フリーレンを愛したい魔族ちゃんがコロコロされる話   作:丹羽にわか

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しばらくほのぼの


分かりきった結末(おわり)を迎える物語:②

 

 

 

 フリーレンが教会で寝泊まりをするようになって一週間程が経った。『わたし』の魔法により凄絶な過去を忘れ、平和な時代にその時計の針を戻したフリーレンは、魔族を前にしても平然と過ごしているように見える。

 

「魔法店があったらな……」

「仕方ないわ。需要がなかったもの」

「需要……」

 

 村の大通りをわたしとフリーレンは並んで歩いている。わたしは家と教会で使っている調味料が不足してきたのでその買い出しに、フリーレンは「村を案内してよ」とついてきた。

 

 彼女はこの一週間、教会で部屋と食堂を往復しながらずっと魔導書を読んだり魔力の鍛錬をしていたらしい。わたしが声をかけなければ一ヶ月でも一年でも続けていただろうと思わせるほどで、エルフの時間感覚がおかしいのか、フリーレンの性格か。どちらもだろうか。

 

「魔族は魔法を研究したりしないの?」

「研究ねえ。鍛錬はともかく魔導書を読んだりするのは他の魔族だと見たことも聞いたことも無いわね」

「その言い方だと、ネルベは魔導書を読むんだ」

「そうね。人類の魔法の中にも有用な物がある。なら、覚えておいて損は無いでしょう?」

「魔法は好き?」

「どうなのかしら。魔法を研鑽するのは、方法に差異こそあれ魔族の習性みたいなものよ、これは」

「私は好きだよ。魔法って、探し求めている時が一番楽しいからね」

「そう」

 

 話していると、一人の男が小走りで近づいてきた。足を止める二人。恰幅の良いその男は森の一区画の管理人で村の上役だった筈だ。

 

「おお、ネルべ様。それに、そちらの方は」

「フリーレンよ。エルフの魔法使い」

「ならフリーレン様と。今、お時間宜しいですかな?」

「構わないけど、わたしだけ?」

「ご迷惑でなければフリーレン様もお願いできれば」

「まあいいよ」

「ありがとうございます、お二方」

 

 案内されたのは管理人の家だった。テーブルを挟んで席につくと、温かいお茶が出される。

 

「さて、ご相談したいのは森の木々についてなのです」

 

 彼の話を要約すると、伐採した後には植林をして森の資源を保つようにしているが、そのままでは切り株やら根っこやらが残っていて出来ない。例年、人手を出して処理しているが、魔法でどうにか出来ないか、という相談だった。

 

 なるほど。まずい。

 

『これ、誤魔化さないと去年や一昨年はどうしたのかって矛盾が……』

『確かにね。それなら』

 

「……()()()()()()()、わたしは適した魔法を使えないわ」

「……()()()()()()()()()。失念しておりました。大変失礼を……」

 

 わたしは、同様の頼み事を以前も断った、という過去を挟み込んだようだ。この村には何十年も前から居ることになっているけど、実際は冬前からでまだ半年程度しか過ごしていないから、こういう矛盾が生じる事がある。

 

『どこかで調整しないと破綻するかもしれません』

『そうね。一冬を越すためだけの過去だったから、少し雑だったわ』

 

 人の過去をいじくり回して心をどうにかしようとする所業と、それを指示する私。反吐が出る。

 

「フリーレン様は如何でしょうか」

「切り株か……『根腐れを起こす魔法』なら使えるけど」

「根腐れを……なんと恐ろしい魔法でしょう」

「何に使うのよそんな魔法」

「魔導書があったから覚えただけだよ。使った事は無い」

「ふむ……しかし、酷い根腐れは倒木を引き起こす事もありますから、有効かも知れません。ちなみに、効果範囲は」

「一本ずつでも広範囲でも」

「でしたら、現地で試して頂いても宜しいですかな?」

「分かった」

「わたしも同行していいかしら。どんな魔法なのか、興味があるわ」

「是非」

「構わないよ」

 

 これは、フリーレンとなるべく時間を共有しようとしているのか、言葉通り彼女の使う魔法に興味があるのか、どちらだろうか。

 

「それで、報酬についてなのですがご要望はありますか?」

「魔導書とか魔道具とか魔法関係のがいいな」

「ふむ……」

 

 管理人は顎に手を当て考え込む。

 

「『楽しい夢を見れるらしい毛布』という、おそらく魔法由来の品物があります。先祖が旅の魔法使いに一冬の宿と薪を提供した際の御礼の品の一部だとか」

「その()()()とか()()()()って何よ」

「夢の内容を決して覚えていられないのです。目覚めた時に漠然と楽しかったな、と思うだけで」

「なにそれ」

「乗った」

「感謝いたします」

「よく分からないわね」

 

 とりあえず話はまとまったようだ。わたし達三人は伐採を終えた区画へと向かった。

 

「ずいぶん大きな切り株だね」

「ええ。この村が出来るよりも遥か昔からあった大木です。先日伐採したのですが、この大きさです。特に処分に困ってしまって」

 

 管理人が言うように、目の前にあるのは大人数人が腕を伸ばしてようやく囲めるような切り株だ。

 

「まあ、やってみようかな」

 

 作業中だった木こり達が手を止めて見守る中、フリーレンの魔法によって急速に根腐れを起こし、縄をかけ屈強な男が数人で引っ張るだけで切り株を抜くことが出来た。

 

 しかし。

 

「臭いが酷いな」「足元が緩んでないか?」「なんだこの土まっず!」

 

 急速に腐敗させたことで色々と問題が起こるようで、この方法はお蔵入りになった。

 一番の難敵である切り株は処分できたので報酬は貰えるようだが、魔法も万能ではないらしい。

 

 木こりたちはシャベルなどを持ち出して根腐れを起こした辺りの地面を掘り返していた。そのままだと植林に悪影響かもしれないので入れ替えるとのこと。

 暫くその光景を眺めていたわたし達だが、飽きたのかどちらからともなく踵を返そうとして、背後からの声に二人とも足を止めた。

 

「おーい、嬢ちゃん達! 来てくれ!」

 

 声をかけてきたのは一人の木こりだった。掘っている最中の穴の縁に立ち、わたし達に手を振っている。

 近づいてみると、穴の中に何かあるのが見えた。

 フリーレンが魔法の光を灯す。

 

「……何これ、石像?」

「ボロボロね」

 

 更に掘り返してみると、土に埋まっていたのはほぼ等身大の石像だった。私は見たことがない、戦士っぽい男の立像だ。腕やら装備やら髪やら、細くなって力のかかる部分が折れてしまっていて随分ボロっちい。

 

「どうしてこんな所に埋まってたんだろ」

「土砂崩れに集落が飲み込まれたとかじゃないの?」

「この辺りにかつて人が暮らしていたという話は聞いたことがありません。かといって、ここに運んで態々埋める、とうのも考えにくい。となると、偉業も、痕跡も、何もかもが朽ち果て土の下に眠るほどの遥か昔の英雄、なのでしょうな」

 

 管理人は目を細めながら言う。フリーレンは「ふぅん」と興味なさげだ。

 

「これ、どうするつもり?」

「そうですな……私の一存では決められませんが、村に持ち帰り改めて設置できれば、と思いました」

「それはなんでかしら? 誰なのかも分からない、由来や伝説が残っていないのなら求心力も無い、そんな像を置いても無駄じゃない」

 

 わたしはとても魔族らしく言った。人間がどう思うか、感じるかを共感出来ていない。どれだけ人間のように振る舞えていても、それは学習パターンの増加と取捨選択の結果に過ぎない。

 管理人はそっと石像を撫でる。その手のひらに土がつくのも構わず。

 

「……寂しいから、でしょうか」

「寂しい?」

「何百、何千年と土の中で孤独に過ごしてきたのです。すべて忘れ去られ、己以外に何も残っていない。それは、とても寂しい事だと、私は思います」

「それは、どっちが? この石像が? 貴方が?」

「どちらもです」

「重ねているってことね」

「そう、かもしれませんね。もっとも、私のような只人に真の孤独は分かりませんが……」

「わたしにも分かりそうにないわ。魔族だもの」

「ははっ、分からない方がいいと思いますよ。きっと、その方が幸せだ」

 

 石像は完全には掘り起こさず、後日、村の長老衆などで話し合う事にしたらしい。

 

「これは、一旦ここに置いていきましょう。どうするかは後日、という事で」

 

 帰路の途中で管理人から報酬の『楽しい夢を見れるらしい毛布』を貰ったフリーレンは今にもスキップをしそうなくらいにテンションが上がっていた。はたから見ると小汚い毛布を片手で抱えてウキウキ歩く片腕金ピカの変人だ。

 

「戻ったら早速使ってみよう」

 

 

 

「……風邪引いた」

 

 翌日。教会を訪れるとフリーレンが寝込んでいた。

 

「なんでよ」

「昨日、あの毛布を使ってみたんだけど途中で子供達が入ってきて、仕方ないから一緒に寝たらそのまま寝相で持ってかれた」

「なにそれ」

 

 初めてのパターンにわたしは困惑しているようだ。春になったとはいえこの辺りの夜はまだまだ冷える。それで何もかけずに寝たら風邪の一つや二つは引くだろう。

 

「なんかすっごく楽しい夢みた!」

「なんも覚えてないけど」

「良かったね……ゴホッ」

 

 子供たちは満面の笑顔だ。少しフリーレンが気の毒だった。

 

「食事を用意してくるわ。それと貴方達、フリーレンに言うことは?」

「ごめん、フリーレン」

「フリーレンお姉ちゃん、ごめんなさい」

「……いいよ。私はお姉さんだからね」

 

 おそらく強がりなのだろう。顔は若干ションボリしている。

 バタバタと子供たちが出ていき、わたしもその後を追う。

 その背中にベッドの上のフリーレンが声を掛ける。

 

「ネルベ」

「なに」

「おやつはプリンがいい」

「急に言われても材料なんて無いわよ」

「そう……」

 

 フリーレンはがっくりと肩を落とし、毛布を被った。

 わたしはそれを一瞥して部屋を出た。

 

 

 

 ❅

 

 

 

「──フリーレン」

 

 聞き馴染みのない声が、自分を呼んでいる。

 フリーレンは心地よい微睡みからのそりと起き上がった。目を開けると、眼の前には角を生やした少女がいた。

 

「──魔族」

 

 フリーレンの意識は一気に覚醒した。跳ね起き、右腕の違和感にふらつきながら左腕だけで杖を構える。

 

「なに? 食事を持ってきたのだけど」

 

 しかし、そう言って魔族は手に持ったトレイをサイドテーブルに置いた。その上には器に盛られたポリッジと木匙が載っている。

 

「……ネルベ?」

「物騒ね。埃が舞うわよ」

 

 フリーレンは記憶を遡った。

 そうだ。自分は子供たちに魔法の毛布を持っていかれて風邪を引き、ネルベが食事を用意してくれる間にその毛布で一眠りしようと横になったのだ。

 魔族は確かに北方で人類と戦争をしているが、ネルベは人類との共存を目指す魔族。この村で、良き隣人として受け入れられ、暮らしている。

 

「ごめん、寝惚けてたみたいだ」

「そうみたいね」

 

 杖をしまい、ベッドサイドに腰掛ける。

 楽しい夢を見ていた。覚えていないが、きっと故郷、エルフの里の夢だろう。だって、記憶喪失の自分には、その記憶しかないのだから。

 しかし、何故だろう。春の日差しを浴びたようにぽかぽかしていた胸が、ネルベを見ていると冬の隙間風が当たったように凍えるのは。

 

 ネルベは凪いだ湖面のような瞳で見つめてくる。

 

「悪夢でも見た?」

「……いや、とても楽しい夢だった。それは確かなんだけど、でも、何でだろう。何か、引っかかるんだ」

 

 思い出せない記憶、その欠片がそこにあるのかもしれない。

 

「先に、食事にしましょう。あまり無理をするものじゃないわ」

 

 ネルベは小さな椅子に座ると、ポリッジを掬った木匙を近づけてくる。

 

「……自分で食べるからいい」

「そう? あの子達はこうすると喜ぶのだけど」

「私は子供じゃないよ」

「そういうものなのね。じゃあ、置いておくから」

 

 ネルベは部屋を出ていった。フリーレンは扉が閉まるのを見送り、「ふぅ」と息を吐く。

 

「なんだったんだろ……とりあえず、食べよ」

 

 右手は使えないので、器が動かないよう慎重に木匙を扱う。

 

「ちょっと冷めてる」

 

 フリーレンはションボリした。

 

 

 

 ❅

 

 

 

 石像は村の広場に設置されることになった。

 それなりの重さがあり、劣化が進んでいて運搬をどうするか、という問題があったが、そこはわたしが使う飛行魔法でどうにかする事になった。

 

「飛行魔法って便利だよね。他のものを浮かせる事もできるし。どういう原理?」

「さあ?」

「さあって……」

「人類は歩く時や呼吸する時にいちいち原理を考えないでしょう? 魔族にとって、飛行魔法(これ)はそういうものよ」

 

 わたしは横倒しにした石像に腰掛けゆっくり空を飛んでいる。風邪が治ったフリーレンが「私もっ」と若干鼻息を荒くしながら同行を申し出たので彼女も一緒だ。

 この時代の人類は空を飛べない。飛行魔法が普及するのはもっと後なんだろう。

 

「うーん、確かに魔法が発動していることは分かるのに、理論がまったく読み取れない」

「魔族と人類では魔法の技術体系が異なるもの」

「いつか解析してみせるよ」

「そ。まあ無理でしょうけど」

 

 指定された場所に設置すると、依頼人である管理人が人混みから出てくる。

 

「ありがとうございました。こちらが今回の報酬です」

 

 今回はわたしが受けた依頼なので報酬は金銭だった。人間社会で生活する以上、先立つものは必要だ。

 

「これで、彼も寂しくないでしょう」

 

 管理人は像を見上げながら言う。像の頭には花冠が載せられ、子供や大人が囲んでわいわいと騒いでいてちょっとしたお祭りみたいだ。一緒に眺めていたフリーレンが口を開く。

 

「でも、また孤独になるんじゃないの。人間はすぐ死んじゃうんだし」

「……そうですな。この村も、千年先まで残っている、という事はないでしょう」

 

 それは、そうだ。魔物や魔族の脅威だってある。きっと、後世では魔王軍との戦争も激化する。その時にこの村が残っているかどうか。

 

「これは、私の自己満足です。したいと思ったことの押し付けです」

「この像にとってはいい迷惑かもね」

「確かにそうかもしれません。まあ、夢なり天国なりでその文句は聞くことにします」

 

 はっはっは、と管理人は笑う。

 

「しかし、そうですな…ネルベ様にフリーレン様、お二方がこの村を見守ってくだされば、心強いのですが」

「私はこの腕を治したら出ていくよ」

「わたしも、研究が終わったら残る理由は無いわね」

「ふむ…それは、仕方ありません」

 

 色よい返事を期待していた訳ではないのだろう。管理人は気を悪くした様子もない。

 すると、フリーレンが「まあ、でも」と言い、管理人の方を見る。

 

「村を出た後も、半世紀に一度くらいなら様子を見に来てあげてもいいかな」

「おお、それは有り難い話です。なら、千年先でも彼は寂しくないかも知れません。私も怒られずに済みます」

 

 それは、フリーレンの不器用な優しさなのだろう。

 ヒンメル達との旅を経ていなくとも、彼女が本来持っている心の輝き。

 

 魔族には決して持ち得ないもの。

 

「ああそうだ。これもよければ」

「……何よこれ」

「種……?」

「星涙樹、という木の種です。これも先祖が譲り受けた品でして。発芽、そして花が咲くまで長い月日と魔力が必要だとか」

「へー」

「花が魔法薬の材料になるそうです。そのレシピもここに」

「ありがとう」

「分かりやすいわね」

 

 そんなやり取りをしていたら、いつの間にか太陽は傾き始めていた。

 オレンジかかった光がフリーレンの髪や耳飾りに反射してキラキラと輝く。それを見つめるわたしは何を思うのだろうか。

 

 いや、何も思っていないか。

 

 魔族にとって人類との会話は『反応』にすぎない。その場状況に応じて適切な言葉を出力しているだけ。今も、わたしは周囲を観察して、言葉を探しているんだろう。

 

 私は、それ(魔族)の中にいる。

 

 まるで土のなかにいたこの石像のように。

 

 でも、寂しいだろうか。

 寂しい筈だったのに、私は孤独なのだと思っていた筈なのに。

 

『ねえ、私』

『はい』

『このままフリーレンと共に時間を過ごせば、愛が理解るのかしら』

『可能性はあると思いますよ』

『そ。ならいいわ』

 

 今は、なにも。

 

 

 やっぱり、私は怪物だ。

 

 

 

 

 




読了謝謝茄子!

フリーレン的な気付きのある日常を書くのって難しい

感想ここすきお気に入りしおり評価お気に入りオッスお願いしまーす
他の企画参加作品も見に行ってくださると嬉しいです
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