魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女 作:ヒアデス
「あう~、結局レツヤさんとティアナさんにも景品何個か取られちゃいました~~」
あの後、ティアナの幻術とレツヤのテクニックにも翻弄され、的を撃ち抜かれてしまったヴィヴィオは両手に盆を持ちながら悔しそうに呻く。それに対しレツヤは得意げに笑いながら「どんなもんだ」と返し、ティアナは大人げなかったかもと恥じ入るように紅茶を啜っていた。
「ねえちゃ、ねえちゃ」
「ゆずは~、お姉ちゃんを慰めてくれるの?」
片手を伸ばす妹の手を握りながら、ヴィヴィオは癒されたような声を漏らす。が、俺の耳には姉を慰めてるというより、『さっきの、もうやらないの?』と訊いているように聞こえた。
的あてという名の砲撃戦や射撃戦の最中、怖がるどころか楽しげにキャッキャとはしゃいでいたからな。
血は争えんというか、早くも恐ろしい未来が見えてくるような……。
「へいか〜〜!!」
舌足らずな男の子の声に、俺たちと少なくない客が目を向ける。そこから3歳ほどの金髪の男の子が走りかけてきて、さらにその後ろからこらと言いそうな声で――
「リオン、人様がいる場所、それもお食事をする所を走ったりしたらいけません」
と赤髪のシスターが声を荒げる。
「シャッハさんとリオン君! 二人も学院祭を見に来たんですか?」
尋ねるはやてに、シャッハさんはリオンを捕まえながら苦笑を飛ばす。
「ええ、この子がどうしても陛下に会いたいって言うものですから。――ごめんなさい。
他の客に聞かせるように言い訳を口にするシャッハさんに、ヴィヴィオもなんでもなさそうに俺たちの近くの席の椅子を引きながら返事と笑顔を返した。
「いえ、慣れてますから。お母さんは一緒じゃないの?」
「へやでしらないおじさんやおばさんとおはなしてる! それよりへいか、なんでオットーみたいなふくきてるの?」
「陛下は今日一日だけオットーと同じ執事になってるからだよ。……坊ちゃま、何をお食べになりますか?」
執事っぽく腕を横に伸ばして一礼しながら尋ねるヴィヴィオに、リオンは右手を上げて。
「オムライスとオレンジジュース!」
「私は紅茶とサンドイッチをお願いします」
活発そうに声を上げるリオンと遠慮がちに注文を口にするシャッハさんに、ヴィヴィオは執事っぽい動作で「かしこまりました」と返しながら注文を告げに向かい、その光景に笑みを漏らすシイナたちにシャッハさんとリオンを簡単に紹介する。
それからしばらくしたところで……。
「じゃあ私たちはお昼休みですから、ご飯食べにいったん失礼させていただきますね」
「なのはさんたちはどうしますか?」
コロナの報告とリオの問いに、なのはは「うーん」と呟きながら人差し指を顎に乗せる。
その横からはやてが、
「私はカリムや教会のお偉いさんに挨拶する予定やから。健斗君もやろ?」
「――ああ。そうだったな」
はやてたちの付き添いとして、俺とリインもカリムの元へ行かねばならないんだった。
彼女には“うち”も預言関連で世話になってるし、古代ベルカ魔法使いでオッドアイ持ちだから他の司祭にも目をつけられていて、《愚王》とバレないようにしつつ《聖王》に敵意を持っていないとアピールするため適度に交流する必要があるんだよな。
「私も保護者として、ヴィヴィオたちの先生にお礼を言っておきたいし」
「後夜祭には出られると思うから。その時にまた会おう」
なのはとフェイトの答えにヴィヴィオも「うん」と声を弾ませながら頷く。
「じゃあ、オレはジムでスパーの予約入れてるからそろそろ失礼させてもらうわ」
そう言って立ち上がるハリーに続き、ベテラン勢何人かも腰を上げる。それを見てティーニエが挑発するように告げた。
「ああ、次の試合近いもんね。それとも、アタシと王様たちが動けないうちに力を付けようって魂胆?」
その言葉を聞き、ハリーたちは顔を歪めながら彼女を睨む。そこへヴィクトーリアは口を拭きながら落ち着いた声を放った。
「ティニエ、おやめなさい。仮にもベルカ三家の名を背負う者として慎みが欠けます。それに貴女こそ彼女たちが力をつけていくのが怖いのかしら?」
後半の言葉にティーニエまでも眉をひそめて、
「別にぃ。アタシ的には強くなれるだけ強くなってもらった方が倒しがいがあるし、好きなだけ鍛錬してって言いたかっただけ。ヴィッキーとリンデも帰んの?」
訊ねられた瞬間、ヴィクトーリアとジークリンデは眉根を寄せて視線を交わした後、揃って首を横に振った。
「いえ、私とジークも教会の方々に挨拶しなければいけませんので」
「もうしばらく学院にお邪魔させてもらうな」
「……、そっか」
二人の様子に釈然としないものを感じながらも、ティーニエは短くそう返す。
そこでトワが俺の元まで来てヒソヒソと耳打ちしてきた。
「この子たち、どういう関係なんです? 一緒にお祭りを見て回っていたのに、なんで一触即発に?」
「友達でもあるんだが、同じ大会に出場してるライバルでもあってな。激励みたいなもんだ気にすんな」
10年前、友達同士でありながらトワと戦った時のことを思い出したのだろう。トワは不安げに「それならいいんですけど」と返す。
ヴィヴィオも空気を変えようとするように――
「――と、とにかく、私たちはご飯食べに行きますね! ミウラさんはどうしますか?」
「えっ、ぼ、ボクは――」
「ザフィーラからの伝言! ミウラは今日一日完全にお休みや。最近特訓で体を酷使しすぎやからな」
はやての口から師匠の名と忠告を受け、ミウラはあうっと呻く。そこでヴィヴィオたちに食事に誘われ、「ぼくもへいかたちといく!」と口にするリオンともども中庭に移動し、シイナもトワとセツナの腕を引っ張り「じゃあ私たちも学院祭見物を続けますか」と席を立った。
「じゃあ、俺たちは教会のお偉いさんと会談してくるから、なのはとフェイトも適当に時間をつぶしてから16時頃にカリムさんの部屋に来てくれ。できるだけ俺たち以外の人間に気付かれないように」
そう告げた途端、二人ばかりか他の一同も顔を硬くした。
はやては聞き耳を立てている人間がいないか確かめ、さらに声を潜めて――
「今、管理外世界と開拓世界で起きている“ある事件”の対処のため、私が水面下で組織している『特務六課』と、地上本部内で御神司令が立ち上げた『特別対策本部』……その詳細についてカリムとスポンサーも交えて話し合いたいと思います」
そう告げられた瞬間、“スポンサー令嬢”であるヴィクトーリアとジークリンデも表情を引き締め、深い頷きを返した。
その後……ヴィヴィオたちの昼食にスバルと見て回っていたイクスが合流し、パワー系の出し物を荒らしまわっていたティーニエの元には……
「へっへーん。アタシにかかれば赤子の手をひねるより楽勝。次は何処を制覇し――」
「お嬢様、他の生徒様とお客様に迷惑ですので、いい加減おいたはお止めになった方がよろしいかと」
「うげっ! なんであんたがここに!?」
「旦那様から保護者代理として参加証を頂きましたから。学院からも是非お嬢様の手綱を握ってほしいと頼まれていますし……そろそろ年貢の納め時といきましょうか」
などといった騒動や午後の出し物、それに紛れる形で開かれた『会議』を挟んだ後。
夜の闇に包まれた校庭の中心に、祭の締めくくりを飾るような、鮮やかな『聖火』が灯された。
「例年通り、最後はフォークダンスを行います。生徒たちも保護者の皆様も近くの方と手を取り合ってください」
グランドシスターが呼びかけるも、多くの生徒が恥ずかしげに固まる中、ヴィヴィオは棒立ちしているアインハルトの元に寄って――。
「アインハルトさん、私下手ですけど――ダンス一緒に踊っていただけませんか!?」
「ヴィヴィオさん……」
その瞬間、城の舞踏会でオリヴィエに誘われた記憶が蘇り、アインハルトは躊躇するが……。
――“
「私こそ至らぬ身ですが、喜んでお相手させてください」
笑みを浮かべながら片手を差し出すアインハルトにヴィヴィオも笑みを返しながら片手を出し、もう片手も握って
それを見て、リオとコロナも苦笑しながら手を取り合い、他の生徒も踊り始める。
中には告白するように顔を赤くしながらダンスを申し出たり、踊る異性の組み合わせもいた。
「レツヤ、私と一緒にどう? お金持ちの家で育ったからこういうのも慣れてるでしょう?」
「ああ、別にいいけど」
「あっ、じゃあ、その次は私と一緒に踊らないか? 私もこういうのを覚えておかないとと思ってな」
ルーテシアの誘いにタジタジになりながらレツヤも彼女の手を取り、その横でチンクは慌てて次の相手に申し出る。
それに苦笑しながら。
「ではお嬢さん、よければお相手願えませんか?」
「パーティーの度にそう言ってくるな――私で良ければ喜んで」
リインも嬉しそうな笑みを浮かべ、俺が差し出した手を握ってくれる。
その横でも、
「じゃあなのは、僕たちも久しぶりに……」
「うん。エスコートよろしくね旦那様♪」
◇
「なのちゃん、すっかり若奥さんって感じだなぁ。主監も秘書さんとよろしくやってるし、チンクちゃんも青春してるわ、私たちだけ遅れてる気分」
所帯持ちとなった戦友たちを見て、シイナはしみじみとため息をつく。
だったらこっちもトワとよろしくしようかと顔を向けると、ティーニエという力自慢の生徒がトワに話しかけてるのが見えた。
「トワさん、せっかくですからアタシと踊ってくれませんか。後輩にアイン取られちゃって、相手いなくて」
「いいけど、私もダンスとか上手くないよ」
「いえいえ、ちょっと握り合って適当に動いてくれればそれでオッケーですから。ついでに“その腕”の力も確かめさせてくれたら嬉しいな〜……なんて」
ティーニエの鋭くした目と吊り上がった唇を見て、トワは『こっちにもとんでもなさそうなのがいたもんだ』と溜息を吐き、
「怪我しても恨まないでね」
と釘を差してから、二人は“ダンスに見せかけたアームレスリング”を始める。
そんな二人を含めた学院の光景を見てセツナは呟いた。
「こっちの世界も平和そうだね。なのちゃんたちもヴィオちゃんも友達のみんなも楽しそう」
「うん。10年前の私たちみたいに、4年前なのちゃんたちが頑張った結果だって……すぐにまた崩れちゃうかもしれないみたいだけど」
「けんくんたち、私たちやヴィオちゃんたちからも隠れて話し合ってたもんね」
セツナは笑みを消しながら吐き捨てる。
“炎を司る魔人”だからか、空気の違いや変化には敏感で嫌でも分かってしまった。
「セツナ、私、なのちゃんたちや主監に私たちの世界を救ってもらった恩返しがしたい。せっかく平穏を取り戻したのに、セツナとトワは我儘だって怒るかもしれないけど……」
シイナはいたたまれなさから顔を下げ、それでも告げる。そこへ「ううん」と柔らかい声が返ってきた。
「わかってる。私もけんくんたちの役に立ちたいって思ってるから。きっとトワちゃんとフィーちゃんも。だからまた一緒に頑張ろう!」
妹のその言葉にシイナはうっすら涙ぐみながら笑顔を返す。
そこで、健斗やなのはが棒立ちしている彼女らに気付き、声をかけてくる。
シイナとセツナは「少し休んでただけ!」と返しながら輪の中に戻り、久しぶりに姉妹で踊りあった。
学院祭編完結しました。次回からEXCEEDS編の執筆に戻ります。
選手組の動きは原作通りにしていますが、リンネやティーニエの登場等によって大会の勝敗やその他の話の流れは結構変わります。
そのため現時点での学院祭編は草案に近く、本編が学院祭編の内容に追いついた頃に、学院祭編の台詞やキャラの動きなども変更される可能性があります。