銀金流は流されない   作:中々の柘榴

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主人公の設定を垂れ流そうかなとも思いましたがひとまずは話を始めてからにしようかな、と。
不出来な代物ですが見てくれるあなたには感謝を。


志望確認

私には親が三人いる。

 

私を産み落とした母親。

私のDNAの元となった父親。

私を養った養父にして祖父。

 

ちなみに、親というものの定義については学者の間で議論が交わされているらしい。

生物学的な親が、必ずしも社会的に親と認められるわけではないのだそうだ。

子供の虐待、ネグレクト。

人を人と思わぬ所業。

それを悪と思わないものが。

それを平然とできてしまうものが。

人の親になれていいはずがない。

産むだけでは、親になれないのだ。

 

そういう意味では私の親は三人ともいえないのかもしれない。

 

それが普通のことではないということを私はよく理解している。

一般的な家庭では母親と父親、たまに祖父母が混じり子供を養い育むものだ。

しかしだからといって、そのことに不平や不満を抱いたことはなかった。

決して綺麗とは言い難い、小さくて古びた家で十五年余りを二人で過不足もなく日々を暮らした。

それは私にとって当たり前のことだった。

小さいとはいえ二人だけでは少しだけ広い家でも特段寂しさを覚えたことはない。

家族の在り方としては珍しい部類だろう。

だが、決して悪いことではないのだと私は今でも思う。

 

祖父は寡黙な人で、一緒に暮らしていたのに会話は少なかった。

そんな姿を見て育った私も同様だ。

気まずさを覚えなかったわけじゃない。

だが、それ以上の安らぎがあの空間にはあった。

小さな四角い食卓では、小食な祖父の分を補うように無心で箸を動かす私のことを、祖父が何も言わずにじっと見続ける光景がままあった。

米粒をこぼした私を叱るでもなく、目を細めてじっと見つめるのだ。

そんな祖父の視線にむず痒くなりながら、幼い頃の私は味噌汁を啜る。

今となっては遠いような気さえする、そんな過去のお話である。

 

 

◇◇◇

"個性"の出現により超常社会と称される現代では"敵"によるありとあらゆる犯罪が軽率に発生する。

きっと誰もが知人や親戚づての噂話や、直接降りかかった脅威によってその恐ろしさを理解しているだろう。

そして誰もが、そんな悪を打ち砕く勧善懲悪のヒーローに憧れるのだろう。

 

 

私の祖父は、そんな世界と何も関係がないところで死んだ。

心不全だったそうだ。

比較的年若い眼鏡の医師が厳かな声で死亡確認を行った。

特に同情を見せるでもなく、淡々とした仕事ぶりだった。

享年、数えで92歳。

医療が発展した現代社会でも長寿な方だと言えるだろう。

 

共に暮らしておきながら知らなかったことだが、祖父は生前にかなりの人と縁があったらしい。

祖父の葬式にはとても多くの人が来た。

半ば居候に近い私に対して好意的な人も多く、手続のほとんどはその人たちに任せた。

粛々とした雰囲気の中、厳かにお経が読み上げられる。

誰かが啜り泣く声は一つだけじゃなかった。

静かな会場に、堪えきれない嗚咽はよく響いた。

「お世話になった」と言って供えられる花は真っ白で、ほのかに甘い香りがした。

祖父が納められた棺桶を囲い涙を流す人がたくさんいた。

そんな人々に囲まれて逝けることに、私は少しだけ安心した。

 

それでも私の両親はやってこなかった。

私の親が、一人になった。

 

◇◇◇

確かに祖父は亡くなったが、だからといって私の生活が劇的に変わることはなかった。

水道から流れる水の冷たさに悴んだ手を握る。

中学に上がってから始めた自炊もここ最近では随分と板についてきた。

蛇口をひねり水を止める。

二口あるコンロの片方では、大きめの鍋に入った豚汁がコトコトと煮込まれている。

茶碗を二つ取り出す。

ああ、しまった。

()()は思わず唇を噛んだ。

もう、祖父はいないのに。

 

視界が歪む。

ギュッと目を瞑って堪えるが、もはやこの感情は理性で制御できない。

ああ、でも。

中学生にもなって泣くのは、ちょっと恥ずかしい。

だから両手で顔を覆う。

 

誰も見てないし、良いかな。

 

この日はついぞ、涙が止むことはなかった。

 

◇◇◇

祖父と暮らした小さな家は私一人が暮らす家になった。

私のことを養ってくれている独り身の親戚は多忙で定まった家を持たない。

この家にも一度だけ顔を見せたきり来ていない。

祖父がいなくなった家は人一人分の生活音が消え去ってしまっている。

 

"個性"で右手を波立たせる。

 

これも祖父がいた頃、特に幼い頃は自慢するように見せつけたものだ。

 

それを受けた祖父はいつも、鼻を鳴らして自分自身も同じように"個性"を使った。

私の不規則で不恰好な変形とは違い整然として精巧な、芸術的な姿だったのを覚えている。

それに奮起した私もまた対抗して個性を練磨するというのがお決まりの流れだった。

今考えてみると祖父も昔はヒーローを目指していたのかもしれない。

あるいはヒーローだったのかもしれない。

それなら私の知らなかった生前の縁も、一般人にはありえない精度の個性にも納得がいく。

祖父は自分のことを余り話したがらなかった。

何か瑕疵があるのか、単に話す気がなかっただけなのかはわからない。

祖父が何を思って私を育てていたのか。

死に目にさえ会いにこない両親に怒りはなかったのか。

十五年来の恩を、私はどうやって返せば良いのか。

そんなことさえ私は知らない。

知らないけれど、返さなくてはならない。

知らないのだから良いや、と投げ捨ててしまってはあの両親と同じになってしまう。

私は祖父に恥じない人間にならなくてはいけない。

 

ならば。

今は亡き祖父へと私ができる恩返しとは。

 

ベッドから起きた午前五時、一人で暮らすこの家で、私はヒーローを志すことにした。

 

 

 




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