーニエの後ろに回り込み熊の手状に開いた掌を突き出す。
「
「――ちっ」
ティーニエは首を捻り掌撃を躱す。が、その合間にリオは雷撃を纏ったもう片腕を後ろに引き絞って魔力を込め――
「
彼女が腕を突き出した瞬間、炎でできた二頭の龍が噴き出て、ティーニエを呑み込み、リングを爆炎で包み込んだ。
それを見て、観客から大きなどよめきが上がった。
『おっと、セヴィル選手、ウェズリー選手の必殺技をもろに喰らったー! 選考会で圧倒的な力と存在感を見せたセヴィル選手がまさか、エリートクラス入りならずに敗退かー!?』
黒い爆炎が舞う中、
が……。
「やるねぇ……序盤からいきなりあんな大技出してくるとは。ハンデやったら危なかったかもね」
「――!」
爆炎から声が漏れた――直後、風の拳が飛んできてリオはその場から飛びすさる。
その向こうから、焦げ跡を付けたティーニエが現れた。
ティーニエ DAMAGE 2750 LIFE7250
――雷と炎の変換資質に加え“拳法”って変わった戦い方と、覇王様たちみたいな成長魔法によるパワーと魔力の底上げか。