アッシの名前はマグヴィス、灰被りのマグヴィスだ 作:その辺の屍
何番煎じ?しらんな
戦場に転がる小石たちが、
軍勢が鳴らす足音によってカタカタと震える
悍ましい魔力
首の無い戦士達の亡霊
これを知らぬものがいたとしても
この光景から逃げないのは余程の愚か者か
対処可能な強者くらいなものだろう
軍勢の先頭に立つのは一人の女
大きな2本の角を持つ小柄な少女だ
だがしかし、纏う魔力は軍勢のソレと同質
魔力量は一般人の尺度を超えていると言っていい
「
また一人、戦士が彼女の前に散る
跪いた戦士は容赦なく首を刎ねられる
だが、動かないはずの死体は立ち上がり、
軍勢の戦列の中へ消えていく
彼女こそ、魔王軍の幹部・七崩賢が1人
断頭台のアウラ
「アウラ様、次はどちらへ?」
「1番近い人間の街は?」
「南東の方角に商人達の拠点が」
「じゃあそこに行きましょうか」
「承知いたしました」
彼女達の足を止める者は誰もいない
既に魔王を倒した勇者は世を去り
魔法使いは未だ姿を現さない
故に悲劇は繰り返される…
「…なんだ、お前は」
はずだった
アウラ達が正に移動しようとした瞬間
目の前に1人の男が現れる
白黒のツートン左目が隠れた髪型が特徴の長身の青年
黒いコートを着て、武装は特に見当たらない
「よぉ、断頭台。忙しそうで何よりだな?」
「…お前を私は知らない。
「おっと、申し遅れた。アッシはマグヴィス。
大魔族様に名乗るほどの異名もない、
ただのマグヴィスさ」
アウラの前に立った青年の頭には、
4本の捻れた角が生えていた
「いやぁ、アンタ今からアランに行くだろ?」
「…何の話?」
「おそらく、商人達の拠点の名前かと」
「大正解、流石筆頭だな?」
落ち着いた雰囲気の男…リュグナーが補足すると
揶揄うように言葉を重ねる青年
(…大した魔族では無いな)
リュグナーは青年を心の中で見下す
目の前の男からはアウラほどの魔力を感じない
確かに使う魔法によっては脅威となるが…
「それで?お前に何の関係がある?」
アウラよりも魔力が低いのであれば
この青年の魔力は大魔族と呼ばれる程では無い
「実はちょいとあの街には世話になってな?
出来れば見逃して欲しいってだけさ。良いだろ?」
ヘラヘラと笑いながら話す青年
(コイツ…立場が分かっていないのか?)
自分より格上のアウラに対して
舐めた態度をしていることに苛立つリュグナー
「どうして私がお前の命令に従う?
魔力も数も私がお前よりも上だ。
魔族ならばそれくらい理解しているだろう?」
そうアウラが冷たく返すと、肩をすくめる青年
「そりゃそうだ。だからこれはお願いさ。
七崩賢、魔王軍幹部として名を馳せたアンタなら
弱者の話も聞いてくれるかもしれないだろ?」
「…いいだろう。お前の願いを叶えてやろう」
そうアウラが言うと、少し驚いた様子の青年
「マジ?いやぁ言ってみるもんだな。
実はチビっちまうかと思ってたんだぜ?」
ペラペラとくだらないことを話す青年
「お前の願いの通り、
「?」
リュグナーともう1人の少女…リーニエが
前に出てくる
「だから、コイツらが何をしようと
お前の願いには関係ないわね?」
「あ〜、なるほど。これはこれは…
アッシは肝心な所で詰めが甘いな?」
アウラが嘲笑うと、ヤレヤレと首を振る青年
「願いを叶えてもらってなんだけど、
やっぱナシでいいか?」
「あら、いいのかしら?私は気まぐれだから
次は叶えてやらないかもしれないわよ?」
「いいさ。だって…」
青年がウィンクを飛ばす
「アンタらが誰もいない廃墟に
何をどうしようと自由だろ?」
「…?何を言って…」
遠くの方で魔法の光が瞬く
「…何をしたの?」
「アッシは何もしてないぜ?
ただまぁ…通りすがりの魔法使いが
街の住人を安全な場所へ避難させた。
なんて事が起こってるかもな?」
薄っぺらい態度を崩さない青年に、
アウラ達の苛立ちが高まっていく
「…もういい」
アウラが天秤を向ける
「
青年の体から魂が抜き出される。
それが天秤に乗ろうとした瞬間、
「おっと、それは困るんだがな?」
アウラの目の前に青年が突然現れる
「っ!?」
アウラが反応するより、
リュグナー達が迎撃するよりも一歩速く
青年の手に魔力が収束し
「シッ!」
魔法が発動すると同時に天秤が砕け散る。
青年の魂は即座に青年の体へと戻っていく
「なっ!?」
「ふぅ…ヒヤヒヤするな?」
驚くアウラを他所に胸を撫で下ろす青年
「っとぉ!」
横から血の槍が突き出されるのを跳んで避け
「いきなり攻撃は酷くないか?」
「っ!?」
その着地点に横薙ぎに振るわれた斧に乗る青年
「良い腕してるねお嬢ちゃん。
いや、そういう魔法か?」
「…死ね」
リーニエは斧を一度消し、
再び出現させて縦に振るい空中の青年を狙う
「おぉっと…!」
その斧の側面を逆さまになりながら蹴り飛ばし
軌道を逸らしつつ反動で回転しながら跳ぶことで
追撃に放たれたリュグナーの血の攻撃を躱す
「ヒュゥ♪流石は筆頭。狙いが正確だ。
射的大会で準優勝は堅いね」
「貴様…」
リュグナーの表情に怒りが見え隠れする
四方八方から血の攻撃が迫り来るのを
全て蹴りで相殺して弾き飛ばす
「お前、ホント魔法を撃つの好きだな?」
「当たり前だろう。
魔族とは自身の魔法に誇りを持つものだ」
リュグナーの言葉を青年が嘲笑う
「悪いな。アッシは自分の魔法が嫌いなんだ。
だから全く別の魔法だけしか使ってない」
「そうか。魔族の恥晒しめ」
より苛烈になった血の攻撃を大きく跳んで潜り抜け
後ろから放たれた斧を見ずに片手で白刃取りする
「
再び魂が青年の体から抜き出される
それがアウラの下へ向かう…
「ふんっ!」
青年が斧を握り砕く
「は?」
「えっ」
「…」
3人の魔族が絶句する
青年はそのまま魂を素手で
アウラの持つ天秤が再度砕け散る。
「ったく、学ばないなオマエ達は。
まさか当たってくれるとでも思ったか?」
「いえ、それよりも気になることが
あったと思うのだけれど…?」
「…斧を余力だけで破壊?」
「化け物か貴様」
「酷い言い草だ。アッシは戦士だぜ?
斧ぐらい握りつぶせるに決まっているだろ?」
…ここにいるのが一般人であれば、
それは違うと言えたのだろう。
だが、この3人は知っていたのだ。
同じ事が出来る人類最高峰の戦士、アイゼンを
「…どちらにせよ、
アウラ様の魔法を何度も受けて立っている時点で
貴様は得体が知れない」
「…ここで殺す」
「私の魔法をわざわざ阻止している。
つまりはお前の魔力は私より少ないのは
紛れもない事実でしょう?
私の不死の軍勢まで足止めするなんて
どんな魔法を使っているか知らないが、
いつかはお前の魔力も切れる。
それがお前の最後よ」
3人の魔族がそれぞれの魔法を準備し、
全力の戦意が最高潮に達したその時
「ノリに乗ってるとこ悪いが…」
青年は跳び上がり
「本気の大魔族の相手はしてられない。
街の連中も避難が終わったみたいだし、
アッシがいる意味ねぇや」
何かの魔法が発動される。
青年はまるで背中側に落下しているかのように
高速で離脱していく
「逃がさん…!」
唯一まだ魔法が届くリュグナーが追撃するが
その攻撃を蹴りで防ぎ、
逆にその反動でさらに加速していく
「アッシが逃げたからオマエの勝ちだ。
よかったな断頭台。じゃ」
その言葉を最後に遥か遠くまで青年は消えていった
「なんだったのかしら…?」
「分かりません。
ですが警戒するに越したことは無いかと」
これらは歴史には載っていないやり取り、
どの記録にも残らない僅かな邂逅だ
だが、確かにこの瞬間
運命は別の方向へと動き始めていたのだ。
………………
「ふぅ…生きてる〜」
木にもたれ掛かりながら息を吐く
今回ばかりは死んだかと思ったわ
大魔族1人に配下2人とかやってらんねぇ〜
舐めプされてたから助かったけど
最初から本気の連携取られてたら
流石にアッシじゃ捌ききれなかった
「ったく。どっちが化け物だよ…」
こちとらギリギリの曲芸じみた真似を
繰り返して生き残ってるだけだっての
勿論アッシにも切り札は何枚かあるが
そもそもアッシの魔法で
アッシ自身はそこまで魔力が多くないから
いくら切り札があっても魔力には限界がある
つまりアッシにとって長期戦になりやすい多対一は
相性が悪いと言わざるをえない
「不死の軍勢を使われたらキツかったな…」
あっちはもしアウラが不死の軍勢を
差し向けようとしたら何回かは無力化する
簡易的な対策をしてあっただけだ
つまり何度も指示を飛ばされたら
不死の軍勢まで相手にしなければならなかった
「まぁ、相手出来るのは今回だけ。
次こそ絡繰見破られてズドンが有り得る。
取り巻きも1人足りなかったしな。
2度とゴメンだね」
ボヤいていると、彼の横の空間が揺らぐ
「お疲れ様。お陰で助かった」
「アッシを死地に送った救世主サマじゃん。
こんな捨て駒にお声掛けなさるとは、
慈悲深いことで」
「耳が痛いね…」
今アッシが皮肉をタップリぶち込んでるコイツは
トノーヨという名前のエルフの男だ
今はアランで護衛をやってる物好きで
昔に色々あって知り合い、アッシを魔族と知りながら
親交を持っている変わり者だ
「で?街の連中は?」
「全員無事、是非君にお礼がしたいそうだよ」
「ソイツァ嬉しいね。気持ちだけ貰っとくよ」
「…やっぱり会いには行かないんだね?」
「当たり前だろ。アッシは魔族だぜ?
排斥しなきゃダメなんだよ」
「いやでも君は…」
「例えオレを受け入れたとして、
次はどうする?
危険な魔族を受け入れたら今度こそ終わりだ」
「…」
「だったら最初から
魔族は全て危険だと思った方がいい。
魔族は人の言葉を真似る魔物。
その方が安全なんだよ」
そう、アッシみたいなのは異端中の異端だ
この長い魔生で1人だけしか見たこと無いしな
「さて、アッシはもう行くよ。
アンタもあんまり魔族と話してると、
いつか食われちまうかもしれないぜ?」
「…あぁ、またね。私の友達」
「またな。アッシの非常食クン」
そう言ってトコトコと歩いていくのマグヴィスを
トノーヨは悲しげな目で見つめる
「
突如トノーヨの背後から放たれた魔光は
確かにその命を散らそうと迫り
「………」
マグヴィスの手に即座に魔法陣が構築され
大量の粒子が周囲一帯に満ちる
その粒子に触れた瞬間、
「…オレの
少しだけ顔を振り返らせて、
トノーヨの後ろにいた
杖を構えたアランの街の住人を睨み付けた後
再びマグヴィスは歩いていく
「…私を殺しますか?」
「あ、当たり前だ!魔族と取引したエルフなど!
し、信用できる訳がない!」
再び杖を構えるが、その矛先は震えている
振り返ったマグヴィス、そのいつも隠れている左目
普通の人間と同じ構造の青い右目と違い
細く鋭い紅目が三つ、爪痕の様に並んだ
その眼光は明らかな人外の証
その禍々しい怒気に当てられて、
攻撃をしたらどうなるか考えると
震えが止まらないのだ
「っ!死ねぇっ!」
それでも前に出て魔法を発動しようとした男は
更なる絶望を味わうことになる
「っ!?魔法が発動しない!?」
「オイ」
魔力は何故か魔法陣の形を成さず
男は無力になった…
いや、今自分は無力だと気づいて狼狽える男に
去ったはずのマグヴィスが背後から声を掛ける
「オマエ、救いようのないやつだな?」
「…ヒッ」
振り返った男は、その行動を一生後悔するだろう
血塗られた爪の様な眼光が、男を見つめている
赤
紅
赫
「ぁ、あぁ、ああああアアァァァッ!?」
狂った様に叫びながら目を抑え、悶え狂う男
「な、何をした!?」
「恐怖で錯乱してるだけだ。
トラウマは残るだろうが、
数日休めば元の生活に戻れるだろうさ」
左目を髪で隠しながら、トノーヨに向き直る
「これでもまだお前はここを?」
「勿論です。知っているでしょう?」
「…ハァ、頑固者が」
そう言って今度こそ去ろうとするマグヴィス
「あ、あの!」
その背中に誰もが恐怖する中、
声を掛けるものが1人いた
「…アンタ、死にたがりかい?」
「た、助けてくれて、
ありがとうございました!」
「…」
無言で背中越しに手を振った後、
マグヴィスは歩き出す
「人間というのは、なんとも不思議な生き物だな。
…いや、アッシが言えた口でもないか」
ふと、彼は呟く
「ソリテールにクヴァール…
魔族の友人は元気にやってるかね?」
また魔法議論でもしたいものだな
1人は封印されてっけどさ
袋から
口に放り込む
あぁ、そういやあの2人から二つ名貰ってたっけ
「灰被りのマグヴィス…だっけか?」
いっけね忘れてた
今度からはちゃんと名乗らないとな
2話までは作ってあるけどそれ以降を投稿するかは反応次第かなぁ…