是非、最後までお付き合いください。
(1)
あの日から早4日。
朝焼けが、まるで何事もなかったかのように大地を包んでいく。
身体に別段異常はないと診断された大吾は晴れて退院となり、気づけば学校へと足を運んでいた。
朝8時半。普段であれば生徒たちが通学を急ぐこの道も、ひっそりと静まり返っている。
校門には、「関係者以外立ち入り禁止」の張り出しと、「TPC」と書かれたロゴが。昨日からニュースで話題になっていが、どういう組織なのか大吾はよくわかっていなかった。
怪獣の攻撃で黒ずんだ校舎の前には、静かにそびえ立つ巨人の石像。
後ろからはよく見えなかったが、その顔つきにはどこか遠い昔からの因縁を感じずにはいられない。
「ちょっと、君」
TPCのバッジを胸に付けた、スーツ姿の男に声を掛けられる。
「写真とか動画はNGだからね。それとここは調査区域だから、あまり近寄らないでくれるかな」
「あ、いや、写真とか撮らないんで、もうちょっと見ててもいいですか?」
小学生並の語彙力で何とか粘る大吾。
「あの、俺、歴史とかすごい好きで...めっちゃ昔の石像っぽいじゃないですか、これ」
「だから立ち入り禁止なんだよ、この一帯は!ほら、帰った帰った!」
強引にでも大吾を追い返そうとするTPCの職員。その背後から、
「石像なんかじゃない。」
――女の人の声?
振り返ると、白いローブを身にまとった女性の姿が。
「それはすべての予兆。もうじき、古の予言が実現する時が来る」
困惑する二人。
「...ったく、今日に限って不審者が多いな。あのね、ここは調査区域――」
「ほら、
おもむろに女性が指さした先は、雲一つない晴れ渡った青空。その彼方に、小さな物体がこっちに近づいてくる。
それと同時に、TPC職員の携帯に緊急着信が。
「あぁもう、次から次へと!君、早く非難..」
振り返ると、あの女性の姿はなかった。
もはやどうでもいい、と言った様子で舌打ちを打つと、
「とにかく駅まで逃げるんだ!地下鉄のホームなら安全だからっ」
と言い捨てるとダッシュしていった。
指示に従い、逃げ出そうとする大吾だったが、さっきの女の人の事が気にかかる。
避難する方向を間違えたら大変なことになる。最悪の事態を回避するため、一旦辺りを探してみることに。
しかし、探せどその姿は見当たらない。
もう時間がない、早く逃げないと。
今度こそ駅へと逃げようと、自分に言い聞かせるように踏み込んだ矢先――
キエャアアアアアア!!!
鼓膜が貫かれそうな、きりきりと耳に響く鳴き声。
さっき空に見えていた謎の物体は、飛行型の怪獣だったのだ。
赤い翼で空を割きながら滑空するその様は、まるでパラグライダーのよう。
やばい、早く逃げないと...
そんな大吾にダメ出しを食らわすように、今度は地面が大きく揺れ動く。
ガタガタガタガタガタガタガタ。
この感覚は、まさか――
あの日の恐怖が、再び形となって降りかかる。
揺れは一気に頂点に達し、大地が悲鳴を上げながら裂けていく。そして――
グショアァァァァアアア!!!!!
つかの間の日常は、いとも簡単に崩れ去っていった。
まるで言い合せたかのように同時に出現した二つの脅威は、今度も学校へと進行を始める。
そうか、ヤツらの狙いは...
巨人像に視線を移す大吾。石像は物言わず、ただ時の流れを見つめていた。
(2)
「Mシステム作動確認。エヴァックハッチ、チェック。スラスター、1スルー6、オールエンゲージ。いつでも行ける」
「了解。現在
初任務からわずか4日後の出動要請、しかも今度の
果たして2機のWINGで十分なのか、と内心疑問を抱く
「こっちも準備OKだ、ゲートを開けてくれ」
2号パイロットの
「
「だから全部オッケーだって!早く行かねぇと被害が増えちまうだろうが」
「標準作業に従っていただけなければ発進許可が出せません」
響の奴は昔からこうだった。良くも悪くも自分を貫く性格のため、飛鳥は訓練生時代から手を焼かされている。TPCに配属され、WINGのパイロットになってからもこの性格は直らなかった。
「Mシステムよし!エヴァックハッチよし!スラスターも全部よし!これで気が済んだかよ!」
そんな響のヤジに動揺することなく、オペレーターは冷静な口調で誘導する。
「了解。第4ゲートから発進願います」
ベルトコンベアに乗せられ、ゆっくりと第4ゲートまでタクシーされる2機のWING。
モーター音と共に、ゲートが横に開き、上へと湾曲したランウェイが露になる。
「WING1、WING2、イグニッション・スタート」
オペレーターの指示に合わせ、二人は同時にエンジンを起動させる。
「スラスター・エンゲージ。Mシステム・スタンバイ」
各スラスターの起動スイッチをONにし、Mシステムをディスプレイから作動させる。
響き渡るスラスターの起動音。排出された熱で機体の背後がぼやけて見える。
これで発進の準備は整った――飛鳥は右手で操縦
ドクン。ドクン。
ヘッドホンに反響されて聞こえてくる自分の鼓動。
あの響でさえも、テイクオフ前のこの瞬間は水を打ったように静かになる。
「WING1、WING2、
ガチャリ!
スラストレバーを勢いよく前に倒す。
スラスターから炎が噴き出し、爆音がこだまする。
急上昇する速度。まだランウェイ上だというのに、ソニックブームが発生する。
そして、ランウェイに沿って角度がどんどん上昇し、ついには機体は地を離れ――
「WING1、WING2、テイクオフ成功。健闘を祈ります」
(3)
発進からわずか5分、2機のWINGが現着する。
サワイ・テクノロジーズのMシステムがなければ不可能な所業である。
「標的を確認。現在、YY市の調査区域に向かって前進中」
「了解。WING1は『メルバ』をまずは迎撃、WING2は後方で援護射撃を」
TPCにより、翼獣は『メルバ』と命名され、地獣は『ゴルザ』とされた。
オペレーターの指示に従い、二人はタッグフォーメーションに入る。
「了解!飛鳥、無理すんなよ」
「...お前に心配されたかねーな」
スラストレバーをゆっくりと倒し、メルバに急接近していく飛鳥。
ギリギリまで機体を近づけたのち、操縦桿を斜めに倒しながら発射ボタンを押す。
メルバにゼノンレーザー砲が命中。反射的にかぎ爪を振り下ろすメルバだったが、WING1はそれを鮮やかに躱して見せる。
悔しそうに奇声を上げるメルバ。開いた口から、不気味な赤い光が顔をのぞかせる。
「おっと、させるかよ」
響はその異変を見逃さなかった。ガチャン、と撃発レバーを思いきり引き、デラッグ砲を発射する。
ドギュウンン!!
口に命中した砲弾が爆発。メルバは大きく怯み、反撃は不発に終わった。
しかし、油断するのはまだ早い。今度はゴルザが尻尾を振り回し、WING1を叩き落とそうと暴れだした。
響は再びこれを制圧しようとしたが、デラッグ砲の装填が間に合わない。間一髪で飛鳥は攻撃を躱したが、振り下ろされた尻尾はビル群を直撃する。
コンクリートで出来ているはずのビルが、まるで積み木のように簡単に崩れ去っていった。
響き渡る崩壊音。中には逃げ遅れた市民がまだあいるかもしれない。
「ちくしょうっ、何しやがる」
二人がゴルザに気を取られているうちに、メルバは気を取り戻し、再び口を大きく開けて攻撃の姿勢を取る。
「野郎、次から次へと...」
回避のフォーメーションを取る飛鳥。メルバの口から放たれた熱線を、得意の飛行術で回避する。
しかし、外れた熱線は街を直撃する。このままでは怪獣を仕留めるより先に、街が火の海と化してしまう。
「こちらWING1、この2機では力不足だ。被害がこれより広まる前に、日本の自衛隊の援軍を待った方がいいのでは」
敵の攻撃を必死によけながら、飛鳥が指令室に訴える。
「自衛隊はまだスクランブル命令を出していません。この様子だと現着まで少なくとも45分はかかるでしょう。その場合の損害を考えると、この場で一刻も早く鎮圧するのが妥当です」
「何ィ?お前この状況を見ても同じことが言えんのか?見ろ、街が大変なことになってんだぞ!」
2発目のデラッグ砲を発射しながら響はオペレーターに向かって怒鳴り散らす。
「これは我々の人工知能が出した解答です。これ以上の説明はしかねます」
至って冷静な口調で報告するオペレーター。響はやはり反論を続けたが、
「もういい。響、これが決定事項なんだ。今はやれることをやるしかないだろう。お前がいなきゃ俺は戦えないんだ」
と飛鳥が一喝。この間にも、怪獣たちの猛攻撃は続いている。
「....」
ガチャン。
響は言葉を押し殺し、再び撃発レバーを引く。
「飛鳥...お前がそう言うなら、それでいい」
(4)
凄まじい爆音と共に、火の海と化していく街を目に焼き付ける大吾。
瞳の中で、炎がメラメラと燃え盛る。
逃げる、という選択肢はとっくに消え、刺すような視線で怪獣を睨みつける。
脳裏によぎるのは、逃げ遅れ、建物の中に隠れたまま爆撃を食らった人々。
こんな惨劇を目の当たりにしながら、自分は見ていることしかできないのか。
自分の非力を憎むように、握り込んだ拳がぷるぷると震えている。
「何とかしなくちゃ。」
決意の炎が大吾の瞳に宿る。
だが、相手はあまりに大きく、強い。こんな一人の人間がどうあがいても勝てるはずはないだろう。
ふと、石像に視線を移す。
どうしたらいいんだ?俺は...どうしたらいい?
あの時、お前は俺を守ってくれた。だから今度も助けてくれるはずだ。巨人よ、俺はどうしたらいい?
――ダイゴ。
リプレイされる、あの人の声。
名前は確か...ユザレと言ったはず。
――あなたが光になるのです。
光になる?
俺が?
どうやって?
その答えは、体が既に知っていた。
胸に違和感を感じ、ジャケットの内ポケットを探ると、この前見つけたあの石器が。
...
その時、初めて大吾は実感した。
自分は逃れられない宿命の一部であることを。
『ティガ』...
俺に、力を貸してくれ。
「ティガ」。
石像の巨人の名を、大吾は知っていた。
右手の石器が、輝きを取り戻していく。幾万年の時を超え、再び蘇ったかのように。
その輝きは、やがて大吾を包み込み、空高く、巨人の胸元へと舞い上がって行った。