魔法少女リリカルなのはEins 覇王の記憶を受け継ぐ少女   作:ヒアデス

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第8話 水遊びのち歴史の授業

「じゃあ、元六課組は例年通り訓練着に着替えてお昼までトレーニング!」

 

「はいっ!」

 

「遊びたい子は子供たちと一緒に行ってきてもいいけど」

 

「いえ、僕たちもトレーニングに参加します」

 

 なのはさんとフェイトさんにお連れの方たちが威勢のいい返事を返す。

 その一方で……

 

「あたしらは水着に着替えてプールに集合!」

 

「はーい!」

 

 ノーヴェさんの号令に私を除いた子供たちは元気のいい声を返す(ユミナさんとミウラさんも含めて)。

 私としてはトレーニングの方に行きたかったのですが、ノーヴェさんの勧めとユミナさんたちもいるため渋々プールに混ざる。

 しかし、私とユミナさんが小休止を入れている間も元気に泳ぎ回るヴィヴィオさんたちに驚かされ、ノーヴェさんから水中で体力を維持するには陸上とは違う力の運用が要る事を教えられた(場所柄、八神道場でも何度か海で泳いだこともあるのだが、子供たちが多いためトレーニングより遊ぶことがほとんどだった)。

 さらに拳を突き出して水しぶきを打ち上げる『水斬り』というものを教わり、やってみることになった。

 その最中、“彼”はずっと……。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ふわぁ~、ガキどもは元気だねぇ」

 

 レツヤさんはパラソルの下に設置したデッキチェアに寝そべって、日光浴に興じている。海パンを着てきてはいますが、パーカーとサングラスをつけたままで泳ごうとする気配は全くない。

 

「レツヤー、かっこつけてないで少しは泳いだら~!」

 

 ルーテシアさんが声をかけるも、レツヤさんはサングラスをわずかに上げながら首を横に振った。

 

「俺はいいよ。やっと強制労働から解放されたし、休暇の間もトレーニングに励む局畜でもプールではしゃぐ歳でもねえしな。俺は休んでるからお子様たちは仲良く水遊びしてろよ」

 

 “お子様たち”と聞いた瞬間、ルーテシアさんの眉がぴくんと跳ね上がる。そして彼女は向こうに届かないほどの声で……。

 

「アインハルト、私が許す。あいつめがけて水斬りを打ち込んでやって」

「ええっ!?」

 

 突然の指示に私は仰天の声を上げる。一方、リオさんはイタズラっぽい笑みで――

 

「アインハルトさんがやらないならあたしが――はああぁっ!」

 

 リオさんがまっすぐ腕を突き出した瞬間、高波のような水が撃ち出される。当然それは寝そべったままのレツヤさんに向かってまっすぐ降ってきて……

 

「うおわあああぁっ!」

 

 突然降り注いだ水を浴びてレツヤさんはチェアから転げ落ちる。

 そこへ――

 

「じゃあ私も――ええい!」

「はああ――!」

「えいっ♪」

 

「ちょ、お前ら何を――ぐああぁぁっ!」

 

 ヴィヴィオさんとコロナさん、ユミナさんまで悪乗りして水斬りを放ち、レツヤさんはうめき声をあげながら水に飲み込まれた。

 

「この悪ガキども~~一度お仕置きされたいらしいな」

 

 レツヤさんは怒りを露わにパーカーを脱ぎ捨て、プールに飛び込んでくる。

 が、その横から高波が降りかかってきた。

 

「ヴィヴィオさんたちには指一本触れさせません!」

 

 拳を突き出した状態のままミウラさんは私に目線を贈る。

 それに頷き――

 

覇王空破断(仮)!!

 

 思い切り拳を突き出した瞬間、さっきまでよりはるかに高い大波が立ち昇る。それをまともに受けて――

 

「うわあああぁぁ――」

 

 レツヤさんは悲鳴を上げながらプールから吹き飛び、プールサイドをも飛び越えて近くの地面に落ちていった。

 

 

 

 昼食時。

 

「あらあら、そんなにずぶ濡れになってきちゃって」

 

「初日からはしゃぎすぎると逆に疲れるよ」

 

「あんたらの娘さんたちのせいっすよ! ……前作じゃ主人公だったのになぜこんな扱い

 

 心配そうに声をかけるメガーヌさんとなのはさんに、レツヤさんは体を震わせながら恨み言を飛ばす。

 ……ちょっとやり過ぎたかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 昼食の後、食器洗いを申し出てくれたユミナさんとミウラさんを残し、ルーテシアさんに呼ばれて私たちは書庫に集められていた。

 

「じゃあルーテシアが見つけてきた回顧録を使って歴史の授業といくぞ。休みの日まで勉強したくないって奴は抜けていいが」

 

「いえ! 私も昔のベルカを知りたいですし」

 

「ファンタジー好きにとって歴史と国語は娯楽ですから!」

 

 回顧録を持ち上げながら忠告するレツヤさんに対し、ヴィヴィオさんとコロナさんは活気のある返事を返す。レツヤさんの横でルーテシアさんが補足を入れた。

 

「こう見えてレツヤはクラス委員と生徒会長を務めたことがあるくらい秀才だから安心していいわ。テストはほとんど満点だった私もサポートについてるし」

 

 「こう見えてもは余計だ」と呟きながらレツヤさんは咳ばらいをし、クラウスの肖像画が描かれた(ページ)を開きながら口を開いた。

 

「ベルカ末期に活躍した聖王の片腕にしてシュトゥラ王国最後の王、『クラウス・G・S・イングヴァルト』人呼んで《覇王イングヴァルト》。アインハルトのご先祖様、だったよな?」

 

 レツヤさんの問いに私は「はい」と頷く。

 

「この本は無限書庫から見つけてきた、クラウス自身が遺した回顧録。もちろん現物じゃなくて写本だけど。だけど御神指令とリイン補佐によれば、下手な歴史書より事実に近いらしいわ」

 

 ルーテシアさんの説明を聞き、一同は目を輝かせる。

 そんな中、レツヤさんが回顧録を持ち上げ口を開いた。

 

 

 

 いつしか開発された《禁忌兵器(フェアレーター)》によって空は分厚い雲に覆われ、ほとんどの大地が枯れた“末期ベルカ”。

 滅亡を前にしてなお戦乱は終わらず、数えきれない人々の血が河のように流れていった。

 誰もが苦しんで乱世を終わらせたいと願いながら。しかし、そのためには力を持って戦うしかなかった、愚かな戦いの時代。

 そんな時代に『覇王クラウス』は生を受けた。『聖王オリヴィエ』や『愚王ケント』とともに。

 

 

 

「『オリヴィエ・U・X・ゼーゲブレヒト』。当時の聖王家の王女にして“最後のゆりかごの聖王”。聖王教の信仰対象になってる“聖王さま”はもっぱらこの人みたいね」

 

 ヴィヴィオさんと同じ翠と紅の虹彩異色を持つ金髪の女性、“オリヴィエ”が描かれた頁を開いた瞬間、ヴィヴィオさんも他の人たちも驚きに目を見張る。そんな中、私はさっと目をそらした。

 幸せに過ごしていた“あの頃”が浮かんでしまうから。

 

「通説じゃクラウスは600年前の人間、オリヴィエは300年前の人間で生きた時代が違うって話だったが、この本じゃ二人とも同じ時代を生きたことになってる。しかもシュトゥラで一緒に住んでたんだとよ……お前がご先祖様から貰った記憶じゃどうなんだい、“現覇王”さん?」

 

 レツヤさんはニッと口を吊り上げながら尋ねてくる。私はむっとしながら……

 

「その呼び方はやめてください……回顧録に書かれていた通り、オリヴィエ殿下もクラウスも同じ時代それも年の近い友人同士で、オリヴィエ殿下がシュトゥラに来てからは共に笑い、共に武の道を歩む日々を過ごしました」

 

 私の説明に、皆さんは感嘆の声を漏らしながら頷く。そこでコロナさんが問いを発した。

 

「でも、聖王家の王女様がなんでシュトゥラ王国で暮らしていたんでしょう?」

 

 その問いにルーテシアさんが頁をパラパラ開きながら答える。

 

「シュトゥラには王立の学術院があって、そこに留学していた事になってたみたい。シュトゥラは《聖王連合》の加盟国で、聖王家とも親交があったって書いてあるしね……ただ、オリヴィエはおおよその学問や武術を学び終えた後もシュトゥラで暮らし続けていたと書いてあるわ。もしかしたらと思うけど……」

 

 言いづらそうにこちらを見るルーテシアさんと皆さんに、私は頷き。

 

「オリヴィエ殿下は“ある事情”で継承権を失い、ミドルネームを名乗ることもできない立場に置かれていました。そのため、連合の有力国を繋ぎ止める“友好の証”としてシュトゥラに送られることになったんだと思います。まだ王子だったクラウスには伏せられていたようですが……」

 

「“人質”ってやつか。裏切ったら煮るなり焼くなり好きにさせてもらうってやつ」

 

 まっすぐ立てた指で首をトントンと叩くレツヤさんに私は頷きで答える。

 クラウスも彼を通して見た私も、その辺りは察しがついた。

 

「でもクラウスにとってもオリヴィエにとってもお互い大切な友人だったみたい。この本も途中からはオリヴィエのことばっかり」

 

 微笑ましげな表情でルーテシアさんは頁をたぐり、二人が映った絵を見せる。

 そう、国同士の事情はどうあれ、クラウスにとってオリヴィエは大切な“妹”に他ならなかった。

 しかし……。

 

「だが歴史に書かれている通り、ベルカの戦乱は激しくなり、オリヴィエは《聖王》となってゆりかごに乗り、クラウスも《覇王》としてベルカ平定に動く。そして二人とも戦乱の中で……な」

 

 レツヤさんは軽い一言で打ち切る。その先は皆言わなくても分かった。

 

「皮肉ですが、彼女と別れてクラウスは強くなりました。全てを投げうって武に打ち込み、一騎当千の力を手に入れて……それでも“望んだもの”は手に入らないまま、《雷帝ダールグリュン》に討たれ短い一生を終えました」

 

「んっ?」

 

「望んだもの?」

 

 私の独白に、レツヤさんとヴィヴィオさんは怪訝な声を返す。私は決意とともに拳を固めて答えた。

 

「強さです……守れるものを守れない悲しみをもう繰り返さない強さ――彼が作りあげ磨き続けてきた《覇王流》は決して弱くないと証明すること。

 それが私が受け継いだ“悲願”なんです!」

 

 感情の昂りに任せ宣言した瞬間、皆さんぽかんと私を見ている事に気付く。

 

「すみません、つい……」

 

 謝りながら座り直し、ひたすら落ち着けと念じる。

 

(歴史じゃ《覇王》と《雷帝》は相打ちになったって書いてあったが……記憶継承者のアインハルトが言うならそっちの方が正しいのか? しかしなんか引っかかる)

 

 なぜか首をかしげるレツヤさんの横でルーテシアさんが声をあげた。

 

「聖王様と覇王様についてはこのくらいにして、《愚王ケント》も歴史と事実が全然違ってるっぽいから置いといて、『セブリング王国』っていう国の事は知らない? もしくは《マセラティ》って王様とか。クラウスの記憶を持つアインハルトなら知ってるかなと思ったんだけど」

 

 聞き覚えのある言葉を訊かれ、私は首を縦に振る。

 

「知っています。聖王連合の加盟国の王族にして、聖王家の腹心だった一族です。代々《停王(ていおう)》と呼ばれていました」

 

「《停王(ていおう)》か……確かに俺の技能に合いそうな二つ名だが」

 

 レツヤさんは腕を組みながら呟く。

 

「《中枢王家》と違い連合の運営には関わらなかったようで、シュトゥラ王家と似た立ち位置なんですが……クラウスとは疎遠だったらしく、彼の記憶にマセラティ家やセブリング王国が出てきたことはありません……ただ」

 

「ただ?」

 

 ルーテシアさんが続きを求めるように復唱する。私は顎に手を乗せ懸命に記憶を辿り……。

 

「セブリング家は他の世界の王……ミッドチルダの王族とも繋がりを持っていたと聞いた事があります。連合の次元船で何度かあちらを行き来していたらしいと……」

 

「えっ!?」

「ミッドの王様と?」

 

 コロナさんとリオさんが仰天の声を上げる。

 ミッドチルダの王族はベルカとの戦争後、民衆の引き留めにも応えず退位と王政廃止を宣言し姿を消したという。そんな人物が出てくるなど予想だにしていなかったに違いない。

 レツヤさんも同様でわなわな肩を震わせていた。

 

「聞いてねえぞ。昔のミッドとまで繋がってたのか。まさか『ベルカ戦争』も俺の先祖が……」

 

 

「おーいお前ら、こんなとこにいたのか! あれ、どうしたんだ?」

 

 ドアが開き、ノーヴェさんとユミナさん、ミウラさんが顔をのぞかせる。

 彼女の弟子であるヴィヴィオさんが立ち上がりながら答えた。

 

「ううん、ちょっと話し込んじゃって。どうしたの一体?」

 

「元六課組が模擬戦始めんだってさ。せっかく自然豊かな異世界に来たんだから、こんなとこにこもってないで向こうの訓練見に行かねえか?」

 

「あ、そうだね。みんなも見に行こうよ。アインハルトさんとレツヤさんも!」

 

 気を遣ってくれたのか私たちにも声をかけてくれる。

 私もレツヤさんも頷き、元六課組の模擬戦を見に行くことになった。

 なお、その模擬戦で家庭的でほのぼのした方だと思っていたなのはさんたちの正体と思わぬ姿に驚かされることとなった。

 

 

 

 

 

 

「若い子はほんと元気でいいわね〜」

 

「いや、まったくです」

 

「まったう、まったう」

 

 一同を映した空間モニターを浮かべ、なのはから預かった次女(ゆずは)をあやしながらメガーヌは来客と微笑ましげに笑みと言葉を交わす。

 短い水色の髪と同色の瞳にシスター服を着た彼女は……。

 

「セインはいいの? みんなに会いに行かなくて」

 

「いや〜、あたしは野菜と卵とお芋の差し入れ、それと“冥王様”が来る前にあの覇王様を確認しに来ただけだから」

 

 そう言ってセインはモニター越しにアインハルトに目を向けるが……。

 

「いつからそんな真面目になったのよ? お硬い上司がいない時ぐらいハメ外せばいいのに」

 

「メガーヌさん、くすぐったいって。そりゃできればそうしたいけどさ〜」

 

 メガーヌに肩を突つかれ、セインは本音を漏らす。

 4年前までスカリエッティの手先同士として組んでいた事があり、割とウマがあうこの二人はこれぐらいの軽口とちょっかいをかけ合う仲になった。

 元凶が逮捕され、お互い疑念を持つ必要がなくなったのもあるだろう。

 

「まっ、せっかくだから温泉ぐらい入らせてもらって、挨拶代わりのサプライズを仕掛けてやっかなーとは思ってるけどね」

 

「ほどほどにしてあげてよ。向こうも久しぶりの休暇なんだから」

 

 そう言いつつ、メガーヌも悪戯っぽい笑みを浮かべて煽る。

 同時に、セインのサプライズを利用して今まで扱き使ってきたバイトに“ボーナス”を出してやれるかもしれないと思い、唇を吊り上げた。

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