(1)
"Mind triumphs over matter" —— 「精神は肉体を凌駕する」。
とある物理学者の遺した言葉だが、現代ほどこの格言が刺さる時代はない。
人は意の向くままに地を掘り、川を涸らし、空を汚し、自らの願望のために
なのに、世界には闇が深まるばかり。行き場のないどす黒いエネルギーは、我々のすぐそばで力を蓄え続け、今まさに永い眠りから目覚めようとしていた。
そう、まさにあの時予言されていたように――
(2)
「おっは↑よ↓~ございますぅ」
腹の奥から声をひりだすように挨拶をすると、大吾はどかっと自席に腰を下ろした。
「なんか昨日とイントネーション違ってね?」
「え、そう?気づかなかったわ」
「これさ、毎朝録音して記録付けたら面白そうだよね」
「研究対象になった覚えはないけどね」
玲奈の冷たい視線には気づきもせず、いつも通りクラスメイトと談笑しながらカバンに手を入れると、異様な手ごたえな何かが入っている。
「何だこれ?」
いつの間にか入っていた、謎のオブジェクト。石器、というか、儀式とかで使われそうな道具のような見た目をしている。
「それ何?買ったの?」
「んなわけないじゃん。誰が買うかよ、こんなもん」
「なんかプリキュアの変身アイテムみたいじゃね?」
「うわ、懐かし—!あたし小さいころ見てた!」
「あれ、大吾、お前もしかして『大きいお友達』だった?」
「...バレちまったもんはしょうがない...ってんな訳あるかい!」
ぎゃははは、と響く笑い声を遮るように、ホームルームのチャイムが鳴る。大吾はその「何か」を素早くカバンにしまった。
(3)
4限目、国語。
先週のテストの結果が配られる。
教員の高橋に名前を呼ばれるのを待ちながら、先に呼ばれたクラスメイトの答案に目を忍ばせる。今のところ、クラスの平均は70点くらい、といったところか。
この自分の番が来るまでの時間が長ったるく感じられる。できることなら自分の答案だけあの束の中から取って来たい。
「柳瀬~」
一礼しながら答案を伏せたまま席に戻り、恐る恐る広げてみると...
67点。
ずしん、と心臓が沈む音がする。嘘でしょ。あんなに勉強したのに。
採点の間違いじゃないのか、と血相を変えて点を数えてみても、やはり合っている。
油断するのが弱点だねってあれほど塾の先生に言われたのに、こんなところでケアレスミス。考えすぎて、逆に間違ってたとこもある。
あぁ、結局私のせいなんだ。
なんで?なんで?なんで?
もうちょっと点くれてもよかったじゃん。このままじゃ国公立どころか、こんな地元の大学さえも怪しいかも...まさか、留年?ありえない。親になんて説明すればいいの?
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
もう高2の冬だし、ここから挽回しようにももう時間がない。あの講師の人、言ってたもん。共通テストは現代文が肝だって。
あれ、もしかして、私詰んでる?これってさ、このまま行けばFラン大学入ってそのまま人生終わるパターンじゃんね?
――もう、嫌だ。
ぽたり、と答案用紙が濡れる。声を出さないように必死にこらえても、目から涙が止まらない。
もう、嫌。全部やり直したい。
こんな世界なんて、ぶっ壊れてしまえ。
ふと、不覚にも抱いてしまったこの想い。
それは、玲奈の切実な願望、魂の叫び。
声なき叫びは、世界を包み込んでいた「大きな流れ」と共鳴し、遂に限界値を越えたかのように―――
ガタガタガタガタガタガタガタ。
教室全体が小刻みに振動する。
なんだ?地震か?
パニックに陥る教室。やがて、揺れの元凶は大地を突き破り、けたたましい爆裂音と共に姿を現し――
グウォォォォォォォォォ!!!!
太古の恐怖が、現代に蘇った。
クラスメイトが指さす先には、空想の産物と思われてきた、仮想の存在がビルの合間から顔を出している。
「え?何...あれ?」
「怪...獣....?」
日常が壊れる音が、街中に響き渡る。
人類が目を背け続けてきた、根源的恐怖の対象が、人間の闇によって呼び覚まされたのだった。
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本作は、特撮作品「ウルトラマンティガ」の「シン・ウルトラマン」風リメイクを目指して作成しています。
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