魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女 作:ヒアデス
少し先の未来の話で、ベテラン組やリンネたちとも仲良くなっています。
「や、やりました……なんとか全科目70点越え……」
「おー、すげえじゃねえか!」
「初等科以来の快挙です!」
疲れ切った様子でテーブルに突っ伏すミウラの前で、ヴィータとツヴァイが言葉を弾ませる。
その横でリインが淹れてくれたお茶を飲み、テストの一枚を掴みながら口を開いた。
「目標はオール80だったんだが、お前さんの両親も満足してるみたいだし、十歩ぐらい譲って良しとしてやるか」
「健斗、厳しすぎじゃないか?」
お盆を持ったままリインが口を挟んでくるも、俺は首を横に振る。
「馬鹿言え。八神道場や俺たちのもとに通ってるせいで成績が落ちたなんて言われたら面目が立たん。次は全教科80点以上目指そうな~」
「……はい……」
生気のない返事を聞き、少し
学生が多いインターミドルは試験に合わせて、数週間試合が空いている期間が存在する。その間チーム全員にトレーニングを休ませ、勉強が苦手なミウラは我が家や八神家に泊めて勉強を見てやっていたのだ。
「アインハルトとユミナはどうだ? ミウラやチビどもの勉強見てもらって、時間削らせちまったが」
「一応、全科目で」
「A評価いただいちゃいました♪」
アインハルトは照れながら、ユミナはピースとともにAだらけの成績表を見せつける。
さらにその横で……。
「アタシも全科目余裕でA! 勉強は特にしてなかったけどね」
ティーニエは成績表でひらひら顔を仰ぎながら告げてくる。
「ともあれ、これで皆心置きなく次の試合に臨めるわけだが……」
俺が言いかけたところで、ユミナがパンと両手を合わせた。
「ごめんなさい! 私『学院祭』の実行委員やることになって、明日からお手伝いできないんです!」
「えっ? ユーミンそんなのもやってたの?」
目を丸くしながら聞き返すティーニエに、ユミナはこくりと頷き、アインハルトも「そうなんです」と続く。
そんな中、ミウラは首をかしげて「がくいんさい?」と呟いた。
「二週間後にSt.ヒルデ学院で開かれる学院主催のお祭りだ。生徒の家族か教会の関係者、招待状を貰った者しか入る事が出来ないが、俺たちは毎年ヴィヴィオから招待状を貰って行けるようになってる。たぶんミウラにも近いうち招待状が届くと思う。運悪く喧嘩してなければな」
「うっ……」
意地悪げに付け足した途端、ミウラは顔を暗くする。そこでアインハルトとユミナが慌てて言った。
「そ、その時は私から招待状を出しますから!」
「ミウラちゃんも遠慮なく遊びに来て!」
「は、はい。お言葉に甘えて」
二人の言葉に、ミウラはうれしそうな笑みと返事を返す。そこで俺は隣に顔を向け――
「ティーニエは両親かあのメイドさんでも呼ぶのか? いつもセコンドについてくれてる」
「まさかー、せっかくのお祭りにガミガミ小うるさいの呼ぶわけないってー。父様も母様も忙しくて来れないつってるし、あいつはいつも通り屋敷で留守番してもらって、アタシは自由に遊ばせてもらうよ」
ティーニエは手を縦に振りながら否定し、楽しみそうにのたまう。
なんかフラグ立ってるような……。
◇
翌日。
St.ヒルデ学院・初等科。
4年A組。
「それでは学院祭で行うクラスの出し物を決めたいと思いますが、アイデアがある人はいませんか?」
大きく『出しもの』と書かれた黒板を背に、実行委員となったコロナが訊ねると、男女問わず多くのクラスメイトが手を上げ――。
「おばけ屋敷!」
「迷路!」
「演劇!」
「屋台」
「ネットカフェ」
「屋台にネットカフェと……」
○○太子顔負けの聴覚と〇法並みの速筆で、コロナは怒涛の勢いで挙げられる案を聞き分けながら黒板の上にチョークを走らせ、すべての案を書き写していく。しかし内心では……。
――どれもこれもありきたりなものばかり。もっと独特なものが出てきてくれないかなー。
と思いながらも一通り書き終えクラスメイトに目を戻すと、色違いの両眼を向けて真っすぐ右手を伸ばしてる親友に気付いた。
「高町さん、アイデアがありますか?」
「はい!」
他人行儀な呼称と敬語で尋ねる親友に、ヴィヴィオも丁寧な口調で返事を返し、昨日まで温めていたアイデアを口にした。
「私は『男女逆転喫茶』がやりたいです!」
「男女逆転喫茶?」
コロナの隣に立つ男子の実行委員が思わず聞き返す。ヴィヴィオは深く頷き、その内容を告げた。
「男の子と女の子の衣装を入れ替えた喫茶店です。“ウェイトレス服を着た男の子”と“スーツを着た女の子”がお客様をおもてなしするような」
「――っ!」
それを聞いた瞬間、コロナの目がくわっと見開く。
いつも真面目ぶったり当たり障りのない案しか出さないヴィヴィオがそんな攻めた案を出してくるなんて。
「それって女装と男装ってやつ?」
「そんな恥ずかしいのできるかよ」
「でも意外と似合うかも。ウェズリーさんの執事姿とエイベル君のメイド姿とか」
「エイベル君のメイド姿ならちょっと見てみたいかも」
「執事服着た女子もかっこいいかもしれないしな」
ヴィヴィオが打ち出した企画についてクラスメイトたちはざわめきをあげながら議論を交わす。
そんな中、教室の隅で腰を下ろしながら見守っていたシスターが苦笑ぎみに言った。
「面白いかもしれないけど、学院でそういうお店をさせると色々問題がねー」
「何が問題なんですか!」
教卓から上がった声に、シスターとクラスメイトたちはまさかとそちらを見る。
荒げた声を飛ばしたのは学年一の優等生として知られ、学院祭の実行委員も務めているコロナだった。
「女の子がスーツを着て、男の子もフリフリの服着て接客するだけです! ダールグリュン家にも女性の執事がいますし、地球のイギリスという国では男の人もスカートを着ていると聞きます。それに倣うののどこが問題ですか!?」
「そ、それはそうですけど、保護者や上がなんと言うか……」
いつもの姿からかけ離れた生徒にシスターは戸惑いながらも反対しようとする。が、コロナは彼女のもとにやってきてぼそっと……
「シスターもTSものの小説と漫画が好きですよね? クラナブクロの執事喫茶で開かれたメイド服デーにも参加してましたし、そういう文化に理解があると思っていましたが」
「――ティミルさん! どこでそれを!?」
生徒はおろか知人にも隠していた秘密を告げられ、シスターは思わず訊き返す。
そんな担任に、コロナはにんやりと口を吊り上げて続けた。
「それにさしたる理由もなしに、“聖王さま”の要望を無碍にするのもマズイんじゃないですか? 聖職者の結婚が認められたように、ヴィヴィオの言葉なら聖王教会もまた考えを改めるかもしれませんし」
「それは……」
その指摘を受け、シスターはまた言葉を飲み込む。
聖王教会の聖職者は神と聖王に人生を捧げるため、四年前までレアスキルを持つ家系を除いて“結婚非推奨”だったが、ヴィヴィオが聖職者の結婚を祝福したことで上層部も考えを改め、一般聖職者たちの結婚や所帯を持つことが認められるようになったのだ。
一般人の子として扱う事に決めたとはいえ、“聖王”に仕える教会にとって、やはり“聖王の子”の言葉と行動は重い。
彼女が認めるなら、“男女の服を入れ替えるぐらい問題ないじゃないか”と言ってくる可能性は高いかもしれない。
それに正直、男女逆転喫茶とやらも見てみたい気もする。
「……分かりました。ただし、学院や教会の許可が降りなかったら普通の喫茶店にしてください……あと、さっきの話は絶対誰にも言わないで」
小さく付け足すシスターに、コロナは上機嫌そうな笑みを貼り付けながら首を縦に振った。
◆
「あはははっ! それで男女逆転喫茶に決まったわけ! コロナンやるねぇ。アタシも子供化魔法使ってそっちに混ざっとけばよかったかなぁ」
放課後、アインハルトとユミナとともにヴィヴィオたちと合流し、ホームルームの話を聞いたティーニエは腹を抱えて笑い出す。
その向かい側でアインハルトが呟いた。
「それにしても意外ですね。ヴィヴィオさんがそんな企画を提案するなんて」
「あはは。昔、七課の人たちがメイド服着て潜入した話を思い出して、一度自分たちでそういうイベントやりたいなぁって思ってまして。却下されると思ってダメ元で言ってみたんですけど」
「ああ、オジサンと部下たちがメイド好きの密輸商の屋敷に潜入した時のことか。噂で聞いたことある」
管理局と繋がっていてなおかつ多くのメイドを抱えるセヴィル家の令嬢でもある、ティーニエは相槌を打つ。
「そういう先輩たちは何の出し物やんの? もう決まってるんでしょ?」
リオの問いに、ティーニエは右腕を上げながら……
「もちろん格闘試合。あたしとアインが掛け金と引き換えに客の挑戦を受けるゲームで、勝てば掛け金総取り」
「を提案したんだけど、学院で格闘技と賭け事をさせるわけにいかないから却下されたんだよね」
ユミナが訂正した途端、ティーニエはつまらなそうに右手を下ろす。
「ヴィヴィたちのところと違ってお堅い担任でね~。『スポーツバー』になっちゃった。アインとあたしはアームレスリング担当」
「腕相撲ですか。それはそれで盛り上がりそうですね。お二人とも腕相撲も強そうですし」
コロナの感想を聞き、アインハルトは顔を赤くしながら「そうでしょうか」と返す。
その横でヴィヴィオが思い出したように言った。
「私も喫茶店とは別に隣のクラスの手伝いやるんです。的当てゲームの妨害役」
「面白そうじゃん。アタシも暇が出来たら挑戦してみようかな」
「ふっふっ。ティーニエさんでも簡単には当てさせませんよ~」
獲物を見つけたようなティーニエに、ヴィヴィオは不敵な笑いで応じる。格闘選手としてはかなりの開きがあるが、この手のゲームに関しては自信があるようだ。
「とにかく、私とコロナさんも実行委員として頑張るから、招待したお客様たちをがっかりさせないようみんなも協力してね!」
「はいっ!」
ユミナの頼みに一同は深い頷きと澄んだ返事を返す。
生徒の家族や友人知人だけでなく、教会と繋がりがあるお偉いさんも来るお祭りだ。いい加減なものや不手際な所を見せるわけにはいかない。
◇
第67管理外世界・
「トワー、なのちゃんが暮らしてる世界から招待状きたよー!」
ノックもなしにドアを開けてくる同居人に、赤が混じったツートンカラーの黒髪の女は動じた様子もなく、スマホを手にしたまま顔を上げる。
「なんの招待状?」
短い返事に、彼女と一緒に暮らしている茶髪の女は招待状を向けながら言った。
「なのちゃんの娘ちゃんが通ってる学校の祭りだって。2週間後に開催!」
「あの子の娘さんって……まだ2歳になったばかりじゃなかった?」
「違う違う。養子にした子の方。もう小学4年生だってば」
片手を振りながら説明する同居人にトワは頷き。
「ああ、そうだっけ。あの子が母親なんて実感沸かないからつい。私たちは未だに独り身だし」
「知り合いが女の子ばかりで出会いが少ないからねぇ。久しぶりになのちゃんたちに会いたいと思ってたところだし、セツナも行くって言ってるからあたしも休暇取って行くつもりだけど、トワも行かない? 向こうの美味しい食べ物が屋台に並んでるかもしれないよ〜」
その誘惑にトワはごくりと喉を鳴らし、次いでこの世界と自分たちを救ってくれた“英雄たち”を思い浮かべた。
「
「来るんじゃない。なのちゃんの従兄弟だから娘ちゃんにとっても親戚にあたるんだし。管理局の他に軍隊が出来たからか、昨年から向こうも平和になったみたいだしさ。っていうかセツナはそっち目当てみたいだし」
実年齢が近く、支部でいっしょに
あったら彼に会えるのは次で最後かもしれない。その時に備えて銃も用意しておくか。
「じゃあ私も久しぶりに羽を伸ばしに行こうかな。仲間たちにも声をかけてみる。忙しいから無理かもしれないけど」
「うん。行けたらおいでって伝えといて」
そう言い残してシイナは部屋を後にし、トワはSNSで仲間たちに今の話を伝える。が、やはり皆仕事が詰まってて難しいようだ。
「仕方ない。私とシイナ姉妹の三人で行きますか。首監さん――健斗君たちが住んでる世界も見てみたいし」
そう独りごちてから、トワはくすりと笑みを浮かべた。