ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
「こ……っのおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
半年と少しをかけて戻って来た村は、明らかな異変に見舞われていた。
囲まれている。
小さな魔物たちが、拡張したばかりの村をグルリと囲って中に侵入しようとしていた。
小烏丸を抜き放ち、飛び掛かる。
こちらに気が付いた牛のような大きさの狼が噛み付こうとするが、その動きは意外性が欠片もない上に遅すぎる。
私の身体に牙を突き立てる前に、その大口ごと両断する。
魔物に対する恐怖は未だにある。
だけど、今は――!!!
「ライヘンバッハ、起動」
お師様も動いている。
一斉に村に侵入しようとして、ミリアルデ様とお師様が張った結界を突破しようと何度も体当たりをしている魔物たちに向けて、散々見た棺桶が火を噴く。
「
連射性に優れた曲がる魔力弾と、爆発する魔力弾が魔物たちに雨あられと襲い掛かる。
訓練用の非殺傷に切り替えているとはいえ、私が五秒以上は耐えられない弾丸の嵐はこの程度の魔物などどうと言う事はないだろう。
一瞬で多数の魔物の頭が文字通り『塵』となる。
「お師様、先に――!!」
お師様ならば群れを突っ切って村まで入れる。
「いや、結界そのものは機能している。先に群れを掃討する方が安全だ」
お師様の着ている外套の色が、白から赤へと切り替わる。
本気になった。
お師様がライヘンバッハで比較的小さい個体を一掃すると金色の空間倉庫の魔法を発生させて、中に戻して新たな武器を引き抜く。
「夜天連刃……【黒翼】*1」
手にしているのは双剣だ。
その握りは持ち手を守るような半円の鍔が付いていて、そこからさらに三本の刃が付いている。
「大物は私が狩り尽くす。モニカ、君は君の倒せる敵を討て」
「倒せないと思ったら?」
「マスターの結界内に駆け込んでくれ」
ミリアルデ様はとっくに結界を張って待機している。
何匹かの魔物がミリアルデ様をか弱いと見てか襲い掛かろうとして、その強力な攻性対魔防壁に阻まれて一瞬で塵になっている。
お師様のアイデア*2を元に開発した魔法らしい。
酷く燃費が悪く、長く生きたエルフでようやく使えるという代物らしいがこういう時は便利だ。
お師様の月霊髄液と併せて、今のミリアルデ様は鉄壁と言っていい。
「行くぞ。中の様子が気になる。少々本気で蹴散らさせてもらおう」
お師様が自分の真上で双剣をかち合わせる。
「私の記録で言う、“フルスロットル”という奴だ」
双剣に何かの魔法がかけられていたのか赤い光がお師様から立ち上り始める。*3
「さぁ、大人しく死ね」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
お師様が鬼神の如き強さで魔物たちを一掃した。
私もそれなりに倒していたが、お師様には遠く及ばない。
赤く輝き始めてからは人間離れした速さで動き出して魔物を片っ端から細切れにし、突然どこからか巨大な蜘蛛の魔物が現れた時には、片手で握れるほどに小さくなったライヘンバッハのような武器を二つ取り出し、一瞬で穴だらけにしてしまった。*4
だが、
「ぁ…………あぁ……」
村は静かだった。
魔物に怯える声も、泣き叫ぶ声も、そんなものは一切なかった。
「皆……死んでる……どうして……」
皆、事切れていた。
獣に食い荒らされたわけではない。
だがすでに虫が湧いていて、とても見れた物ではない。
ここに到着するまで死体は散々見る羽目になったが、そのどれとも違う。
「……お師様」
「魔物ではない」
そうだろう。
だって私達が到着した時、魔物は結界を破れずじまいだった。
「魔族でもない」
そう、結界が破れていないのだ。
結界を破れる大魔族だっているだろうが、それならやはり結界が破れてすでに魔物が中に雪崩れ込んでいた筈だ。
「……人間、ですか……?」
「傷跡の全てが、武器を用いた物だ」
お師様が遺体を並べて、魔法で所々綺麗にしながらその死因を調べている。
ミリアルデ様も、万が一を考えて結界に不備がないか解析している。
「結界を無視してしまうような魔法を持つ魔族もいなくはないだろう。だがそれなら村人の殺傷方法はもっとまばらになるはずだし、食い殺されている死体もあるはずだ。だが……」
死体はそのほとんどが斬り傷か、あるいは刺し傷で死んでいる。
武器だ。一人残らず、
「道中で見て来た死体も似ている。ただ、あれらは魔物に食い荒らされていたために判別が難しかった」
「……でも、ここには結界がある。……気付かなかった?」
お師様は死体全てを覆いで隠し、出来るだけ私が目にしないようにしてくれている。
だが、それでも分かってしまう事がたくさんある。
あまりいい思い出のない村だったが、それでも長く過ごしてきた土地で、長く見て来た顔ぶれなのだ。
あそこの覆いなんて、あのクソガキ共と大きさがピッタリだ。
……人数まで。
半月前の自分ならばえずくどころか、吐いていただろう。
泣き喚いたか、あるいはただ茫然と立ち尽くしていたか。
こうしてまだ頭が働いてくれているのは、この短期間で余りに多くの死体を見てきたからだろう。
弊害、といってもいいかもしれない。
「……私の結界は独特の物で、場合によっては力ある魔族の気を引く可能性がある。だからマスターと研究を重ねて隠密性も高めているのだが……」
裏目に出たかもしれない。とお師様が小さく呟く。
そんなことはない。
もし結界が誰にでも分かる物だったら、きっともっと早く襲われていた。
安全に農作業が出来る村なんて、そこにいる村人を殺して乗っ取りたがる奴なんて必ず出てくる。
ここが辺境の中の辺境だったから……。
「恐らく弓矢で殺されたご遺体もあるが、丁寧に矢じりは抜き取られている。……わざわざ刃物で切り開いてまで……」
「抜き取った理由はなんでしょう?」
「矢じりが鉄などの希少な物だったからか、あるいは……」
「隠したかった?」
もし結界が無かったら食い荒らされて、もっと死体はボロボロでバラバラだった。
つまり、これまで見て来た村同様に――人がやったと
「セイバー、モニカ。生存者はいた?」
「マスター。戻ったのか」
いつの間にかミリアルデ様が戻って来ていた。
いつもと同じ眠そうな目のまま、いつものようにお師様の左隣という定位置につく。
「結界に不備はなかったわ。七層のどれも正常。解析された痕跡も残っていない」
「……やはりそうか」
お師様が険しい顔をして、検死していたご遺体に丁寧に布をかける。
「すまない。恐らく私のせいだ」
「お師様の?」
「魔物を狩りすぎた」
その場に片膝を突いて、また亡くなった皆のために祈りを捧げる。
村で死人が出るのは珍しくなかったし、その葬送の儀も散々見て来た。
だけど、どこまでも慣習の儀礼でしかないと思っていたソレが、本当に人の魂を天へと送るための儀式ではないかと思うようになった。
身体をほんのり輝かせながら真摯に祈りを捧げるお師様を見ていると、村の人達の最後を見送るのがこの人だったのは運が良かったと思う。
なんというか、この光景を見ると、本当に「送り届けてくれる」と思わせてくれる。
祈りを捧げ終えたお師様が、言葉を続ける。
「蔵の中の食料や飼い葉、金品といったものが根こそぎ持っていかれている」
そうだ、薄々気付いていた。
思えば道中の村もそうだった。
襲われていた村は――
「それに、家畜もいません」
「ああ。……恐らく連れていかれたのだろう」
そう、家畜がいない。
ずっと襲われた際に逃げ出したのかと思っていたのだが、魔物が入って来れなかった――そして取り囲まれていたこの村ではそれが酷く不自然な物に映っていた。
「……魔物が減って人間が活動しやすくなり、同時に物資狙いの賊徒まで動きやすくなってしまったのだと思う」
「ここはお師様が来てから、食料的には余裕がありました」
「他の村と取引は?」
「いえ。……ですが、商隊を出したことは知られているハズです」
お師様は祈りの姿勢を崩して少し楽にしてから、しばらく何かを考え込んでいる。
「セイバー。まずは埋葬を終わらせましょう。このままじゃ、また魔物に囲まれるわ」
「……そうだな。モニカ、これまでにない長時間戦闘で疲れているだろうが、もう少しだけ手を貸してくれ」
「わ、わかりました」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
モニカは無言で墓穴を掘っている。
血まみれで倒れている村の人間を見た時、さすがに冷静ではいられなかったようだがすぐに落ち着きを取り戻した。
セイバーの言う通り、彼女には才があったのだろう。
手こそ震えているが、悲しみに囚われずに身体を動かしている。
「マスター」
一方で、墓石――わざわざ村民名簿を見つけ出して、一人一人の名前を刻み込む作業を終えたセイバーが、少し険しい顔を近づける。
モニカには聞かせたくない話のようだ。
「なに、セイバー?」
「殺しの手段が念入り過ぎる」
ボソリと彼女がそう呟く。
「皆殺しにしたという事よね?」
「そうだ。万が一にも生き残りが出ないように、確実に殺して全てを奪い去っている」
以前、セイバーに人を殺したことがあるかと尋ねた時に、彼女は「ある」と答えた。
盗賊団を幾度か全滅させたと。
野盗崩れとは私も何度か出くわしたことがあったが、魔法を一発打ち込めば散り散りになって逃げ惑うだけだった。
「それに、モニカにも尋ねたが知らない顔の死体がないと言っている」
「? どういうこと?」
「人と人の奪い合いだ。向こう側にも死人は出たはず」
「……わざわざ回収したっていうの?」
「多分。万が一にも身元がバレたくなかったのだろう」
だんだん、セイバーが何を言いたいか分かってきた。
「近隣の村が?」
「…………可能性だが」
「でも、高いと思っているのでしょう?」
セイバー。
人を喰らう魔族に生まれた、人を食べない魔族。
人の文化を知り、寄り添い、尽くすことに価値を見た異端の魔族。
その彼女からして、奪うために人を殺す人はどう見えているのだろうか。
「マスター。冬が明けて春になった。この村は比較的穏やかに過ごせたが、他の村はどうだったろう」
「…………この村が例年そうだったように、餓死者や凍死者が出ていたでしょうね」
「それが明けて、例年よりも魔物が出なくて外に出やすくなった」
「でも、それでいきなり殺してまで奪うかしら?」
「……分からない。だが、他の村も同じように食料はギリギリだったはずだ」
仮にこの村ならば……ある程度は譲っただろうか?
いや、余裕があると言ってもまだ分からない。
餓死者が出なかっただけでひもじい思いをした者はたくさんいる。
セイバーといるとついつい忘れてしまうが、本来『飢え』とはいつだってすぐそこに在る物だった。
「もし、他の村から調達しようとして揉め事になったら、あるいは奪い合いも視野に入る。魔物が減り、往来も比較的マシになった。その一度目が成功したどこかが……」
セイバーが、倉庫を起動させて剣――のような何かを取り出す。
「
「味?」
「獣が人の味を知ったら優先的に狙うようになるのと同じで――」
それは、以前の小屋でセイバーが作ったゴーレムの腕のように回転する形状をしていた。
「他者を喰らう旨味を……覚えたのだろう」
セイバーの武器にしては珍しく金色の装飾を施した柄に、黒い三つに分かれた刀身らしき部分に、赤の矢印――回転する方向を示しているのだろうか――が彫り込まれた、どう使うのかよく分からない剣を握りしめて、眺めている。
「『人間とは、犠牲が無くては生を謳歌できぬ獣の名』……か……」
妙に複雑に彼女の魔力と直結して、現在進行形で流し込まれているようだが、起動させているわけではないためかそれがどれだけの代物か分からない。
ただ、おそらくは相当に特別なのだろうソレを掲げたまま、ポツリとセイバーがそう呟く。
モニカは、こちらの様子に気付かないまま必死に穴を掘り続けている。
彼女が村の人間の事をどう思っていたかは分からない。
ただ、恐らくそれほど好意を抱いてはなかったと思う。
彼女は、あまり村の事を話さない。
村の人間の事――特に
だが、それでも故郷だったのだ。
思う所はあるだろう。
「マスター」
「ん?」
「埋葬が終わったら、村を洗浄・修復して今日は彼女の家で休んでもらいたい」
「むしろ、いつもの屋敷の方がいいんじゃないかしら。友人知人が殺された場所よ」
「……そうだな。分かった、訓練に使っていた場所に出しておこう。そしてその後だが――」
「しばらくの間、単独で行動させてほしい」