アッシの名前はマグヴィス、灰被りのマグヴィスだ 作:その辺の屍
気が付いたらそこにいた
別に使命を持って生まれた訳でも
何か特別な要因があった訳でもない
ただ、生まれ落ちたその時から
ずっとお腹が空いていた
アッシはただその衝動のままに彷徨い歩き
生まれ持った唯一の魔法でひたすらに魔族を狩った
傷一つ無い状態で灰になっていく魔族を見ながら
己が呪いの性質を知った
そして残った灰を喰らった
同族喰らい
忌み者にして穢れ
腐肉喰らいよりも尚悪食な灰喰らう怪物
それがアッシ、後にマグヴィスという魔族だった
………………
「…」
フラフラとした頼りない足取りで青年が歩く
右の瞳に光はなく、しかし左は人外の目
三爪が連なるその邪眼は、
殺意と飢えでより一層不気味に輝く
「…」
ふと、彼の感知範囲で戦闘が起こる
その魔力に釣られるようにして、
フラフラと歩いていく青年
「
「
そこでは、壮絶な魔法の撃ち合いが発生していた
片やエルフ、裸足に薄着、金髪無表情の美少女
片や魔族、ヤギのような頭の大柄な法衣姿
エルフが指先から紫電を放ち、
その紫電が風景ごと粉砕される
その災害に厄災を叩きつける大戦に、
頼りない脆弱な存在が歩いていく
「…?」
「…」
エルフは少しだけ気に留め、
魔族はそもそも眼中に無い
だが、その違いが生死を分けた
「…」
彼の魔力が渦巻き
「っ!?」
「…?」
エルフが飛び退いたのを
ヤギ頭の魔族が不審に思った瞬間
「………」
彼の右手がゆっくりと魔族の方に向けられ
命を踏み躙る呪いが放たれる
「っ!?」
流石のヤギ頭の魔族もこれは無視できず、
即座に防御術式を展開するが
「無駄だ」
エルフが呟いた通り、
不可視の呪いは防御術式を素通りし着弾
「カッ…!?」
ヤギ頭の魔族は、
遺言を残す暇すらなく体が崩壊した
「…」
青年はただその崩壊をボンヤリと見ている
「お前…今の魔法はなんだ?」
エルフが警戒しながらも青年に聞く
「崩壊させる魔法では無い。
アレには魔力を感じなかった。
つまりお前の魔法の副次的な効果として、
偶然崩壊が発生したということだ。
そのレベルの大規模な魔法だというのに
主効果がまるで分からん。
どんな魔法を使った?」
捲し立てるエルフに、青年が口を開く
「…ま、ほう?」
「…まさか、魔法を知らないのか?」
頷く青年に、
信じられないものを見る目をするエルフ
「生まれたばかりの魔族でも、
その程度の事は知っているはずだ」
「…まぞく?」
「…これは相当だな」
事態の異常性を察して、ため息を吐くエルフ
「…」
それを見ながら再び青年が右手を上げようと
「待て」
「…」
する前にエルフが杖を青年に向ける
「何故今殺そうとした?
貴様は今ほとんど魔力が残っていない。
次魔法を放てばそれで終わりだ。
だというのに、
何故そんなにも無造作に放とうとした?」
魔族であれば、
そのような不利な状況ではまず戦わない
戦うとしても言葉で油断を誘ってからだ
「?」
青年は首を傾げる
「…まさかお前、
今まで出会った全てを殺して生きてきたのか?」
思わず呆気に取られてしまう
いくら魔族であろうと、
流石に魔法を連発すれば命に関わる
その為例え生まれたばかりでも、
生存本能に従って多少なりとも戦闘を避けるものだ
だがこの青年は違う
そもそも生存本能の一部が欠落している
相手を滅ぼす事しか対話の方法を知らない
魔族としても生物としても、
明らかに巨大な欠陥がそこにはあった
「…?」
攻撃する意思が無いことが分かったのか
青年は右手を下ろし、
ヤギ頭の魔族だった灰に向かう
「…?何を…」
灰を掬い上げ、一息に飲む込む
「なっ!?」
「…おいしい」
驚くエルフを他所に、嬉しそうに微笑む青年
「お前、灰を食うのか!?」
「…?おいしい、よ?」
「…普通は食わん」
いよいよ頭痛がしてきたと頭を抱えるエルフ
「お前、名前はなんだ」
「…?」
「嘘だろう…?」
自我すら薄いレベルの生まれたての魔族に
あの砕空のアズアナがやられたとでも…?
確かに油断もあっただろうが、
だとしても大魔族クラスを
生まれて1ヶ月もない脆弱な魔族が…?
「…魔族共の強さの基準が笑えてくるな」
人間の魔法使いよりも低い魔力で
魔族の中でも指折りの魔力の化け物を
不意打ちとはいえ一方的に滅殺する。
コイツは本物だ。
しかも、明らかに精神が存在している。
他の魔族の様な真似事では無い、
それは私の
コイツに対して反応することから分かる
「…お前、私と来ないか?」
「…?」
まさかこの年になって、
人生最高の未知に遭遇できるとは思わなかった
私はこの子に、命を賭けよう
「食べ物なら用意してやる。
…勿論、お前の大好きな魔族共の灰もな」
「…たべもの?」
「あぁ、代わりにお前にも魔族を殺してもらう」
「…?」
「お前の魔力はお世辞にも高くはない。
制御能力も大したレベルでは無いだろう。
だが、お前にはお前にしかない武器がある。
魔族としての強さが無くとも、
お前にはあの魔法がある。
防げず、避けれず、感知もほぼ不可。
得体の知れない必滅の呪い」
「…」
「生き方も知恵も感情も、全て私が教えてやる。
だから一緒に来い」
「…」
青年は頷き、エルフの手を取る
このエルフの名前はプラム
アッシの親代わりにして師匠。
そして…
「お前に名前をやるよ」
「…?」
「マグヴィス、お前は今日からマグヴィスだ」
オレ、マグヴィスという名前の魔族が
初めて殺した人間だ
………………
「…んぅ?」
ハッと目を覚ます。
白昼夢?いや違う、これは…
「…呪いか」
おそらくは奇跡のグラオザーム
七崩賢の連中は軒並み面倒くさい連中ばかりだ
そして師匠もまた…
「…」
あの人が褒めてくれたこの呪いも、
自らの手で封じてるアッシには、
アレらと真っ向から戦う力は無い
それでも…
聖典を開く
「女神の光刃」
魔力を隠して潜伏するグラオザームに
女神の魔法を叩き込む
「…ッ!?」
想定していない方向からの攻撃を
なんとか躱すグラオザーム
「…何者ですか?」
こちらをようやく認識したらしい
だが、わざわざ姿を現す理由も無い
「女神の三槍」
「おおっと」
さらに魔法を放つが、
今度はリヴァーレに槍を握り潰される
「中々面白そうな奴が来たか?」
「…チッ」
アレが来たんじゃアッシの適正じゃ
ぶち抜けるだけの魔法が使えない
「…仕方ないか」
さっさと撤退だ。
背後に落ちながら加速を続けて離脱する
「…っとぉ!?」
その瞬間アッシはリヴァーレに向かって落ちていた
「っ残影のツァルトか!」
面倒な事ばかりしやがって!
「お前か!」
「チィッ!」
満面の笑みのリヴァーレが振るう拳に
反転しつつ回し蹴りを蹴り落とす
「おっと、まさか拳を弾かれるとはな」
馬鹿言えこっちは右脚が吹き飛んだんだぞ
そっちには傷一つ付いてねぇだろ!
「よぉ、初めまして、でいいのか?」
あくまで飄々とした態度でリヴァーレに挨拶する
「お前、実にいい戦士だ」
「魔族が何故我々の邪魔をする?」
「いやぁ、さ?元々関わる気は無かったんだが
奇跡、お前の魔法を喰らわされてな?
懐かしい記憶を見せられたもので
お礼をしに来たってやつさ」
「…なるほど、それはご迷惑を。
不確定要素を消す為に
周囲の生命体全てに一度魔法をかけたのですが
どうやらアナタも巻き込んでしまったらしい。
ですが、私達に協力をしませんか?
我々は現在、
勇者パーティへの強襲計画を実行中です。
手札を増やすに越した事はありません」
「なるほどな。ヒンメル達への攻撃か。
確かにこれだけの数の大魔族を
揃えるだけはあるな」
マグヴィスはそう話ながら、
グラオザームでもリヴァーレでもない
明後日の方向を見つめる
「おいソリテール。
お前はアッシと殺り合わないのか?」
「あら、分かっていたの?」
「お前の魔力は酷く分かりやすいからな。
殺意が漏れ出してるんだよ。
魔法議論…なんて雰囲気じゃあ無いだろう?」
「私はそれでも構わないわよ?
私達で決めた渾名も、
ちゃんと使ってくれてるみたいだし」
「ソリテール、知り合いですか?」
グラオザームがソリテールに質問する
「彼は灰被りのマグヴィス、異端の大魔族よ。
己の生まれ持った魔法を嫌い、
新しく生み出した魔法を使って魔族を狩る。
魔族の灰を喰らって生きる
私が知る中で最も厄介な魔族よ」
「神代より生きている…?
それにしては魔力が異様に少ないが?」
「そういう魔族なのよ。
別に隠しているとかでもなんでも無く、
彼は魔力が低いまま神代から生き残って来た
正真正銘の怪物よ」
「おいおい過大評価だぜ?
逃げ回って運良く生き残っただけだっての」
いやマジでやめて欲しい
下手に警戒されると勝てるもんも勝てねぇ
油断してる奴を不意打ちするのが常套戦法
コイツら相手にそれは厳しいかもな
「…なるほど、確かにアナタの言う通り、
油断ならない相手のようだ」
「俺に任せてくれないか、コイツはいい戦士だ
神代から生きている戦士ならば
是非とも戦ってみたい」
「…アンタ、戦狂いだな?
随分と血に染まった目をしている」
マグヴィスは嫌悪の目でリヴァーレを見つめる
けれどその中に微かではあるものの、
確かな戦意と好奇の視線が混ざっている
「お前こそ、戦士としての性を抑えきれてないぞ?」
「…」
無言で魔力を放出するマグヴィス
「まさか私達と戦う気ですか?片足で?」
「奇跡、お前が可能性を否定してどうすんだよ?」
マグヴィスの言葉に片眉を上げるグラオザーム
「だがお前は万全の状態では無い。
出来れば回復を待ってやりたいが…」
「必要ない」
マグヴィスはそう言い、魔力を右脚に集める
「
右脚が高速で再生し、元の状態を取り戻す
「ほぅ…中々面白い魔法だ」
「また新しい魔法?
アナタは本当に私を飽きさせないわね」
「…」
三者三様の反応を無視して
魔法で武具を取り出し両脚を武装し、
リヴァーレへと視線を向ける
「やはり俺か、いい目をしている」
「これでもか?」
髪を掻き上げる
人外の三爪眼が3人の魔族を捉える
抑え込まれていた殺意が、
濃縮された死の気配として降り掛かる
「…」
「相変わらず、アナタは素敵だわ…」
「あぁ、よりいい目になった
やはり貴様も古き魔族だ」
「反応が気持ち悪い、だから嫌なんだよ」
そう言いつつも、右脚を大きく引き
飛び込みの構えを取る
「…これ以上の言葉は無粋、か」
リヴァーレは斧を取り出して構える
「…♪」
「…」
ソリテールは楽しそうに微笑み、
グラオザームは神妙に構える
「いざ…」
睨み合いにより火花が散る
「勝負ぅ!」
「シィャァァアッ!」
リヴァーレが踏み込みと同時に
マグヴィスが閃光のように飛び込み、
斧の豪刃と鋼の閃脚が真っ向から激突する
「良い!やはり良いぞお前は!」
「こんなのアッシの柄じゃねぇが、
乗ってやるよ血塗られし軍神!」
高速で斧撃と脚閃がぶつかり合い、
火花が花吹雪のように振り撒かれる
「素晴らしい技量だ!
まさかまだこの時代に
俺と撃ち合える者がいるとはな!」
馬鹿言えクソッタレ、
こちとらいっぱいいっぱいだ!
スピードだけなら俺が上だが、
パワーと硬さが尋常じゃ無い!
このままじゃジリ貧だ!
「
突如グラオザームから魔法が飛ぶ
「グラオザーム」
「ソイツは危険だ、確実に仕留め…」
「
呪いはその存在を粉砕される
「…不愉快だ。2度とソレを使うな」
マグヴィスの三爪眼が禍々しく光る
その輝きにグラオザームは慄き、
リヴァーレは益々笑みを深める
「さぁ、続けるぞ。血塗られた軍神」
「もちろんだ、灰被りのマグヴィス」
再びぶつかり合う2人を他所に、
絶対の自信を誇る魔法を
たった一つの魔法で破壊されたグラオザームは
ソリテールに問い詰める
「ソリテール、アレはなんだ」
「彼の魔法」
「そんなことは分かっている
アレは生まれ持った魔法を嫌うのでは
無かったのか?」
「…?だから使ってないじゃない?」
「何を…」
「
彼の
魔法を魔力構成の段階から完全に破壊して、
呪いの領域の魔法すらも粉砕する。
アレだけは私でも真似出来なかったわ」
「…」
今度こそグラオザームの口が閉じられる
つまりそれは、アレすら奥の手では無いのか?
そもそもどんな脳の構造をしていたら
魔族が魔法を破壊する想像を出来ている?
破綻している。異常だ。
油断はしていないつもりだったが、
やはり魔力量か少ないせいか判断を間違えた。
相手は神代の魔族なのだから
今この場で争うべきでは無かった。
例え勝てたとしても、
勇者パーティとやり合うだけの余力が無くなる
「見事ッ」
「…ッ!」
リヴァーレの斧の一撃を横に弾き、
右脚で顔面に回し蹴りを入れるマグヴィス
リヴァーレはその蹴りを受けて
尚動じずに拳を返し、
マグヴィスは左脚で拳を受け止め、
吹き飛びながらも被害を最小限に留める
「ふむ、手応えが妙だな?」
「
相変わらず使い所が上手いわね」
手札をペラペラ喋るんじゃねぇよ
このままじゃゆっくりと死に向かうだけ
こうなったら
マグヴィスが目線をやると、
ニコニコと微笑むソリテール
…あの笑顔の裏では、多分アッシが
さらに追い詰められることを望んでいる
アッシが封じてきたあの魔法を、
忌まわしき命を踏み躙る呪いを
見てみたいと望んでいる
「あ〜…」
頭がようやく冷えてきた
何を馬鹿なことしてんだアッシは
大魔族相手に真正面から戦うなんざ
とんだうつけになったもんだよ
笑えてくるぜ
なんの利益もない戦いをするなんざ
それこそ師匠に叱られちまう
「どうした灰被りの、もう終わりか?」
「あぁ、勇気が尽きちまった。
悪いがこれ以上は付き合ってられねぇな」
カラカラと笑って見せれば、眉を寄せるリヴァーレ
「分からん男だ。今更命乞いか?」
「まさか、そろそろアッシはお暇させて貰うよ」
そう何度も切れる手札じゃない
グラオザームがなりふり構わなくなったら
必ずその弱点に気付かれる
このまま戦いが続けば負けるのはアッシだ
「…そうか。俺も白けた。好きにするがいい」
「やったぜ!」
「リヴァーレ」
「いいじゃない。見逃してあげて?
今回も結局使ってくれなかったけれど」
「うるせぇぞソリテール。
クヴァールの爺さんから聞いてるはずだろ」
あの爺さんならアッシの呪いを見たことがある
その性質くらい教えてるもんだと思ってた
「あら、てっきりアナタが
口止めしてると思ってたのだけど?」
「いやいや、
あの爺さんには色々勉強になってるからな」
「残念なことに、クヴァール爺からは
知りたければ奴本人から聞くことだ
の一点張りで教えてくれないのよ」
「そうか、まぁ後々な」
「いけずな人ね」
「はいはい」
そう言いつつ、
魔法を発動させて横向きへ落ちていく
「またなソリテール。
じゃあな、奇跡、血塗られし軍神」
「またね」
「…えぇ、では」
「次こそは期待している」
「誰がやるかよ」
憎まれ口を言いつつ離脱するマグヴィス
ヒンメルバーティーとグラオザーム達
双方がぶつかり合う、その少し前の出来事である
続編書くかは…まぁ未定で