魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女 作:ヒアデス
「ユミナ、そこは……」
「ここが痛いんですか~。ならもっと責めてあげないと♪」
「――うくっ」
お茶を載せたトレーを持ってリビングに戻ろうとした瞬間、御神さんのくぐもった声とユミナさんの加虐的な声が聞こえてくる。
人の家で何をやってるんですか!? と思いながら踏み込んだ瞬間。
「御神さん、気持ちいいですか?」
「そこ、もっと頼むわ~」
ユミナさんに肩を揉まれ、ソファに座ったまま御神さんは心地よさそうな声を漏らす。
「あの、これは一体?」
対角上のソファに座るアインスさんに尋ねると、彼女は苦笑しながら答えた。
「アインハルトを待ってる間、健斗が肩を回しているのを見てユミナが肩を揉んであげますと言ってな……その結果があれだ。お茶貰っていいか?」
私はすぐにお茶を差し出す。一方、ユミナさんは御神さんの肩を揉みながら言った。
「肩だいぶ硬くなってますねー。たまにはマッサージしてほぐしてもらった方がいいですよ」
「忙しくて暇ができなくてな。リインが揉んでくれたりするんだけど中々凝りが取れなくて……ありがと、だいぶ楽になった。お礼だ、遠慮なくもってけ」
御神さんは財布を取り出し、肩越しにお札を一枚を渡す――って、それ100ミドル!*1
渡されかけたお札を見てユミナさんも慌てて手を振り、
「わわっ、いいですよ! 私が言い出したことですから。施術の腕試しにもなりましたし」
「遠慮しなくてもこれぐらい大したことないぞ。給料がいい割に使う暇ないから貯金はたんまりあるし、あんまり貯めこんでいると寄付や防衛債を勧められるのがオチだからな」
「御神さんのところにも来てるんですか?」
ユミナさんの訊き返しに御神さんはお札をしまいながらこくりと頷く。
『ミッドチルダ防衛債』。
三年前に当選したダイレル・クライスラー最高行政官の提議で発行された、『ミッドチルダ防衛軍』の設立資金となる“世界債”。
四年前の汚職とJS事件によって時空管理局の信頼は著しく低下し、クライスラー行政官が掲げた“ミッドチルダ固有の軍隊”に期待が集まるようになった。
その特需と経済規模は相当なものになると予想され、次元中の個人から資産家、
「御神さんたちは買うんですか? ミッドどころか他の次元世界からも期待が集まってると聞きますが」
私の問いに、御神さんは複雑そうな顔で腕を組む。
「最高行政官の言うことも一理ある。他次元の探査もしている管理局じゃ地上に割ける人員に限界があるからな。だが、今まで管理局に頼りきりだったミッド政府にいきなり地上の治安維持を任せるのも不安がある。うまくいくかわからん軍に投資するより、知り合いの子が育った養護施設に寄付する方がまだマシだ」
そう言い捨てる御神さんにアインスさんも笑みを漏らし、
「私も同意見なうえその手の話は苦手だしな。寄付の話が出てくる度に主はやてや健斗に相談して決めてるぐらいだ。――それよりそろそろ出発した方がいいんじゃないか。ミウラも拾っていく約束だ」
アインスさんがデバイスを見ながら言った瞬間、御神さんもぐいっとお茶を呷って立ち上がる。
「よし。じゃあ忘れ物ないかチェックしたら出るぞ。家のすぐ近くに車を停めてある」
「「はい」」
私はあらかじめ用意していたバッグを肩にかけ、ユミナさんも持参していたバッグを持って家を出、御神さんの車に乗り込む。
そして八神さんの家の近くで待っていたミウラさんも乗せて、主催者である『高町スクライアさん』の家へと向かった。
◆
「やあ、二人ともいらっしゃい。」
「あっ、ユーノさん」
「お久しぶりです!」
リビングに入ってすぐ親友の父親に声をかけられ、コロナとリオは挨拶を返す。
それを聞いてフェイトに抱かれている2歳ほどの幼児が翠色の目を開き、茶色い髪を揺らしながら声を上げた。
「ねえちゃ、ねえちゃ」
「ただいま、ゆずは。ちゃんといい子にしてた?」
ヴィヴィオは幼児の傍まで駆けよって笑顔と挨拶をかける。それを聞いて彼女の妹『ゆずは』は言葉にならない返事を返す。
その傍で台所から出てきたなのはが尋ねた。
「今日は試験が返ってくる日だったよね?」
「みんな、どうだった?」
それを聞いてヴィヴィオたち三人は気まずそう――な様子は見せず、満面の笑顔でデバイスを取り出した。
「花丸評価いただきました!」
「三人そろって」
「優等生です♪」
デバイスに表示された成績を見せながら誇らしげに報告する娘たちに、なのはとユーノが拍手を送り、フェイトに抱かれたゆずはも両親の真似をするように手を叩いた。
「みんな、すごいすごーい!」
「これで堂々と遊びに行けるね」
「リオとコロナはご家族に報告してる?」
フェイトの問いにリオは「もちろん」と頷き、コロナも「もう用意も済ませてます」と告げながら大きめのバッグを持ち上げる。それに対しレイジングハートが『Good job』と返した。
「じゃあ後は“伯父さん”が来るのを待つだけだね」
なのはが言ったその時、玄関からピンポーンと響く。
「――噂をすれば」
『It seems to have come(いらっしゃったようです)』
報告しながらレイジングハートはディスプレイを開き、玄関前で待つ一同を確かめて、なのはがスイッチを押した。と同時に、ガチャリと開閉音が響き向こうのドアが開く。
“伯父”は「入るぞー」と告げながら遠慮なくドアをくぐり、連れたちも「お邪魔しまーす」と遠慮がちに入ってくる。
その一人を見てヴィヴィオは目を見開き、急いで玄関前に向かった。
Ⓒ
「アインハルトさん!」
「こんにちは、ヴィヴィオさん」
ヴィヴィオさんの姿が見えた瞬間、すぐに頭を下げ、
「御神さんからお誘いいただいて来ました。異世界での訓練合宿とのことですが……」
「一緒に連れて行ってやってくれないか? こいつと修行仲間二人。なのはたちの許可も取って――」
「はいッッ! もー全力で大歓迎ですっ!!」
御神さんが言い終わらないうちにヴィヴィオさんは私の手を握り、ぶんぶん振りながら答える。御神さんは苦笑しながら「聞くまでなかったか」と零した。
そこで隣の部屋から眼鏡をかけた金髪の男性が現れ――
「やあ健斗、久しぶり」
「おうユーノ、数週間ぶりだな。お前も合宿についていくのか?」
「いいや僕は居残り。無限書庫の仕事があるし、六課の部分同窓会みたいなものだから」
「俺とリインも居残りだ。どうだ、居残りの男同士仕事終わりに一杯」
「君は一杯じゃ済まないだろう。アインスさんはいいの?」
「ユーノさえ良ければ付き合ってやってくれ。男同士でしか言えない事もあるだろうしな」
隣の部屋から現れた男性と御神さんはアインスさんを巻き込んで親しげに談笑する。
彼は『ユーノ・高町・スクライア』さん。ヴィヴィオさんのお父様だと後から教えていただきました。
「アインハルトさん、どうぞ中へ。向こうに母と妹がいますから!」
ヴィヴィオさんに手を引かれてリビングへ向かい、彼女のお母様『高町・スクライア・なのは』さんと妹の『高町・スクライア・ゆずは』さん等を紹介され、私もユミナさんとミウラさんと一緒に初めてお会いする面々に自己紹介をした。
ヴィヴィオさんとミウラさんはザフィーラさんから教わった兄弟弟子(習った順番からヴィヴィオさんが兄弟子にあたるらしい)にあたり、『クリス』というマスコット型デバイスを挟んで打ち解け、その横では……
「ケンおじちゃ! リンおばちゃ!」
「久しぶりだなーゆずは。ケンおじちゃんだぞー。ママたちがいない間、おじちゃんの家に泊まるか?」
「ダメだよ。健斗君姪に甘いし、去年も勝手にヴィヴィオにデバイス買おうとしたじゃない!」
「リンおばちゃんか……まあ将来の関係的に間違っていないし、実年齢を考えたらマシな呼ばれ方か……」
なのはさんの注意も聞かず御神さんは緩み切った笑顔でゆずはさんを抱き上げ、横でアインスさんが顔を暗くしてぶつぶつ呟く。……三人とも変わりすぎです。
◆
次元港に発つアインハルトたちを見送ってユーノと別れ、車を走らせ転送ポートを経由して東部の一軒家に着く。
家から出てきた夫婦に出迎えられ、夫の部屋でもある書斎まで通してもらった。
「私と捜査官さんだけで話したい。君はしばらく外に出て気分転換でもしてくるといい」
「ええ、何かあったら連絡してください」
そう言うと妻は俺たちに会釈しながら扉を閉める。
その直後、夫は生真面目そうな顔をさらに硬くして……
「娘については本当に申し訳ありませんでした!」
テーブルに頭をぶつけそうなぐらい頭と背中を下げる。彼は頭を下げたまま続けた。
「あのアインハルトがまさかそんな事をしでかすとは……賠償金ならいくらでも払いますし退学ならうちで引き取ります。ですから逮捕だけは――」
「落ち着いてください“ストラトスさん”。合意の上での決闘で相手にも重い怪我はありませんでしたし本人も反省しているようなので、今回は厳重注意で済ませておきました。学校にもこれまで通り通わせています」
リインが
銀色に染まった短い髪に、両目とも青で眼鏡をかけている。よく見たら顔つきは似ているが、特徴が違いすぎて彼女の父と気付きにくい。先ほどまでいた妻の髪や目の色も娘とは違う配色だった。
だが、二人とも彼女と血が繋がった実の両親であることは調べがついている。
「正直言っていまだに信じられません。あの子は小さい頃から手のかからない真面目ないい子で、人に喧嘩を仕掛けるような子ではなかったんですが……しいて言えば、私の父……あの子の祖父とまったく同じ髪と目の色で、祖父同様“覇王の記憶”らしきものを引き継いでいるらしいのが気がかりでしたが」
「あの子のおじいさんもですか?」
俺の問いにストラトスは硬い面持ちのまま首を縦に振る。
「はい。もうお気付きかもしれませんが、我が家は《覇王》と呼ばれるクラウス・イングヴァルトの血を引く家筋にあたり、親類の中には
過去の亡霊……ストラトスや彼の父親からすればそうなのか。反感より寂寥を覚え、お茶とともに流し込む。
そこでストラトスは意を決したように声を上げた。
「私からも一つお伺いしたい事があります。我が家にはクラウスの友人の姿絵も受け継がれていて、“愚王”と呼ばれた王も描かれています……御神さんによく似ているんですが、まさか……」
その問いに俺はリインと顔を見合わせ、念話を交わすまでもなく頷く。
ストラトスが名乗り出た以上、こちらもある程度明かすのが筋だろう。
「ケントの子孫、
「ええ、わかっています。ただクラウスは愚王ケントの事も案じており、子孫たちの中にはケントや彼の子孫を探している者もいたそうです。私自身はクラウスの記憶を持っていませんが、イングヴァルト家の一人としてケントの子孫に会えたことを心から嬉しく思います」
柔和な笑みを浮かべながら右手を差し出す彼に、俺も笑みを返しながら右手を出し握手を交わす。
その笑みと力加減の仕方はクラウスに似ていた。
Ⓒ
次元船に乗ってから約四時間後。
自然溢れる世界に着き、港からバスに乗り継いで山林の
その建物の前に長い紫髪の女性二人が立っていた。
「いらっしゃいませ~♪」
「『ホテル・アルピーノ』へようこそ~!」
私たちを見つけるなり、背の高い女性はお辞儀をしながら、私と同い年ぐらいの女の子が建物に手を向けながら挨拶してくる。
「こんにちわー」
「お世話になります」
挨拶を返すなのはさんとフェイトさんに、二人は相好を崩し。
「みんな来てくれて嬉しいわ。食事もいっぱい用意したからゆっくりしていってね」
「ありがとうございます!」
食事と聞いてスバルさんは顔をほころばせる。
その横で女の子がヴィヴィオさんたちの方へと来た。
「ルールー、久しぶりー!」
「ルーちゃん、また来たよ!」
「うん、ヴィヴィオとコロナも久しぶり。リオは直接会うのは初めてだよね。モニターで見るより可愛い♡」
「ちょっと、やめてよ恥ずかしいから!」
頭を撫でてくるルールーさんに、リオさんはまんざらでもなさそうになすがままにされる。
そこでヴィヴィオさんが私の隣に来て――
「あっ、紹介するね。こちらの人がメールで話した……」
私の紹介をされていると気付き、私はすぐに頭を下げ、
「アインハルト・ストラトスです。ご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」
「いいよいいよ、硬くならなくても。私はルーテシア・アルピーノ。ここの一人娘で、ヴァイゼン地上本部に勤めてるんだけど
「ルーちゃん、歴史とか詳しいんですよ」
コロナさんの言葉に、ルールーさん、じゃなかったルーテシアさんはえっへんと胸を張る。が……
「まあシュトゥラ王国や聖王連合の事は“レツヤ”の方が詳しいかもしれないけど……」
ルーテシアさんは苦笑しながらあたりを探す。そこでスバルさんが訊ねた。
「そういえばエリオとキャロは? メールじゃもう来てるって言ってましたけど」
「ああ、あの二人はレツヤ君とガリューと一緒に……」
「おつかれさまでーす!」
「エリオ、キャロ!」
森の方から現れた
そこで今度はルーテシアさんが紹介してくれた。
「私の友達で同じ元六課最年少組のエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ。キャロの隣を飛んでいる竜はフリードリヒ。一人だけちっさいけど一応三人とも同い年」
「なんですと!! 私も伸びてるよ! 1.5cmぐらい」
意地悪な顔で付け足すルーテシアさんにキャロさんは両手をあげながら抗議を上げる。
が、そこで――
「――っ!」
真後ろからガサっと草をかき分ける音と
そこにいたのは黒い殻に覆われた生物。そして……
「おっと、驚かせちまったか。悪い悪い」
黒い生物とともに立っていた茶髪の男は頭を掻きながら謝罪の言葉をかける。よく見ると、二人とも食材らしきものを入れた籠を背中に背負っている。
もしかしてあの二人(?)も……。
「紹介するね。黒いのは私の召喚虫で大事な家族。ガリューって言うの。もう一人は私と同じ分隊にいた……」
ルーテシアさんに紹介され、ガリューさんは頭を下げる。一方、茶髪の男性は名前を告げられる前に私の元へ来て言った。
「ルーテシアの同僚のレツヤ・テンドウだ。元機動六課分隊の隊員で今はヴァイゼン地上本部に勤めてる。……そして」
言いながら彼は両眼に手をかざす。それを見て、私は目を見開いた。
「本当の名は『フィヨルス・
“青色の右眼と紫色の左眼”を見せ、『本当の名』を告げる。
その直後、ぱちんと瞬きした瞬間、彼の両眼は茶色に戻った。
なるほど、私を合宿に誘ったのはこの方に会わせるためでもありましたか。
【本編に入れる暇がなかった一幕】
「そういや、クラウスっていつ子供作ったんだ? 歴史じゃ子孫はいなかったってことになってるが」
「えっ!?」
俺が訊ねた瞬間、アインハルトは仰天の声を上げる。
それを見てユミナも顔を輝かせた。
「私も聞きたい! 覇王様って奥様もいなかったはずだけど」
俺たちばかりか八神家の一同も興味津々に耳を傾ける中、アインハルトは顔を赤くしながら……
「えーと、そんなにロマンのある話じゃないんですが……。
《聖王のゆりかご》が消失し、それを好機に連合への反抗を企てていた国を征伐した後、近衛ともはぐれ、クラウス一人森を歩いていた時に敵国の残党に襲われていた女性を助け、そのお礼に家に案内され食事と宿を提供してもらったんです。クラウスも断ろうとしたんですが、疲弊していたうえお礼がしたいと勧めてくる女性を拒み切れず……女性が金髪でオリヴィエに似ていたというのもあるかもしれません。
しかし料理の中にお酒が混じっていて、料理とお酒を召した後クラウスはふらふらになって女性に介抱され、ベッドまで連れていかれて…………その後は覚えてません。本当に何も。
その後、クラウスは一泊の礼と女性の保護を申し出るつもりで再び家を訪ねたのですが、その時にはもう誰も住んでおらず、家具すらもなくなっていて。クラウスも夢でも見たのだろうかと思い直しながら、城に戻りました。
……でもそれ以外に子供ができるような事をした覚えはないので、多分あの時に……」
…………。
それ以上言えずアインハルトは真っ赤な顔で俯き、気まずい空気が流れる。
そりゃ歴史に残らないわけだ。クラウス自身その一夜で子供ができたなんて思いもしなかっただろうしな。