ワイ「やろうと思えば何でもできる不思議パワーが使える種族に転生したから色んなモノ模倣してみるわ」 作:rikka
「申し訳ないけど、もうしばらく私達を
「マスター、いくらなんでもそれは……」
場所が変わっても私の従者の腕は変わらない。
オムレツにサラダ、茹で潰したジャガイモと豆を混ぜ合わせた物をやや分厚く切ったハムで挟んで焼き固めた物。
そして塩が効いた焼きたてのクロワッサンに紅茶。
それらを味わっている間に、頭の中で考えていた事をシュレートという鍛冶師の御爺ちゃんに話して見ると、セイバーが眉を顰めてそう言ってくる。
モニカも口にした物をモゴモゴ咀嚼しながら同じような顔をしている。
「昨日言っていたエルフから逃れるためか?」
「ええ。魔物や盗賊程度ならばセイバーとモニカで蹴散らせるし、魔族相手ならばそもそもセイバーはほぼ無敵なのだけど……アレ相手となると対応するには余りにセイバーの消耗が激しすぎるの」
私の言葉に、セイバーは小さくうめき声を漏らした。
セイバーの魔力は決して少なくない。
それどころか、今の七崩賢――あのグラオザームを越える程の膨大な魔力を持っている。
そう見えないのは、彼女が常に魔力を自分の改造した身体や専用のアーティファクトに流し込み、貯め込んでいるから。
そう、彼女の最大の武器は魔力量やアーティファクトではない。
魔力の
素の魔力はある程度の時間で回復できるが、ストック分までとなるとそうはいかない。
そして昨晩の戦いで、彼女の五百年以上の全てを使ってどうにか逃走と足止めを同時に成功させた。
ならば、今の彼女は戦闘力が大幅に低下しているのは間違いない。
(完全な全回復を待つわけには行かないけど、ある程度の回復とストックがなければ今度は戦いにすらならない)
「加えて……決して悪い事をした訳ではないけど、私達は探されているの」
「そりゃあ、魔族を連れた一行なんて追い回されるに決まっている」
「いえ、そういうのではないのだけど……」
どうも最近、『赤の勇者』探しが本格的になってきている。
いや、その原因は分かっている。
ついこの前鳥や蜘蛛に近い魔物の群れに襲われていた一行をセイバーやモニカと共に救ったのだが、どうもそれが貴族の一行だったらしい。
その際、私が移動の際に馬の形にして使っている月霊髄液も見られてしまい、手配の中に『体毛のない銀の馬を連れた一行』というのが追加されてしまったようだ。
最近では魔物が多くなったのに合わせて、警備兵の巡回も多くなってきている。
当然、私達の手配書や人相の覚書を手にしてだ。
おかげでモニカも、セイバーの『髪の色を変える魔法』で元の黒から金や赤、茶など時折髪色や髪形を変える必要が出てきている。
ちなみに今は金色のポニーテールだ。
最近はこの髪型のまま、セイバーのと同じ外套を青くした物を羽織って顔を隠している。
「とにかく、少しほとぼりが冷めるのを待ちたいの。当然、その分謝礼は多めに出すわ。安全も保障する」
幸い、相も変わらず金銭には不足していない。
それどころか、モニカという売買役が出来てから増えつつある。
食料も、去年セイバーが作り出したワルキューレというゴーレム……じゃなくて……ホムンクルス? の村からセイバーの倉庫に補給されているのを確認したばかりだ。*1
元より膨大な食料を蓄えているセイバーだが、定期補給が可能になったのは大きい。
今の所ワルキューレの結界に干渉された形跡もないし、もし人間が関わってきたら村の機能に問題ないレベルまでは代価交渉の末に提供してもいいとセイバーが指揮個体に交渉命令を登録していた。
「お前達の目的はなんだ?」
「旅の、かしら」
「……まぁ、そんなところだ」
それに関しては、再出発の際にセイバーが決めていた。
そっとセイバーに近寄って軽くその腕を撫でると、彼女が前に出てくれる。
「特に当てがあるわけではない。だが今は、モニカが住んでもいいと思える場所を見つける事を目的にしている」
「……嬢ちゃんの?」
「あの……故郷が賊の襲撃で無くなってしまいまして……お師様とも話し合ったんですけど、家を探すつもりで旅を続けようかと」
今の所、モニカは村や町に移り住むつもりはないらしい。
彼女はセイバーに懐いている。
セイバーは人里にあるべきだと説いているのだが、
(……難しいでしょうね)
元々彼女に目を付けたのは、若いのに外から来た私の世話役を押し付けられた事にある。
そしてその後も様子を見るに、彼女は親の話や村の人間の話を全くしなかった。
そしてセイバー曰く、初めて出会った時はあの山の中を一人で山菜集めに歩かされていたとの事。
(村そのものの人手不足もあったのでしょうけど……彼女から村の話はほとんど出なかった)
多分だが、元より肩身が狭い思いをしていたのだろう。
そこに他人の世話を焼く事こそ生き甲斐と言わんばかりのセイバー。
「ふむ。この嬢ちゃんの住む場所……か」
なんでも出来てしまうセイバーだからこそ、とも言える。
これからモニカがどうなるかは分からないが、セイバーに任せておいて時折口を挟んでいれば、落ち着く所に落ち着くだろう。
仮に彼女がその道を選べなかったとしても、その時はどこか奥地に隠れ潜んでモニカを二人で看取るまで共に在るのもいいだろう。
「…………飯を、作ってくれ。それでいい」
「……マスターの提案を受けて頂けるなら、今度ばかりはさすがに依頼料として金銭を追加で提供させてもらうが……ああ、安心して欲しい。この味で良ければ私が担当する」
「……お前が、か。いや、確かに美味いが……」
まだ少し怪しいが、どうやらシュレート老は納得してくれたようだ。
「……おい、魔族の娘。飯の種は大丈夫なのか?」
「もちろん。万が一災害などで多くの民衆を避難させるような事態に出くわしても大丈夫なように、三百人までなら確実に半年は食わせられる程度の食料を貯蓄している。穀物と野菜合わせておおよそ八十トン。水も浄化済みの物を同量。どちらも保存魔法をかけている。そう簡単に尽きる事はない。塩はともかく砂糖、香辛料はさすがに少ないが、私の腕で何とかしてみせよう」
「何のための何が何でなんぼだって????」
セイバーに関してはもう慣れてもらうしかない。
頑張って。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「しかしマスター。いつもの屋敷は出さなくていいのか?」
「もっと山奥に隠れていれば使えたかもしれないけど、ここではさすがに目を引きすぎるわ」
シュレート老との取引が完了し、前金で銀貨十枚を支払う事で話が付いた。
最初は食事だけでいいと言っていたが、ある程度の金を受け取ってもらわないと取引とは言えない。
今度ばかりはセイバーも強く援護してくれて、銀貨を受け取らせることに成功した。
私はいつもの紅い外套の上から黒いレインコートを被っているセイバーと共に、近くの小川の様子を見ている。
この時期は雨季らしく、今も雨が降り続けていて川の水量が上がっている。
セイバー――というより私に頼まれたのは、溜池の様子見と問題があった時の解決だ。
本人はモニカを護衛に付けて、最寄りの町まで買い出しに行っている。
「なにより、あれを出すには君の魔法をそれなりの時間使い続けなければならないし、魔力だって相応に消費する。ストックのほとんどを使い果たした今、しばらくは魔力の回復に専念した方がいいわ」
「……君は大丈夫なのか? あの時、令呪を通して君の魔力のほとんどを私に流し込んだだろう」
「あの時、あのエルフがどこまでやるつもりか分からなかったのよ? 君に賭けるしかなかったわ」
――なるほど。『夢』で見た時はまさかと思ったが、それ以上だ。
――面白い、興が乗った。削って様子を見るだけの予定だったが、少し本気で殺してやろう。
恐ろしく不遜な目をした、多分私よりもはるかに長く生きているエルフ。
問答無用で大規模攻撃魔法を嵐のように放ってきた、もはや動く攻城兵器と言っていい存在。
「……君のアーティファクトも、戦闘用のはほとんどガタが来てるのでしょう?」
「ああ。特に神機は機構が複雑なために滅茶苦茶だ。魔力を削り取る機能は生きているが変形が出来ない。盾や
「…………旧型?」
そんな話をしながら雨でぬかるんだ道を小川に沿って遡ると、溜池らしきものが見えてきた。
すでに限界まで水は溜まっており、溢れた水が水路を辿って川の本流へと戻っていっている。
「これが溜池とその水路か。……あまり良くないな」
「そうなの?」
「本流と取水口の流速が速すぎる。これでは溜池内部に余計な土砂が入り込んで水量が落ちやすいし、そもそも耐久性に問題が出る。恐らく時期を見て掃除や補修などをするのだろうが……」
セイバーの両手が金色の輝きに包まれる。
そうして現れたのは手袋だ。
右手は鉄製の妙に複雑な機構の、まるで騎士甲冑のような代物。
左手は普通の、だが魔法陣らしきものが甲の部分に縫い込まれた白い手袋。
それを着けた両手を目の前でパンッと叩き合わせてから、しゃがんで地面に押し付ける。
「
すると地面に緑色の稲光が走り、川の更に上流の所に
水を堰き止める為でなく、流れる水量とその勢いを減らすための低い
多少物が詰まっても大丈夫なように排水用の程よい穴が等間隔で空いていて、仮に詰まっても長い棒などがあればすぐにどかせるだろう。
取水部も石が変形してより強固な物になり、土を覆っている。
流れで削られて土が入り込むことはますます無くなった。
「これでよし。一応シュレート氏に後で報告しふぎゅうっ!!?」
「魔力を温存しろって言ったばかりでしょ」
とりあえず三十分ほど、雨の中セイバーを捏ねまわした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「結構町って遠いんですね。これだけ遠いなら馬でもいなきゃ不便じゃないですか?」
「昔はおったんじゃが、魔物に襲われてしまってのう。今では徒歩よ」
「じゃあ、お荷物とかは」
「鞄に入りきらん物はまず買わん」
「なら、今日は色々買えますね。荷物持ちは任せてください! 訓練でだいぶ筋肉付きましたから!」
お師様が、魔物の気配を感じたから念のために付いていけと言われてお爺ちゃんの買い出しに付き合ったのだが、これは思った以上の長丁場だ。
「……お前さんは、あの中では普通のただの小娘だと思っておったんじゃが……強かったんじゃな」
「? あぁ、さっきの魔物のことですか?」
どうもお爺ちゃんはお師様の言葉を疑っていたようだが、お師様の言う通り本当に魔物が出た。
鎧や盾、そして剣と弓で武装したコボルトの群れだ。
どうやら通りかかった自分達を挟み撃ちにしようとしていたようだけど、それが却って数を分散させる事に繋がり容易く討伐できた。
いつもの小烏丸は念のために置いてきて、お師様がたまに使う騎士剣*3を借りて来たけど上手く扱えた。
……何度かお爺ちゃんを守るために直撃もらっちゃったけど、この剣の加護*4のおかげでどうということはない。
ないけどお師様から叱られるなぁ。
メイン以外の武器も最低一つは習熟させておくように言われてるし。
「お師様は元々単独で魔王軍と戦っていたそうで、その時の経験で魔力探知がかなり広域かつ正確なんです。お師様が何かいると言えばそこには必ずなにかいますし、気にかかるといえばそれに足るなにかが存在しています。それを事前に伝えられているなら対処も容易いです」
「……随分と信用しとるんじゃな」
「はい。ミリアルデ様とお師様は、私にとって世界で一番信のおける方です」
あの村を――生まれ故郷があった一帯を逃げるように飛び出した後も、お師様はお師様のままだった。
赤い外套で身を隠したまま、魔物に襲われている商隊を見かければ飛び出して片っ端から斬り飛ばした。
買い出しで立ち寄った村で、賊に娘が攫われたという話を聞くや否や、私が依頼として仕事を受けるやいなや駆け付け、救出して見せた。
視察か何かで護衛兵を引き連れて移動していた貴族の一団が壊滅しかけていたら、襲っていた鳥の魔物を片っ端から弓で射抜いて壊滅させ、集まっていた巨大な蜘蛛の魔物の群れを『閻魔刀』で全部斬り伏せた。
「もっとも、そう言うといつもお師様には怒られるんですが。『角が生えている相手は常に警戒しろ。というかまず斬りかかるべきだ』って」
「なんで魔族の方が常識あるんじゃ」
「お師様ですから。まぁ、お師様も飛んでる所は飛んでますけど」
あのエルフが襲ってきた直前なんて、魚の焼き方について研究していた所だ。
食べる直前まで適切な熱を伝える実験とか言って、お皿を一枚火にくべて熱した物の上に普通に温めた皿を重ねて、その熱がどれくらい魚に伝わるかをジッと観察していた。
何度か実験して上手くいきそうだったら、専用のお皿とその木枠を作って色々試したいとか言っていた矢先に一切合切が吹き飛ばされて……。
(あのエルフめ、お師様の大事な研究の邪魔して……絶対に許さん……)
最後の最後でお師様直伝の突き技が防御魔法を抜いてエルフの左肩に突き刺さったけど、直後の反撃で吹き飛ばされてしまって、消耗していたお師様になけなしの回復アイテムを使わせてしまった。
……やっぱり最初から首を狙って……いや、でもお師様は基本的に人を殺すのを嫌うしなぁ。
あの時の敗残兵の事も、ミリアルデ様に聞いたら結構引き摺っていたようだし……。
「なんとなくですけど、お師様って人間を高く見積もりすぎているんじゃないかなって思うんです」
「人間を?」
「希望というか期待というか……自分がこれくらい出来るからいつかたどり着けるハズ……みたいな」
「……そう聞くと、あの魔族が酷く人間よりも人間らしいように聞こえるが」
「休みの日には日がな一日釣りをしたり物作りに専念したりして、日が暮れそうになったら帰ってご飯を食べてから楽器を弾いたり絵を描いたり本を読んだりして、そしてお風呂に入ってからミリアルデ様とお酒を嗜んでます」
「いい暮らしをしとるのう!?」
「まったくですよね」
本当に。
あの村の爺様連中だってそんな暮らしはしていなかった。
いや、お師様の場合まず毎日お風呂に入るのがアレだけど。
薪要らずで湯水が使い放題とか魔法しゅごい。
もっと言えば、作る事に関しての才能がおかしすぎる。
この前なんてヴァイオリン自作してたし。魔法ありきだけど。
やっぱり、アチコチの領主はお師様を配下にする事に専念するより、今すぐ魔法使いを育てる事に力を入れた方がいいと思うんだけどなぁ。
お師様の魔法は、戦闘用はともかく日常で使ってる魔法は全部人間でも使えるように設計しているらしいし。
つまりあの暮らしは、お師様みたいな道具こそないから多少環境や使い手の才能に左右されるけど、それでも人力で再現そのものは可能なハズなのだ。
アレ普通に凄いと思う。
前のダンジョン探索の時には滅茶苦茶世話になった。
生水のハズなのに美味しかったしお腹も壊さなかった。
「……おい、娘っ子」
「はい?」
「町が見えてきたが」
「ええ、そのようで…………ゲッ」
周囲からの奇襲に備えて、目の前がおろそかになっていたみたいだ。
町は町らしくそれなりに立派な壁に覆われていて、門番がその出入口を固めている。
ただし、門番以外に妙に着飾った兵隊も一緒にいる。
「アレは……」
「領主の近衛兵じゃな」
「あぁ、やっぱり。面倒な……」
懐からお師様謹製の眼鏡を取り出してかける。
「ズーム……っと」
偵察に加えてお師様の作った小さな切手の位置を追跡できる眼鏡は、更に望遠機能や夜間暗視機能まで完備されている。*6
「……ビラみたいな物持ってる。こりゃ真面目に私達狙いかなぁ……⋯」
「お前さんらの手配か?」
「多分。……あの時、特に私は顔を見られていてもおかしくなかったから……」
恐らく、あの貴族らしき一行を救った時だ。
蜘蛛型の魔物の群れは大きさがマチマチで、巨大な個体や空飛ぶ魔物はお師様とミリアルデ様が協力して片付けていた。
私の仕事はその間、兵士や貴族たちを食べようとする人よりやや大きい連中の対処だった。
当然、貴族らの近くで小烏丸を振り回したわけで。
「武器は変えてるからいいとして」
今持ってるのは小烏丸じゃなくて、より
だから後は……。
「待っててお爺ちゃん。ちょっと顔変えます」
「顔を変える!? しか――」
「フェイスカム、起動*7」
お師様が万が一の時に使えと言っていた魔道具の一つ。
「……ん。視界も良し。どう、お爺ちゃん。今鏡を持ってないから、自分で自分の顔が見えないんだけど」
「お、おう。かなり顔の違うベッピンさんに変わっておるわい。同じ娘とは誰も思わん」
「おぉ……。さすがお師様。センスもいいのか」
これなら門番も問題なさそうだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「次の者達、こちらへ来い」
「はーい」
モニカと言う少女――エルフに仕える魔族に弟子入りをしている、よく分からん娘が自分を追っておるかもしれん近衛兵に、堂々と顔を晒す。
当然だ、その顔が今はかなり変わっているのだから。
(儂が騒いだらどうなるか、考えておらんのかのう)
信じている……わけではないだろう。
僅かながらに、この娘の目には警戒がある。
ひょっとしたら、あのエルフや魔族よりも自分を警戒しているかもしれない。
「女剣士か。…………武器は、その剣だけか?」
「はい。……検分しますか?」
「いや、いい。探しているのはもっと細身の剣を持つ者だ。……顔立ちも髪色も違う。荷の様子からして、隠し持てる様子でもあるまい」
そして近衛兵は、やはり娘達一行を探しているようだ。
「御尋ね者かい?」
咄嗟に、尋ねる。
娘が少しだけ、手をピクリとさせる。
「そうだ。この近辺に、『赤の勇者』とその一行が通りかかったという報せがあった」
今度は逆に、自分がピクリと手が動いたのが分かる。
「勇者?」
どこかで思い描いていた予想と、正反対の言葉が飛び出して来たからだ。
「そうだ。先日領地の視察に出向かれていた領主様の御子息、フェザート様を救出された後にそのまま姿をくらませている。領主様は、せめて御礼だけでもと探させているのだが……ここいらで強力な魔物か魔族と交戦したらしい痕跡を最後に跡が追えなくなっている」
――
――魔族のお師様より話が通じませんでしたぁ……
昨晩匿った時の、エルフと目の前の言葉を思い返す。
「聞くところによると、エルフの女に加えて人間の女剣士が一行として共に在るらしい。何か知っている事があれば申し出るとよい。有益な情報と認められれば、報奨金として金貨十枚を出すとの御触れだ」
片や匿うのに銀貨十枚と食事。
片や密告に金貨十枚。
その時点で腹は決まっていた。
「ご領主様や兵隊さんらには申し訳ありませんが、儂は郊外で余生を過ごす老いぼれでしてなぁ」
「ん? あぁ。門番が言っていた元鍛冶師のシュレートか。郊外の古い鍛冶小屋に住んでいるという」
「はい。先日魔物に襲われた所をこちらの剣士様に助けていただき、しばらくの下宿先の提供を代価として、護衛を務めて頂きました」
「なるほど。そうか」
ただでさえ珍しい女の剣士だ。気にはなるだろう。
とはいえ娘っ子は顔を変えていて、武器を変えていて、一緒にいるはずの二人は今小屋にいる。
ならば。
「よし、分かった。通っていいぞ」
「ありがとうございます、お爺ちゃん」
門を潜り抜けると、儂が見慣れぬ若い美人を連れているせいか多くの者の目を引いているが、誰もこの少女こそが領主直属の近衛兵らが探している存在とは気付きもしない。
「なに、気にするな。金額がもう少々多ければ心が動いたかもしれんが……」
「お前さんの
儂がそういうと、娘は――魔族に師事する不届き者は、魔族の魔法で一時的に変えた顔のまま、ニコリと笑うのだった。
「十枚どころじゃないですよ、きっと」
「それ本当に大丈夫な代物なんじゃよね??」