魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女 作:ヒアデス
それからの間。授業と学院祭の準備に追われる一方で、放課後は
ついに『第74回
「学院祭へようこそ~」
「御神健斗様に八神リインフォース・アインス様ですね。確かに確認しました。どうぞ楽しんでいってください!」
受付をしている子に招待状を見せてから、恋人とともに学院に足を踏み入れる。
敷地に入った瞬間、香ばしい匂いや煙を漂わせる屋台や装飾品を並べている露店、仮装して客引きに勤しむ生徒や客達が俺たちの目に飛び込んできた。
「今年も賑やかだな」
「ああ、昨日急いで仕事を片付けてきた甲斐があったってもんだ」
仕事が残ってたり事件が起こると、
「あっ、御神司令にアインス補佐!」
聞き覚えのある声が届き顔を向けると、群衆に紛れて短い赤髪の少女と連れの女の子二人が見えた。
一人は職場の部下で――
「ラグナ! お前もここに来てたのか」
「はい。司令たちこそこんなところでいるなんて思いませんでした。従姉妹姪さんに呼ばれたんですか?」
ヴィヴィオと俺の関係を知る短い赤髪の少女――ラグナ・グランセニックは人懐っこそうな笑みで尋ねてくる。
「ああ。ヴィヴィオがここに通っててな。警備とかじゃないから安心していい。ラグナも誰かに招待されて?」
「はい。知り合いがここの高等科に通ってまして。彼女の厚意で招待されました」
「そうだったのか。“そちらの二人”もラグナの知り合いか……?」
ちらりと見ながら尋ねるリインに、黒髪を二つ結びにした女の子――エルス・タスミンは上ずった声で「はい」と答える。
「お久しぶりです指令に補佐さん。無限書庫ではお世話になりました。ラグナとは初等科1年の頃同じクラスで」
「留年して“先輩”になっちゃった後も仲良くしてもらってます」
その返事を聞き、俺とリインは彼女たちの歳を思い出して納得する。そういえばラグナも16歳だったな。高等科2年のエルスとは同じ齢になるわけだ。ラグナは左目の治療でエルトリアに行ってる間休学して、一学年上がったエルスとは別の学年になっちまったようだが。
「もしかしてお前もラグナの……」
尋ねる俺に赤いポニーテールの少女――ハリー・トライベッカも「うすっ」と頷き。
「ラグナとは初等2年からずっと同じクラスで、デコチビと違って5年間一緒でした!」
「むむっ」
得意げに告げるハリーに対し、エルスは面白くなさそうに顔をしかめる。
そんなことで張り合うなよ。
「まずは高町さんたちのクラスに行くつもりですか?」
エルスの問いに、俺は顎に手をやりながら考える。
「んん……ヴィヴィオのところに顔を出してやりたいのはやまやまだが、アインハルトの出し物も気になってどっちに行くか迷ってるんだよな」
「じゃあオレと一緒に先にそっち行きません? 姪っ子も土産話でも持ってった方が喜びますって」
そう言ってハリーは俺の手を引っ張って体育館の方に誘う。その反対に――
「じゃあリインさんは私たちと一緒に行きましょう。きっと驚きますよ~」
妙に愉しそうなエルスとラグナに背中を押され、リインは校舎に入っていく。
そうして
【リインSide】
「いらっしゃいませ~~!!」
ヴィヴィオたちの教室もとい喫茶店に入ってすぐ、執事服を着たヴィヴィオを中心に、彼女と同じ服に身を包んだ女子とメイド服を着た男子たちが出迎えてきた。
「カワイイですね〜。執事女子は
エルスは熱のこもった視線で彼ら彼女らをじっとり眺める。それを前に生徒何人かが恥ずかしそうに顔を赤くした。
「……お前たち、こういうのが好きだったのか?」
「私はそこまでではないつもりなんですが、こうして見ると悪くない気もしますね。リインさんはこういうのお嫌いですか?」
ラグナに尋ねられ、リインは戸惑い気味に執事女子とメイド男子たちに目を向ける。
どちらも男女の特徴が出始めている年で違和感はあるが、それが絶妙なマッチングを醸し出しているような。
――って私まで何を考えているんだ!
「健斗さんは一緒じゃないんですか?」
「ああ。ハリーに勧められて、先にアインハルトの出し物を見てくる事になってな。ヴィヴィオにアインハルトの事を伝えるためだ。責めないでやってくれ」
「わかってますって。健斗さんも手塩にかけたお弟子さんの勇姿が見たいでしょうし。とりあえずこちらのお席へ」
ヴィヴィオは背中を向け、席へ案内する。そこで彼女の腰から黒い尻尾が伸びているのが見え、頭にも小さい角が付いているのに気付いた。
「その尻尾と角は何ですか? 他の執事さんやメイド君にはありませんけど」
エルスに指摘され、ヴィヴィオは尻尾を掴みながら説明する。
「ああ、これですか。実は隣のクラスの助っ人も頼まれてまして。その宣伝も兼ねてこれを付けて接客してって言われちゃいまして。よかったらそっちも見に来てください」
「助っ人で、悪魔の角と尻尾?」
その二つが結びつかず、ラグナは首をかしげる。
ちょうどそこで人数分のお冷が運ばれてきて、他の客の元へ行くヴィヴィオを見送りつつ注文を告げることにした。
【健斗Side】
『こちらは1年B組スポーツバー。各競技はいずれも盛況で激しく盛り上がってますが――開始早々、激熱なのは――!』
言い終わらないうちに、筋骨隆々の男の腕がズドンッと爽快な音を上げながら台に叩きつけられる。
闘いを制したのは、腕も体も彼よりはるかに華奢な少女――
『ストラトス選手、アームレスリングではやくも20連勝! 勢いが止まりません!』
ユミナの実況とアインハルトの勝利に、
『すごいですねストラトス選手。こうして見ると、その衣装も歴戦の勇士が着る戦装束に見えちゃいます』
「いえ、これは皆さんが――」
言い訳してる途中で俺に気が付き、アインハルトは赤面しながら両手で体を隠す。ほとんど意味ないが
――と思ってる横から、さっきより激しいズダァァンッという轟音が響いた。
『決まったぁぁ!! セヴィル選手もこれで20連勝! ストラトス選手に後れは取りません!!』
「アイムウィナー! 次の挑戦者は誰だーー!?」
実況の勝利宣言に合わせ、ティーニエも雄たけびを上げながら右手を上げる。彼女の衣装も学生服やバリアジャケットと違う、アニメのヒロインのような格好だった。
そのうえ向こうの実況をしているのは、スーツを着た短い青髪の成人女子――卯敷理保。
ティーニエはともかく、あの娘まで何やってるんだ?
『さあ、インターミドル初出場ながら次期チャンピオン候補に数えられているティーニエ・セヴィル選手。彼女に
理保は挑発的な言葉で会場中の参加者を煽る。しかし――
「おまえ、やってみろよ。女なんか男に適うわけないっていつも言ってただろ」
「馬鹿! いくらなんでもインターミドルに進んでる子相手じゃ敵いっこないって」
インターミドル選手である女子二人を前に、大の男を含めた客たちは尻ごむ。威勢よく行っても負けたら余計恥かくだけだからな。
そんな彼らとは反対に――
「どいつもこいつも腰が引けてんのばっかだねぇ。じゃあオレがやらせてもらうか。どっちとやり合おうかな?」
「おっ、さすがリーダー」
「いっちょかましてやれー!」
「無理はしないでくださーい!」
ハリーが歩を進めた瞬間、さそり隊みたいな――もとい不良コスの女子三人が声を上げる。
ハリーの舎弟か。いないと思ったら先に来ていたようだな。
『おおっと、ここで現れたのは《
白々しい口ぶりで告げてくる
「誰かと思えば番長にオジサンじゃん。ちょうどいいや。一人ずつじゃめんどくなってきたし、二人まとめてかかって来な。片腕ずつで相手してやるからさ」
その一言を聞いてハリーの眉が引きつり、俺もむっとする。
力勝負は若干不利だが、腕相撲なら絡め手を使えば勝てなくもない。そろそろ敗北を覚えさせた方がいいかな。
「おいおい、運よくオレと当たらず勝ち進んだだけのくせして調子乗り過ぎなんじゃねえの。御神さんはアインのとこ行ってきてください。オレはこいつの鼻っ柱折ってやりますんで」
「いや、あいつの始末はこっちでつけよう」
拳をボキボキ鳴らすハリーを遮ってティーニエの元へ行こうとする。しかし――
「いえ、彼女の相手は私に任せてください」
ハリーと俺を制するように一人の少女が現れ、ハリーも観客も目を見張る。
長く下ろした白い髪に似合う柄のリボンをつけ、義両親が経営する有名ブランドの服を着こなす彼女は――
「リンネ! お前までここに来てたのか!?」
俺が問いかけるとリンネ・べルリネッタはこちらを頷いてぺこりと頭を下げる。同時に横から「おっす」と片手を上げながら串焼きを頬張っているフーカも見えた。
「ヴィヴィオさんや我が家とお付き合いのある家のご子女数名から招待状を頂きまして。アインハルトさんから招待状を貰ったフーちゃんとお邪魔しに来ました……あの方からも一枚頂いてますし」
リンネは顔の向きを変えてティッタに視線をやる。
なるほど、あいつもあいつで目を付けた選手を呼び込んでるわけか。
「もしかして理保もティーニエに呼ばれてきたのか?」
「ええ。あたしの実況が気に入ったから学院祭も盛り上げに来てくれって誘われちゃいました。ヴィヴィオちゃんからもいただいてますけど……そんなわけでギャラリーも今か今かと待ちわびてますし、そろそろ組み合わせを決めて勝負を始めていただきたいんですが」
その言葉にハリーは顔を硬くして、リンネに言葉をかける。
「じゃああいつはお前に任せるけど、いいか?」
「はい。私も彼女の力がどれほどか知っておきたいと思っていましたので。ハリーさんはアインハルトさんと戦ってきてください」
「おう。それなら文句ねえや」
ハリーは笑みを返し、アインハルトの元へ向かっていく。
――あいつらといいアインハルトといい、ほんとにミッドチルダの女性陣は
『それじゃ試合を始めます。両者、腕を机を載せて……』
リホの指示を受けるまでもなく、リンネとティーニエは互いに肘を机に乗せ、互いの腕を軽く握る。
『アームセット――レディーー…………
…………ゴーーッ!!』』
「はぁっ!」
「ぐおおっ!」
試合が始まってすぐ、二人が腕に力を込めた瞬間、テーブルから衝撃はが吹き上がり、テーブルにヒビが走る。
『開始早々、衝撃波が上がりましたっ! 二人の魔力がぶつかり合ってます! 観客の皆さんはできるだけ後ろに下がって』
そう言いつつ自身も後ろに下がるリホと客たちをよそに、リンネとティーニエはさらに魔力と力を込めて相手の手をぐっと握り込む。その直後、テーブルがバキンッと音を立てて割れ落ちた。
だが――
『二人の魔力を受け止められず、競技台が割れてしまったぁぁ! ――しかしなんと、二人とも台があった場所からピクリとも腕を動かさず、勝負を続けています!!』
支えを失って腕を落とすどころか、見えない台に載せ続けているかの如く、二人は互いの腕を握り合う。
「やるじゃん……でも、そろそろ疲れが見えてきたみたいだね」
「うぐぐっ…………」
万力を込めながら軽口を叩くティーニエに対し、リンネは顔を引きつらせるも徐々に押され角度を落としていく。
さすがのリンネもここまでか――
「リンネ、そんな奴に負けるんじゃなかっ!!」
親友の声が響いた瞬間、腕の後退が止まる。
「じいちゃんと約束したじゃろっ! あの人のいるところまで届く活躍をして見せると。そんな大口お嬢様に負けるようじゃそんなの夢のまた夢じゃ!」
祖父の名を聞いた瞬間、リンネは力を込め直す。
――そうだ。私はもうフーちゃんに守られたり、黙って
「私は負けられないんですっ!」
リンネがつんざくように吼えた瞬間、彼女の腕は勢いよく持ち上がりティーニエの腕を真逆の方へ押さえ込む。が――
「これは予想以上――でもまだまだっ!」
ティーニエが叫ぶと同時、白色の魔力光が拳を纏い、再びリンネの腕を持ち上げる。その衝撃が外に溢れ、観客から悲鳴が上がった。
『そこまで!! 会場に危険が及ぶ恐れがあるため、アームレスリングを一時中止!』
教員らしき男が野太い声を放った途端、リンネとティーニエは腕を握ったまま、動きと魔力の放出を止める。
向こうで戦いを続けていたアインハルトとハリーも同様だった。彼女らの腕を載せてる台も目に見えるほどヒビが割れている。
それに気付いた理保が――
『レフェリーストップにより試合中止! 両者、いやアインハルト選手たちも手を離してください! 会場整備のため、スポーツバーも一時間休止となります!』
それを聞いた瞬間、観客は苦情を上げるどころか同調するように頷いたり安堵の声を上げる。
リンネもティーニエから手を離すが――
「いつっ――」
「リンネ!」
突然リンネは呻きながら右腕を抑え、フーカが駆け寄る。
そこでティーニエが口を開いた。
「お疲れさん、なかなかいい勝負だったよ。あっちに救護室があるからそっち行ってきな。次はちゃんと決着付けたいもんだね」
「……ありがとうございます。私こそあなたと戦えるのを楽しみにしています」
握手代わりに会釈をするリンネに、ティーニエは片手を上げながら踵を返す。おそらく更衣室へ着替えに行くのだろう。
「リンネ、大丈夫か?」
「うん。最後にお互い強く握り合ったから。多分その時に」
フーカの問いにリンネは笑みを返しながら激痛が残る自分の手を見下ろした。
(ティーニエさん、全然本気じゃなかった。最後に少し力を込めただけ。しかも向こうはまったく痛がるそぶりを見せていない……試合を止められなかったら間違いなく私が負けてた……)
◇
ティーニエ同様、体が空いたものの制服に着替えに行くアインハルトとユミナと救護室に向かうリンネたちを置いてハリーたちとともに体育館を出る。
激しい騒動だったものの、見物料と同情の印に入れてくれた寄付のおかげで学園側にダメージは出なかったようだ。事を知ったセヴィル家からそれ以上の寄付も入ってくるだろうしな。
「じゃあ腹も減ったし、そろそろヴィヴィオのところへ行くか。俺が奢るから――」
「あっ、いた! けんくーん!!」
「――?」
あらぬ方から名を呼ばれ、俺もつられてハリーたちもそちらを見る。
俺たちの向こうには、20代ほどの長い桃色髪の女性が快活な笑みを浮かべながら右手を振っているのが見えた。
10年前よりずいぶん成長したものの、あの時と変わらぬ呼び方と笑顔を見て、俺は呆然と……。
「セツナ……まさか、
「あったりー! よく覚えてくれたね。けんくんオッドアイだから私の方は一目で分かったけどね。後ろの子はけんくんの子供にしては大きいね。
セツナは機嫌よさそうに俺とハリーたちに向かって声をかけてくる。
その後ろで、彼女の姉・
「首監、お久しぶり! あの頃から変わってないように見えるけど、大人化の魔法使ってるわけじゃありませんよね?」
「10年も経つんだし、普通に成長しただけじゃない? お久しぶりです御神さん。姪御さんの厚意に甘えて遊びに来ました」