ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
人を模倣する獣の朝は早い。
しばらくの間同居人が出かけて居なくなっているとはいえ、家事が無くなるわけではない。
むしろ、食事を提供する人間がいなくなった事で、久々に料理の研究が出来ると張り切っている。
朝日が昇る前には広くなったベッドを抜け出す。
いつものように隣で寝ているエルフを起こさないように気を遣う必要がないのだが、それでもゆっくり、音を立てないように床に足を下ろしてスリッパを履く。
獣の日課は、朝食の用意から入る。
自分一人だからといって手は抜かない。
彼女という存在が起動して料理に手を付けてから毎日、料理に手を抜いたことはほぼなかった。
通常の仕込みに加えて中に蜂蜜を練り込み、そして卵黄の上からも薄く蜂蜜を塗って焼いたクロワッサン二切れ、ほうれん草とチーズのオムレツ、甘さを同居人の好みに抑えたカフェオレ、試作した新しいドレッシングをかけたサラダ。
同居人に提供する練習であり演習でもあるそれは、盛り付けにすら手を抜いていない。
それらをいつものテーブルに並べて器が合っているかどうか、見栄えはいいかと確かめてから魔法で写真を撮ってから口にして、食べ終わったらすぐさま一番新しいレシピノートを取り出す。
先に書いていたレシピの横に完成図の写真を張り付け、実食した時の感想や、同居人の好みに合わせるための課題点を書きこむためだ。
その後自分の空間倉庫――その中で同居人に渡した弁当箱用に区分けした部分に干渉して消費量を確認する。
向こう側で帰郷のお祝いなどがあるかと思っていたが、どうやらキチンとこちらも食べているらしいことにホッとし、補充のメニューを組み立てる。
その後、ささっと浴室やトイレ、部屋を掃除して寝具のシーツやコタツの布団を取り換えベッドメイクやセットを終わらせ、洗濯をする。
もっとも、これらは魔法ですぐに終わらせるので大した手間ではない。
そこまで終わらせた時点で、昼食の用意までまだかなりの時間がある。
普段ならばここからは武術や剣術の鍛錬時間なのだが、今日は手札を増やす時間にすると決めた。
《花畑を作る魔法》
牧場の先の野原――主に剣術の基礎鍛錬に使う広場に魔法を行使し、一面の赤い薔薇を咲かせる。
本来ならばそのまま愛でる魔法だ。
一度、こうやって咲かせた花の花弁を鉄に変えて相手に飛ばして斬り裂く魔法も考えたのだが、
だから、一度だけ。
魔法を使って薔薇を刈り取る。
赤い薔薇の花が宙を舞い、バラバラの花弁となって手元に集まる。
そのまま獣は大きなシーツ――出不精の同居人を適度に歩かせるためのピクニックの際に使うそれを地面に広げて、花弁をその上に並べていく。
全てを隙間なくビッシリと並べ終えると、獣は手をかざして、構築していた魔法術式を展開しながら
《
人類では扱いきれない――理解の範疇の外にある魔族の魔法。
物に魔法を込め、それを調整し、己がもっとも求める効果を実現させる魔法。
摘み取り、並べられた魔法の花弁がそれを受けて、彼女が構築していた術式を取り込み、起動する。
花弁が一枚一枚舞い上がり、獣の周りを旋回し始める。
次第に花弁が集まり、獣の周囲はいつしか、赤く輝く薔薇に囲まれていた。
獣はそれを見て満足げに――あるいは悲し気に頷いてそれらを彼女の倉庫の中に戻してから、摘み取ってしまった薔薇をもう一度魔法で咲き誇らせる。
いずれ同居人とここで食事をしようと、薔薇園の脇にテーブルとベンチを適当に設置しようとしたところで、何かに気付いたようにピクリと顔を上げる。
「……? ミリアルデ? どうした、里には着いたのか?」
突然、そこに同居人がいるように話し始めた。
「そうか、良かった。ではなにか? 長距離での念話機能の確認だろうか? ……食事? 仕込み? 君から帰宅予定を聞いていないから当然まだ――聞きたい事?」
珍しくリクエストでもあるのだろうか。
それならば喜ばしい事だと、少し獣に気合が入る。
好き嫌いが激しく我儘の多かったフランメと違い、なんでも美味しいと言って食べてくれるのは同居人の美徳だ。
だが、感情が乏しいので微細な好みの差を読み取るのが大変なのだ。
口にしてくれるならそれに越したことはない。
「……栄養計算? もちろんだとも、いつだって君の健康と美容を第一に考えている。魔物が出た時の遠征時には量も含めて少々カロリーと塩分を高めにしているが、問題ない範疇……ランチボックスの食事を軽めにしてほしい?」
が、ちょっと様子がおかしい。
表情らしい表情を出さない獣の眉が八の字になる。
「待て、待ってくれミリアルデ。そもそもあのボックスの食事は活動中を想定している。君も昨日は長距離を歩いたのだろう? 片付けや整理、挨拶回りだって大変だろうし問題はないハズだ。そもそも、気にすることはないだろう。入浴時に毎日見ているのだ、君は美し――待て、わずかとはいえ念話ごしに殺気を込めないでくれ」
おそらく、この場に同居人がいれば珍しく目をまん丸くするだろう。
「すごく怖い」
獣の顔がしおしおになっているのだから。
「あぁ……了承した。とりあえず食事はそのまま摂ってくれ。量を過度に減らしたり、一食抜いたりはしないで欲しい。大丈夫だから。少々脂質や糖質を押さえた副菜を追加して、一日に一度はそれが出るようにしよう」
そしてどうやら、ここにいない同居人との会話が終わったようだ。
会話の片手間に作成していた木製のベンチに腰掛けて、獣はしばらく何かを考える。
「……キノコ料理を多くしよう」
獣の倉庫は場所を選ばない。
その場に出入口を発生させて、同居人の食事記録を確認する。
「それと野菜……根菜は駄目だ。葉野菜とタマネギで……」
好みは当然、自分の中に記録として残っている栄養の分析を元に、同居人の求める食事を組み立てる。
「……とりあえずは試作か。ブロードの仕込みからだな」
なんにせよ、あの無気力だった同居人から要望が生まれた。
その事を獣は我が事のように喜び、小屋へと戻り――
突然、その身体が破裂した。
右腕が吹き飛び、眼球が両方破裂する。
「……しまった。焦りすぎた」
だが、獣はその突然の崩壊を当然の物として受け入れている。
他の箇所も肉が弾け飛んだりしているが、そちらはすぐに再生している。
しばらくジッとしている内に、右腕と眼球も魔力で再構成され、元に戻る。
魔族は再生された右手で拳を作ったり開いたりして、一度弾け飛んだ眼球を瞼の上から軽く揉む。
「うん」
「あと少し」
「――――ん?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ミリアルデ、料理出来たんだ」
「そんなわけないでしょう、これらは私の同居人の作った物よ」
「でも昨日この箱空にしてたじゃん」
「そういう物なのよ、フリーレン……」
片付けはすぐに済んだ。
小屋の処理というか掃除は済ませ、なにかあった時は帰って来られるようにしているがこれでほぼ空き家だ。
里の人間には必要だったら好きに使っていいと言っている。
「すごく複雑な魔法だ。赤の勇者って、私達よりも長生きしたエルフ?」
「……まぁ、そんなところよ」
「…………」
「一つ食べる?」
「いいの?」
そしてあまり他人に関心のないエルフ達だが、皆こぞって彼女の事を聞きたがる。
各地を出回り、魔物を討伐しては怪我人を癒し、壊れた村を再建し、時には死の淵にいる者を現世に引き戻す奇跡の持ち主。
赤の勇者。
(
もっとも目の前の、私並みのものぐさエルフは目の前の魔道具と料理に気を取られているようだ。
木の針で鶏肉のフリットを突き刺して口の前に出してやると、まるで鳥や小動物の餌付けのようにパクリと口に入れて咀嚼する。
「うわ……
「ソイソースと言ってたわ。魔法の補助こそあったけど、調味液から作っていたのを覚えているわ」
モッシャモッシャとリスのように咀嚼しているフリーレンは、彼女のランチボックスを触って解析をしている。
「……なるほど、一個一個の部品に魔法をかけ合わせて効果を高めつつ、それぞれの魔法効果を支えてるのか……防毒に保温、蓋の内側全部にまでわざわざ……それに……なんだこれ、わかんないな」
「貴重な逸品にして今の私の生命線よ。壊さないでちょうだい」
とりあえず取り上げておこう。
フリーレンの解析能力は侮れない。
別にバレた所で私は出ていくし、なんならここのエルフが総出で彼女を襲ったとしても戦いになる気がしない。
神機一本にすら敵わないと見ている。いや、あれは魔法使いの天敵といっていい武装だけど。
そして、さすがにエルフ相手には使わないだろうが、ライヘンバッハなんて持ち出したら一瞬で死体の山が出来上がる。
神機以上の攻撃性能というだけはある。
絶対当たる弾丸の嵐はそのまま足止めとしてあまりに有効で、そのまま耐えた所でより攻撃的なミサイルという魔力が炸裂する弾丸が飛んで来るし、あるいはあの棺桶で障壁ごと叩き殺される。
(……もし魔王軍の一員だったのならば、とっくにエルフは皆殺しにされているわ)
出会った時の私の判断は、あまりにも見通しが甘かった。
彼女は魔力を完璧に隠匿しているし、同時に常に一定量を消費し続けている。
――これが私の魔力の仕掛けだ。
――……君はやはりデタラメね。骨や肉を改造したのが、今回が初めてじゃなかったなんて。
――そう。だからミリアルデ、提案なんだが……。
その魔力の総量なんて底が見えない。
噂の魔王軍幹部、七崩賢にも匹敵するだろう大魔族。
(勝てるイメージが全く湧かない。彼女は魔法使いじゃない。特級の
この里で一番強いのは、私が取り返したランチボックスとその中身を「ぐぬぬぬぬ」と睨んでいるフリーレンだ。
そうだ、私もエルフらしくそれなりに魔法は磨いているが、彼女には敵わないだろう。
月霊髄液がなければ。
これ一つで一気に前提が変わる。
彼女からは「頼りすぎると足を掬われるから他の手段も探しておけ」と言われているし、今まさに彼女の依頼と並行して研究中だが、この礼装と呼ばれる魔道具が余りに破格すぎる。
今回は使わなかったが、遠征の際には馬に変形させて私と彼女を運ばせる事もできるのだ。
万能にも程がある。
それ程の物を量産できてしまう彼女が人類の敵ならば、そもそも意味がない。
人の言葉を真似るだけの獣に理屈を求めてはいけないのかもしれないが……。
「いつも作ってもらってるんだ」
「そうね」
「三食全部?」
「……五、かしら」
「五?」
「ティータイムと晩酌のおつまみで一回ずつ」
そういうと、フリーレンはランチボックスから目を放し、私に近づいてくる。
背中から抱き着いて、身体に手を回して、
「いくらなんでもそれはずるいよ、ミリアルデ」
すっごい力で締め付けて来た。
痛――くはないけど苦しい。
「自覚はあるわ。さすがの私も働くようになったし」
「何やってるの?」
「魔法の研究よ。彼女が求める効果は複雑な事が多いから、その役割を請け負ってるの」
更に力が込められた。
このエルフは、彼女の付与した対物理性を破るつもりだろうか。
「……いい匂いもするし」
「お風呂かしら。あと香料を練ったソープ……
効いていないのが分かったのか、今度は剥き出しの首筋に噛みついてきた。
人の肉に牙を突き立てるなんて、フリーレンはいつから魔族になったのかしら。
魔族君の方がよっぽど紳士的で、文化的だわ。
……ん?
「フリーレン」
「なに」
「私の服を解析するのをやめなさい」
「……ちょっとだけ。完全に水を弾く魔法の構成だけ」
「……………………………………………………」
この前のように捏ねまわそう。
泣くまで捏ねまわしてやろう。
そう決意して手を伸ばすのと同時に、
轟音が、エルフの村を呑み込んだ。
大体なんでも直す魔法。レ・パーロ。
レパロではない、レ・パーロ。
ハリポタではあるが、某ゲームOPのフィグ先生の唱え方である。
あの発音なんか好き