「玲奈の奴、もう逃げられたかな...」
独り言を漏らす大吾。ぽっかりと開いた校舎の風穴から、怪獣と接戦を繰り広げる二機の戦闘機の姿が見える。
目を凝らしてみると、それぞれ色が違う。素早く、小回りが利くのが黄色い方。もう片方の黒い戦闘機は、動きが少しおおざっぱな代わりに一撃が重いイメージだ。
非日常もここまで重なると逆に受け入れやすくなるもんだな、と他人事のように大吾は思った。
グショアァァァァ!!!
怪獣が雄たけびを上げるとともに、また頭の角が光りだす。
「あっ、危ない」
大吾の心配とは裏腹に、華麗に空を舞いながら戦闘機たちは怪獣の攻撃を避けて見せた。
ふぅ、と胸をなでおろしたその刹那。
放たれた破壊光線が、実は自分の方角に向かっていることに気が付く。
「しまった」
反射的に身体に力を入れようと力むも、腰から下に力が入らない。このままでは、あの光線をじかに食らってしまうかもしれない。何とか壁の後ろに隠れなくては。
しかし、いくらもがいてもずるり、と地を這うのが精いっぱいだ。これではとても間に合いそうにない。
――ちくしょう、ここまでか。
ふとよぎる、諦めの言葉。
どう考えても、今の自分にはこの攻撃を避けるほどの体力がないのだ。
なぜか、静まり返る心。迫りくる光の波が、まるでゆっくりこっちに向かってくるかのように感じられる。
引き延ばされていく時間。脳内に駆け巡るのは、この17年間体験してきたすべての事象。
忘れたと思っていた記憶が、まるで昨日のように鮮明にプレイバックされていく。
思い出せなかっただけで、消えてたんじゃないんだな。
酸いも甘いも、全ての記憶は自分と共に常にあったのだと死の間際になって実感する。
ん?
大吾が唯一違和感を感じたのは、白いローブ姿の女性の記憶。
他の記憶は全て思い返せるのに、この女性だけは全く思い返せない。
「ダイゴ」
女性は、やさしい口調で諭すように語り掛けてくる。
「あなたが、光になるのです」
光...?
思いがけない単語に、知らなかったはずのとある名前が連想される。
「...ユザレ?」
口からこぼれ出た、ユザレと言う名前。
日本はおろか、この県からも出たことがない自分の脳裏に、なぜ外国語のようなこの名前が浮かび上がってきたのだろう。
でも、この人を俺は前から知っている気がする。
ずっと前、思い出せないほど途方もない昔の時代から――
ゴゴゴゴゴゴゴ。
その思い呼応するように、地面が再び大きく揺れ始める。
大地が張り裂ける音と共に、巨大な物体が校舎の風穴をふさぐようにそびえ立っていく。
バチバチバチバチ!!!
光線がはじけ飛ぶ爆音。地面から生え出てきた謎の物体は、怪獣が放った破壊光線を遮ったのだ。
ギャオオオオンンンンン
まるで物体の出現を悔しがるかのように叫ぶ怪獣。
いや、物体と呼ぶより、石像、と呼んだほうが正確かもしれない。大理石のように高貴な白をまとった巨大な像は、まるで怪獣を睨み返すようにただ正面を向いている。
その風格に怖気づいたのか、怪獣はくるりと向きを変え、真逆の方向へと進行進めた。
あまりの急展開に攻撃の手を止めていた戦闘機たちも、怪獣が戦意喪失したこの好機を逃すまいと背後から猛攻撃を浴びせかける。
深手を負いながらも、掘っていた大穴へとたどり着いた怪獣。まるで穴に吸い込まれるように前かがみになると、その中へと姿を消していった。
夕陽がまぶしく石像の顔を照らしていく。
無表情なその目が見つめる先にあるのは、破滅か、存亡か。
その巨像の背中の大きさに、大吾は理由のわからない因縁を覚えた。