ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
舞い散る花弁に加えて、今のお師様の周りには蒼く分厚く、そして細長い棺桶のようなものが左右六枚、計十二枚、まるで翼のように固めている。
ローゼスビットというもはや訓練において当たり前になった遍在無限の全方位攻撃に加えて、それそのものが盾である棺桶の翼――『ヴァーダント』*1とお師様が名付けた鉄壁の防御は、同時にお師様の武器庫でもある。
今回は使わないと言っているが、これにミリアルデ様も使っている水銀の盾とか本当にどう突破しろというのか。
お師様には珍しい、同型の木製の片刃剣二本を左右に持って自然な形で構えている。
いつもならば私と同じ木剣一本か、馬鹿でかい大剣のどちらかなのに。
ともあれ、あの二刀はそれでもお師様のお手製だ。鋭さはなくとも鈍器としては十分すぎる出来のハズ。
(ビット攻撃を切り抜けて接近しても、中・上段からの攻撃ではほぼ確実に『ヴァーダント』に阻まれる。下段からは体勢を低くするためのワンテンポが必要だけどそのために攻撃速度が緩んだら、すぐさまビットに再包囲されて撃ち抜かれてアウト)
自分が持っているのも、お師様のお手製だ。
えらく頑丈な木剣――お師様が刀と呼んで好んでいる片刃剣を模しているため、木刀と呼んでいたか。
握りの所にお師様がたまに使う変な記号文字――なんでもどこかの湖の名前らしいものが彫られていて、しかも握りの底にあるボタンを押すと切っ先からソイソースが出る。*2
なんでソイソース?
いや、トマトソースやヴルーテと同じくらいお師様の料理に出てくるソースだけど。
一応頑丈だし、この間の初実戦でも魔物の攻撃受け止められたけど……ホント、なんで?
というかなんで受け止められたんだろう。
私が咄嗟に受け止めたの、小さい魔物の爪とか牙じゃなくて私の五倍はあるデカブツが振り回してた鉄のこん棒だったんだけど。
(チャンスがあるとすれば、ヴァーダントが防御のために畳まれる瞬間。その時懐に潜り込めれば……)
薔薇の花弁が動き、纏まり始める。
攻撃が始まる。
勝手に身体を動かせる剣を握っていた時に身を以て知らされた攻撃の熱を感じる。
全方位。恐らくは三段階に分けての偏差攻撃だ。相変わらず容赦がない。
――バシュッ! バシュッ! バシュッ!
(来た……っ!)
花弁が花となって光り、魔力弾が発射される。
(とにかく足を止めない事!!)
お師様や実際の魔物と戦って分かったが、武器で戦うのならとにかく足を止めない事が極めて大事だ。
防戦一方では確かに長く生きられるけど、逆転させるために必要な相手を有効間合いに入れる事が極めて困難になる。
そもそも防戦一方に持ち込んでも傷は負うしダメージは蓄積されるのだ。
とにかく、多少の被弾は覚悟でこちらに有利な――あるいは相手にとって不都合な位置に身体を近づける。
出来れば間合いまで三歩以内。最低でも五歩以内でないと攻防が成り立たない。
「射線を読み切った上で最小のブレで回避しながら走ったか」
こちらの動きを見て、お師様が相変わらずの無表情のまま評価する。
「やはり、実戦を経て動きがますます良くなった」
「いきなり魔物の群れの中に文字通り投げ入れたのはホントどうかと思いますよお師様!!」
身体が動けたのはホント奇跡だった!
気配を消す訓練だと言ってたからそれに集中してたら、突然首根っこ掴まれて群れの中に放り込まれたのだ。
死ぬかと思ったけど、死ぬまでにお師様にドロップキックをかまさなければ死ぬに死ねないと必死に身体を動かした。
一匹倒して、二匹倒して、三匹倒して――なんとか十匹近くの群れを全滅させた途端にあのこん棒デカブツが現れて、そこでようやく「よくやった。想定以上だ」とかあの無表情のまま抜かしながら参戦したので即座に実行に移した。まぁ避けられたが。
(三連射……回避完了、次弾の魔力装填の間に――お師様が構えた!?)
ヴァーダントの左翼側が動き、お師様の前面を守るように折りたたまれる。
(先んじて守りを固め……いや違――これ攻撃だ!!)
――ガギィィィィィ……っ……
反射的に木刀を防御の形に持ち替え、踏ん張るのと同時に重い衝撃が来た。
棺桶の翼を盾にしての突進攻撃。
これまでのお師様にはなかった重い牽制の一撃。
いや、単純に訓練だったからしなかっただけか。
多分、これが本来のお師様の戦い方だ。
多彩な遠距離攻撃を持つお師様だけど、本質は戦士。
お師様の言葉で言えば、インファイターなのだ。
(とはいえ、遠距離戦に徹されると文字通り圧殺されるからインに入らざるを得ないってのが色々おかしいよねこの人……!)
初めて見るお師様の二刀流。
双剣の扱いも教えてもらったことがあるが、二刀を使う時は左右で長さを変えるのが基本だと言っていた当人が全く同じ長さの二本を器用に使って連撃を仕掛けてくる。
どうにかそれを木刀一本でさばき切るが、半歩ほど間が空いてしまった。
すぐさまお師様が次の攻撃体勢に移る。
構えから見て交差させて斬る大技。狙いは体勢を崩す事――技が放たれる前に踏み込んで斬りかかり、相殺する。
即座にビットによる牽制の魔力弾が飛んで来るので、肌の感覚を頼りに最小の動きで予測したチラリと見えた先ほどまでのビット展開を元に射線を予想し、回避行動に移る。
頬に「ビッ」と鋭く軽い痛みが走る。
それだけだ。吹き飛ばされる程の衝撃も痛みもない。
直撃なし……っ!
「もうその感覚を身に付けつつあるか……。本当に君の成長速度は目を見張るものがある」
棺桶の一枚を踏みつけ、跳躍する。
一撃。
ただそれだけを狙って木刀を握りしめる手に力を込める。
(棺桶と棺桶の隙間をついて……狙うのは首!)
ここから体勢的に防御に入るのは無理。
位置を大きく変えたため、ほんの一瞬だがビットの牽制もここならば届かない。
「獲った!!」
「そんなわけがないだろう」
だが次の瞬間、お師様が両手の剣を捨てて棺桶に手を伸ばす。
その中から全く同じ木刀を引き抜き、突きの体勢に入っていた私にその切っ先を当てて――
「ぶふうぇぇぇぇぇっ!!!?」
思いっきり地面に叩きつけられた。
「間を見つけたのは見事だが、戦い慣れている者は当然その隙に備えている。思い切りはよかったが、そこを真芯に突くには手札や重さが足りなかったな」
ホントこの人容赦ない。身体が動かせない程疲れたら抱きかかえて運んでくれるし料理は美味しいし、訓練終わったら甘やかしてくれるけど訓練時だけはマジで人でなしだ。
骨が折れようがこの人女神様の魔法で治せるから余計に質が悪い。
「だが、かなり成長している。これからは普通に戦闘に参加させるから常に備えておくように」
「すでに身体に多大なダメージが入っているんですがそれは……」
「……そうか。受け止め方は教えていたが受け身はまだまだか」
「分かった。続けて受け身の訓練に入ろう。形を教えたらそれぞれ百回地面に叩きつけるので上手くダメージを吸収してみせるように」
「藪蛇だった……」
「……君達は、旅の最中でも変わらず厳しい鍛錬を続けるのね」
「ミリアルデ様ぁぁぁ……。お師様にもうちょっと手加減するように言ってやってくださいぃぃぃ……」
「たとえ令呪を切られても断固として辞退する覚悟だ。ほら、立ってくれモニカ」
「うぼえぇぇぇぇえぇぇぇぇ……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
お師様と出会ってから春を終えて、夏を越え、寒い辛い冬を越えて再び春になった。
この一年で、お師様とミリアルデ様は変わった冒険者として受け入れられはした。
まぁ、お師様が村から離れた所にキャンプを張ってから、明らかに魔物被害が減ったのも大きいだろう。
加えてお師様もミリアルデ様も、食料に関して村を頼る事は一度もしなかった。
いつの間にかお師様は自力でそれなりの面積の畑を耕して様々な作物や香辛料を育てていて、紅白のボールの形をした魔道具*3の中に捕まえていた家畜を即席の牧場の中に放して育てる事で完全に自給自足していた。
むしろ小麦などで取引してもらった分、村の方が助けてもらった形になるだろう。
いつもは二、三人くらい――酷い時は五人くらいが凍死か餓死で死んでいるのに、今年は零だった。
私への訓練で私という労働力を村から奪っている謝罪も兼ねてと、村への土産で豆や穀物を小袋で渡してくれたのもそうだが、訓練の一環でやらされていた薪割りの成果物を全て村に卸してくれたのもとても大きかった。
そうして冬を無事に越えて、春になり。
私はお師様達と一緒に近隣の村々や街道沿いの様子を見て回る、ちょっとした旅に出ることになった。
一つは私の実戦訓練。
実際に私を魔物にぶつける為の遠征というわけだ。
まさか本当に放り込まれるとは思わなかったけど、次からは普通に戦わせてくれるようだ。
その分訓練も死ぬほどきつくなったけど。
お師様の棺桶シリーズの中で一番頭おかしい、あのライヘンバッハとか言う武器は本当に勘弁してほしい。
あれの魔力弾連射は本当にどうしようもない。距離が離れていたらどう回避行動を取っても曲がって当たりに来るし、かといってどうにか接近したらあのクソ重い棺桶での横薙ぎ喰らって普通に肋骨折れた。折れて肺に突き刺さってたらしい。死ぬほど痛かった。
すぐにお師様が治してくれたけど。
ホント死ぬほど痛かった。
比喩なしに血を吐いた。
「ふわぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
「モニカ、すごい声出てるわよ」
「すみません、ミリアルデ様。でも……疲れた体に湯船は効きますね……」
そしてもう一つが、お師様達の
試運転でアレコレ確かめてさらに手を加えてとりあえず完成にするらしい。
そして自分が実戦を経験させられているのもこれが原因らしい。
うん。
確かにお師様言ってたもんね。
移動拠点が完成するまでには、私を魔物と戦えるくらいには鍛え上げて見せるって。
確かにその通りになったけど私の中で最大の化け物はお師様一択だ。
「あぁぁぁあぁぁ…………。それにしても。一回この家に住んだらちょっと元の生活に戻るのは覚悟要りますね」
時折お師様が魔法で物を出し入れしているのは知っていたけど、これほどの家――家と言うかもう屋敷が出し入れできるとは思わなかった。
事前にお師様の魔法で家を出す場所をある程度
お風呂も含めてお湯使い放題とか魔法しゅごい。
人間でも使えるというのならば、異端とか言っていないで魔法の研究に力を割くべきじゃないだろうか。
「というか、ひょっとしてミリアルデ様達は毎日お風呂に?」
「ええ。たまに結局シャワーで済ます時もあるけど、湯船は基本セイバーが毎晩張っているわ」
「うわ、すっご」
お師様はいない。
先に私達をお風呂に入れて、その間に夕食の用意に入っているのだろう。
別にそう言っていたわけではないが、手を洗ってすぐに陶器のお皿をオーブンに入れていたからおそらく間違いない。
「本当は去年の間に貴女を入れたいとセイバーは言っていたのだけど……ごめんなさい、もし村の人間がこの屋敷を知ればどう動くか分からないから、貴女にも詳しい事は伝えないよう彼女に命じていたの」
「あぁ~~~。無理もないですよ。村の人間はどうしても閉鎖的なので……特に余所者には」
「……実際、こちらの暮らしを探ろうとしていたものね」
「うっわ、そこまでやってたんだ。……爺様連中かな?」
「セイバーが鍛錬の余波に見せかけて脅してからは近づかなくなったけど」
「あぁ……。お師様、私の鍛錬ですらヤバいのにちょっと本気出すとトンデモ武器が数々出てきますからね……斬り結んだだけで剣が重くなるコの字型の剣*4とか、一度斬ったら二度斬撃が発生する剣*5とか」
きっと、それで私に何も言ってこなくなったんだ。
万が一本当に私が戦力になればそれでよし。
なにかあっても、まず止められないお師様達が娘一人で村にあまり干渉してこないのならばそれも良し――といった所だろう。
「うん。正解だと思いますよ。正直、これだけ広い湯船だとたまに使わせろとか言い出しそうですし」
「……それにセイバーの畑や牧場、料理があるから……」
「畑やらに関してはいちゃもん付けようと思えば出来ますしね。……そういえば、お師様がお土産にと焼いたクッキー凄かったですよ。奪い合い的な意味で」
「…………そこまで?」
「甘い物なんて一年に一回食べられるかどうか、ですからね……。それであの味だとまぁ……はい」
お師様の料理は絶対に持ち帰っちゃだめだとずっと思っていた。
適当な焚火とフライパン代わりの石だけであれだけ美味しい食事を作れるのだ。
多種多様な調味料や香辛料を使えるというのも大きいだろうが……。
「……もう慣れ親しんだ味だからあまり考えてなかったけど、そう言えばセイバーの料理って下手な王侯貴族に出される物より美味しいらしいのよね」
「昨日私も調理を手伝いしましたけど、魚の焼き方一つで滅茶苦茶メモ取りますからね……」
皮はいいけど身に火が入りすぎたとかいって、しばらくは焼き方を研究するって言ってたなぁ。
お師様との鍛錬が始まって、初めて食事が補給じゃなくて楽しむものになった。
あそこまで工夫に工夫を重ねて出された料理やお菓子、お茶にお酒を毎日口にしているミリアルデ様は、自分を放浪者と言っているがある意味貴族みたいな物だろう。
想像でしかないけど、きっと王様よりいい暮らしをしていると思う。
(こうして今ではお屋敷まであるし……)
「客室はどう? 私達の部屋と違って、そっちはセイバーに任せっきりだからあまり知らないのよね」
「十分すぎるくらいに凄いですよ。立派な家具や作業机、それにソファーまでありますし」
「ならよかった。当面は貴女の部屋になるから、不備があったらすぐにセイバーに言ってちょうだい。その方が彼女も喜ぶ」
「喜ぶ?」
「……一応作ったとはいえ、本当に
ボディシャンプーとかいう液体石鹸で身体を洗ってミリアルデ様の背中を流して、それから湯船に肩まで浸かって、腰と背中に泡と共に出る水流を当てて訓練で固くなった筋肉をほぐす。
これを作ったのはお師様だという事だが、よくもこんな悪魔的な風呂を作った物だ。
一度コレを知ったら水浴びに耐えられなくなるかもしれない。
本当に人の疲れを癒すことに特化してて、これを作ったお師様の人格が余りに出過ぎている。
「お師様、凝り性ですよね」
暖房関係がまさにそうだが、わずかでも引っかかったら徹底的に改良する。
旅を始めた頃の屋敷のリビングは暖炉によって温められていたのだが、輻射熱がどうとか熱効率が悪いとか言って一旦廃止された。
今は鉄で作った箱のような新しい暖炉が出来ているが、確かに前の埋め込み型の煉瓦の物より部屋は暖かい。
なんといったか……フランクリン・ストーブ?
「その成果が彼女自身の強さであり、この家の快適さにあるのだけど」
「でもたまにぶっ飛びますよね」
「……なにかあった?」
「この間、私に自分の手を切断させようとしてましたよ」
本当にあの人はぶっ飛んでいる。
自分の身体すら武器として扱うつもりなのか、とんでもない事を平然としようとする。
女神様の魔法でいくらでも自分を治せるからって無茶苦茶だ。
「……そう。ちなみに、なんで手を?」
「えぇと……指一本一本から魔力弾を撃てるようになったから、斬った手首を魔力有線で本体と繋げば……なんだっけ……じ、じおんぐ?*6 とかいうのが再現できるとか言って……」
「……聖別の時もそうだけど、あの子は本当に」
お師様とミリアルデ様がどういう関係なのかよく分かっていない。
主従であるのは知っているし、お師様もミリアルデ様には誠心誠意を尽くしてお仕えしている。
ただ互いに気安い時もあるし、私にそうしてくれるように偶にお師様がミルアルデ様の頭を膝に乗せて髪を撫でている時もある。
「それで、結局斬ったの?」
「そんなわけないじゃないですか……。そうしたら武器が握れなくて却って大変じゃないですか? って言ったら納得してくれました。……ミリアルデ様?」
あの時のやり取りを思い出してゲンナリしていると、ちゃぷちゃぷと湯船を揺らしながらミリアルデ様が近づいてきて、たまにお師様にそうやっているように髪を撫でてくる。
「思い付きでの試しだったけど。貴女をセイバーに会わせてよかったわ、モニカ」
「……はい」
「血を吐くほどに頑張ってくれてるものね」
「……そうですね」
本当に!
いや、魔物の群れを自力で倒せた達成感が凄かったからチャラにしますけど!
「これからも、セイバーをお願いね」
「お師様をですか?」
「ええ。きっと――」
「今度がどういう結末になったとしても、
「私が……ですか?」
「彼女もそうだけど、私も浮世から離れすぎているもの」
「だから、お願いね?」
「それは……」
「ブレーキ役、という意味でしょうか?」
ミリアルデ様、意味ありげに微笑んだまま誤魔化そうとするのは止めて頂けませんか?
あの人止めるのは主人である貴女の役目ですよね?
……やりすぎて最近ちょっと警戒されている?
知りませんよ!?