某ネタバレが激しすぎるRPGで感動したので思わず書いてしまいました。
あと、このレースは8名出走しますが着順がつくのは3名だけです。

1 / 1
第1話

レースの名前は、有マ記念やジャパンカップのような格式高いものばかりではない。

 『トイレットペーパーがない特別』や『ゾンビランドサガ賞』などふざけているとしか思えない名前のものもある。

 

「はぁ~今日のイベントレース緊張するな~。ていうか何? 『ネタバレが激しすぎる特別』って」

 

 ウマ娘が走るのは公式レースだけではない。世代を越えたドリームマッチが実現するドリームレースもまたファンを熱狂させている。

 そんなレースに参加することになった普通のウマ娘、ヒシミラクルは控え室で生まれたての子鹿のように震えていた。

 

「なんじゃミラ子よ。相変わらず腰が引けておるのう。お主とてGⅠウマ娘ではないか。いよっ、奇跡の逆転ウマ娘! 生粋のステイヤー!」

 

 控え室には、ヒシミラクルの同期である皐月賞ウマ娘、ノーリーズンが戦国武将のような勝負服で堂々と座っている。

 公式レースでは出走者は個別に控え室が用意されるものだが、イベントレースでは自由に出入りが許されていた。

 

「ノーリーズンちゃん……だって、今日のメンツ凄すぎない? こんな相手にわたしみたいな普通のウマ娘が奇跡の逆転勝利なんかできるわけないよ……」

 

 控え室の机に置かれたパンフレットを見る。そこにはレース名が『ネタバレが激しすぎる特別』と書かれ、距離が2500m長距離であること。そして出走者8名の名簿が乗っていた。

 ヒシミラクルは、出走者の一人を指差す。

 トレセン学園の優等生、ダイワスカーレットの名前がそこにあった。

 

「ダイワスカーレットちゃんがいきなり逃げ始めたら、最初から最後まで先頭を走りきっちゃいそうじゃない?」

「あの逃げは豪胆よのう! 絶対に一番を譲らぬという信念の現れじゃな」

「わたしが初手からスパートかけても追い付ける気がしないよ~」

 

 ヒシミラクルがレース前に弱音を吐いたりするのは珍しいことでもない。うだうだ言いつつできる限り頑張るウマ娘であることはノーリーズンも承知している。

 なので、冗談めかしてノーリーズンは言った。

 

「まぁ勝負は時の運。ダイワスカーレット殿が今日たまたま熱を出して出走できなくなる可能性もなくはないではないか」

「そんなまさか。優等生のダイワスカーレットちゃんがレース当日に発熱して出走できなくなるなんてことあるわけないよ」

 

 とはいえ、あまりに骨董無形な冗談にヒシミラクルも笑ってしまった。少し肩の力が抜けた気がする。

 ヒシミラクルは続いて他の出走者を指差した。

 

「それにゴルシちゃんやオルフェーヴルさんまで出走してくるなんて……一体このレース、どうなっちゃうんだろう?」

 

 破天荒ゴールドシップに暴君オルフェーヴル。ステゴファミリーの名前で知られた、数々のレースでいろんな種類の伝説を作ってきたウマ娘だ。

 

「あの2人の行動はわしにも読めん。案外、ゴールドシップ殿は出走直前に逆立ちでもするのではないか?」

「またテキトーなことを。いくらゴルシちゃんでもみんなの期待を背負ったレースで出走前に逆立ちなんかするわけないよ」

「にゃーはっはっは! そう真に受けるでないミラ子。じゃが……」

 

 ノーリーズンは、もう暴君の名前を見てニヤリと笑う。

 

「オルフェーヴル殿は、特に気分のムラが激しすぎるからのう。案外慢心して大幅に逸走でもするのではないか?」

「そりゃわたし一人相手なら慢心してくれるかもしれないけどさ~。ダイワスカーレットちゃんにゴルシちゃん……それに、現代最強のあの子まで出走するんだよ?」

 

 ヒシミラクルが指差した名前は、このレース表の中で一番若い世代であり……ダイワスカーレットやゴールドシップ、オルフェーヴルをも凌駕する記録を持っている。

 

「アーモンドアイちゃん……完璧で究極の負けず嫌いなあの子が油断も慢心もするはずないし、アイちゃん相手にオルフェさんも慢心なんかできないでしょ?」

 

 何せ、打ち立てた記録は芝のGⅠ9勝。最後のジャパンカップでは無敗のクラシック三冠とトリプルティアラさえ敗北をプレゼントした圧倒的強さだ。

 これには流石のノーリーズンも、お気楽なことばかりは言えない……と思いきや。

 

「ふーむ……いや待て! 彼女は負けず嫌いゆえに何事も全力すぎる傾向があると聞く。アーモンドアイ殿が移動やレース疲れで本来の力を発揮できない可能性は0ではない!」

「いやいや。あの究極の負けず嫌いなアーモンドアイちゃんがレースや移動で消耗して本来の力が発揮できない状態で出走してくるわけないじゃん」

 

 等と、2人でやいのやいのお喋りしていると。控え室のドアをノックする音が聞こえた。

 

「こんこんっ。マチカネタンホイザです。お入りしてもよろしいです?」

「どうぞ~。タンホイザちゃんも出走するんだよね」

 

 入ってきたのは努力家ウマ娘、マチカネタンホイザだ。

 トレードマークの帽子が落ちないように抑えながらペコリとお辞儀をする姿はなんとも可愛らしい。

 

「レース前に出走者のみなさんにあいさつ回りをしているのですか、いやはやなんとも豪華メンバーでございますな」

「ね~。あ、でもタンホイザちゃんなんか自信ありげだね」

 

 言っていることはヒシミラクルと大差ないが、表情は可愛いながらもキリッとしていてなんだが自信のほどが見てとれる。

 

「ふっふっふっ。よくぞ気付いてくれました。実は今日私は勝ちに来たのです」

「ほほう? タンホイザ殿も紛れもなく名ウマ娘じゃが、今日のメンバー相手にその自信とはよほどの策があるのではないか?」

 

 なにせ相手はダイワスカーレットにゴールドシップにオルフェーヴル、そして現代最強のアーモンドアイである。その事はタイホンザも承知の上で勝利をつかみに来たらしい。

 タンホイザは、胸をそらして自信満々に言った。

 

「策というかですね。なんとタイホンザは温泉保養でパワーアップしたのです。イクノにサポートしてもらったお陰で元気バッチリ」

「あっ、イクノちゃんも出走するんだ~。よかった。ちょっとホッとしたよ」

 

 名簿には、確かに鉄の女ことイクノディクタスの名前も書かれている。

 タンホイザとは同じチームの親友であり、ミラクルにとっては大切なサッカー友達だ。

 

「タンホイザ殿が温泉でパワーアップしたということは恐らくイクノディクタス殿も同じこと……これはますます油断ならんのう」

「むむん。私たちだけGⅠ未勝利だからと油断してると足元掬っちゃいますよ! ということを宣言しに来たのです」

 

 マチカネタンホイザもイクノディクタスもGⅠを勝利こそしていないが、この中だと一番のベテランでありレース経験の豊富さは折り紙つきだ。

 マチカネタンホイザは大きく深呼吸して、ヒシミラクルとノーリーズンに宣言した。

 

「温泉でパワーアップして体調管理も万全にしたマチカネタンホイザが、レース直前に鼻血を出して出走停止になるなんてことは100%ない! と思っていただきましょう!」

「宣言するのそこなの!? わたしが勝ちます! とかじゃなくて!?」

 

 ヒシミラクルのツッコミが控え室に響く。

 満足したタンホイザは、もう一度お辞儀をして控え室を出ていこうとした。

 その時、事件は起こった。

 

「オイ、聞いたか!? ダイワスカーレットのやつ、突然熱を出して出走キャンセルらしいぞ!」

「はぶぅ!?」

「うえっ、あの優等生のダイワスカーレットちゃんが熱を出して出走キャンセル!?」

 

 ゴールドシップが、勢いよくドアを開けて驚きの報告をして来た。

 ダイワスカーレットとゴールドシップは一時期同じチームにいたこともある。それでいち早く知ったのだろう。

 驚くヒシミラクルだが、ノーリーズンはむしろドアの近くにいたマチカネタンホイザを気にしていた。

 

「いや待て! タンホイザ殿、無事か!?」

「あう……鼻血が……」

 

 勢いよく開けられたドアが直撃したタンホイザは、ものの見事に鼻から血をポタポタ流していた。

 ウマ娘にとって鼻血とは軽いものではない。人間を遥かに凌駕する走りに必要な酸素は多く、動く血液量も多いが故、鼻血を出したままの全力疾走は命に関わる。

 

「……あ、ワリ。いや、マジでゴメン」

 

 流石のゴールドシップも、これには素直に謝った。

 ひとまずマチカネタンホイザを医務室に運んでいったが、やはり出走停止ということになってしまった。

 

「まさか、あのマチカネタンホイザちゃんがレース直前に鼻血を出して出走できなくなっちゃうなんて……」

 

 そんなこんなしているうちにパドック入りの時間になってしまった。

 

「ダイワスカーレット殿が発熱、マチカネタンホイザ殿が鼻血とは。このレース、大波乱になるとは思っておったがまさか開始前からこんなことになるとはのう」

「ノーリーズンちゃんは大丈夫? 変なところでうっかりなんかしない? 兜の緒とかちゃんと締めた?」

 

 ノーリーズンは元気よく頷いて、ヒシミラクルの世代一番の策略家として断言した。

 

「何を隠そうこの武将ノーリーズン。今日は必勝の策を用意しておる。そんなわしがレース開始早々脱落するようなことなどあり得ん」

「そ……そうだよね。わたしたちの世代で一番の策略家であるノーリーズンちゃんがレース開始直後に脱落なんかするわけないよね」

 

 そしてパドックに着くと、既にゴールドシップにオルフェーヴル、そしてアーモンドアイが立っていた。

 

「うわぁ~間近で見るとオルフェーヴルさん圧すご……いや、アイちゃん顔真っ青じゃない!? 大丈夫!?」

 

 オルフェーヴルは威風堂々としているが、アーモンドアイは明らかに絶不調の顔をしていた。いつものキラキラした目が、今日はくすんで見えるほどだ。

 それでも負けず嫌いのアーモンドアイは、ヒシミラクルに言葉を返した。

 

「だ、大丈夫よ……このアーモンドアイが……移動や取材の連続で疲れて、長距離レースで本来の力を発揮できないなんてあるはずがないわ……!」

 

 どう見ても絶不調だが、それでも走れるなら走らなければいけないのがトレセンウマ娘。ミラクルが止めても無理にでも走るだろう。

 

「ゴルシ。いつもの余興はどうした。王を楽しませよ」

「ワリ。今そういう気分じゃねえんだわ」

 

 ゴールドシップはタンホイザの件でさすがにふざける気分でもないのかパドックで突っ立っていた。

 いつもの余興が見れないのでオルフェーヴルも少しイライラしている。 

 

「……チッ。おい、そこのトリプルティアラ。その有り様で王に挑もうなど不敬極まりないぞ。今日は大人しくひれ伏すがよい」

 

 オルフェーヴルは絶不調のアーモンドアイに話しかける。超絶上から目線だが、暴君なりの気遣いだろう。

 しかし、そんな物言いがアーモンドアイの負けず嫌いを刺激してしまったらしい。

 

「挑む? オルフェーヴルさん。何か勘違いされているようだから言っておきますけど」

 

 アーモンドアイはトリプルティアラとして、無敗のクラシック三冠ウマ娘すらジャパンカップでねじ伏せた現代最強として暴君に言い放った。

 

「そっちが挑戦者《チャレンジャー》ですかゲホッゴホッ!!」

「肝心なところでむせた!?」

「……もうよい。囀ずるな」

 

 アーモンドアイもゴールドシップも本調子ではないことがわかり、オルフェーヴルもやる気が下がったのを感じた。

 

「ってあれ、イクノちゃんは?」

 

 地獄のような空気のパドックには、イクノディクタスの姿がない。何事も正確で時間にもきっちりした彼女が遅刻など考えられない。

 何かあったかと不安になるヒシミラクル。

 

「遅れて申し訳ありません。タンホイザさんが鼻血を出したと聞いて急遽お見舞いに行ってきました」

「うえーん! イクノちゃーん!」

 

 すると、今日も曇りなき丸眼鏡に几帳面な三つ編みのイクノディクタスがやってきた。

 頼れる友人の姿に出会い頭に泣きつくミラクルを、イクノは優しく受け止める。

 

「こんにちは。ミラ子さんは今日も可愛らしいですね」

「うう、さすがイクノちゃん。こんな時でも冷静だね……」

「ええ。ダイワスカーレットさんの発熱、タンホイザさんの鼻血は非常に残念ですが……出走者として、最善は尽くさなければいけませんから」

 

 イクノがパドックの出走者を確認する。もともと8名が走る予定だったレースはこれで6名になってしまった。

 

「例え相手が現代最強だろうと、諦めなければ奇跡が起こる可能性はあります。ミラ子さんなら長距離もお得意ですし、こうなった以上勝つ確率は上がったと考えましょう」

「す、すごい……イクノちゃんが今まで以上に輝いて見える!」

 

 出走者の体調不良は喜ぶことではない。だがなってしまったことは気に病んでも仕方がないのも事実だ。この辺の切り替えは大ベテランのなせる業だろう。

 それに今のイクノディクタスは、なんだか普段以上に気力が充実しているように見えた。

 

「温泉保養の効果かもしれませんね。私の徹底管理にゆこま温泉が加わり最強に見えます」

「言われてみれば気力に満ちてるというか。まるで、全てを操る大魔王みたいだよ!」

 

 ゲームや漫画好きのミラクルらしい例えに、イクノもくすりと笑う。

 案外ノリのいい彼女は、ミラクルにこう返した。

 

「……まさかミラ子さん。このイクノディクタスがダイワスカーレットさんに前日無理をさせて熱を出させ、それをゴールドシップさんに伝え慌ててドアを開けさせ、親友であるタンホイザさんを鼻血で脱落させたなどと考えているのではありませんか?」

「なにその邪悪なドミノ倒し!?」

 

 とんでもない例えに驚くミラクル。

 

「真面目だけど面白眼鏡のイクノちゃんが実は大嘘つきで、親友であるタンホイザちゃんを裏切ってまで勝とうとするわけないじゃん。……ないよね?」

「……ふふっ。ミラ子さんは本当に可愛らしい。さ、そろそろゲートインの時間ですね」

「意味ありげな笑みではぐらかされた~。これ漫画やゲームだと絶対わたしも裏切られるやつ~」

 

 まぁ、ミラクルもイクノが人を騙すとは全く思っていない。

 大人しくゲートに入って、出来る限り頑張って走るだけだ。

 

【さぁ各ウマ娘ゲートイン完了、出走の準備が整いました】

 

 アナウンスが聞こえる。2人が急遽出走停止になってしまっても冷静な実況をするのが解説者の仕事だ。

 そんな実況が慌てふためくようなことが、ゲートが開く直前に起こった。

 

【な、なんと出走直前にゴールドシップが、逆立ちしたー!?】

「なにしてんの!?」

 

 ガチャン! と無情にもゲートは開く。とにかく走り出したヒシミラクル。

 

【ああっとどうしたことだー!? ゴールドシップが、自らの腕で走り出したー!?】

「うおおおおお! これがゴルシちゃんの誠意だー! すまねえタンホイザ!」

 

 ゴールドシップは、なんと逆立ちしたまま走っていた。当然めっちゃ遅い。

 しかも、ハプニングはそれだけではなかった。

 

「ぬわっー!? わしの靴が突然すっぽ抜けた!?」

【な、なんとノーリーズン開始早々靴が脱げました!? 失格です!】

「ノーリーズンちゃんが理由もなく開始早々脱落した!? なにこのレース!?」

 

 一応、靴がなくてもウマ娘は走ることは出来る。しかし靴なしで走ることはルール上禁止されておりレース途中で靴が落ちることは失格を意味していた。

 

「と……とにかくわたしだけでも最後まで走りきらなきゃ!!」

 

 8名だったはずのレースは開始早々4名になってしまった。こうなったらもう順位とか気にしてられない。

 ヒシミラクルのレース戦略は開幕から少しずつスパートをかけていくこと。

 それでも普段は逃げや先行よりは遅く、差しの位置に控えることが多いのだが。

 

【さぁ、ハナを進むのはヒシミラクル! ダイワスカーレット不在の影響か、なんとヒシミラクル先頭です!】

「あれ!? わたしが先頭!?」

 

 オルフェーヴルは追い込み、イクノディクタスも差しより。そしてアーモンドアイは本来先行よりだが絶不調だ。

 正直後ろに下がるなりしたい気持ちはやまやまだが、ヒシミラクルは逃げで戦略を作れるタイプではない。とにかくじっくりスパートをかけ続けるしかないのだ。

 

「このままいけるとこまでいくしかない! なんとかなれっー!!」

 

 ヤケクソ気味に叫びながら走るミラクル。

 そして最終コーナーで再び事件は起こった。

 

【ああっと今度はオルフェーヴルがコースアウトだ! 明らかに不要な大回りを始めてしまったぞ!】

「このまま勝ってもつまらぬ。せめて僅差で余を楽しませよ。サッカー娘」

「サッカー娘ってわたしとイクノちゃんのこと!?」

 

 まともに走っているのはヒシミラクルとイクノディクタスとオルフェーヴルだけだ。普通に走ればオルフェーヴルの圧勝は間違いないだろう。

 

【これがオルフェーヴル! なんという慢心! まさかコースアウトしてから勝つ気なのでしょうか!】

「無論だ。余が慢心してコースアウトしそのまま負けることなどあり得ん。……行くぞ」

 

 先頭を走るヒシミラクルにも、オルフェーヴルが再スパートを掛けた威圧感は伝わった。

 

「だ、ダメだ。抜かれる……! やっぱりわたしみたいな普通のウマ娘が、オルフェさん相手に逆転勝利なんてできるわけないんだ……!」

 

 ヒシミラクルが走りながら絶望しかける。

 その時、意地を見せたのはトリプルティアラウマ娘のアーモンドアイだった。

 

「させない……そんな走りで勝たせるくらいなら……いっそ!」

「おい、ちょっと待て余」

 

 ヒシミラクルには見えないが、アーモンドアイとオルフェーヴルの進路が被る。そのまま……まるで同じトリプルティアラのジェンティルドンナが後続をはねのけるようにアーモンドアイの体がオルフェーヴルを吹き飛ばした。

 

「貴様ーーー!!」

「ふふ……さすがオルフェさん、私の体も真っ二つになりそう……ジェンティルさんのパワーにはまだまだ及ば……ないわね……」

【アーモンドアイ、まさかのオルフェーヴルと進路がぶつかってしまった! ただでさえ調子が悪いところにこれはさすがに続行不能か!】

 

 アーモンドアイは完全に息切れしてしまったようだ。意地でも走りきるだろうが、勝つことは不可能だろう。

 オルフェーヴルも懸命にロスを取り戻すが、もともとギリギリで勝てるように調整しただけに今の衝突は致命的だ。

 

「か……勝てる? わたしが、このレースで!」

 

 オルフェーヴルとアーモンドアイが共倒れになった。ならば本格的に勝機はある。もう最終直線、ゴールは目の前だ。

 しかしそう口にしたヒシミラクルにも、どこか慢心はあったのだろう。

 長距離レースなら、自分がイクノディクタスに負けることはないと。

 

【さあ最終直線━━な、なんとイクノディクタスすごい足だ! ぐんぐん先頭との差を縮めていくぞ!】

「うえっ!? イクノちゃん!?」

 

 なんとイクノディクタスがラストスパートはヒシミラクルのロングスパートを凌駕していた。

 オレンジ色の髪がヒシミラクルの視界に入った次の瞬間には━━イクノディクタスが不敵な笑みと共に、先頭でゴール板を駆け抜けた!

 

【な、なんとイクノディクタス一着でゴールイン! アーモンドアイやオルフェーヴル、ゴールドシップにヒシミラクルが走るこのレースを制したのは、イクノディクタスだ! これが鉄の女の底力! 大逆転勝利です!】

 

 観客達がどよめいた。トラブル続きのレースとはいえ、まさかイクノディクタスが勝つとは誰も予想だにしていなかったのだ。

 ヒシミラクル2着、オルフェーヴル3着、アーモンドアイもゴールはしたが時間がかかりすぎて着順着かずというまさかの結果だった。あとゴールドシップはずっと逆立ちしたままだったので失格になった。

 

「イクノディクタスです。改めて今日の『ネタバレが激しすぎる特別』レースに来ていただきありがとうございます」

 

 ウィナーズサークルに立つイクノディクタスは、相変わらず生真面目だった。

【イクノディクタスさん、ずばり、今日の勝因は?】

 

 インタビュー質問に対し、イクノは抑えたメガネがキラリと光らせて答えた。

 

「レース戦績でいえば、今日のメンバーの中で私が最弱でしょう。自身の戦績になんら恥じるところはありませんが、長距離での勝利はOPのみですから」

 

 ハッキリとした答え。ヒシミラクルのような謙遜や自虐とは違い、冷静な分析による発言だ。イクノディクタスは、本来長距離で強いウマ娘ではない。

 

「しかし、どんなに強いウマ娘でも。肉体や精神の不調で本来の力を発揮できなくなってしまうことはあります。裏を返せば、肉体や精神を万全にしておけばどんなレースでもチャンスはあるということです」

 

 イクノディクタスは、マチカネタンホイザと共に温泉で体調を万全にしていた。

 ヒシミラクルも、2着に入って満足はしつつ1着の名誉を称えた。

 

「さすがイクノちゃん……温泉に入ってパワーアップしたっていうのは、ホントだったんだね」

「ええ。タンホイザさんの鼻血とノーリーズンさんの靴が落ちたのはさすがに想定外でしたが……他の皆さんはあまり調子がよろしくないことは把握していたので、こっそり準備を整えこうして勝つことが出来ました」

「おお、イクノちゃんが大嘘つきの黒幕のような悪い笑顔をしてる……!」

 

 イクノディクタスは全てを操る黒幕のような不敵な笑みを浮かべて見せ、この『ネタバレが激しすぎる特別』レースを締め括った。

 

「これが……《保養が導く奇跡》による大逆転勝利です」

 

 イクノディクタスの温泉効果による大逆転は話題となり、しばらくゆこま温泉旅館にウマ娘が殺到したのだった。

 

 




某ネタバレが激しすぎるRPGで感動したので思わず書いてしまいました。
ウマ娘のメインストーリーも基本史実という名のネタバレがあるのに感動できるのがすごいですよね。
今の温泉シナリオ、イクノディクタスとの相性が最高で彼女の徹底管理キャラと噛み合ってるのがイクノらしくて好きです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。