(1)
巨人は、この時を待っていた。
途方もなく永い時の間、ただ待っていた。
そして、遂に来たのだ。大吾と言う光を身に宿し、再び目覚める時が。
胸の結晶から、まばゆい輝きが辺りを満たす。
閃光が怪獣たちの目を奪い、静寂が訪れる。
———
赤、紫、銀。三色の模様を身にまとい、太陽の光を全身に浴びながら。
グショアァァァァアアア!!!!!
キエャアアアアアア!!!
二体の怪獣はティガを威嚇するように咆哮を放つ。
大きく広がるメルバの赤い翼。烈風を巻き起こしながら、翼獣はティガに急接近していく。
迫りくる敵に一瞬戸惑いを見せるティガ。しかし、身体に染み付いた戦闘思考力が呼び覚まされる。
ティガの脚は宙で鮮やかな曲線を描き、渾身の回し蹴りがメルバの頭部にダイレクトヒット。
翼獣はうめき声を上げながら地上に叩きつけられる。
同胞が叩き伏さられる様を見ていたゴルザ。闘志がピークに達し、大地を大きく踏み込みながら突進してくる。
ティガは両腕でこれを受け止めるも、メルバとは桁違いのパワーに圧倒されてしまう。
このゴルザの猛攻を捌き切れなかったのが仇となる。メルバはこのチャンスを見逃さす、口から熱線を吐いて応戦する。
バチバチバチバチッ!!
炸裂する熱線。これにはティガも悶絶し、ゴルザに押し切られるように倒れこんでしまう。
圧倒的に不利な体勢のまま、巨獣の爪による容赦ない追撃が襲ってくる。
ヒグマが獲物の腹を裂くように、一発ずつ力を込めて襲い掛かる斬撃。いくら巨人の身体と言えど、この連続攻撃に耐えるのは限界がある。
一瞬でいい、少しでも隙ができれば——
攻撃に必死に耐えながら隙を伺うが、ゴルザの目には殺戮以外の感情がない。
一寸の無駄もない連撃が、ティガを追い込んでいく。
ドヒュウウンンンン!!
WING2のデラッグ砲が命中。
待機命令を無視した響の一撃が、一瞬だがゴルザの気をそらした。
徐々に押し返される自分の身体に違和感を感じ、巨人に視線を戻すゴルザ。
三色が混合したそのボディは、赤と銀のツーカラーに変わっている。
容姿が変わった途端、先刻とは比べものにならないほどの怪力を発揮するティガ。馬乗りになっていたゴルザを、前蹴りで一気に押しのける。
動揺した様子で熱線を吐くメルバだったが、ティガは怯みもせず起き上がる。まるでダメージが全く入っていないようだ。
この野郎、と言わんばかりに怒号をまき散らすゴルザ。再び自慢の巨体で体当たりを仕掛けるも、巨人はそれを片手で受け止める。
敵の動きを制したまま、もう片方の腕を駆使した手刀が首裏にクリーンヒット。ゴキッ、という骨が折れるような不快音と共に地獣はぐったりと倒れこむ。
ティガは背後に回り込み、尻尾をがっしりと掴んだ。その場で自身を主軸に回転を始めると、ゴルザの巨体が浮かび上がり、まるでラッソーのようにぐるぐると回り始める。
回転の勢いが頂点に達した時だった。絶妙のタイミングでティガが手を離すと、あの巨体が空へと放り投げられたのである。
落下による打撃でゴルザを仕留める算段なのだろうか。しかし、それでは地面に衝突した時の衝撃で凄まじい被害が出てしまう。
だが、ティガの狙いは別だった。
両手に膨大な量のエネルギーを圧縮させていく。凝縮された光球が赤い輝きを放つその様は、まるで小さな太陽のよう。
重量投げのフォームのように右手を大きく引くと、放物線を描きながら落下するゴルザの身体へと光球を投げつける。
熱球は空中でゴルザに着弾。
怪獣の巨体と言えどあの量のエネルギーは抑えきれない。敵の身体は内部爆発を引き起こし、跡形もなく破ぜ去った。
圧倒的なパワーの差。自分は「狩られる方」だと自覚したメルバは翼を広げ、空高く飛翔する。
すかさず追撃する二機のWINGたちだったが、あまりの飛行速度にメルバが視界からどんどん消えていく。
一度使用すると復帰まで時間のかかるMシステムは使えない。
「くそっ、早く、もっと早くっ」
スラストレバーを全開にする飛鳥だったが、WING1の基本スペックではメルバの飛翔力には追い付けない。
マッハ7、マッハ8と加速していくメルバにやけくそにゼノンレーザーを発射するも、気流と速度のせいで狙いが定まらない。
その刹那。
横を通り過ぎる紫色の物体。その正体は先刻の巨人だった。
メルバと互角のスピードで後ろから追い上げていく巨人。翼獣の背後で前転し、強烈なかかと落としを頭部に食らわせる。
コントロールを失い、奇声を上げながら落下するメルバ。巨人は額で腕をクロスさせると、体の色が再び三色に変色していく。
両腕を大きく横に引き、エネルギーを充填させていく巨人。
ぎらぎらと怪しく発光する両腕、それを勢いよくL字に組み上げ、全身のエネルギーを放出させる。
ドギュウンンンンン!!!!
炸裂した光線はメルバを貫き、次の瞬間、翼獣の姿は閃光の中に消え去った。
「き、巨大生物2体、殲滅完了...続いて未確認巨大生命体の対処を求む...」
飛鳥の『対処』というワードが響は気にくわなかったが、前代未聞の事態に対処を指令部に仰ぐしかなかった。
「WING1、WING2、一度帰還してください」
「はァ!?ここにきて帰還命令かよ?」
響のリアクションもごもっともだ。この巨人を放っておけと言うのか。
その時、巨人の身体に異変が。
「き、巨大生命体に異変発生。胴体から発光を始めている模様」
目視が困難なほど輝きを増していく巨人。しかし、その光は徐々に収まっていったが——
「WING1、生命体の消滅を確認...」
「何だったんだ、アイツは一体...」
(2)
いつからここに立ってたんだろう...
それすら大吾には分からなかった。記憶を整理するには、体が疲れすぎていた。
地平線へと太陽が静かに顔を隠している。
河川敷の優しい風に吹かれながら、大吾はポケットに入っていたアイテムを見つめた。
人々の命を救う仕事がしたい。そう漠然と思いながら生きてきた大吾。
その力が、今やこの手の中にある。
まぁ、なんとかなるだろう。
責任感や使命感に押しつぶされる前に、アイテムをそっと胸ポケットに戻した。
「おかーさん、今日のご飯なぁに?」
少女が母親の手を引きながら歩いている。
二人の影を見守りながら、大吾は優しく微笑んだ。
———ぐさり。
横腹に走る激痛。
服がみるみる赤に染まっていく。遠のいていく意識の中、目に映ったのは真っ白なローブだった。
キリエルの名のもとに——
祈るように、彼女はそう言ったのだった。