ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
私の実戦修行も兼ねたこの旅の目的に気付いたのは、街道沿いの魔物を念入りに討伐して半月もした頃だ。
「お師様」
「ん?」
「ひょっとしてお師様は、村の皆を逃がそうとしてくれているのですか?」
「……そのきっかけになれば……とは思っている」
いつもの紅い外套とフードではなく、まるで僧侶のような真っ白い恰好に着替えた――というよりミリアルデ様に着替えさせられたお師様が、私の問いかけに肯定してくれる。
「近隣の魔物を掃除した上で、比較的安全なルートを確保する。魔王軍との戦いが長引いている今、領主だって穀物を育て、木材や鉄器の生産を担ってくれる労働力は貴重なものだろう。移住先とその道行さえ安定していれば、二つ返事で頷いてくれるだろう」
「……前回断られたのは、あくまで領主軍の駐留だったから……」
「そうだ。だが労働力が自分から管理しやすい土地に移ってくれるというのならば、領主にとっても大きな利がある」
ミリアルデ様はお師様の事を浮世離れしていると評していたが、本当にそうなのだろうかと思う程にお師様はこうして鋭い見識を見せることがある。
以前聞いたら「記録のおかげ」と言っていたが、よほど勉強したのだろうか。
お師様は文字が綺麗だったし、算術に関しては言わずもがな。
本人は「本職には敵わない」と言っているけど、これまで見たどんな大人よりも博識だった。
知識があって、強くて、ネジが外れる時はあれど基本的に落ち着いている。
ひょっとしたら、私の知る中で一番大人らしい大人かもしれない。
「もっとも、これは勝手にやっている事だ。君やマスターの言葉に首を縦に振らなければそれはそれ」
「無意味になると?」
「それこそまさかだ。君はこの旅の中で、驚くほどの成果を出している」
まぁ……うん。
街道に辿り着くまでに多くの魔物と戦った。
燃え盛る狼みたいな魔物から首が三つある巨大な蛇、私はほとんど防戦一方の引きつけ役に回っただけだったけど
いやホントお師様凄いわ。
神機とかいう赤い大剣で竜の横っ面を思いっきりぶっ飛ばして見せた。
なぜか戦いが終わった後、ミリアルデ様に頬っぺたを両手で挟んで捏ねられまくってたけど。
「この旅の主題は家の試運転による問題点の把握、そして君の実戦投入だ」
いつもは空中から武器を取り出すお師様だが、今は刀とは違う普通の、だが片刃の剣を腰に提げている。
街道に出た辺りからミリアルデ様に神機とライヘンバッハ、さらにローゼスビットの使用を禁じられたらしく、その代用として使っている剣だ。
なぜかグリップの所に、クロスボウに使うような
お師様曰く、威力はともかく整備が大変だと言うが……じゃあ
「……どうなんですミリアルデ様? お師様の主要武器として一番だと思うんですが」
「駄目。よく使ってたから目立つ」
「……すいません、ひょっとしてお二人とも何かから逃げてます? 犯罪を犯して逃げてた訳じゃないですよね??」
「セイバーがその真逆をやりすぎて探されているのよ。鬱陶しいのは御免だわ」
「あぁ……なるほど。すごく納得できました」
確かに、こうして取引以外碌に接点がない――それどころかわざわざ探りを入れてきた村人のために、ついでとはいえ動いているお師様ならば色々と人のためになる事をやっていてもおかしくない。
お祈りだって真剣に――たまに女神様の魔法のせいか体がうっすら光るくらい真剣にお祈りを捧げるくらい
あれだけの女神様の魔法を使えるのも納得だ。
「それでお師様に、いつもの外套を変えさせたんですね?」
「ええ。セイバーってば『赤』っていう色にこだわりがあるらしくて……着替えさせるの大変だったわ」
「はぁ……」
料理以外にそんなこだわりがあったのか。
「……私にとって、『赤』とは聖典に並ぶ『正義』の象徴なんだ」
目線をやると、お師様が少し考えてからそう口にする。
「正義?」
ただ、その意味がよく分からない。
色が象徴とはどういうことなのだろう。
尋ねてみても、「擦り切れた誰かの記録」とだけしか言わない。
ミリアルデ様に目線をやると、珍しく首を横に振られる。
どうやら、ミリアルデ様も詳しくは知らないようだ。
知り合ってまだ数年の仲とおっしゃるし、まだ仲を深めている最中なのだろう。
「とにかく、これで街道付近で農業が可能な土地に当たりを付けた。もうしばらくここらの掃除をしたら戻ろう。道中の様子で魔物の発生具合も分かる」
「出来れば大型種はもう勘弁してほしいですね……」
「だが、亜人種は数を揃えた上で武装するぞ」
「……アイツら本当に滅べばいい」
「同感だ」
今回の旅は自衛できる人間ばかりだから問題ないけど、この前の商隊護衛の時は本気で怖かった。
逃げ方が分からない人間が側にいると、戦う側もどうしていいのか迷う時がある。
お師様程の早さか、ミリアルデ様の魔法ほど器用だったらどうということはないのだろうけど。
「まぁ、君の村には対魔結界を張り巡らしているから大丈夫だろうが、不安がる者も出るだろう。出来るだけ早く戻ろう」
どうだろう。
自警団の連中、習い始めたばかりのほぼほぼ素人の私の目から見ても分かるくらい緩み切っているし、ここらでしばらくお師様の力なしでの戦いに慣れておくべきだと思うのだけど。
ヤバいのは一通りお師様が狩ったんだし。
「それでお師様。明日からはどう動くんです?」
「水源を確認しに行こう。ないとは感じているが、もしここらに人里があれば厄介なことになりかねない」
「あぁ~~~~……」
「それに水場は魔物が潜んでいることが多い。モニカ、何に注意すればいいか分かるか?」
「水の中は当然、特に空ですよね? 気配を隠して潜んでいる個体が特に多いって」
「そうだ。魔族もそうだが、飛行能力を持つ個体は攻撃や待ち伏せのパターンが極めて広く、そして賢い。決して油断するな」
「了解です」
「一応試作のシールドベルトは渡してあるが、それは対魔法攻撃用で直接攻撃には極めて弱い。直撃までのコンマ数秒を稼ぐので精一杯だろう」
「はい。心得ています」
本格的な戦いになると言う事で、お師様は私にいくつかの装備も渡してくれた。
普段の服とは変わらない軽さと柔らかさの、だけど頑丈な飛竜の飛膜を用いた装備。
いざという時の緊急用にと渡された、私に数々の筋肉痛を作った忌々しい電光丸*2。
お師様が使用していた、
遠距離の魔法攻撃を数回は防げる魔力障壁を発生させるシールドベルト。*3
そして武器は木刀から真剣に。
お師様が昔作ったという刀。小烏丸。*4
少し長いのが気にかかるが、それでも最近では抜くのにも慣れてきた。
お師様はこの刀に神機みたいな細工をするつもりだったというが、その当時は上手く行かずそのままお蔵入りになってた一本らしい。
「よし、では行くぞ」
「はい!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
水場になりそうな湖を発見したが、結局そこは魔物の巣になっていた。
当然人里どころではなく、お師様も今度はミリアルデ様に許可を取ってライヘンバッハを使っての掃討に入っていた。
棺桶だけでなくパニッシャーという十字架*5まで引っ張り出して亜人型から鳥、巨人、グリフォン等々多数の魔物を塵へと変えていった。
どうにか蹴散らしはしたが、さすがに人がここから水を採るのは不可能だと判断したお師様は一度撤退し、今度は数日その場に留まってミリアルデ様と一緒に『水脈を見つけ出す魔法』を作り出して見せた。
本当に魔法という物の凄さを思い知らされる。
やっぱり、人間は魔法を本格的に研究すべきなのではと思ってしまう。
専門家であるミリアルデ様も、「これは人間でも使える」と太鼓判を押していたし間違いないだろう。
この魔法一つでどれだけの人間が救われる事か。
「お師様……」
「分かっている、剣を抜いて」
そうしてある程度の安全を確保し、私の村への帰路に就きながら道中の村に立ち寄っていた時から、異変が始まった。
「マスター、防臭の結界を張っていてくれ」
「大丈夫よセイバー。この程度は慣れてるわ」
数か月前に立ち寄った時はささやかとはいえ活気があった村が、静まり返っていた。
その地面は、腐臭を放つ
「モニカ、大丈夫か? これほど大量の人の死体は見慣れていないだろう」
「な、なんとか大丈夫です。吐く時はちゃんと離れますので……しかし、これは……」
人が、死んでいる。
老若男女問わず、皆苦悶の表情を浮かべて地面に横たわっている。
「魔物……でしょうか……」
「……食われた跡がある。ある……が……」
お師様はこんな時でもやはり落ち着いている。
腐敗が始まっている遺体に手を伸ばして、調べている。
「食い殺されたのではなく、おそらく転がっていた遺体を食い荒らしたのだろう」
「うぷっ……じゃ、じゃあ死因は?」
「……矢じり……恐らく弓が主だろう。そっちは刃物……槍? にしては浅いが……」
つまり武器を持った魔物が敵だ。
「お師様、確か行きの時も、ここらは亜人種が多く出ていました」
「……死体全ての傷がバラバラ。矢じりも雑多な物ばかり……」
お師様は懐から布を取り出して、それを水筒の水で湿らせて、乾いた血でパリパリになったご遺体の顔を拭って綺麗にしている。
恐らく、全ての遺体にそうするつもりなのだろう。
転がっている水桶を借りる事にした。
どちらにせよ、襲った何かがいるとなれば、慎重に動くしかない。
「お師様、急いで水を汲んできます」
「頼む。マスター、すまないが――」
「ええ、私が彼女に付いて行けばいいのでしょう?」
「今のモニカなら大丈夫と思うが、水を汲めば手が塞がる。サポートをお願いしたい」
「ええ、わかったわ」
日が高い真昼に到着した私達が全ての遺体を綺麗にして、埋葬まで終わらせたのは真夜中だった。
ミリアルデ様が火で明かりを灯してくれなかったら作業もままならなかっただろう。
お師様も緊急用と言って、フュージョン・コアとかいう黄色の何かを使った大きなアーティファクト――ハツデンキ?*6 とかいう物と魔法の街灯を取り出して接続することで、真っ暗でも十分な明るさを確保する事が出来た。
墓石もお師様が作った。決して荒らされる事がないように重い石を
―― 汝らの道先に、女神様と花の祝福があらんことを……。
そして聖句と併せて、魔法でお墓を花畑で覆い尽くした。
凄惨な死を、その苦しみや悲しみ、絶望が少しでも和らぐようにと。
「なぜ花畑まで?」
看取る者が自分達三人だけの、静かな葬儀を終わらせてからお師様に尋ねてみる。
「なんとなく。……と、言うのが本音だ。偽りなく本音だ。だが同時に――」
惨劇の痕跡は消え失せた。
血や臓物が腐った臭いは消え去り、血潮も洗い流され、今では石畳の無い所は全て花で覆い尽くされている。
「私にとって花畑とは……視覚を彩るものだけではなく、別れと旅立ちの象徴でもある」
花畑を出す魔法。
お師様が先ほどソレを使った右手を、握ったり開いたりしながら眺めている。
すでにハツデンキや魔法の街灯はお師様によって「念のために」と撤去され、墓石を照らすのは蝋燭の火だけだ。
「彼らの魂は女神様の元へと旅立った。私には死の記録は途絶えているため実感はわかないが」
その墓前に。
顔すら碌に覚えていなかった人たちの墓の前に、お師様が膝を突く。
ミリアルデ様も、続いて。
「その旅立ちにせめてもの花向けを。この悲劇に、せめてもの慰めをと……そう思ったのだ」
そうして静かにまた祈りを捧げる。
心から祈っている。
それが分かる。いや、見えてしまう。
またぼんやりと、お師様の身体から薄い緑の光が零れている。
この幻想的な――だが悲しい光景は、帰路に就く道中で何度も繰り返すことになる。
道中薪を分け与えてくれた村でも。
狩りで余った肉を渡したらその倍の小麦をくれた村でも。
余所者は入ってくるなと追い返された村でも。
私の村でも。