魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女   作:ヒアデス

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第15話 大人化の“弱点”

「セイセイ、セイセイセイセッ」

「うわっ――ととっ!」

 

 暗煙が晴れたと同時、ティーニエは凄まじい速さで両腕を突き出し、無数の気弾を撃ち出す。

 リオは反射的に真後ろや横に跳んで避けるも、リングに阻まれそれも叶わなくなる。

 これ以上避けられないと悟るや、リオは炎を纏った両腕を構え――

 

「絶招――紅蓮吼牙(ぐれんこうが)!!」

 

 リオの両腕とともに炎弾が撃ちだされ、気弾とぶつかり誘爆していき、リングは再び煙に包まれる――と思った瞬間、ティーニエは拳を振るいながら煙を突き破ってきた。

 

「でええいっ!」

「ぐあっ――!」

 

 ティーニエの拳を顔面に喰らい、リオは堪らずうめき声をあげる。が、ティーニエはさらに間断なく拳を打ち出し、体()()()やや年長の彼女を叩きのめしていく。

 が、六発ほど喰らったところでリオは腰を落とし、円を描くような動きでティーニエから逃れ、彼女の横に回り込んだ。

 

「はあああっ!!」

「――っ!」

 

 直後、稲妻を纏った腕がティーニエの横面に直撃する。

 リオは拳を構え更なる反撃を繰り出そうとするが、その時――

 

「――ッ!」

 

 会場中にカァーンとゴングの音が響いた。

 

『あーっと、ここで1ラウンド終了! 両選手、リングから出てください。今から一分間、インターバル(休憩)を挟みます』

 

 リオ・ウェズリー LIFE 7140

 ティーニエ・セヴィル LIFE 6471

 

 ゴングと実況(ウズリポ)に従い、リオとティーニエは拳を下ろし、互いに背を向けてリングから降りた。

 

 

 

「惜しかったですね、もう少し反撃できればLIFEを削れたのに」

 

 魔力素で出来た椅子に座りながら呼吸を整えるリオに、ディードはドリンクを差し出しながら言葉をかける。が、リオはドリンクを一口飲んで首を横に振った。

 

「ううん。あたしが反撃しようとした時、あの人、“笑ってた”……反撃をしのぐ自信があったか、隠し玉があるんだと思う。それに……」

 

 最後まで言わず、リオは対面で休息する対戦相手を見やる。

 

 

「お嬢様、今のうちに休息をとりませんと」

 

 ドリンクを摂らず席にも座らずロープに寄りかかる主に、セコンドとして付いてきたメイドは忠告をかける。しかし、ティーニエはリオに視線を固定したまま鼻で笑うのみだった。

 

「いいよ。この方がすぐ動けるし。しかしやるねぇ。あたしより高いLIFEを維持するなんて」

 

「ノービス戦だからと油断しすぎです。3ラウンドまで逃げられたらまずいですね。今のLIFEのまま判定に持ち込まれたら――」

 

 セコンド(メイド)が悔しげに言いかけるが、当の本人は首を振る。

 

「いいや、あの後輩ちゃんは攻めてくる。そろそろ真面目にやろうか。格闘家仲間として『大人モード』って奴の弱点も教えてあげないといけないし」

 

 言いながらティーニエがロープから離れた瞬間、ゴングの音が響く。それを聞いて対戦相手もリングに上が(もど)ってきた。

 

 

『さあ、2ラウンド目。(から)くも反撃のチャンスを逃したウェズリー選手ですが、LIFEは彼女が優勢。ここで逃げて判定に持ち込むか、それとも――』

「はあああああっ!」

 

 実況が言い切る前にリオが炎と雷を纏った両腕を振り上げ、ティーニエに向けて砲撃を撃ちだす。

 が――

 

「セイッ!」

 

 ティーニエも荒い掛け声を放ちながら拳を上げ、放たれてきた炎と雷撃付きの砲撃を素手で弾き落としていく。

 が、その隙に今度はリオの方から迫り、ティーニエに殴りかかる。

 ティーニエは垂直に構えた両腕でガードし、攻撃が絶えた瞬間を狙って反撃(カウンター)をくりだした。

 

「――っ、あれ!?」

 

 攻撃と同時に頭の中をかき回された感覚が襲い、リオの動きが鈍る。そこへ――

 

「セェイっ!」

 

 ふらついたところへ容赦ない追撃が浴びせられ、リオは真後ろに吹き飛びリング外まで跳ね飛ばされた。

 

『ウェズリー選手ダウン! 今カウントが始まります』

 

『10、9……』

 

 実況と同時にカウントが木霊する。そんな中、隣から呟きが漏れた。

 

「健斗、今の技はまさか……」

 

「ああ、300年前ティッタが使っていた“あの技能”だろうな。あの子も、いやセヴィル家は代々ティッタと同じ技能を引き継いだらしい」

 

 返事を返している所でカウントは『5』まで迫る。そんな中、リオはよろめく体に鞭打って立ち上がり、

 

「やれます、今戻りますから」

 

 と言って、再びリング外に戻る。そこへティッタはふてぶてしい笑みを浮かべて言った。

 

「どう? ご先祖様から受け継いだアタシの《固有技能》“震動付与(ヴァイブレーション・インパティッド)”は? 触れたものに震動を与える技。慣れない大人の体には堪えるっしょ」

 

「――なら、無理矢理慣らすまでです!」

 

 挑発を流しながらリオは突貫する。だが――

 

「じゃあ慣れる前に沈めるとするか!」

 

 そういうや、ティーニエは片足を持ち上げ、ダンと床を踏み抜く。

 その直後、リング――いや、会場全体が大きく“揺れ動いた”。

 

「わ、わわっ――」

 

 突然の地響きにディードと審判やスタッフ、観客たちまでが体を揺らし、その場に屈みこんで揺れを凌ぐ。冷静なのはティーニエが床を踏んですぐロープにしがみついた彼女のセコンドぐらいだ。

 

 そんな中リオは祖父や師匠たちに教わった体捌きを駆使し、なんとか体勢を整えようとするが、相次ぐ地響きにバランスを崩し、つんのめってしまう。

 そこへティーニエが迫り、彼女の横面に拳を叩きつけた。

 

 

 それを見て、ヴィヴィオとアインハルトが不安げに囁く。

 

「リオ、急に調子が悪くなったような」

 

「ええ。いつもとは明らかに挙動がおかしい……もしかしたら」

 

 そんな彼女らの横で俺も腕を組み、

 

「成長魔法は、未来の姿と力を前借りできるだけの便利な魔法じゃない」

 

「えっ?」

 

 俺の呟きにヴィヴィオは怪訝な声を漏らす。対してコロナは目を見開き「あっ!」と声を上げた。

 

「いつもより高い目線と手足の長さに、感覚がついていっていない――という事ですか!」

 

 俺は頷き、眼下を見ながら続きを話す。

 

「そうだ。成長魔法には背丈と身体能力の向上という利点(メリット)と引き換えに、普段との視点や動きのズレという欠点(デメリット)がある。それがなければ他の選手たちも使うか大会で禁止されるはずだ。俺だってガキの頃に成長魔法を編み出したものの、実戦では使わなかったしな。――リオがあの姿で闘った経験はそう多くないはずだ。どうしても普段の感覚とのズレが出てくる。ティーニエが喰らわせた震動のダメージがそのズレを加速させているようだな。

 ゆりかごで初めてなのはと戦った時に大人(聖王)形態への変身を覚えたヴィヴィオと初代覇王(クラウス)の記憶を持つ上に成長した姿で何度も闘ってきたアインハルトは体が覚えているようだが、今後の闘いでズレが出ないとは断言できん」

 

 釘を刺すように付け加えると、ヴィヴィオとアインハルトも不安そうに顔を曇らせる。

 そこで試合が新たな展開を見せた。

 

 

雷光縄(らいこうじょう)!」

 

 隙を突いて屈みこんだ彼女が両手を床につけた瞬間、ティーニエの周りに稲妻でできた(バインド)が伸び、躱す間も与えず彼女を縛り上げる。

 

「捕まえた――今だっ! はああああっ!!」

 

 リオは体中に炎を纏い、縛り上げられている相手に迫る。

 

「絶招・火焔剛砲(かえんごうほう)!!」

 

 だが――

 

「こんな技、ヴィッキーのバインドに比べれば何でもないね」

 

 ティーニエは振動を付与した片手で鎖を掴み、バインドを千切っていく。そして半分ほど残ったバインドを纏わせたまま、震える片腕を突き出して炎ごとリオの胴体を貫いた。

 

「――ぐあっ!」

 

 リオ DAMEGE5900 LIFE350

 

「とどめ――!」

 

 ティーニエは跳びあがり、リオの後頭部を蹴り跳ばす。

 その衝撃でリオの体はリング外に吹き飛んでいった。当然もうライフは0。

 それを示すように、彼女の体は小さな10歳の姿に戻っていく。それを見て心配する俺たちを余所に――

 

『試合終了ー!! スーパーノービス一回戦はティーニエ・セヴィル選手のKO勝利に終わりましたーー!! 開幕早々、すごい試合でした!』

 

 ウズリポが勝利宣言を告げた瞬間、会場中からつんざくほどの歓声が沸き上がる。

 ノービス(初心者戦)とは思えぬほど激しい闘い、そしてティーニエの力を目の当たりにしたためだろう。

 そんな中、ディードは「お嬢様」と叫びながらリオを抱きかかえ、ティーニエはそんな二人のもとに歩き寄る。

 キッと睨むディードを意に介さず、ティーニエはリオに向かって告げた。

 

「なかなか強かったよ後輩ちゃん、いや、リオちゃんだったか。いつもの姿か大人の姿に慣れてたら勝負は分かんなかったかもしれないね――まっ、それでも負ける気はないけどさ」

 

 その指摘にリオは悔しげに口を噛む。ティーニエは構わず続けた。

 

「来年のインターミドルか他の大会に出る時はいつもの姿にするか慣れてからにした方がいいんじゃない。大人モードって奴はいつもより力が強くなる反面、隙が出やすくなる技みたいだから。練習試合やリベンジはいつでも受け付けてるから遠慮なく声かけてよ」

 

「……ご忠告とご厚意ありがとうございます」

 

 リオの返事に頷き、ティーニエはヴィヴィオたちに向けて不敵な笑みを向ける。親友を倒されたヴィヴィオもアインハルトも顔を硬くして彼女を見返した。

 彼女たちとしばらく睨み合ってから、ティーニエは俺たちに気付いたように視線を向けてきた。

 

(あれ? あの二人は確か数ヶ月前の調印式にいた…………)

 

 

 

 

 担架で運ばれるリオとディードを見送る間もなく、ヴィヴィオたちもスーパーノービス戦に臨み、苦戦する事なく予選進出を決める。もう一組の知り合いであるリンネとフーカ、別の会場で戦っていたシャンテも同様とのことだ。

 

『初出場の新人(ルーキー)選手による1ラウンドKOや秒殺の連続! 一回戦ほどではありませんが、ノービス戦とは思えぬ激戦が続いています。その中の数人が所属しているという『ナカジマジム』は公式ページもないようなところみたいですが、一体どんな集まりなんでしょう?(はやて先輩からメールで聞いてるけど)』

 

 俺たちと顔見知りという事もおくびに出さず、ウズリポは白々しい解説を続ける。

 そんな後輩に苦笑しそうになりながらリインとともに観戦していたところで――

 

「やっほ、お久ッス」

 

 横から声をかけられて振り向くと、ジャージを着たティーニエとスーツを着たセコンドの女性がいた。軽く手を上げるティーニエと礼儀正しくお辞儀をするセコンドに俺たちも頭を下げる

 ティーニエは「隣いいよね?」と言いながら、空いている隣の席に腰を下ろす。そんな彼女に俺は問いを放った。

 

「どこかで会ったか? 君と会うのは初めてだと思うが」

 

 俺の問いを肯定するようにリインも首を縦に振る。ティーニエは気を悪くした様子もなく言った。

 

「やっぱあんたたちは気づかなかったんだ。何か月前に教会のイベントでおじさんたちを見かけたんだ。ほら、教王様となんとかって冥王様が手を組んだお祝いの式」

 

 イクスと教会の調印式のことか。確かに、《ベルカ三家》のお嬢様ならあの式にいてもおかしくない。

 つか――

 

「おじさんはよせ。俺はまだ23だ」

 

「20代過ぎたらおじさんみたいなもんじゃん。なんかその方がしっくりくるしさ。それより、あの子大丈夫だった?」

 

 その一言で彼女が何を言いたいか察し、俺は頷く。

 

「ああ、非殺傷設定のおかげで体に異常はない。予選の前に負けたのはショックだったみたいだが、今は落ち着いて昼飯かっ食らってたってよ」

 

「そう。そりゃよかった」

 

 ティーニエは安堵の吐息を零す。意外に思っている俺にティーニエは誤魔化し半分本音半分といった風に付け足した。

 

「たった一回負けただけで格闘家やめられたらつまんないからね。次闘う時はもっと面白くなりそうだし。ところでおじさんもオッドアイみたいだけど……ベルカ王家だったりする?」

 

 いきなりの問いに俺ばかりかリインも体を硬くする。まさか、俺にまで挑んでくるつもりか?

 だとしてもだとしなくても、ここで正体をばらすわけにはいかない。

 

「俺は管理外世界出身の一般人だ。王家なんてたいそうな家柄じゃない。オッドアイは偶然だ。地球にもたまに生まれつき持ってる奴もいる。ベルカやミッドにだって王家とは関係なくオッドアイを持って生まれてくる奴もいるだろう?」

 

「まあ、確かにそうだけど……じゃあさ“愚王ケント”って知ってる? うちのご先祖様のお兄さんで、次元中で有名な王様でもあるんだけど」

 

「ああ、昔のベルカで悪さをやらかしたらしいな。ミッドに来て何度もそいつの話を聞いた」

 

 悪い意味で聖王と同じぐらい有名になっちまったからな。知らない方が不自然だ。

 そう思って相槌を返す俺をティーニエはじっと見て……。

 

「その人、本やドキュメンタリーじゃむさいオッサンになってるんだけどさ。うちに残ってる絵には若いお兄さんに描かれてるんだよねー。おじさんそっくりな顔でさ」

 

 その問いと視線を受けて、ひやりとした汗が伝う。ティーニエはそこで俺から顔を離し――

 

「なーんて、冗談冗談! 同じ顔でオッドアイなんてだだっ広い次元に十人や二十人はいるよねっ。時代も違うし。――あっ、でもその王様と同じ名前なのは確かだよね? 調印式で一緒にいた女の人から“けんと君”って呼ばれてたし」

 

「ああ。地上部隊の捜査指令をしてる御神健斗だ。名乗るのが遅れたな」

 

「あっ、やっぱりそうだったんだ。アタシはティーニエ・セヴィル。もう知ってるだろうけどよろしくね」

 

 名乗りながら右手を出してくる彼女と握手を交わし、ティーニエはリインとも握手と自己紹介を交わす。

 

「ところで、ベルカ王族を全員倒すと言っていたが、まさか冥王イクスヴェリアも倒すつもりか? そんなことをすれば三家のお嬢様だろうとただでは済まなくなるはずだが……」

 

 尋ねるとティーニエは片手を振り、

 

「ああ、あの子はいいや。見た目通り強くなさそうどころか小突いただけで泣き出しそうだし。うちの爺様や父様母様がかんかんになってそのまま屋敷を追い出されるかも。まっ、そうなったらダイレルのおじさんが作る『防衛軍』にでも入ってやるけどさ」

 

 勘当を恐れてないように彼女はからから笑ってから、再びこちらに目を戻して言った。

 

「それはそうと健斗さん、愚王が使ってた剣、あんたが持ってるよね? 父様がその人に剣を譲ったって聞いたんだけど」

 

 《ティルフィング》の事か。クロノの話じゃセヴィル家から譲ってもらったと聞いていたが。ここでその話が出るとは。

 

「親たちは厄介物扱いしてたみたいだけど、やっぱうちの家宝だしさ。よその人に預けっぱなしはどうかと思ってるんだけど、おじさんも大切にしてるみたいだから無理やり取るのも可哀想だし、どうしようかなぁ~」

 

「何が言いたい?」

 

 もったいぶった話し方にたまらず訊き返すと、ティーニエはニヤリと笑い、

 

「それを賭けない? アタシが覇王と聖王を倒したらティルフィングを返してもらう。ただし、覇王と聖王のどっちかが勝ったら正式にその剣をあげる」

 

「――!」

 

 賭けだと? アインハルトとヴィヴィオとの勝敗に、この愛剣を賭けろというのか。

 

「どういうつもりだ? これを欲しがってるようには見えんが」

 

 装飾物状のティルフィングを持ち上げながら尋ねる俺に、ティーニエはこくりと頷く。

 

「うん。アタシは剣なんて使う気もないし正直興味もない。でも愛剣がかかってるとなれば、もっと本気で覇王様と聖王様を鍛えてくれると思ってさ。アタシは本気の王と戦ってみたい。雷帝と互角に渡り合い、聖王なきベルカを統一しかけた《覇王クラウス》の直系とは特にね!」

 

 ティーニエは強く拳を握り、ぎりぎりと音を鳴らす。その音に気付き、周りの席に座っていた者もぎょっとした顔で離れる。

 そこで彼女の後ろから「お嬢様!」と鋭い声がかけられた。ずっと控えていたスーツ姿の女性だ。おそらくティーニエの付き人だろう。

 その予想に違わず、女性は礼儀正しそうな仕草で頭を下げ、

 

「申し訳ありません。当家の令嬢が失礼をしました。その剣は旦那様と奥様がお譲りになったものですから、そのまま御神様がお持ちになってください。お嬢様、そろそろ帰りますよ。御神様や他の観客に迷惑です」

 

「あっ、わかったわかったって。じゃあおじさんにお姉さん、覇王様と聖王様の育成よろしく! ベルカ絡みのイベントにも混ざるつもりだから、遠慮なく声かけてよー!」

 

 付き人に手を引っ張られた状態でティーニエは手を振りながら立ち去っていく。

 そんな彼女を見送りながら、

 

ティッタ(妹さん)の子孫だけあってただものじゃなさそうな子だな。健斗から見たらあの子も遠い……」

 

 リインが言いかけた続きを察し、俺も頷く。

 

 ヴィヴィオや雫、ゆずはに続いて、またとんでもない“姪っ子”が現れてしまったらしい。

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