魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女   作:ヒアデス

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第6話 合宿前

「最後の聖王『オリヴィエ・U・X・ゼーゲブレヒト』によってベルカ統一がなされた後、《聖王連合》の統治下で各国は復興の道を歩みます。《禁忌兵器(フェアレーター)》による荒廃や他世界への避難による住民の減少、それらによる収穫量の激減に悩まされ、最終的にはベルカを捨てる選択肢を取るほど過酷な道でしたが……」

 

 教師(先生)が黒板にその時代の出来事を書きながら講釈を述べ、クラスメイトたちは黒板に書かれた内容や先生の話をノートに書き写す。私もノートに書き写しながら、教科書に視線をやった。

 昨日は襲撃事件の罰として御神さんのもとで働いていたため、授業を受けていない。その上さらに、作業とトレーニングの疲れでそのまま寝入ってしまい、予習を完全に忘れてしまっていた。

 

「その中で急速に復興し、模範となった都市が『リヴォルタ』。その当時にして最後の領主が誰か――ストラトスさん、分かりますか?」

 

「えっ――は、はい。えっと……」

 

 

 私は立ち上がりながら教科書とノートに目をやり、クラウスの記憶からも探る。しかし、彼の死後の話のようでそれらしい人物は全く出てこなかった。

 訝しげな顔をした先生から「早く答えてください」と訊ねられ、適当な人物を答えかけたところで――

 

《ティッタ・セヴィル》

 

 ふいに頭の中に女の子の声が響き――

 

「ティッタ・セヴィル、です」

 

 そのまま答えると先生は頷き。

 

「そうです。少し間がありましたが、まさか念話か思念通話で誰かから答えを聞いたのかな?」

 

「えっ、あの――」

 

 言い当てられ、私は“誰か”を庇うために白状しかけるも――

 

「って、歴史が得意なストラトスさんがそんな事をするはずがなかったね。すまんすまん。……えー、ティッタ・セヴィルは当時のグランダム王国の王、ケント・α・F・プリムスの妹で『守護騎士』としてケント王に仕えていました。しかし王族という立場から疎まれ、併合したばかりのリヴォルタの統治を任せるという名目で王宮から追放されました。そしてさらに王の死後、彼が遺した莫大な『復興債』を背負うことになるのですが、平民学校の導入などの改革や制度の是正など手を尽くして債務を完済してリヴォルタとグランダムを建て直しました。その偉業によって、ティッタ・セヴィルは《愚王ケント》の妹でありながら旧グランダム国民や聖王連合からも讃えられ、彼女の一族『セヴィル家』は『ダールグリュン家』と『エレミア家』に並ぶ《ベルカ三家》としてベルカ人を取り纏め、今もなお強い権勢を誇り……」

 

 疑う素振りもなくもしくは昨日休んでいた事を知っていて見逃してくれたのか、先生は素知らぬ顔で講義を続ける。

 そんな中、私はちらりと()()を見る。斜め後ろに座る長い黒髪のクラスメイト――クラス委員のユミナ・アンクレイヴさんは私の方を向き、ウインクを向けてくれた。

 

 

 

 

 

「あの、ユミナさん……さっきは助けてくれてありがとうございます」

 

 休み時間に入って少し躊躇いながら声をかけると、ユミナさんは一瞬コクリと首を傾げかけ、すぐに「ああ」と頷きながら片手を振った。

 

「いいのいいの。私も風邪や家の用事で休んじゃった時は友達に教えてもらったりノート見せてもらってるし。あっ、昨日の授業もノート取ってるからよかったら借りてかない? 一応ひととおり覚えてるし他の子にも貸したりしてるから」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 差し出されたノートを受け取り、我ながらぎこちない調子で返事を返す。

 さらにその後お昼休みの昼食にも誘われ、彼女とお友達数人と食事をとることになった。

 ということを報告したら……。

 

 

 

『ほう、そりゃよかったじゃねえか。授業の遅れを取り戻せたうえにダチまでできそうで』

 

『ああ、本当によかった』

 

 御神さんの横でアインスさんも胸に手を当てて安堵の息をつく。

 そこまで心配されなくてもいいと思いますが……。

 

「ユミナさんも格闘技観戦が好きみたいで、昨日のことを話したら一度道場の見学がしたいって言ってました。……それで、私も昨日のようにまた道場の練習に参加することは可能でしょうか? 準備のお手伝いもしますから!」

 

 そう申し出た途端、御神さんとアインスさんは意外そうに眉を持ち上げた。

 

『そりゃ向こう(はやてたち)が許せば参加させてもらえると思うが、聖王と冥王に勝ちたい云々はもういいのか? お前も反省してるようだし、向こうの親御さんと掛け合って聖王と会わせてもいいと思ってたんだが』

 

「あっ……」

 

 向こうから言われてようやく“悲願”を思い出す。まさかクラウスからの悲願より道場なんかに入れ込みかけるなんて……。

 

「すみません……できればそちらもよろしくお願いします」

 

『ああ、俺たちや向こうの連れとの立ち合いのもとでという条件でなら可能だ。そっちもさっき言った友達を連れてきてもいいが』

 

「いえ、一般人の彼女をベルカの事情に関わらせるわけにはいきませんし、私一人で伺わせていただきます」

 

 御神さんも同意なのか「そうか」とあっさり引き下がる。

 

「それで厚かましいと思いますが……冥王様の方はやはり難しいでしょうか?」

 

 恐る恐る訊ねる私に御神さんは首を縦に振った。

 

『ああ、あっちは《聖王のゆりかご》みたいなオーパーツなしでも危険な《固有技能》を持ってるから警戒が厳しいからな。できたとしても現状では通信がやっとだ。そもそも、向こうは戦闘能力がほとんどないからお前の期待には応えてやれねえぞ。“最強”の称号も喜んでお譲りしますとのことだ』

 

 ……信じられない。

 《冥王イクスヴェリア》と言えば、戦乱と残虐を好む邪知暴虐の王。クラウスの時代でもそう言い伝えられていた。そんな方が“ベルカ最強”をあっさり放棄するなんて。

 ……でもなんでだろう? なぜかあっさり最強の名を放棄する女の子の姿が浮かぶような……。

 

『じゃあそういう方向で話を進める。八神道場もはやてたちの許可が取れたら参加していい。ちびたちを甘やかすわけにいかんから準備の方は向こうの指示に従ってくれ』

 

「はい、ありがとうございます。当代の聖王陛下にもよろしくお伝えください」

 

 そう言って頭を下げると、御神さんとアインスさんは苦笑を浮かべ……。

 

『ああ……ただ、本人にはそう呼ばんでやってくれ。あっちは聖王(オリヴィエ)の記憶をほとんど持ってないし、そう呼ばれるのを嫌がっていたからな。特に妹がいる時は今でもな』

 

「はい。そういうことなら」

 

 御神さんたちに頭を下げ、互いに別れの挨拶を告げながら通信を閉じる。

 そしてユミナさんと合流し、午後の授業が始まる教室へと向かった。

 

 

 その後、御神さんたちやナンバーズという方たちの立会いのもと《当代の聖王》にあたる高町・スクライア・ヴィヴィオさんと対面し、『ストライクアーツ』の練習試合という形で彼女と拳を交えた。

 確かに彼女は前の聖王(オリジナル)の事をほとんど知らず、そんな彼女に覇王(私たち)(いたみ)をぶつけていいか迷いましたが、後日再び彼女と拳を交えて彼女なりの『強さ』への意気込みを()()()()()()()()()()

 そうした経緯を経て、ヴィヴィオさんとも親しくなり始めた頃……。

 

 

 

 

 

 

 連休を間近に控えたある日、八神道場の稽古場になっている砂浜で……。

 

「合宿……ですか? それは八神道場の……」

 

 アインハルトが言い終わるのを待たず俺は首を横に振る。

 

「いいや、俺の従妹(いとこ)でもあるヴィヴィオのお袋さん主催の訓練合宿だ。第34管理世界マウクラン――今は『カルナージ』だったか。そこで三泊四日、休暇と合同訓練を兼ねた合宿をする。

 ヴィヴィオはもちろん、あいつの師匠(ノーヴェ)やその姉たちも行く予定だ。練習相手には困らんし合宿先のホテルにはベルカの書物もあるから、お前さんの故郷の勉強もできる。ここでサンドバックやミットばかり殴ってるよりいい経験になるぞ」

 

「はぁ……」

 

 アインハルトはミウラやちび達をちらりと見て、遠慮がちな返事を返す。

 そこで――

 

「ミウラ、お前も行ってみる気はないか? アインハルトと一緒に異世界での合宿」

 

「えっ? いいんですか?」

 

 訓練後のストレッチをしていたミウラは体を起こしながら訊き返してくる。

 

「ああ。お前も向こうの模擬戦にもついていけるレベルだし、こことは違う刺激を受けてきた方がいいだろう。ユミナもどうだ? 局の第一線で活躍している魔導師たちの訓練と模擬戦が見られるぞ」

 

「はい! そういうことなら喜んで!」

 

 子供たちにタオルと水を配っていたユミナも顔を輝かせながら返事を返す。

 そこで俺は再びアインハルトに顔を戻した。

 

「さて、修行仲間とお友達はああ言ってるが、お前は留守番するかい?」

 

 笑みを作り、意地悪げな声で訊ねてやるとアインハルトは頬を膨らませ――

 

「いえ、私も行きます。お手数をおかけしますがよろしくお願いします」

 

「おう、たまにはハメ外して楽しんでこい」

 

 そう言うと、ミウラはこくりと首をかしげた。

 

「あれ? 御神さんは一緒に行かないんですか? もしかしてはやてさんたちも……」

 

 まさかと察する彼女に俺は苦笑を浮かべ、

 

「俺とリイン、はやてたちも今年は都合が合わなくてな。向こうに送るくらいはしてやるから後はお前たちで何とかしてくれ。保護者なしじゃ何もできない歳でもないだろう」

 

 そう言ってやるとミウラたちは「はい」と頷きを返す。

 そんな会話を交わしてから彼女たちと別れ、俺ははやてのもとへ行った。

 

 

 

「予想通り、ミウラも合宿行くってよ。これでいいんだよな?」

 

「うん、ありがと健斗君。あの子にもいい経験になると思うよ」

 

 はやては鍋をかき混ぜながら上機嫌な声と笑みを返す。

 

「で、“例の件”だが本当にいいんだな」

 

 そう訊ねると、はやては顔を硬くして鍋の方に向きを戻しながら頷いた。

 

「うん。“インターミドル”も近いし、ここよりもっとトレーニングに集中できるところに移った方がええと思う。八神道場は子供向けの教室やし、ザフィーラもずっとあの子に付きっ切りというわけにいかんからな。ハルやんと稽古してるの見てますますそう思った」

 

 八神道場で預かるにはもう荷が重い。端的に言えばそういうことだ。

 

「わかった。向こうでの様子を見て、問題なければミウラもあっちに移ってもらおう。――じゃあそういう方向でお願いします」

 

 はやての()()向けて言うと、そちらから『はいはい』と声が返ってきた。

 

『追加三名様、確かに引き受けました。うちは前日からのキャンセル料は例外なく100%だから、来られなくなったらすぐに連絡しなさいよ』

 

 空間モニターに映る合宿先のホテルのオーナー……メガーヌ・アルピーノさんは厳しい声で釘を刺してくる。

 地球のみならず他世界でも多額の経費をドブに捨てかねない直前キャンセルと無断キャンセルは問題となっており、直前や無断でのキャンセル料は100%と定め、連絡先も控えられて請求書が家まで送られるのは当たり前になっている。

 視察旅行と称して海鳴の旅館へ行き、べろべろになるまで吞んでいたらしいが、ホテル経営の勉強はしっかりしていたようだな。

 

「ルーテシアとレツヤはもう来ていますか? もうすでに休暇を取ってると聞きましたが」

 

『ええ。今日の昼こっちに来て、暇そうにしてたから準備の手伝いをしてもらってるわ』

 

『暇そうって――休んでたところに押しかけて()き使ってるの間違いでしょう!』

 

 メガーヌの横から不満げな男の声が漏れる。その声に俺もはやても眉を持ち上げた。

 

「レツヤか。一足早い休暇を楽しんでるようで何より」

 

 俺が声をかけると、茶髪と茶色の瞳の青年が文句の言いたげな顔を出してくる。

 

『これが楽しんでるように見えますか? 俺もルーテシアもひいひい言わされてますよ。休暇取れなかったからって、こっちに(ひが)みをぶつけてこないでください』

 

「そりゃ悪かった。そのルーテシアは?」

 

『ホテルの手伝いついでに訓練場のチェックに行ってます。呼んできましょうか?』

 

 レツヤの申し出に俺は「いい」と首を振る。

 

「それより追加客の話だ。この間話しただろう。古代ベルカ――《シュトゥラの覇王》の子孫と知り合ったって」

 

『ああ、はい覚えてますよ。“うち”と同じ王家の子孫で、俺みたいに《王家としての真名()》を持ってるんでしょう?』

 

 その問いに顔を硬くしながら頷き、

 

「そうだ。しかもお前の家と同じ聖王家の側近だ。あいつに会ったらよろしくしてやってくれ。お前の親父の家系、《マセラティ家》についても何か聞けるかもしれん」

 

 その名を聞いた瞬間、レツヤは口を吊り上げ、

 

『へいへい、わかりました“御神隊長”。《覇王》様の接待、喜んでお引き受けしましょう』

 

 現金な部下に呆れながら「頼む」と告げる。その向こうからパンパンと手が鳴る音が聞こえ……。

 

『レツヤ君、話が終わったのならそろそろ仕事に戻って。でないとバイト代出さないわよ!』

 

『えぇっ!? こんなに扱き使っておいてそりゃないだろう! じゃあ御神さんとはやてさんもまた!』

 

 レツヤは慌ただしく手を振って仕事に戻っていく。その姿に俺とはやて、メガーヌさんも含み笑いを漏らした。

 

 

 アインハルトに関しては奴に任せておくか。ミウラの“道場からの卒業”もほぼ決まりだろう。

 その間に俺はイングヴァルト家のもう一人の末裔に会いに行くとするかね。




アインハルトとヴィヴィオの初対面と対決はさくっとカットします。
原作と同じ流れなのと早く合宿編に入りたいので。
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