「みんな、一人ずつ慌てずに建物から出るんだ!」
がばっと席を立ち、教師よりも先に指示を出したのは隣の席の大吾だった。
あまりの出来事にフリーズしていた生徒たちも、大吾の呼びかけに正気を取り戻し、彼の言葉を無視して一斉に出口へと急いで行く。
「こらッ、一人ずつ、一人ずつだって!」
出口に立ち、避難を誘導する大吾。彼のクラスの生徒たちの行動が他のクラスにも気づかれたのか、廊下はあっという間に人で溢れかえっていく。
しかし、玲奈は依然と席を立てないでいた。
もしかしたら、アレを呼んだのって...
そう思わずにいられなかった。もしそうならば、私の願いも...
「おい玲奈、何ボケっとしてんだよ」
ガッと腕をつかまれる感触。大吾だった。そんなに面識はないのに、なぜか下の名前でコイツは私を呼んでくる。
「ほら、逃げるぞ」
「ほっといてよッ!今から全部リセットするんだからっ」
「は?何言ってんだよ。そんなこと言ってないで...」
大吾の手を強引に振り払う玲奈。
「うるさいッ!うるさいうるさいうるさいッ」
全ての事がどうでもよくなり、頭を横にぶんぶん振ると、のばした黒髪が大きく揺れる。
「もう私おしまいなの!分かる?もう何してもうまくいかないの」
どうすればいいのか分からない、といった目で玲奈を見つめる大吾。
やめて。そんな目で私を見ないでよ。
そんな目をされたら、また言いたくもないことを言っちゃう。
「アンタみたいな人生の主人公には分かんないだろうけど、私だって――」
「危ないッ」
大吾は咄嗟に玲奈に覆いかぶさった。
その直後、強烈な光が教室を満たし、爆音と共に壁が吹き飛んだ。
――頭が真っ白になった。
壁に空いた巨大な風穴、鼻を貫くコンクリートが燃え焦げる異臭。
そして、右足に走る激痛。しかし、かろうじてまだ動かせるようだ。
一方、自分に覆いかぶさっている大吾の方は…
「ま、円くん!?」
額が血だらけになって、ぐったりと玲奈によりかかっている。明らかに玲奈より重症だ。
「大丈夫!?ねぇ、しっかり!」
必死に体を揺さぶってみると、弱々しくもうめき声を上げながら体が動いた。
「れ、玲奈...ケガは?」
「私なら大丈夫。てか、無茶しないでよ!死んだらどうしようかと...」
グロォォォォォォォ!!
二人の会話を、怪獣の雄たけびが遮る。
奴の向かっている方向は...間違いなく二人の方だった。
ヤバい。このままじゃ、確実に死ぬ。
身体の震えが止まらない。でも、恐怖で体が動かない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
無数のシナリオが脳を交差するが、何一つ行動に移せない。玲奈にできるのは、着実に迫りくる破壊の化身と目を合わせることぐらいだった。
がっ。
玲奈の左肩を大吾が掴む。
「ぼけっとしてる場合じゃない。逃げるんだ。生き残れさえすれば、後は何とでもなるんだ」
いつもならば、熱くさいと失笑してしまいそうなセリフ。
まさか、人生でこんなことを言われると思ってもいなかった。
しかし、大吾の表情は至って本気だ。
その熱意のこもった熱い眼差しが、玲奈の生存本能を呼び覚ます。
「...立てる?」
「悪い。肩、貸してくんない?」
重症を負った大吾を右肩に乗せ、思いきり踏ん張る玲奈。
しかし、日ごろの運動不足のせいか、うまく体が起こせない。かといって、このまま一人だけ置いて逃げるという選択肢もない。
迫りくるどすり、どすりという腹に響く足音。再び目を合わせれば、また恐怖に体が支配されるかもしれない—その思いから、玲奈は音のする方向を直視できないでいる。
「...おい、あれ見ろよ」
「何よ。そんなことより、ちょっとぐらいあんたも踏ん張ってよッ」
「いや、いいからあれ見ろって」
大吾の指さす方...そこには2機の戦闘機が。
――私たち、助かるの?
かすかに聞こえるエンジン音が、玲奈の心に一筋の希望を灯す。
そして、戦闘機たちは怪獣の背後に急接近すると、猛攻撃を開始した!
バチバチッ!!
両翼からレーザーが発射され、標的の背中に命中する。
苦痛から悲鳴を上げ、注意を戦闘機に向ける怪獣。怪獣が視線を背けたこの絶好のチャンスを、大吾は見逃さなかった。
「玲奈。たぶん俺を連れてお前は逃げられない。お前は先に建物から出て、外の人たちに俺がまだここにいるって伝えてくれ」
唐突な提案に硬直する玲奈。ここに大吾を置いて逃げろというのか。
しかし、その迷いを断ち切るように、
「早くッ!このままでは二人とも助からないんだぞ」
と大吾が一喝。玲奈は軽く頷くと大吾を瓦礫の上に下ろし、
「必ず助けを呼ぶから」
と言い残すと風を切る勢いで教室を出て行った。
「ふぅ」
玲奈が視界からいなくなるのを確認し、大吾は仰向けになって大きなため息を漏らした。
「何が全部リセットする、だよ。自分が一番生きたがってんじゃん」
ご完読いただきありがとうございます!
本作は、特撮作品「ウルトラマンティガ」の「シン・ウルトラマン」風リメイクを目指して作成しています。
作品の評価・感想など頂ければ執筆の大いな励みになりますので、よろしければご気軽にお寄せください。