ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
辺境の果て。
魔王軍の攻勢が強まり、戦火はどんどん広がる一方である。
その結果、徴兵により働き手を、食料などを徴税により奪われ、困窮した民が山ほど出ている。
徴兵や徴税に耐えても、冷害や蝗害によって村が壊滅し、離散せざるを得なくなる村は山ほどある。
結果、新天地を――徴税官が知らぬ土地を求めて密かに旅立つ人間はどこにでもいた。
逃散した村人が、人の立ち入らないだろう場所にあえて立ち入り、魔物や獣の姿に怯えながら村を作る。
だが、そのような村は大きくなれない。
逃げ出すまで追い詰められた村人はすでに体力を削られており、そこから新たな村を興した所でたかが知れていた。
山の奥地に、森の奥地に。
そういった人間が隠れ住める場所は、同じように魔物も隠れ潜んでいるものだ。
結果として、長く続く隠れ里なんてあってないようなものだ。
「……おい、次の村は旨味があるんだろうな?」
「確証はない。ここらの村は寒村ばかりだ」
「くそっ、最初に襲った村はそこそこ広かったのに……」
ただし。
「いい加減にしろお前ら。毎日腐りかけの野菜のスープに、罠に鼠でもかかってようやく肉にありつけるような日々よりはマシだろう」
ただし、逃げているのは村人――すなわち農民だけとは限らない。
「……そろそろ食い荒らされた死体が見つかってもいい頃だろう。そろそろ女を攫おうぜ」
「連れ帰って騒がれると面倒だ。やるならその場で楽しんでから念入りに処理しろよ」
魔王軍との戦いのためには、多くの兵士がかき集められ、そして使い捨てられていく。
魔法という物を使う魔族に対して、人類側が取れる手段は精鋭をぶつけるしかないのだが、それだけでは勝率が低い。
それを補うために多数の兵士が投入され、多くの犠牲のもとに魔族と一進一退の攻防が続き、また補充されていく。
その中で故郷すら捨てて逃げ出すことを選ぶ者も、徴兵された兵士達の中には珍しくなかった。
「分かっているだろう。ここは実質国境沿いだ。仮に不審に思われても面倒事にまでしたくない奴の方が多いだろうって……そういう話だったろう」
「ここらの物資をかき集めて、せめてもう一国は南側に移らないと」
「手配する余裕があるか?」
「念のためだ」
使い潰される事が仕事となれば、真面目に戦い続けられる人間は少ない。
いっそ魔族の影響がない南まで逃げてしまえと、そう考える人間は多かった。
「それに、あんな地獄より今のほうがマシだ。もう少しの間我慢しろ」
「……くそっ。せめて若い女でもいりゃあな」
かつての地獄や現状への愚痴を言いながら進む男達も、徐々に口数が減っていく。
「篝火が見えたぞ」
「さっきチラリと見えたのは正しかったか」
「思ったより早くついたな」
「ここまで下り坂が多かった。それで足が速くなっていたんだろう」
下調べしていた村の場所に近づいてきたからだ。
「弓隊は高台でいつもどおりだ」
「気付いて逃げる奴らをやればいいんだな?」
「守りを固めている分、逃げ道は限られている」
「くそ、鍬やらじゃなくて、せめてちゃんとした剣や槍が使えればな」
「畑仕事が空いた途端賊になる農民は珍しくない。それに偽装するためだ、贅沢言うな」
門は二か所、どちらにも衛兵が付いているが、実戦経験は碌にない。
多くの村を襲い、食い荒らしながら南下を続ける賊徒達にはそう見えた。
火を焚いたとはいえ闇夜に潜んで近寄る事に長けた魔物を想定して行う警戒にはとても足りない。
上手く行けば、騒ぎを最小にして安全に殺せるかもしれない。
指揮を取る男が後ろを振り返りハンドサインを出すと、それを確認した男達――元兵士達が
男達の集団は四つに分かれている。
門番を確実に殺すためにだ。
守りが硬い事が幸いだった。
普通の村だと柵もそこまでではないため、下手に気付かれると逃げられてしまう。
そうしてジリジリと。
それぞれの動きは綺麗に連動している。
ここに来るまでに何度も村を襲ってきたため、この集団は盗賊団としての練度を高めていた。
あと十歩。
八歩。
五歩。
そして――四人の男が同時に衛兵の口を押さえ、更に四人の男が衛兵の胸か喉にナイフを突き立てる。
――予想通り、引っかかってくれたか。
村の全てが――高台に控えている弓兵隊も含めて全てが、巨大な結界に覆われ封鎖されたのは、それと全く同時だった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
獣は、いつもの赤やマスターの用意した白いのではなく、夜空に溶け込むような暗い蒼の外套に身を包んでいた。
――な、なんだこれ!!?
計三十人ほどの男達が、殺したはずの物を見て驚愕に顔を歪ませている。
心臓、あるいは喉に刃を突き立てたはずのそれが、突き立てた途端にシュルシュルと縮むと同時にドンドン真っ白な、なぜか鼻の部分だけ真っ赤な小さな人形へと縮んでいくからだ。*1
「《
高台に待ち構えていた弓兵達が、待ち構えていた存在を敵と認識して矢を放つ。
相当に手慣れている矢が、その形を歪めながらも回転し、獣の頭蓋を砕こうと飛来するが――
――二指真空把。*3
獣の手がブレた瞬間、その矢は寸分違わず弓兵達の元へと帰っていく。
勢いも、その鋭さもそのまま真っ直ぐに帰っていき――弓手たちの胸を貫き、絶命させた。
男達は――つい先ほど当然の顔で四人の命を奪おうとした男達は、いともたやすく仲間に犠牲が出た事に呆然としていた。
何が起こったのか、理解が出来て居ないのだ。
これまで多くの村を襲い、多くの人間を殺して来た。
その中で死んだ仲間もいたが、ある意味で納得出来た。
奪う中での、
「実際の襲撃も確認した。そうやって衛兵を殺し、逃げ道を塞いでから村民を全員殺害、あえて道に死体を捨てる事で獣や魔物を引き寄せ、その死因を偽装していたのだな」
だが今のは違う。
訳が分からないまま、一方的に殺された。
声で獣の性別が女だとは分かっているが、逆に言えばそれ以外何も分からない。
蒼い外套で顔を隠す女に対して、全員が慌てて取り囲み、武器を突きつける。
「なぜ奪った。なぜ殺した。君達は同じ人間だろう」
「と、逃亡兵に行く当てなんざあるわけねぇだろ!!」
「魔族相手の盾に使われて死ぬしかない役目なんて御免だ!」
「下手に顔を知られたら、いつ憲兵が来るか……っ」
「顔を見られるわけにはいかねえ」
「殺しておくのが一番確実だろうが!」
強者であるのは間違いない。
男達は黒衣の獣に対してそう考えたが、だが数で圧倒的に勝っているのが自信になっていた。
どれだけ強くても、数で囲んでしまえばどうにかなると。
「……それで、殺してしまうのか。殺せてしまうのか。子供まで……」
「見られた奴は消すしかないっつってんだろ!」
本来ならば土地を耕したり、あるいは家畜の世話のために使われる農具が獣めがけて振り下ろされる。
四人同時。
前後左右。
全員逃亡したとはいえ元兵士だ、戦いそのものには慣れている。
迷わず頭を砕こうと振り下ろし――
――輝剣の円陣。*4
逆にその頭蓋を、蒼く輝く魔法の細剣によって撃ち抜かれた。
誰かが小さく、「……ぇ……」と空気が漏れるような大きさの声を漏らす。
――ま……ほう……?
魔法とは、人間が扱う術ではない。
使える人間はいるが、今の時点でその技術は異端とされ、大々的に研究している者は多くない。
「もはやお前達は人ではない」
それを堂々と使えるのは魔物か――
「利益を得るため、他者を
獣が外套のフードを外し、顔を見せる。
白磁のような肌。うねりのある金の髪、整った――だが感情の見えない顔。
その頭にある、人にはない物を見て、
「ぅ、うわあぁぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁ!!!!!」
混乱が起こる。
魔族。
今まさに人類に襲い掛かっている最大の脅威。
人を容易く殺し、その肉を喰らう恐ろしい存在。
「なんで魔族が!!?」
「うるせぇ、早く逃げろ!!」
立ち向かおうとする者はいなかった。
誰一人として。
散々その脅威を思い知っている。
自分達が魔王軍との戦いで生きているのは運が良かっただけであり、塵のように殺されていく仲間を大勢見て来たのだから。
「……逃げ惑うか。いくつもの村を襲い、一人残らず殺して来たのに」
獣は、その光景を静かに眺めている。
知る者は見慣れている、金色の輝き。
ただし、いつもは腕を差し込むほどの大きさのそれが、彼女の背中を覆う程の大きな輝きを放っている。
主人の気まぐれで取った弟子の教育で時折使う、左右六枚の青い翼。
その弟子からは『棺桶の翼』と称された、それぞれに剣が二本ずつ収納されたバインダー。*5
「犠牲となった無辜の民への手向けだ。その業、恐怖の果ての死を以って償え」
月光を背に、青い死神がその剣を引き抜く。
逃げる事も出来ず、ただ茫然としていた手近な賊の胴を、文字通り
「ひ、ひぃっ!!」
「化け物……っ」
「おい、早く!!」
「駄目だ、なんか壁みたいなのがここにある! 村から出れねぇ!!」
「ちくしょう、なんで……!」
どうにか逃げようと必死に村の出口へと走り込んだ者達が、結界に阻まれ身動きが取れないでいる。
逃げ場がない。
そしてその反対側からは―ー
「待ってくれ、勘弁してくヴェ!」
「あぁ、チクショウ! こんな、こんなはずジャ!!」
一人一人、念入りに殺して来る獣の狩りが迫っていた。
かつての自分達がそうしていたような狩りが、着実に命を刈り取っていく。
「ちくしょう……ちくしょう、チクショウ!!」
もはや、活路を見出すには獣を倒すしかない。
道中の魔物対策に持っていた、キチンとした剣を引き抜き斬りかかる。
それなりに経験のある元兵士だ。
剣はそれなりに鋭い。
速さだけならば獣の弟子より上である。
キィ……ン、と獣は手にした剣で受け止める。
特に銘のない、ただの剣。
獣の手製にしては珍しく、ただ使いやすさだけを求めた量産品。
――ギ、ギ、ィィィィィ…………。
だが、それでも――それゆえに獣が作った一品。
なにも込められていないからこそ頑強で、切れ味鋭く、
「あ、あぁぁ……嘘だ、嘘だ、嘘だ」
模倣でないが故に最も獣が扱いやすい剣である。
ギリギリと、魔物との戦いで十分に通用した剣が切り裂かれていく。
磁器を地面に叩きつけたような甲高い音と共に、剣が用を成さなくなる。
刀身が砕けたからだけではない。
喉を切り裂かれ、その持ち手が絶命したからだ。
斬り結んでいる間に背後から獣の首を取ろうと静かに斬りかかっていた者は、獣が魔法で生み出した青い魔法剣によって、ほぼ同じタイミングで絶命している。
「いやだ、いやだいやだいやだ……」
「やっとここまで逃げて来たんだぞ!」
「死んで……死んでたまるか!!」
戦うしか道がない事をようやく飲み込んだ賊が殺到する。
だが、すでに戦術どころか動きもデタラメだ。
とにかく
もし弟子がこの動きをしていれば、獣は迷わず蹴り倒していた。
そして同時に、獣は初めて顔を歪めた。
怒りではない。
悲しみでもない。
「そうだ、誰だってそうだ。誰だって生きたい。死にたくない」
真っ直ぐ向かってくる
腰が抜けた者もいるが、生存本能のままに必死に動き、鋤で殴り倒そうとして来る。
「だからこそ、人は争い、殺し合ってしまう。魔物や魔族という共通の脅威がいても」
獣はただ、静かに思考していた。
もし、ここで『生き残りたければ他を殺せ』とでも言ったらどうなるだろうと。
答えはすぐに出て来た。
きっとこの男達は殺し合うだろう。
どれだけ同じ時を過ごしたとしても。
共に罪に手を染め、仲間意識が芽生え始めたとしても。
「……ゆえに……あぁ、フランメ。あの時、君はこんな気持ちだったのか?」
そうなるという予想が強い限り、この者達を無視することが出来ない。
「すまない。お前達を逃すことは出来ない」
――今後あるいは弟子が住む事になる村を襲う可能性があるのならば。
すでに獣にはどうあがいても勝てないと感じている者も当然いる。
その思考の先にあったのは隠れてやり過ごす事だった。
ここは獣が再現した、本当に襲う予定だった村のいわば実寸大レプリカ。
当然建物は全てそのままだ。
仲間の決死行を囮に家屋の中に身を潜め、必死に息を殺している一団がいた。
だが、その程度で逃げられるものではない。
素早く剣をバインダーの中に戻した獣は、倉庫からクロスボウのような武器を取り出す。
本来ならば矢が納められている場所に奇妙な円筒が並べられており、獣が構えると同時にそれが扇状に広がる。
「ピーコック・スマッシャー*6」
そしてその引き金を引くと、やはり扇状に緋色の魔力弾が広がり、中に隠れていた者もなお襲う者もまとめて焼き貫く。
もはや、まともに残っている人間はいない。
戦意を喪失し、地面に尻もちをついてガタガタ震える者だけだ。
「な、なぁ魔族さん! た、た、頼む! 助けてくれ!」
そして必死に、命乞いをしていた。
「アンタ、魔族なら人を食うんだろう!!?」
獣が顔をしかめているのを、興味を引けていると思い込んで。
「お、俺達を雇う――いや、飼わないか!? 村や町に入り込んで、引き込み役くらいなら出来る! どんな人間だってもっと安全に食い放題だ!!」
必死に口にしているからこそ、獣は内心で「あぁ……」と確信してしまった。
この者達はやはり、もう
「こんな所にいるんだ、隠れ住んでいるんだろう!? 言う事聞く人間がいた方が、色々と便利だろう!」
クロスボウのような武器を向ける。
もう、終わらせてやるしかないと。
「こんな年寄りしかいないような場所より、もっと食いでがあるガキやら女がいる場所を――」
引き金を引くその前に、男は言葉を止めた。
その背に、刃が突き立てられていた。
周囲で叫んでいた男の言葉の一々に頷いていた男達が呆気に取られて振り返る。
――お前……ぇ……っ!
一人の少女が、落ちていた剣を拾って男の息の根を止めていた。
「よくも、お師様にそんなことを――!!」
その顔は、ここしばらくずっと獣が毎日見ている顔だった。
「モニカ!!?」
獣が手ずから鍛えていた少女が、刃を握りしめた。
結界で覆われて出入りが出来ないハズの偽村に入り込んで、怒りの涙を零していた。
突然の女の登場に男達は驚愕し、そして同時に人質になるのかと考えたのか、男達が動こうとする。
驚愕しつつも、その動きを許す獣ではない。
反射的に『輝剣の円陣』を再発動し、残る賊を確実に仕留める。
残るのは荒い息を吐くモニカと、獣。
そして――
「なぜだ……」
「なぜ彼女を連れて来た! マスター!!」
獣の主人であるエルフが、そこにいた。
「すみません、お師様。私がミリアルデ様に頼み込んだんです」
「地元の異変にジッとしていられない、と言われて……一人で飛び出しそうだったから致し方なくよ」
獣は顔を隠していない。
無残に殺された人間への慰みに、賊徒に恐怖を与えられればとフードを脱いでいた。
「すみません……。お師様、角を見てしまって……ずっと隠されていたのに」
「そんなことはどうでもいい!」
もう動く影はいない。
念入りに探知し、近隣を荒らしまわっていた賊は一人残らず獣が
目の前で、今少女が刃を引き抜いているその男を除いて。
「剣を教えているんだ。対魔族戦を意識した形とはいえ、自衛のためならば賊徒を手に掛ける事もあっただろうが……」
突き刺し、皮膚を割いて、血が噴き出ている。
「だが……」
これまで魔物戦でしか――倒せば消える魔力血液でしか濡れた事のない手が、真っ赤に染まっている。
「こんな形で……君に手を汚させたくなかった……」
「…………お師様」
角が生えた、人を喰らうはずの獣に、その弟子である人間がそっと近づく。
「ごめんなさい……お師様」
本来ならばもっとも危険な行為の一つだろう獣からのハグを、人間は黙って受け入れていた。
「……来てしまったんだ。このレプリカを片付けるのを手伝ってくれ」
「はい」
「うん。そしてその後は……」
「帰ってから考えよう。私達の