ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」   作:rikka

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「ぜぇ……はぁ………っ……よ、よし……よし! 不意打ちの隠し玉……なし! 全部散った……っ………ぉえっ……」

「ビットの稼働限界ギリギリまでの防御、お疲れ。よくやった」

 

 奇妙な赤い剣士様と唐突に師弟関係を結んで二か月。

 最初に出会ったあの広場辺りにキャンプを敷いているという剣士様――もとい、お師様は徐々に村の人間にも知られるようになってきた。

 

 どうも村には入らないという決まりを作っているようで中に入る事はないのだが、村や畑の拡張の際の手伝いや護衛の仕事をミリアルデさん――ミリアルデ様を通して請け負う事があり、その際に魔物を鮮やかに倒したのもあって信用はされるようになった。

 

 お師様の主人であるミリアルデ様も、時折すごく高そうな家具や調度品を交換や売買に来たり、私も一緒になって大きな町までの商隊(という名の買い出し隊)を護衛する旅をしたりとする内に、お師様は剣士であると同時に知恵者であると知られるようになった。

 

 恐らく、護衛の旅の中でも続けられた剣の訓練と、算術を始めとする座学の講義を大人たちが聞いていたからだろう。

 

「電光丸を外して一月でここまで育つとは想定外だ。防御に関して君の身体はかなり相性が良い。予定ではもう一月くらいは被弾すると思っていたし、そもそも電光丸を外すのが今頃になるハズだった」

「あれ、凄く痛いんですけど……」

「痛いで済むのならば安いものだよ、モニカ」

 

「……まぁ、それに関してはセイバーが正しいけれど」

 

 村はずれ――ではなくその外での簡易キャンプ。

 お師様とミリアルデ様がどこかに敷いてる本拠とは別の、私が練習をする時の拠点になっている場所で、お師様の主従が並んで丸太を加工した椅子に腰を掛けている。

 

「本当にごめんなさいね。自分の身体に対して無頓着でブレーキがないのは知っていたけど、ほぼ初対面の相手にまでそのまま突っ込むとは思ってなかったわ」

「……もっとも安全かつ効率的な方法だと思うのだが……」

 

 私が放浪者に剣を教わっている。

 お師様が認められた今ではそうでもないのだが、当初は妙な目で見てくる者が多かった。

 

「安心してモニカ。ちゃんとお仕置きはしておいたわ」

「……ちなみに、なにしたんですか?」

 

 当初は焚火の上に鍋を吊り下げられるように棒を組んだ簡素な物だったのが、今ではお師様が集めた石で立派な竈が出来ていて、村の炊事場よりも随分と立派な物が出来ている。

 

 今乗せられている大鍋の中では、お師様が弓で仕留めた鳥肉と山菜のシチューがグツグツと煮込まれてる。

 とにかく煮込んだ茶色や赤いシチューしか知らなかった村娘の私にとって、お師様が今煮込んでいる真っ白なシチューを始めとする数々の料理はどれも刺激的な物ばかりだ。

 

(下手に村の人間に知られると絶対面倒な事になる奴だよなぁ、コレ……)

 

 疲れ切った、だけど剣を習い始めた当初に比べて余力のある身体を引き摺って、私も二人の隣に作られている同じ長椅子に腰を下ろす。

 

 そのまま横になっては駄目だろうか。

 お師様、また膝を貸してくれませんかね。

 火の番してるから駄目ですよねそうですよね。

 

「……一画目で身体の動きを封じられ、重ねてもう一画で肌の感度を跳ね上げられた上で一晩中くすぐり倒された。ぐっすり寝れば一画ずつ回復するとはいえ、こんな使い方をされるとは……」

「……所々分からない単語が入ってますけど、それキツいんですか? いや、くすぐりの苦しさは分かりますけど」

「その苦しさの三千倍だ。途中から苦しいのか痛いのか気持ちいいのか分からなくなって、気が付いたら意識を失っていた。…………死が見えたのは本当に久しい」

 

 本当に苦しかったのか、お師様が珍しく顔をシオシオとさせて震えている。

 

 逆にミリアルデ様は、珍しく柔らかい表情でお師様をじっと見つめている。

 ああ。

 私でも分かる。

 アレは『機会があればまたやろう』と考えている目だ。

 

 そっとお師様の脇腹に手を這わせて、火を見ているお師様が一瞬顔をシオシオにさせて固まった。

 

 南無。

 

「まぁいい。今日は昼食を終えたら軽いストレッチと運動だけして、後は座学だ。算術に関してもう少し基礎を詰めておきたい」

「お師様、なにかと算術を重視しますね。戦いに使いますか?」

「私の……えぇと、技術に用いるので少々偏っている自覚はある。それに……例えば……だが……」

 

 お師様の紅い外套の下から黄金の輝きが漏れて、先ほどまで相手をしていた薔薇の花弁が舞い散る。

 

 この二か月余り散々自分を吹っ飛ばしたにっくき奴だ。

 

 今普通に咲き誇っている薔薇を目にしたら、それが人の育てた物であろうと反射的に火を付けて焼き払おうとするかもしれない。

 

「今出したこの花弁たちは何組になる?」

「十二組です。お師様のそれは一組が花弁八枚で構成されているので」

「今私が攻撃したとして、対処は?」

「五組ごとに私の斜め左右を押さえて、一組は高所、もう一組はお師様が予備として手元に残しているので……左側の花弁(ビット)に飛び込んで斬り払い、手数を減らします」

「左陣を選んだ理由は?」

「ギリギリですが間合いに入れられるし、私の斬り方だとそちらの方がわずかにですが斬るのが早いです」

「確実か?」

「はい。間合いを何度も測って覚えさせられたので」

「そう。そういうことだ」

 

 数の足し引きに加えて掛け算割り算の四つで構成される、四則演算という物はこの一月余りで叩き込まれている。

 後は、ミリアルデ様の距離を測る魔法で量産した、私の腕の長さと同じ紐を地面に並べて腕何本でこの距離になるというのも目で見せられたりしている。

 

「戦いの場において戦況を把握する感覚は大事だが、それを『数字』を通してより正確に把握することも極めて大事」

「でも、今の段階終わったら感覚を鍛えるために目隠しして今の訓練やるんですよね?」

「感覚も並んで大事。把握する手段に選択肢を持っておくことは不利な状況でこそ役に立つ」

 

 ……まぁ、実際大事なのだろう。

 

 この間いつものガキ共が「剣習ってんなら強いんだろう!!?」とかいって棒切れでじゃれて来たけど、あっさりガキ共が手にした棒を素手で受け止めて絡め取った時など、むしろ自分が驚いた。

 

 お師様の腕は確かだ。

 教えるのも非常に上手い。

 殺人的なキツさはあっても、そこには確かな理由がある。

 

「というかモニカ。唆しておいてなんだけど、よくセイバーの訓練に着いていくわね。放り出しても別に構わなかったのに」

「ええ。……吐くまで走らされた二日目の後に、お師様もそうおっしゃってましたけど……」

 

 恐らく、先ほど言ってたお仕置きを受けた後だったのだろう。

 筋肉痛で碌に動けずグッタリしていた私以上にグッタリしていたので覚えている。

 

 それでも平然と山の中を走れるからこの人ホントヤバいわ。

 

「……死ぬほどキツいと言っても上限は見極めてくれますし、剣以外に色んなことを教えてくれますので」

「? そうなの?」

「算術もそうですけど、花の育て方に薬草の見分け方と使い方とか、栄養学に料理とか……それに聖典の魔法を使わない医療技術なんかも」

「算術と料理以外は全て(さわ)りだけだが、役に立ちそうなことには一通り触れさせようと考えている」

 

 本当にその通りで至れり尽くせりなので、正直困る。

 

 読み書きは子供のうちに教えられる仕組みが出来ていたが、ここまで高度な教育を受けているのは多分私だけだろう。

 

 あるいは使えるかもしれないと、聖典の要約までしていただいたのは大きい。

 もし、いつか村を出て町を頼る時にこれらの知識は大きく力になる。

 

「それに、お師様達と一緒に商隊護衛について初めて、この村が本当に危うい状況にあると分かったので」

「……自警団がほぼ壊滅し、だけど助けを呼ぶだけの余力もない」

「同行した商隊の代表が、町に着いた時に領主軍へ常駐していただけないかと陳情したそうですが……色よい返事はもらえなかったそうです」

「でしょうね。私達が通ったルートが最短であるのならば、それなりの武力を持った中継地点が三つは欲しい所よ」

 

 その通りだ。

 今の私達はどこにもいけない。

 

 魔王軍の影響で魔物へ対処する力がどんどん弱まり、気が付いたら滅びている村なんて山ほどある。

 私の両親が生きていた時――まだ村に余力があった時には道中にいくつか村があって、そこで補給や取引を繰り返しながら大きな町を目指していた筈だ。

 

「村の人達、喜んでましたよ。久々に外の品を仕入れる事が出来たって」

「一通り狩り尽くしたハズなんだが、すでに新たな魔物が発生していたからな……」

 

 そうだ。

 お師様は強い。

 この一月の間だけでかなりの数の魔物を狩っている。

 

 狩っているのに……。

 

「あぁ、そういえば貴女達、一度フィールドトリップとか言って隣村まで行ってきた事があったね。その時は?」

「村人が全員昏睡状態で、モニカも寝てしまって慌てて元凶を探し出して討伐する羽目になった」

「ぁああああぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……その節は爆睡してて本当にすいませんでしたぁぁぁぁ……」

 

 あの時は本当に申し訳なかった。

 お師様曰く、女神様の加護がなければどうしようもないものだったらしいが……気が付いたら事を終えたお師様に抱き抱えられて隣村から離れている所だった。

 

「あぁ、そうか。いきなり村の拡張を進め始めたのはそれか」

「はい。きっとお師様がいてくれる間に、もう少し蓄えられるだけの畑を作りたいんだと思います。外に出た時の危険度はずっと上がり続けているので」

 

 自分がお師様に剣を習うことを誰も何も言わないのは、多分引き延ばしを狙っているからだろう。

 

 ひょっとしたら、お師様を村に引き込みたいのかもしれない。

 

 魔法を使うエルフと、同じように魔法を使う異端者を嫌悪する声はあるが、それ以上に恩恵のほうが大きい。

 畑の拡張作業で実際にお師様の強さを見た大人達には、さぞ魅力的に映ったハズだ。

 

「……セイバー」

「ん?」

「仮に君なら、どう解決するの?」

「移住するしかないだろう」

 

 ミリアルデ様がそうお師様に尋ねるが、お師様の答えはあっさりしたものだ。

 

「商隊はおろか領主軍の行き来が困難な程の奥地に()()()()()()のがそもそもの問題点だ。ならば領主軍が往来しやすい主要街道に近い所に村を移動させて、守りを固めながら領主が『守るだけの価値』を作っていくしかない」

「……ですよね」

 

 あの悪ガキ共の言う事はもっともなのだ。

 前ならば山菜狩りなんて自警団の護衛が付くのが当たり前だった。

 女一人でバラけて行動することなんてまずなかった。

 まず許されなかった。

 それがああして老若問わずバラバラに働かされたという事は――

 

 本当に、もうギリギリなのだろう。

 

 悪ガキ共を行かせなかったのはかえって労力が掛かると判断したのか。

 あるいは目の届く範囲でやらせることがあったのか。

 

 明らかに、私が十六年生きて来た村は衰退の道を進んでいる。

 

「でも、それは村の人間達が決断する事だ」

 

 鍋の煮込みがいい感じになったと感じたのだろうお師様が、鍋の蓋を取って木べらでグルリとかき混ぜる。

 

「そろそろ食べよう。動いたのだから栄養はしっかり取ってくれ。身体が出来れば更に君は強くなる」

 

 小麦や牛乳をふんだんに使った真っ白なシチューは、一緒に煮込んでいた鶏肉が手にした木べらで少し押しただけで割ける程ホロホロに煮えている。

 

「私達の移動拠点が完成するまでには、君を魔物と戦って討伐――最低でも撤退できるように鍛え上げて見せよう」

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 セイバーと彼女のその日の指導が終わり、彼女が村に戻っていくのを見送ってから私達は私達の家に戻る。

 

 当初の予定に比べて内部の拡張が遅くなっているが、徐々に完成しつつある新居。

 食事はモニカも含めて三人で取る事が多くなったので、戻ってすぐにお風呂に入って汗を流してから、リビングでお酒を嗜みながらセイバーに尋ねる。

 

「貴女からみて、モニカという人間はどうなの?」

「才はある。初めて出会った時からそう感じていたが、実際に動かしてみて今は確信している」

 

 精々振り方だけを教えるかと思ったセイバーは、存外モニカという少女を気に入ったようだ。

 本格的に、彼女に対魔物戦を教えるつもりのようだ。

 

「最初に出会った時。私が倒した魔物に驚いた時に、彼女は反射的に距離を取ろうとしていた」

「? 普通じゃないの?」

「動ける人間と動けない人間が大体半々だ。そして彼女は動いた」

 

 今日釣った川魚を、臭み取りをしてから焼いて身をほぐし、オニオンとオリーブとオイル、そしてとろけたチーズを足して混ぜ合わせたパテ。

 それをクラッカーに乗せて口に放り込んで、味わってからオレンジのエールで流し込む。

 

 いつも通りに、予想を超えた美味が舌に乗せられる。

 いつも通りだ。料理に関して彼女が手を抜くことはない。

 

「そしてその後、魔物を倒した後に自分の荷物を回収した時の動きも良かった」

「動き?」

「物を拾う時の動き全てが、身体の負担を最小にするものだった」

 

 ふと、セイバーが操る薔薇の花弁による全方位からの攻撃に対応する彼女の自動防御剣を必死に握りしめて立ち続けたモニカの姿を思い出す。

 最初の一週間は剣を手放した瞬間に倒れていたのが、それを越えてからは疲れ果てても倒れるまではいかなかった事に、セイバーが驚いていたのをよく覚えている。

 

「多数を相手にすることが多い対魔物戦に向いている」

「……いきなりあの薔薇を使った事が気になっていたけど……」

「電光丸を使わせることで、どれだけ体が動くかの確認だった。だが、モニカは私の想像を超えた才を示して見せた」

 

 思えば、それからセイバーは本格的にモニカに色々と教え始めた。

 

 あのセイバーが片手間レベルとはいえ剣以外にアレコレ――料理まで教えているのだ。彼女が他人と絡む時にどうなるのかを見たくて試しに適当な娘を当たらせてみたが、中々に面白い物をみれそうだ。

 

「そういえば、ミリアルデ」

「なにかしら?」

「今となっては貴重な経験をさせてもらっている事に感謝しているが、どうして彼女を私に?」

「貴女が言った通りよ。貴女という獣が本当に人間を相手にした時、どう動くかを確認しておきたかったのよ」

 

 警戒も確かにあった。 

 セイバーが魔族と敵対する者であることにもはや疑いはないが、それでも彼女が人間と接する所を見たことがない。

 フランメと言う名の前例があったらしいが、私がこの目で見たわけではない。

 

「あまりに危険ではないのか? いや、自分で言うのもなんだが」

「危険だからよ」

「?」

 

 あら。

 分からないのかしら?

 

「万が一ここで貴女が人を襲ったら令呪を使って処分するけど、同時にこれだけ奥地ならばエルフが連れた魔族が人を襲ったなんて噂は広がりようがないでしょう? 対処しやすいわ」

「……………………なる……ほど」

 

 

 

 

 

「ミリアルデ、君は頭魔族か?」

「エルフよ」

「いや、いくらなんでも発想に人の心が――」

 

令呪を以って命ずる――』

 

「待て、待て。話し合おうマスター。我々主従には対話が必要だ。分かるだろう?」

 

朝日が昇るまで抵抗しないで

 

「マスター!!!!」

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