ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
この数年で魔王軍前線部隊の一割を使って追いかけ、そしてその悉くを壊滅させた魔族が目の前に出現している。
――《
その姿を見た瞬間、反射的に私が魔法を発動させる。
これまでありとあらゆる強者を、それこそ魔族だろうとそのほとんどに膝を突かせたソレを受けて――
「……また君か、グラオザーム。ここまで来ると腐れ縁だ」
平然としていた。
確かに半年前にもこの
「名無し……っ」
それでも、確かにこの魔族は夢に捕らわれ膝を突いたのだ。
私の魔法は確かに届いたのだ。
「その呼び名も嫌いではないが、もう私は名無しではない」
幾度か相対した存在。
初めて見た時は燃え滓だった。
その中身には何もなく、立ち上がる事すら出来ない魔族の
「我が主人より、
次に会った時は、魔王様直々の命での勧誘を跳ねのけ、その部隊を壊滅させた
(我が主人……ですか……)
かすかに呼吸をしているだけだった残骸とでも言うべき存在が、恐るべき強者となっていた。
自分の前に七崩賢の座についていた者とその配下を討ち取り、さらに彼女の森を取り囲んでいた魔王軍の悉くを殺し尽くした。
ついに当時の魔王軍が大きく後退せざるを得なくなる程に。
以降、シュラハトからはあの森を出るまで絶対に手を出すなと厳命が下される程に――なんとしても彼女を掌中に置くか、あるいは殺しておきたい魔王様を必死に説得したと耳にした――名無しは危険な存在となっていた。
その後三百年近く彼女は動かず、ずっと森の中に潜んでいたが……。
「名無し。いえ、セイバー」
主人とその剣の会話が終わり、彼女がこちらに向き合う。
魔王が滅ぼすべき存在だというエルフと、同胞であるハズの魔族の主従が。
ずっと一人で、あるいは統一帝国や各諸国の軍勢よりも魔王軍に立ち向かった魔族に、声をかける。
「貴女が魔族でありながら魔王軍に対して反旗を翻したのは、復讐のためですか?」
魔族らしく表情を見せないセイバーと別に、似てはいるが感情のあるエルフが疑問そうな顔をする。
「シュラハトから、もしエルフの里に貴女が現れたのならば、改めて伝えておくようにと言われている事があります」
「……彼はなんと?」
「『申し訳なかった』と。伝言だというのに、深く頭を下げていましたよ」
どうしてそうなったかは分からないが、何があったかは知っている。
その末路を、自分は見た。
正直、魔族でありながら魔族という存在を憎み、殺して回ってもおかしくない。
彼女には、魔王軍に敵対するだけの理由がある。憎悪がある。
「……その謝罪を受け取るべき存在は、もういない。私に多くの記録を残して、擦り切れた」
「そのようですね」
発動させているにも拘わらず、彼女の心へ侵入できない。
初めて彼女を見た時は、何かの魔法で守られている区画以外、全て空っぽの虚無だった。
どれだけ魔力のないただの人間にでも存在する、かすかな反発すらなかった。
だが、今はまったく違う。
明確な中身を持った上で、それを見せるものかと抵抗している。
「ゆえに魔王軍の……同胞への嫌悪はあれど憎悪はない」
彼女が手にしている剣――戦場で何度も見る、彼女が好むのだろう片刃の細剣。
絶刀・鉋。*1
多くの魔族が欲してやまない、彼女の魔剣の一つ。
「引け、グラオザーム。ここは我が主の故郷だ。これ以上荒らさず立ち去るというのならば、こちらも刃を下ろそう」
「それは出来ません。魔王様の望みはエルフの根絶。そこで私の夢に捕らわれているエルフも、貴女の主も殺さなくてはならない」
なぜなのかは知らない。
正しく魔王の意思を知る者など、シュラハトくらいのものだろう。
「そうか。ならば、仕方ない」
故に、決別は絶対だった。
なにより、彼女という存在を魔王が欲している。
戦いのために彼女が宙に手をかざし――
「…………なるほど」
動きが止まる。
「半年前の戦いで、その魔法の持ち主は倒したと思っていたが……五感を狂わされていたか」
彼女との戦いで必ず見る黄金の波紋。
多種多様な武器を取り出す、無限の蔵。
その波紋が、彼女の手の先で発生しない。
「《空間を固定する魔法》」
彼女の心を捕らえる事は出来ない。
外に張っていた五感を狂わせる結界も一瞬で破られた以上、彼女はこの半年で、どうやってか精神魔法に対して尋常ならざる耐性を得たと見ていい。
「本来ならばなんと言う事はない、空間に力場を作り壁や足場を作るだけでしかない魔法です」
ゆえに、対策は二重に。
ならば、どう行動しても誤差だろう。
ここで彼女を討ち取れる可能性は低いとシュラハトは言うが、戦うのならば最大限の警戒をと忠告された。
(可能性は低い。つまり……勝ち目がないわけではない。ということだ)
ここで、倒しておかねばならない。
「ですが、使い方次第で貴女に対しては膨大な手札を封じる効果があったようだ」
なんとしても彼女を捕らえ、あるいは殺さねばならない。
「……武器を封じただけで私に勝てると? それならリヴァーレを連れてくるべきだ」
「まだ回復していないのです。……喜んでいましたよ、貴女という強者の誕生を」
二年前の追撃戦。その後の決戦において、彼女に深手を与えた将軍。
三日間に渡る激闘の末に彼女の動きを封じ、ようやく生け捕りに成功したかと思いきや彼女の繰り出した技によって相打ちとなった魔王軍最強の戦士。
両の腕のみで地面を叩き宙へと舞い上がり、飛び降りる勢いを利用してリヴァーレの両肩を切り裂いた左右の手刀による一撃。
「
「こちらは手加減されていた上で足を切断された。実質彼の勝ちだろうに」
言葉を挟みながらも、彼女を包囲する。
彼女の主は、夢の中にいるエルフを抱き抱えて、銀色の液体で作られたアーティファクトで守りに入っている。
エルフに臣従する魔族。
あまりにも異例な存在。
これが単なる異例だったのならばまだしも、彼女の存在は余りに
「……やれ」
周囲の魔族と共に、出来る限りの攻撃魔法を撃ち込む。
彼女のアーティファクトが切り替え出来ない今こそ――今しか機会がない。
閃光が、魔雷が、血の刃が、彼女に突き刺さり――
――11式
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
魔族達の魔法が撃ち込まれる。
その魔法がそれぞれの手元で輝く瞬間に、確かに見た。
武器を取り損ねた
「11式」
わずかな傷ではありえない程の血液が噴き出す。
まるで血しぶきのようなそれを、取り囲む魔族らに合わせるようにグルンと振り払い――
「
次の瞬間、魔族や魔物たちの三割、周囲の最前列にいた者達が弾け飛んだ。
彼女が血の刃を飛ばした。
最初はそう思ったが、実態は少々違った。
彼女が飛ばした血液のしぶき。
その一つ一つが集まり、周囲に小さなそれを生み出していた。
それは十字架だった。
それは、人間ならば誰もが目にする象徴だった。
それは、翼を持つ聖なる証だった。
「……馬鹿な」
グラオザームと彼女が呼ぶ魔族が、幾度目かの驚愕を見せる。
「女神の紋章? いや、血でそれを
今まさに大勢の魔族を撃ち滅ぼした、大小多数の聖印を見て、あり得ないと小さく零す。
「なぜ、貴女の血液そのものから
幾度目かの「あり得ない」を繰り返すグラオザームに、彼女は返す。
「
「……馬鹿な、そんなこと」
「そうだ、出来ない。出来なかった。だからまずは体中の骨と血管に聖句を刻み付けた」
操血の魔法を使っているのだろう。
彼女の血液は、彼女の右手に留まったままいつでも彼女の技の発動を待っている。
「そうして全てを刻み付けて、効果は感じたが絶対ではない。だから、意識がある時は常に女神に祈り続けた」
「それに何の意味が?」
「分からない」
魔族である彼女の剣を、多数の魔族が明らかに恐れている。
「だが、祈りを捧げる時は全身が弾ける程の激痛が走った」
先ほど攻撃する瞬間まであった威勢が削がれ、全員距離を取り始めている。
「痛みが走ったと言う事は、そこに力が発生しているという事だ。創世の女神様の力が、この身に確かに流れた事の証だった」
「故に、私は祈りを捧げ続けた」
「その日の活動の開始から終了まで、口に出さずとも」
「激痛に負けて体が破裂しようとも、眼球が弾けようとも祈りを捧げ続けた」
そんな話は聞いていない。
これが終わったらお仕置きせねばならないだろう。
「そうしている内に痛みが魔力と連動している事に気が付いた。回復魔法や解呪の魔法も質が跳ね上がり、魔力の追跡すら範囲が広がった」
彼女が一歩踏み出すだけで、散々エルフを殺し、嬲り、食っていた怪物たちが引いていく。
「自分の血液が、聖水のそれとなっている事に気が付いてから更に進めた。血液が聖別出来たのであれば、それが流れこむ全てを聖別出来ると言う事」
「この血液、この肉、口、舌、歯、爪、体毛、眼球そして臓腑」
「その全ての聖別を終えたところに、マスターの魔力を取り込み完了した」
グラオザームという魔族が、魔族らしくなく顔を蒼褪めさせている。
当然だろう。もはや武器どうこうの話ではない。
たとえ武器などなくとも、彼女は魔族に対して絶対の天敵となった。
「もう身を引き裂くような痛みはない」
彼女の血液は退魔の刃に。
彼女の拳は退魔の拳に。
「魔力を全身に回し、漲らせ、祈りを捧げても……肉はおろか眼球一つ破裂しない」
戦いの場であるにも拘わらず、彼女はその場に膝を突き、手を組み合わせる。
「感謝を、創世の女神様。この獣の戦、どうかご照覧を」
隙だらけと言えるその姿を好機と見たのか、あるいは恐れから逸ったのか。
五体ほどの魔族が武器を手に襲い掛かる。
加速か、あるいは増強系の魔法だろう。
「――笑止」
だが、次の瞬間には肉を裂き、骨を砕く鈍い音と共に動きが止まる。
全員の眉間に、血で作られた剣が刺さっていた。
いつもの剣とは違う、奇妙な取っ手の剣。
握って使うというよりは、槍か何かに取り付けて補助とするような剣だ。*4
魔力障壁の一つで容易く弾けそうなその一撃は、反射的に間に合った一体の障壁を容易く刺し貫き、その先にある魔族の額に命中している。
「言葉を利用する正しき我が同胞よ」
敵は多数。
「言葉の意味を介さず、ただ人を喰らう正常なる我が同種よ」
逃げ場はなし。
「憎み給え」
戦えるのは私と彼女だけ。
「赦し給え」
状況は圧倒的不利だと言うのに、まったく恐怖がない。
「諦め給え」
それは諦観でも、そして絶望でもなかった。
「人の世を守るために行う――我が蛮行を」
「ブレングリード流血闘術、推して参る」
完全に好き勝手やりたい放題やってるこの作品を楽しんで、感想で合いの手を始めとする燃料くださってる皆様に感謝しかねーです。
おかげさまで累計入り果たしました。