ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
長い、長い冬を終えて春が顔を覗かせ始めた。
長い時間を生きる
戸口には入る時に服と靴の汚れを落とす魔法がかかるように作られ、靴を脱ぐことが前提の家の玄関口には足を洗うために浄化と保温の魔法を施された足湯場がこさえられた。
食料保存の魔法があるとはいえ――あるいはだからこそ拡張した
浴室はシャワーという物が増設され、湯を浴びる時に一々浴槽からお湯を汲まずに済むし、水流にリズムを付けてマッサージまで出来るようになった。
そして一番彼女がいじったのはコタツだ。
私がコタツテーブルを気に入っているのが分かっているのだろう。
私がほぼ一日を過ごす暖房テーブルは細かい改良や改造を繰り返されて、今現在使われているのはかつての形と違っている。
彼女が『バージョン4.13』と呼ぶ今の形は、椅子のように座れるホリゴタツ・スタイルから大きく変更された。
やや固めで広く、座るところはほぼ床より少しだけ高いソファを複数作成し、組み合わせることでそのまま横になったり背中を預けられるように改良した。*1
せめてもの労働として魔法研究は大体ここでやっているが、常に焼き菓子や果実が盛られたバスケットと保温魔法が施されたポットにその日のお茶が入れられているおかげで極めて快適だった。
たまにそのまま寝てしまい、気が付いたら彼女にベッドまで運ばれ夜着に着替えさせられている事も珍しくない。
最近ではすぐそばに同じく保温の魔法がかけられた大鍋が収まる棚が作られ、好きに飲んでいいとその日のスープが用意されるようになった。
ちなみに今日はミネストローネというスープだ。
たくさんの野菜と彼女手製の塩漬け肉が入った具沢山の赤いスープは、暖を取るのにちょうどいい。
彼女自身野菜が好きなのか、毎食それなりの量の野菜が出されている。
「……よし、出来た」
朝食を終えてコタツの中でダラダラしている間に、私の隣で彼女はずっとやっていた作業に一区切りがついたようだ。
「ミリアルデ、ほら」
「ん……」
彼女がやっていたのは毛糸から手作りしたマフラー編みだ。
しばらく
見た目よりたくさん入り、重量を半減させる滑車付きの旅行鞄。
絶対に水を通さず、かつ虫除けと蛇避けの魔法を仕込んだブーツ。
保温のカーディガンだけでは見た目が寒そうで悪いと、本格的な対魔・対物理装備として魔法を込めながら手縫いで完成させたレザーコートと色違いのレザーパンツ。
十リットル近くの水が入るが重さはマグカップ三杯程度の、見た目はごく普通の自動浄化水筒。
高い耐久性と保温性――曰く、最も眠りやすい三十度少々の温度を下回る事がないという寝袋。
まだまだあるこれらに加えて、彼女が自衛用にと私に装備させている
これだけのアーティファクトを数日で形に出来る彼女の魔法の異質さは、彼女がやはり魔族である事を思い出させる。
そしてその道具の内容がどれもこれも人間に合わせて便利に作っているのが、人に合わせる異質な魔族であることを証明している。
彼女が一番手間暇をかけた二層式のランチボックスに至っては、空にして蓋を閉じれば中身が洗浄され、再び開けたら食料品に限り彼女の持つ空間倉庫に干渉し、ライスかパンと主菜一品に副菜二品、そしてスープが揃った即席の食事が出てくるなど……デタラメにも程がある。
すでにボックス用の調理は完了しているらしい。
一日三食で二月分はまったく心配しなくていいといつもの様子で言ってくるが……。
おそらく、夜の間も調理に専念していたのだろう。
一昨日までベッドに入る時は一人だった。
「ちなみに、このマフラーは?」
軽く頭を下げて首を出すと、程よくふわふわでモコモコしたマフラーが巻かれる。
ちょいちょいと長さを調整されてから私が首を戻すと、ジッとその様子を観察している。
「今回は特に特別な事はしていない。一応保温と
「すでに立派なアーティファクトよ、それは。国宝級の」
「君の身の安全は最優先事項だ。大丈夫。仮に真冬の雪山で遭難しても、作った防寒具が全て揃っていれば生命維持に十分な熱は確実に維持し続ける。それに濡れてもすぐに乾く」
「……このセットだけで城どころか小国なら買えそうだわ」
彼女が私に服を作る際には、ほぼ例外なく防御魔法を何重にも重ね掛けしている。
ついでに保温やら防水、自動乾燥なども。
フードに至っては、少ない体積で頭を確実に守るのに十分な魔法を込めるのに必要と言って、貴重な竜の素材をふんだんに使うほどだ。
金貨に換算したら何枚になるだろうかと少し考えたが、出てくるだろう数字が恐ろしくてすぐに止めた。
「色に希望は? 特に大した魔法を使っていないから、今回はすぐに染められる」
「……そうね」
基本的に私の服は、そのほとんどが白で統一されている。
色を聞いてくる彼女に対して、考えて答えるのが面倒でいつもそう言っているだけ。
例のカーディガンだけは、あまりに味気なさすぎると彼女が譲らず、元々の素材の色である薄緑のまま――そして、後に彼女が刺繍で百合などの白い花をモチーフにした柄を付け足していた。
「赤、がいいわね」
「……珍しい。いつも白でいいとか適当にやってとか言うのに」
聞いておいてなんなの。
また頬っぺたをパスタ生地のようにこねられたいのかしら。
大体、隙あれば私の服を量産する君が悪い。
もうクローゼットはパンパンだというのに。
「赤の勇者の主人が、その身に赤い物を一つも付けていないのも変な話だわ」
「……なぜ、君が私の主人だという話が広まっているのだろう」
「戦うのが主に君で、私が後ろにいるからじゃないかしら」
「そういうものなのか」
「そういうものよ」
赤の勇者が男だという話になっているのも、そうだろう。
後ろで傷ついた人間を守る
まぁ、絵としては最適だし、実際に現場を見た人間からすればそうなるか。
(だからまぁ……おそらく、探されているのはどちらかと言えば自分なのでしょうね)
赤の勇者を押さえるには、その頭を押さえればいいと考える者は必ず出るだろう。
「ともあれ分かった、赤にしておく。それと、そっちの研究は?」
「……『袋や箱の中から空気を失くす魔法』……ね」
何かアーティファクトや道具を思いついた時に、まず彼女は設計図の作成から始める。
絵で描くのは当然だが、その横には彼女にしか読めない膨大なメモ書きが組み合わさっている。
人間の言葉でも古エルフ語でもない、見た事のない単純な文字とやけに複雑な文字を組み合わせた未知の言語。
万が一にも内容が外に漏れないためにか、魔導書はともかくとしてアーティファクトの設計図は半ば暗号のようになっている。
コタツの中で時折足を軽く私とこすり合わせながら精密なソレを描き、そしてたまに尋ねてくるのだ。
『このような効果を出す魔法はないか?』
と。
いつぞやの休日に彼女と話してから、彼女の献身はより深くなったが、同時に私に何かを頼むことも増えた。
「ごめんなさい、正直進んでいないわ。もう一つ頼まれている『スープが粉になるまで水分を抜く魔法』の方がまだ進んでいるわね」
とはいえ、彼女程の大魔族が行き詰まる魔法というのは、やはり困難な事が多い。
「何もない所から更に失くす、というイメージが上手く湧かなくて基本イメージすら固まっていないというのが正直な感触よ」
「いや、別に構わない。優先事項ではないし、あれば少し出来る事が増えるという程度の物だ」
「何か作るつもりだったの?」
「カイロ」
「……
石を焼いて冷ました物を布で包んだ物だったかしら。
それにどうして、空気を抜く魔法がいるのだろう?
……まぁ、形になれば分かる話ね。
外で眠っている
「ともあれ、必要な旅装はほぼ完了だ。封魔鉱の特性だけを再現した魔力ライトも先ほど完成した」
「……ひどく時間を掛けていたけど、テントは?」
「収納性に加えて展開時の防御性と隠密性を最大限まで高めている。アインザームの素材を用いて隠密魔法を込めたから、人間や魔物、そこらの魔族程度ならば気付く事も出来ない」
「旅装というか、もはや冒険者の装備ね」
「まぁ。竜の革を主材に
「私の安全に対するその執念はどこから来るの?」
「? 当たり前の話だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「君の身を守る事は、私にとってもっとも意義のある事だ」
……つくづく、扱いに困る魔族君だ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「あれ、ミリアルデ……見ないと思ったら、やっぱり出かけてたの?」
「久しぶり、フリーレン。えぇ、少し遠出をしていたの」
それからもう少し、彼女が旅装という名の野戦装備を整えて、私はようやく出発した。
幸い道中は彼女の装備のおかげで、旅路の不快さは一切なかった。
あまりにすんなりと進んだおかげで、エルフの里がこんなに近かったかと不安に思ったほどだ。
恐らく、靴に疲労軽減に値する魔法も込められていたのだろう。
もっとも、暖房具もそうだが喉が渇いたと思った時にはお茶を淹れてくれて、小腹が空いたと思った時には果実や菓子を皿に盛り付けて提供してくれる魔族君がいないのが不便と言えば不便だった。
(……ひたすら保温にこだわってくれたのは助かるわね)
そして数か月ぶりに帰った我が家は――凄まじい程に何もなかった。
何もなくてただ寒いだけの家に、しばらくの間愕然としてしまった。
いっそ頼りになる同居人に頼めば、持ち運びができるコタツでも作ってくれただろうか。
あの羽毛を詰め込んだ布団もなく、ただの薄い毛布だけで良く寝られたものだとかつての自分に妙な感心をしてしまう。
「着てる服、それ凄いね。竜の革?」
「今の同居人がそういう……その……職人なの。一度帰ると言ったらアレコレ用意してくれたわ」
「へぇ……。男の人?」
「いいえ、同性。なぜ?」
「ミリアルデは聖女様で、強い男に守られているって里の皆が話してる」
「……下世話ね」
やはり、数か月で噂が消えてくれるわけがない。
ただでさえ何もしない事で知られていた私が、各地を駆け回って赤の勇者の戦いを見守り、人間を守っていたと一度噂になれば根強く残るだろう。
実際、自分でもらしくないとは思う。
「噂が流れ始めた時は彼女の事も流れていたハズなのに、どうして男という話になっているの?」
「そっちの方がしっくり来るからでしょ。ミリアルデが里を出て誰かと一緒にいる事の方が想像できないよ」
「それで……男に?」
「メルサがそう言ってた。女が変わる理由は絶対男だって……」
「まったく……。人間と付き合いがある子はそうなるのかしら」
今里の中にいるエルフはほとんどが女だが、その中でメルサというエルフは、恐らく里の中でもっとも娯楽に飢えているエルフだ。
元々は人間の町に住んでいたが、その町が魔王軍に滅ぼされてここに逃げ込んだ子だった。
おそらく、かつての暮らしに比べてここは刺激がなさすぎるのだろう。
気持ちは分からなくもない。
こうして生活が余りに変わると、何を得て何を失ったのかが一目瞭然だから。
「否定して回ると、却って騒ぎそうね」
「もう騒いでるよ。お金持ちと一緒になったって」
「……そっちは確かに否定が出来ないわね」
おそらく一国の王様や帝王でもおいそれと袖には出来ない数々を触って、ため息を吐く。
この装備や、あの小屋に置いてきた服の事を置いても、実際お金はある。
いざという時に役立つかもしれないと、ちょっとした魔道具や家具をキャラバンに売ったりしていたために、実はそれなりに資金の蓄えはある。
単に、使うまでもなく必要な物が全て揃っているので消費する機会がないだけで。
「でも、ちょっと安心した」
「? どうして?」
「いつもは見えなくなっても数日で姿を見かけていたのが、ちょっと長かったから」
「……そうね」
「だから、ひょっとしたら事故かなにかで、身動き取れなくなっているのかと思った」
「大丈夫、御覧のとおりよ」
「そうだね。それにちゃんと食べてたみたいだ」
「最後に見た時に比べて、ちょっとふっくらしてる」
「…………………………………………………………」
「ミリアルデ? どうしたの、顔を触ってふぎゅぅっ!!!」
とりあえず、このぁぅぁぅ呻いている同胞が泣いて謝るまで頬っぺたをこね続けることにした。
失敬な。
魔族君が栄養計算を間違うわけがないでしょう。
一応念のために釘を刺しておくけど。