ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」   作:rikka

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赤い勇者一行のちょっとした足踏み
025:


 とある老人が町での暮らしが(わずら)わしくなり、郊外の古家に戻ってから五年になった。

 彼が若い頃師事していた師匠の家にして、仕事場。

 古い型の炉、足踏み式の(ふいご)、金床に金槌が転がる古い鍛冶小屋だ。

 

 師が亡くなってからこの老人が管理していたが、もはや作業場としては碌に稼働していない。

 

 老人はこれまで貯めた金でその日のパンと酒を買って口にしながら、時折思い出したように街へ戻れと言ってくる弟子達をあしらう日々を過ごす場となっている。

 

――ザァァァァァァァァァァァァ…………

 

(今年は雨季が長いな)

 

 ほとんど世捨て人のような生活をしている老人だが、畑仕事だけは欠かさず行っていた。

 食うため――というのもそうだが、もはや日々のルーティーンのようなものだ。

 

(さて、これなら少なくとも水が足りなくなると言う事はないだろうが……)

 

 若い時分、畑の管理は当時一番の下っ端だった老人の仕事だった。

 老人は鍛冶職人だが、同時に農村の一員でもある。

 

(明日雨足がもう少し落ち着いていれば、溜池の様子を確認しに行くか)

 

 薄い安酒で酩酊した頭で、老人はそう考えていた。

 近くを流れている小川を窓から覗くと、恐ろしく水量が上がって簡素な造りの橋の上にまで水が届いている。

 

 今すぐ様子を見るべきかとも老人は思ったが、少し前まで遠くとはいえ落雷の音が連続で鳴り響いていたのを考えると、今日はジッとするべきだと考え直す。

 

 老人は特に生にしがみついているわけではないが、それでもつまらない死に方は御免だった。

 

 このまま座椅子に揺られながら、酩酊に任せて微睡もうか。

 そう考えて――

 

 

――ドンドンドンドンッ!!!!

 

 

 突然、強く叩かれるドアの音と衝撃によって、一気に酩酊が吹っ飛んだ。

 

「な、なんだなんだ!? 町の連中か!?」

 

 この豪雨の中での来客など――それもこんな周りに何もない外れも外れの小屋まで来るなど尋常ではない。

 

 老人が慌ててドアを開ける。

 すると、そこには――

 

「夜分遅くにすまない……っ。突然で申し訳ないが、この二人を中で休ませてくれないか」

 

 三人の少女がそこにいた。

 

 一人はエルフ。

 こちらはいかにも高そうな服を泥だらけにして、荒い息を吐いて疲れ切っている。

 

 一人は人間。

 歳の頃は十六、七程だろうか。服は普通だが、背中に赤いマントを羽織っている。

 なぜか左側の手と足の部分だけ服が千切れて肌が露わになっているが、こちらも荒い息を吐きながら鞘に納めた剣を杖にしてプルプル震えながら立っている。

 

 そして最後の一人は最も息が整っていて、だが最も焦っていた。

 話している間も外を警戒している。

 女の細腕では振るのに苦労しそうな槍のような大きな杖を右に、ねじれた銀の杖を左手に持って、夜の豪雨という最悪の視界の向こう側を睨みつけている。

 

 他の二人と同じようにボロボロで、泥で汚れているその女の頭には、

 

 

――人間の天敵の証である、二本の角が生えていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「い、入れてくれてありがとうございます……いつもならば雨なんてどうとでもなるんですが……」

「セイバーの魔力もアイテムも全部使いきっちゃって……令呪も三画全部切ったからもうブーストできないの……」

「…………ご老体、本当に私までいいのか?」

「あぁ、まぁのう……。よくわからんが……何かに追われておるのか」

 

 結局、老人は三人を入れてやることにした。

 魔族の少女が気になるが、仕方なかった。

 

 正直老人にもどうしていいか分からず、思わず魔族に「アンタはどうする」と尋ねたのだ。

 だが魔族は「私は軒先で十分すぎる」と言って頑なに入ろうとしなかった。

 

 とはいえ、民家の前に魔族が立っていれば大事だ。

 様子から見て明らかにただ事ではないと判断し、老人はとりあえず中に引き入れた。

 

「本当にありがとう。お礼は……食料と銀貨五枚でいいかしら? 銀貨なら先に払っておくわ」

「銀貨五枚!? たかだか三人の宿賃でそんなに取れんわ!」

「いえ、あの、でもお師様……魔族を連れて来ちゃいましたし」

「本当に申し訳ない」

 

 モニカという剣士らしい少女の言葉に、老人は「むぅ……」と唸り、再びセイバー、あるいはお師様と呼ばれる魔族に目を向ける。

 

 ギリギリの魔力で三人の衣服の汚れを落とす魔法を唱えた後、どこからか乾いた布を取り出し人間の少女に一枚渡した後、自身は真っ先にエルフの顔や髪を丁寧に拭き取り、その後泥で汚れた床の掃除を始めていた。

 

「何に追われているんじゃ? まさか、魔族を連れていた事でどこぞの騎士団にでも?」

「騎士団――人間の兵士相手ならばそもそも避けるし、見つからないようにする魔法もあったのだが……」

「そもそも、人間の騎士ならどれだけ揃ってもお師様なら蹴散らせそうですよね。この前の亜人種の群れみたいにジュッて」

 

 彼女達はカップに入ったスープを口にして、一息つく。

 老人が作ったものではない。

 このエルフらが自作した『粉末スープ』なる物である。*1

 お湯だけもらった三人が、万が一を考えて少しでも体力や魔力を回復するためにと補給しているのだ。

 

「なら、魔王軍か?」

 

 老人も、ずっと続いている魔王軍との戦争については耳にしていた。

 こちらは戦争の影響はないが、それでも軍の維持のために税が重くならざるを得ないのは当たり前だし、時折はぐれ魔族が出てくることだってある。

 

「…………ある意味魔王かしら」

「魔族のお師様より話が通じませんでしたぁ……」

「ついつい忘れてしまうけど、まずセイバーの物分かりが良すぎるのよね」

 

 んくっ、んくっとカップの中身を飲み干したミリアルデが息を整える。

 

()()()に襲われたのよ」

「…………お前さんもエルフじゃないか」

「ええ」

「待ってと叫んでも砲撃されて、話を聞いてと叫んだらその十倍ぶち込まれて……仕方ないから武器を抜いたら笑い出すし……なんなのあの人……」

 

 ミリアルデがげんなりした顔でため息を吐き、モニカという人間の少女が顔を蒼褪めさせて吐きそうな顔をする。

 

「……まさか衝撃の杖(ブラスティングロッド)*2を接続した上でカートリッジを装填したレイジングハート*3を、確殺ではなく相殺に酷使する日が来るとは思わなかった」

 

 そんなよく分からないことを言いながら肝心の魔族――セイバーは窓へと近寄り、自分の身を外から隠すようにしながら覗き込んでいる。

 三人を襲った者を警戒しているのだろう。

 

「……その襲ってきたエルフはどうなったんじゃ?」

「一瞬だけ隙が見えたので、私が斬りかかって傷を負わせました」

「……その隙を縫ってどうにか逃げ出せたのだが……」

 

 ミリアルデがモニカの手足――服が千切れて肌が見えている所を痛々しそうな顔で見る。

 

「モニカ、大丈夫? 後ろから見ていたけど、一度手足が千切れたでしょう?」

 

 その言葉にギョッとして、老人は少女の手足を見る。

 衣類が千切れて肌が露わになった左側の手足。

 その断面と言える衣類は、縁が等しく()()()()()

 

「あ、はい! ギリギリで気づかれてしまって……すっごい熱くてよく分からないうちに、お師様があの粉塵*4を使ってくれたおかげで…………その……正直、今はまだ実感がわかないって言うか……」

「異変を感じたらすぐに言ってくれ、モニカ。今はもう魔力が残ってないせいで、高位の聖典魔法を長時間使う余力がない。対処するにはすぐに動く必要がある」

 

 噂に聞く魔族とは、言葉は通じても話が通じず、だが成長した者は騙すことに特化し人の中に紛れ込み、食い殺す存在だった。 

 

 それが人間とエルフの世話をし、自分の家を軽くとはいえ掃除をし、今では二人――否、老人を含めた三人を守るように家の外を警戒している。

 

 訳が分からなかった。

 

 あの二本の杖を魔法の倉庫の中に押し込み、代わりに赤い大剣を引き抜いた彼女は今も外を警戒している。

 屋内で武器を抜くことを、老人に謝罪をしてだ。

 伝え聞く魔族とは、随分違う。

 

 というより、違いすぎる。

 

「分かった。とりあえず、今日は休んでおれ。ここでの雑魚寝で良ければな」

 

 どちらにせよ老いぼれた自分に選択肢はなく、流れに身を任せるしかない。

 老人はそう考え、話を受け入れる。

 

「……改めて感謝する。ご老体」

 

 魔族が深く、一礼する。

 

 人食いの化け物が、家にいる。

 だが抵抗する手段もないし、不思議とその気にならない。

 

 あるいは朝起きた時には、もう食い殺されて天国に旅立っているかもしれん。

 

 そう考えながら自分の寝室へと行き、ベッドに入る。

 

 そうして更に酒を――保管していた良い酒を(あお)って酩酊を深めて目を瞑り、

 

 覚めたその時、魔族がいる下の階から、やけに良い匂いが立ち上って来ていた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「……それで、代金の食料に合わせて料理?」

「銀貨を断られたのだ。食料だけではさすがに悪い。ちょっとした家事くらいはさせてもらうさ」

「お師様、お皿とカトラリーは蒸気にしばらく当ててから布で磨くんですよね?」

「手はキチンと洗った? ……よし。そうだ、頼むモニカ。磨く時は決して口から吐く息で曇らせてはいけない。清潔を維持するにはこれが一番だ」

「はい!」

「布は大きいのを使って、磨いている物に直接手で触れないように注意してくれ。カトラリーやプレートを置く場所も先に確保しておく事。いいね?」

「分かりました!」

 

 セイバーが即席で作ったダイニングチェアに腰を掛けてお茶を飲みながら、四人分の朝食を作っているセイバーとその補助に徹するモニカの背中を眺める。

 

「しかし、本当に体はいいのか? 身体が治ったのは魔力が少し回復した時に確認したが、それでも疲労がかなり溜まっているだろう」

「いえ、大丈夫です。確かに動き回るには疲れ切ってますけど、これくらいの作業なら手伝えます」

「……わかった」

 

 当初はセイバーの感性の調整に使えればと思い関わらせた少女は、予想を大きく越えて旅の同行者になった。

 

 モニカを連れてあの怪しい村から旅立って二年。

 

 その間セイバーと共に道中の魔物を相手に戦い続け、時折買い出しで立ち寄った町からの依頼をこなしたりして腕を上げた彼女は、先日とうとうセイバーの課題を全てクリアし、いよいよセイバーの作る剣や一部装備を使う魔剣士として一歩を踏み出し――

 

(まさかあれほどの魔力を持つエルフがいて、しかも話が通じないとは思わなかったわ)

 

 その一歩目でとんでもない存在とかち合ってしまった。

 名前も知らない――というか聞く暇もなく襲撃されたが、セイバーが圧倒される所など初めて見た。

 恐らく、自分やモニカを守りながらだったからというのもあったのだろうが……。

 

(赤の勇者云々は別としても、調査隊は出されるでしょうね。()()()()()()()()()わけだし……)

 

 文字通り()()()()()()()、その衝撃を利用して空を飛べるセイバーが上手く自分達を捕まえて緊急離脱出来たのだ。

 戦闘があったことは当然分かるだろうし、何と何が戦ったのか国や領主は調べようとするだろう。

 

(買い出し役によく使うモニカは当然冒険者として知られているでしょうし、そこから辿られるかもしれない)

 

 モニカとは思った以上に良好な関係を築けているし、その剣術も旅の一行として重要な存在になった。

 

 魔法はともかく戦い方はよく分からず、どれくらいモニカが成長しているのかよく分かっていなかった。

 それが、あの絶望的な魔法の応酬の中でセイバーの活路を斬り拓けるほどに成長するとは……。

 

 言い方は悪いが、セイバーにとって共に成長する子犬や子猫のような役割のみを求めていたのだが……予想外だ。

 

(……二人旅の頃に比べて見つかりやすくなっているわね。……どうしたものかしら)

 

 そもそも、あのエルフが手を止めてくれれば問題なかったのだが……。

 次出会った時は最初から令呪で『倒せ』と命令すべきか。

 恐らくセイバーが接近戦に持ち込む事さえできれば、打倒することは難しくないだろう。

 とはいえ、そういう形でセイバーの手を汚させたくはない。

 

「…………難儀だわ」

「なんじゃい。エルフでもそういう顔をするもんか」

 

 気が付いたら、あの老人が階段を降りて来ていた。

 

「あら、おはよう。意外と早起きなのね?」

「人間の年寄りとはそういうもんじゃい」

 

 シュレートという、鍛冶師の老人。

 ここの家主だ。

 

「やけにいい匂いがすると思ったら。なんじゃいあの調理場は。あんなものはなかったんじゃが」

「彼女の作った物よ。取り外しは可能だから安心して頂戴」

「……彼女というのは、モニカの事か?」

「いいえ、その隣。セイバーよ」

「…………なんであの魔族は包丁握っておるんじゃ?」

「料理してるからよ」

 

 自分が朝起きた時には、もう厨房――キッチンを設置して調理を開始していた。

 見回りも兼ねて周囲を歩いた時、ついでに雨で増水した川で魚を見つけたので釣ってきたとのことだ。

 

 魔力がある程度回復したとはいえ全快にはほど遠いのだから、もう少しゆっくりすればいいのに。

 

「ほら、魚を捌いているでしょう?」

「……魔族じゃろう?」

「ええ。彼女と旅をして数年経つけど、彼女を超える料理人にはまだ出会ったことがないわ」

「…………魔族じゃろう?」

「そう言ってるわ」

 

 とはいえ、気持ちは分かる。

 エルフの里を抜けてあの小屋で彼女と出会った時を思い出す。

 

 あれほど強いとは当時全く気付けなかったが、同時にあれほどの味を生み出す料理人だとは気付けなかった。

 

 …………。

 

 いえ、まず魔族が料理を極めようとするなんて考える方がどうかしてるわ。

 このご老体は何も悪くない。

 悪いのはセイバーの頭だった。

 

「……ちなみに、お前さんが座ってる椅子やら机は……」

「セイバーの作品よ。あの子、机や椅子を作り出す魔法を使えるから」

「なんじゃその魔法は?」

「彼女のオリジナルよ」

「……なぜ?」

「手作業だと時間がかかりすぎるからでしょう」

「いや、そうじゃなくてじゃな」

 

 滅茶苦茶な頼みを聞いてくれた家主を立たせたままにするわけには行かない。

 セイバーがいつも私にそうするように、そっと椅子を引くと老人が恐る恐る椅子に腰を掛ける。

 

「……しっかりした造りじゃな。ひじ掛けの位置もちょうどいい」

「仕事に手を抜けない子なの」

「職人か?」

「職人ね」

「魔族の?」

「魔族の」

 

 実際、職人と言えるだろう。

 家具職人にしてアーティファクト職人。

 調理師にして画家でもある。

 

 だけどその上で……。

 

「おはようございます、シュレート氏」

 

 私の従者が気付いて、老人の分のティーセットを用意してこっちに来る。

 

「改めて、昨晩我々の窮地を救っていただいた事に感謝いたします。朝食が完成するまで、こちらをどうぞ」

「お、おお……すまんの。……というか、服が変わっておるんじゃな」

「今の私は戦う者ではありませんので」

「……そうか。いや、じゃがそれ……なんでその……」

 

 

「執事みたいな恰好になるんじゃ?」

「マスターである彼女にお仕えする身として相応しい服として……似合わないでしょうか?」

 

 

 どうしてお爺ちゃんは私を見るのかしら。

 とりあえず頷いて見ると、怪訝な顔を崩さないままセイバーを改めてみる。

 

 旅の出発に合わせて、家の中での格好としてセイバーが手縫いで作った服。

 

 ……ひょっとして本当に変なのかしら?

 

 私もモニカも、あの黒を基調とした執事服はセイバーにピッタリだと思ったのだけど。

 

 …………あぁ。でもそういえばモニカが最初は、メイドじゃないんですか? と驚いていたわね。

 手が空いた時に、そちらも作らせてみようかしら。

 

 本人は動きにくいといってスカートは余り好まないけど、家着なら頷いてくれるでしょう。

 

 …………あぁ、そうか。もしかして。

 

「セイバー。執事服の上からエプロンをしているからじゃない?」

「あぁ、なるほど。失礼。調理中なもので」

 

 ………………。

 

 お爺ちゃん、どうして首を横に振るの?

 これも違う?

 ……そう。

*1
ク〇ール

*2
とある魔術の禁書目録シリーズ

*3
魔法少女リリカルなのはシリーズ

*4
モンスターハンターシリーズ




衝撃の杖(ブラスティングロッド)
出典:とある魔術の禁書目録シリーズ

外見はねじくれた銀の杖。だがその効果は強力で、『魔術の効果を対象が想像する10倍に増幅する術式。具体的には、威力・射程・大きさ等が相手の想像の10倍になる』

あくまで、原典では。

セイバーが作った模倣品は、あくまで『発動させる魔法術式の効果を1()0()()にする』効果を持つ杖。

単体でも使えるには使えるが、セイバーがその手で作った強力なアーティファクトと合わせて使うことを前提にした補助礼装となっている。

しつこい勧誘業者の中でも、たまに出撃する最高幹部クラスや親玉に対抗するための手札が揃いつつあるセイバーだが、その出力に常に不安を感じている彼女が全体的な底上げを狙い記録を漁った結果見つかった原典を元に作成。
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