シン・ウルトラマンティガ   作:Sashimi4lyfe

8 / 10
この話は、他のエピソードに比べて少し長編になっております。
是非、最後までお付き合いください。


発進(テイクオフ)

(1)

 

あの日から早4日。

朝焼けが、まるで何事もなかったかのように大地を包んでいく。

身体に別段異常はないと診断された大吾は晴れて退院となり、気づけば学校へと足を運んでいた。

 

朝8時半。普段であれば生徒たちが通学を急ぐこの道も、ひっそりと静まり返っている。

校門には、「関係者以外立ち入り禁止」の張り出しと、「TPC」と書かれたロゴが。昨日からニュースで話題になっていが、どういう組織なのか大吾はよくわかっていなかった。

 

怪獣の攻撃で黒ずんだ校舎の前には、静かにそびえ立つ巨人の石像。

後ろからはよく見えなかったが、その顔つきにはどこか遠い昔からの因縁を感じずにはいられない。

 

「ちょっと、君」

 

TPCのバッジを胸に付けた、スーツ姿の男に声を掛けられる。

 

「写真とか動画はNGだからね。それとここは調査区域だから、あまり近寄らないでくれるかな」

「あ、いや、写真とか撮らないんで、もうちょっと見ててもいいですか?」

 

小学生並の語彙力で何とか粘る大吾。

 

「あの、俺、歴史とかすごい好きで...めっちゃ昔の石像っぽいじゃないですか、これ」

「だから立ち入り禁止なんだよ、この一帯は!ほら、帰った帰った!」

 

強引にでも大吾を追い返そうとするTPCの職員。その背後から、

 

「石像なんかじゃない。」

 

――女の人の声?

 

振り返ると、白いローブを身にまとった女性の姿が。

 

「それはすべての予兆。もうじき、古の予言が実現する時が来る」

 

困惑する二人。

 

「...ったく、今日に限って不審者が多いな。あのね、ここは調査区域――」

「ほら、運命(シナリオ)が動き出した」

 

おもむろに女性が指さした先は、雲一つない晴れ渡った青空。その彼方に、小さな物体がこっちに近づいてくる。

それと同時に、TPC職員の携帯に緊急着信が。

 

「あぁもう、次から次へと!君、早く非難..」

 

振り返ると、あの女性の姿はなかった。

もはやどうでもいい、と言った様子で舌打ちを打つと、

 

「とにかく駅まで逃げるんだ!地下鉄のホームなら安全だからっ」

 

と言い捨てるとダッシュしていった。

指示に従い、逃げ出そうとする大吾だったが、さっきの女の人の事が気にかかる。

避難する方向を間違えたら大変なことになる。最悪の事態を回避するため、一旦辺りを探してみることに。

しかし、探せどその姿は見当たらない。

 

もう時間がない、早く逃げないと。

今度こそ駅へと逃げようと、自分に言い聞かせるように踏み込んだ矢先――

 

キエャアアアアアア!!!

 

鼓膜が貫かれそうな、きりきりと耳に響く鳴き声。

さっき空に見えていた謎の物体は、飛行型の怪獣だったのだ。

赤い翼で空を割きながら滑空するその様は、まるでパラグライダーのよう。

 

やばい、早く逃げないと...

 

そんな大吾にダメ出しを食らわすように、今度は地面が大きく揺れ動く。

 

ガタガタガタガタガタガタガタ。

 

この感覚は、まさか――

 

あの日の恐怖が、再び形となって降りかかる。

揺れは一気に頂点に達し、大地が悲鳴を上げながら裂けていく。そして――

 

グショアァァァァアアア!!!!!

 

つかの間の日常は、いとも簡単に崩れ去っていった。

 

まるで言い合せたかのように同時に出現した二つの脅威は、今度も学校へと進行を始める。

そうか、ヤツらの狙いは...

巨人像に視線を移す大吾。石像は物言わず、ただ時の流れを見つめていた。

 

(2)

 

「Mシステム作動確認。エヴァックハッチ、チェック。スラスター、1スルー6、オールエンゲージ。いつでも行ける」

 

WING1(ウィング・ワン)のコックピットから、飛鳥一真(アスカ・カズマ)が指令室へと内線を送る。

 

「了解。現在WING2(ウィング・ツー)のチェックを待機中」

 

初任務からわずか4日後の出動要請、しかも今度の標的(ターゲット)は2体。

果たして2機のWINGで十分なのか、と内心疑問を抱く飛鳥(アスカ)だったが、任務とあらば出動しなくてはならない。

 

「こっちも準備OKだ、ゲートを開けてくれ」

 

2号パイロットの響剛介(ヒビキ・ゴウスケ)から無線が入る。

 

(ヒビキ)隊員、各チェック項目の確認をお願いします」

「だから全部オッケーだって!早く行かねぇと被害が増えちまうだろうが」

「標準作業に従っていただけなければ発進許可が出せません」

 

響の奴は昔からこうだった。良くも悪くも自分を貫く性格のため、飛鳥は訓練生時代から手を焼かされている。TPCに配属され、WINGのパイロットになってからもこの性格は直らなかった。

 

「Mシステムよし!エヴァックハッチよし!スラスターも全部よし!これで気が済んだかよ!」

 

そんな響のヤジに動揺することなく、オペレーターは冷静な口調で誘導する。

 

「了解。第4ゲートから発進願います」

 

ベルトコンベアに乗せられ、ゆっくりと第4ゲートまでタクシーされる2機のWING。

モーター音と共に、ゲートが横に開き、上へと湾曲したランウェイが露になる。

 

「WING1、WING2、イグニッション・スタート」

 

オペレーターの指示に合わせ、二人は同時にエンジンを起動させる。

 

「スラスター・エンゲージ。Mシステム・スタンバイ」

 

各スラスターの起動スイッチをONにし、Mシステムをディスプレイから作動させる。

響き渡るスラスターの起動音。排出された熱で機体の背後がぼやけて見える。

 

これで発進の準備は整った――飛鳥は右手で操縦(かん)を握り締め、左手をスラストレバーにそっとかけながら、ヘッドホンからの指令に全神経を集中させる。

 

ドクン。ドクン。

 

ヘッドホンに反響されて聞こえてくる自分の鼓動。

あの響でさえも、テイクオフ前のこの瞬間は水を打ったように静かになる。

 

「WING1、WING2、発進せよ(テイクオフ)

 

ガチャリ!

 

スラストレバーを勢いよく前に倒す。

スラスターから炎が噴き出し、爆音がこだまする。

 

急上昇する速度。まだランウェイ上だというのに、ソニックブームが発生する。

 

そして、ランウェイに沿って角度がどんどん上昇し、ついには機体は地を離れ――

 

「WING1、WING2、テイクオフ成功。健闘を祈ります」

 

(3)

 

発進からわずか5分、2機のWINGが現着する。

サワイ・テクノロジーズのMシステムがなければ不可能な所業である。

 

「標的を確認。現在、YY市の調査区域に向かって前進中」

「了解。WING1は『メルバ』をまずは迎撃、WING2は後方で援護射撃を」

 

TPCにより、翼獣は『メルバ』と命名され、地獣は『ゴルザ』とされた。

オペレーターの指示に従い、二人はタッグフォーメーションに入る。

 

「了解!飛鳥、無理すんなよ」

「...お前に心配されたかねーな」

 

スラストレバーをゆっくりと倒し、メルバに急接近していく飛鳥。

ギリギリまで機体を近づけたのち、操縦桿を斜めに倒しながら発射ボタンを押す。

メルバにゼノンレーザー砲が命中。反射的にかぎ爪を振り下ろすメルバだったが、WING1はそれを鮮やかに躱して見せる。

 

悔しそうに奇声を上げるメルバ。開いた口から、不気味な赤い光が顔をのぞかせる。

 

「おっと、させるかよ」

 

響はその異変を見逃さなかった。ガチャン、と撃発レバーを思いきり引き、デラッグ砲を発射する。

 

ドギュウンン!!

 

口に命中した砲弾が爆発。メルバは大きく怯み、反撃は不発に終わった。

 

しかし、油断するのはまだ早い。今度はゴルザが尻尾を振り回し、WING1を叩き落とそうと暴れだした。

響は再びこれを制圧しようとしたが、デラッグ砲の装填が間に合わない。間一髪で飛鳥は攻撃を躱したが、振り下ろされた尻尾はビル群を直撃する。

コンクリートで出来ているはずのビルが、まるで積み木のように簡単に崩れ去っていった。

 

響き渡る崩壊音。中には逃げ遅れた市民がまだあいるかもしれない。

 

「ちくしょうっ、何しやがる」

 

二人がゴルザに気を取られているうちに、メルバは気を取り戻し、再び口を大きく開けて攻撃の姿勢を取る。

 

「野郎、次から次へと...」

 

回避のフォーメーションを取る飛鳥。メルバの口から放たれた熱線を、得意の飛行術で回避する。

しかし、外れた熱線は街を直撃する。このままでは怪獣を仕留めるより先に、街が火の海と化してしまう。

 

「こちらWING1、この2機では力不足だ。被害がこれより広まる前に、日本の自衛隊の援軍を待った方がいいのでは」

 

敵の攻撃を必死によけながら、飛鳥が指令室に訴える。

 

「自衛隊はまだスクランブル命令を出していません。この様子だと現着まで少なくとも45分はかかるでしょう。その場合の損害を考えると、この場で一刻も早く鎮圧するのが妥当です」

「何ィ?お前この状況を見ても同じことが言えんのか?見ろ、街が大変なことになってんだぞ!」

 

2発目のデラッグ砲を発射しながら響はオペレーターに向かって怒鳴り散らす。

 

「これは我々の人工知能が出した解答です。これ以上の説明はしかねます」

 

至って冷静な口調で報告するオペレーター。響はやはり反論を続けたが、

 

「もういい。響、これが決定事項なんだ。今はやれることをやるしかないだろう。お前がいなきゃ俺は戦えないんだ」

 

と飛鳥が一喝。この間にも、怪獣たちの猛攻撃は続いている。

 

「....」

 

ガチャン。

 

響は言葉を押し殺し、再び撃発レバーを引く。

 

「飛鳥...お前がそう言うなら、それでいい」

 

(4)

 

凄まじい爆音と共に、火の海と化していく街を目に焼き付ける大吾。

瞳の中で、炎がメラメラと燃え盛る。

 

逃げる、という選択肢はとっくに消え、刺すような視線で怪獣を睨みつける。

 

脳裏によぎるのは、逃げ遅れ、建物の中に隠れたまま爆撃を食らった人々。

こんな惨劇を目の当たりにしながら、自分は見ていることしかできないのか。

自分の非力を憎むように、握り込んだ拳がぷるぷると震えている。

 

「何とかしなくちゃ。」

 

決意の炎が大吾の瞳に宿る。

だが、相手はあまりに大きく、強い。こんな一人の人間がどうあがいても勝てるはずはないだろう。

 

ふと、石像に視線を移す。

 

どうしたらいいんだ?俺は...どうしたらいい?

あの時、お前は俺を守ってくれた。だから今度も助けてくれるはずだ。巨人よ、俺はどうしたらいい?

 

――ダイゴ。

 

リプレイされる、あの人の声。

名前は確か...ユザレと言ったはず。

 

――あなたが光になるのです。

 

光になる?

俺が?

 

どうやって?

 

その答えは、体が既に知っていた。

胸に違和感を感じ、ジャケットの内ポケットを探ると、この前見つけたあの石器が。

 

...

 

その時、初めて大吾は実感した。

自分は逃れられない宿命の一部であることを。

 

『ティガ』...

俺に、力を貸してくれ。

 

「ティガ」。

石像の巨人の名を、大吾は知っていた。

右手の石器が、輝きを取り戻していく。幾万年の時を超え、再び蘇ったかのように。

その輝きは、やがて大吾を包み込み、空高く、巨人の胸元へと舞い上がって行った。

 

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